2019年1月27日 日曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《保険代理店》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

保険会社と消費者の間に立って保険商品の販売を行う保険代理店。近年では店舗型の代理店が急成長しました。
しかし、少子化の進行などで保険代理店業界自体は逆風の中にあります。この状態の中で、事業売却を行う保険代理店も増えてきました。事例を交えつつ保険代理店の事業売却の流れを追っていきます。

 

保険代理店における事業売却の動き

保険代理店とは

保険代理店は、保険会社と消費者の間の仲立ちを行う事業者のことを言います。顧客の持つ課題の聞き取りを行い、顧客に適した保険商品の提案を行ったり、保険契約の見直しを提案したりします。また、保険会社に対する保険金請求を手助けすることも行います。

保険代理店は保険代理店事業のみを行う専業の事業者と、他に主事業を持ちながら保険代理店業を副業として行っている事業者があります。保険代理店事業を副業で行う例としては、自動車販売店が自動車保険の販売を行うケース、旅行会社が旅行商品と合わせて旅行保険を販売するケース、不動産会社が火災保険を販売するケースなどがあります。

また、保険代理店は、どんな商品を扱うかで2種類に分かれます。
一つは、ある保険会社の保険商品を専門に取り扱う専属の代理店。もう一方は、複数の保険会社の保険商品を取り扱う乗り合いの代理店です。
近年急速に数を増やした来店型の保険代理店は、複数の保険会社の保険商品を取り扱うことが多く、より幅広い保険のラインナップの中から、顧客に最適な保険商品の組み合わせを提案することができます。

このところ、インターネットによる保険のダイレクト販売も増えていますが、保険代理店を利用することによりさまざまなメリットも受けられます。保険商品は複雑な仕組みを持ち、分かりにくいものも少なくありません。消費者は保険代理店を利用することで、自分に合った保険商品を、わかりやすい説明を受けた上で購入することができます。また、保険の仕組みを知り尽くした専門家により、それぞれのライフステージにおける適切な補償規模の保険に加入することが可能です。

 

事業売却とは

事業売却はM&Aのスキーム(枠組み・仕組み)の一つで、会社全体ではなく、売却対象の事業に限って売却を行う方式です。売却対象となる事業はひとつだけの場合もありますし、複数の場合もあります。場合によっては、売却元会社の事業の全てが対象となることもあります。

会社の株式すべてを売買することで営業権や資産を売却先に移転する『株式譲渡』の場合、株式の所有者が変化するだけで会社そのものは変化しません。そのため、もとからその会社にあった簿外債務(もしあれば、ですが)などの好ましくない資産、契約まで新しい所有者に移転するリスクがあります。

事業売却は株式譲渡と異なり、売買対象となる売却する事業や資産の範囲を事業譲渡契約書で比較的容易にコントロールできるというメリットがあります。

 

保険業界の状況

生命保険業界では、個人保険の新規契約数、契約高共に減少していますが、解約・失効率および解約・失効高も減少していることにより、保有件数、保有高は横ばい状態で推移しています。少子高齢化の進行により市場が縮小していく中、長生きを「リスク」ととらえて商品開発を行うことや、女性向け保険商品を工夫することなどにより、契約数、契約高の維持、向上を図っています。
損害保険業界では、地震保険の加入者が増え続けるなど、災害リスクに対するニーズの高まりから保険料収入が増加し、市場規模は徐々に拡大傾向にあります。

 

保険代理店の業界動向

保険代理店事業者の業界は生命保険、損害保険共にやや縮小する傾向にあります。法人事業所のセキュリティが強化されていることや、共働き家庭の増加により在宅率が下がったことなどにより、保険商品の訪問販売の割合は減少を続けています。

また、少子化により市場が縮小していること、インターネットによるダイレクト販売の増加、金融ビッグバン以降の銀行窓口での保険販売解禁などにより、保険代理店業界自体が少しずつ縮小に向かっています。代理店業界全体としては縮小に向かう中、乗り合い型の来店型代理店の数は増えており、競争は激化しています。

 

保険代理店の事業売却の動向

保険代理店は競争が激化する中にあって、大規模事業者がスケールメリットを得るために中小規模の事業者を傘下に収める形での事業売却が進んでいます。訪問販売中心だった保険商品の販売が、銀行窓口、インターネット上のダイレクト販売、来店型店舗での販売などの新しいチャネルに広がっていき、大規模事業者は各販売チャネルの強化を図っています。

また、保険代理店のオーナーが高齢化や健康問題を背景として、事業承継のために売却を行うケースもあります。少子化や価値観の多様化により、子が必ずしも親の事業を引き継ぐというわけではなくなってきているため、事業売却により事業の継続を第三者に託すことが増えているのです。経営者が引退をする際に廃業ではなく事業売却を選択することで、顧客に迷惑をかけずに済む、従業員の雇用も継続できるといったメリットがあります。事業売却は「身売り」というマイナスイメージではなく、経営主体が変わっても事業そのものは安定して継続させるための手段であるととらえることができます。

 

最近の保険代理店の事業売却事例

事例1

2018年1月4日、株式会社ニュートン・フィナンシャル・コンサルティングは保険代理店運営のみつばち保険グループ株式会社(東京都豊島区、売上高12億2700万円)の発行済み株式の46.25%を取得して子会社化することについて、株式譲渡契約を締結したことを発表した。
みつばち保険グループ(株)は、複数の保険会社の商品を取り扱う来店型保険ショップを全国に80店舗展開している保険代理店。(株)ニュートン・フィナンシャル・コンサルティングは保険代理店としてテレマーケティング、保険ショップ、訪問販売、Webの全ての販売チャネルを有しており、チャネル間の相互連携を強化してきた。

(株)ニュートン・フィナンシャル・コンサルティングはこの株式取得において、保険ショップチャネルの強化を行いさらなる企業価値の向上を図る
この事例では、大手事業者の(株)ニュートン・フィナンシャル・コンサルティングが保険代理店としての販売チャネル強化のために、来店型保険ショップの事業者であるみつばち保険グループ(株)を傘下に収めています。

 

事例2

2016年2月2日、株式会社イード株式会社ディノス・セシールとの間で包括的業務提携に関する基本合意をし、その具体案としてWebメディアのひとつ「保険ゲート」を2016年5月30日に事業譲渡する決議をした
(株)イードは多岐にわたるWebメディアサービスを運営し、日本の主要ポータルサイトへのコンテンツ提供を行っている。(株)ディノス・セシールは「ディノス」「セシール」ブランドでカタログのほか、Webを主要チャネルとして通信販売事業を行うほか、保険代理店事業も行っている。

本業務提携により、(株)ディノス・セシールは(株)イードのWebメディア力により既存ECビジネスの活性化と新機軸のEC事業への取り組みを行う。

この事例では保険代理店事業を行っていた(株)ディノス・セシールがWebメディア運営の(株)イードから保険のマッチングや比較を行うメディアの事情譲渡を受けています。保険業法の改正に伴い、「保険ゲート」の運営内容が保険募集人の資格を必要とするものとされることで、譲渡段階で保険代理店の資格を有しない(株)イードが保険代理店である(株)ディノス・セシールに事業譲渡を行うことになりました。

 

保険代理店の事業売却を実施するうえでのポイント

事業売却の目的

保険代理店の事業売却を考える場合に、最初に行うことは事業売却の目的をはっきりさせておくことです。目的が現金を得ることであれば、じっくりと準備を行って、できるだけ良い条件での売却を目指すことになります。保険代理店事業が不採算であり、コア事業からの切り離しのために事業売却を行うのであれば、それほど条件にこだわらずに、売却決定までのスピード感を重視すべきでしょう。
いずれにせよ、売却の準備の過程で最終的な目的が何であるのかを見失ってしまうと条件の悪化につながり、不本意な形での事業売却になりかねません。最初の段階でゴールをはっきりと定めて、ブレのないように取り掛かりましょう。

 

事業売却のタイミング

事業売却には長い時間がかかります。
準備段階では経営状況の把握や経営課題の洗い出しを可視化します。そして、よりよい条件での事業売却を実現するために事業の磨き上げを行う場合もあります。事業の磨き上げでは経営上の問題点をクリアし、長所を伸ばすための経営改善を行います。準備が進み、事業売却に本格的に踏み切る時点では、M&Aアドバイザリーなどの専門事業者に事業売却の相談を行います。
この最初の相談のタイミングから事業売却の完了までが半年から1年間かかります。会社の業績やM&A市場の状況を見ながら最適なタイミングで売却を行うためには、余裕をもって準備が完了している必要があるために、はやめはやめに準備に着手しておくことが必要です。

 

専門家への相談

事業売却を望む場合、売却先の選定が必要です。
売却先を決めるといっても、むやみにあちらこちらに声をかけて探すこともできないため、多くはM&Aのマッチングを行っている事業者の助けを借りることになります。M&Aアドバイザリーと呼ばれる専門事業者は事業売薬・買収のマッチングサービスの提供をはじめ、事業売却の着手からクロージングまで必要とされるさまざまなサービスをワンストップで行っています。
M&Aアドバイザリーも多数存在しますが、得意とする業種もそれぞれ異なっています。信頼できる、保険代理店の事業売却に詳しい事業者を選定するようにしましょう

 

社員の資格の有無

保険代理店特有の事情としては、保険商品の販売を行う社員に専門の資格が必要だということがあります。「生命保険募集人資格」「損害保険募集人資格」と呼ばれ、いずれも複数の試験で構成される専門資格です。
条件のよい事業売却を目指す場合、買い手にとってより魅力的であるためには、多くの社員がこれらの資格を保有していることが望ましいと言えます。前述の事例でも、保険募集人資格の有無が事業譲渡の判断を分けています。

 

資格取得のための仕組みが整っているか

保険代理店を事業売却しようとする場合、買い手のチェックポイントは、単に保険募集人資格を持った社員がどれだけ在籍しているかということにとどまりません。
これら保険募集人資格を取得するための教育体制が整っているかどうか、といった点も重要視されます。保険募集人資格保有の社員に対する手当が用意されるなど、社員の資格取得へのモチベーションを高める仕組みが用意されている、あるいは学習会を開催して保険募集人資格取得に必要な知識を得る仕組みがある、といったように保険募集人資格を持った社員を増やすために組織として取り組んでいる会社は高く評価されます
事業売却のための準備期間が十分に取れる場合、事業磨き上げのための経営改善として、保険募集人資格取得のための枠組み作りを進めることも選択肢の一つです。

 

店舗型かオンラインか

現在の保険代理店事業は様々な販売チャネルを採用しています。昔ながらの訪問販売もまだ少なくありませんが、急成長した店舗販売型やオンライン販売型も見られます。
事業の売却先が、同チャネルを強化することを望んでいるのか、新しいチャネルを揃えるために事業の買収を行うのかで、事業の磨き上げを始めとする事業売却の準備段階で行う作業も変わってきます。売却先の選定の際に、こういった販売チャネルの差を意識しておく必要があります。

 

まとめ

人口減少による業界縮小の中、販売チャネルの多様化が進み、競争の激化している保険代理店業界では、事業売却やM&Aによる業界の再編も進んでいます。また、後継者不足を背景とした事業売却も多く見られるようになってきました。事業売却を検討する際は、広い視野で研究をすすめると同時に、事業売却に詳しい専門家の助けも借りて、納得のいく売却につなげられるようにしましょう。

事業売却の事例から読み解く潮流《保険代理店》
保険会社と消費者の間に立って保険商品の販売を行う保険代理店。近年では店舗型の代理店が急成長しました。
しかし、少子化の進行などで保険代理店業界自体は逆風の中にあります。この状態の中で、事業売却を行う保険代理店も増えてきました。事例を交えつつ保険代理店の事業売却の流れを追っていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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