2019年1月30日 水曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《保険代理店》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&Aの動きは様々な業界で広がっていますが、保険代理店業界も例外ではありません。保険代理店業界では様々なサービス形態が増えた事により市場の競争はますます激化しています。さらに少子高齢化の影響も大きく、苦戦を強いられている保険代理店も目立ちます。そんな状況を切り開く手段として、M&Aは注目されており、実際に多くのM&Aが行われています。具体的にどのようなM&Aが行われているのか、その目的や背景は何なのか、詳しく迫っていきたいと思います。

 

保険代理店におけるM&Aの動き


早速、保険代理店におけるM&Aの動きをみていきたいと思います。一体どのような種類のM&Aが保険代理店業界で増えているのでしょうか。まずは保険代理店についての概要や、業界の現状について解説致します。保険代理店業界全体に対する理解を深めて頂いた上で、M&Aの動向を押さえていきましょう。

 

保険代理店とは

保険代理店は保険商品を取り扱っており、消費者と保険会社の間に入って関係を取り持つ事業者の事を指します。つまり、いわゆる小売店にあたる立ち位置です。食品会社で例えるならスーパーやコンビニ、自動車会社であればディーラーのように、保険会社にとっての小売店にあたるものが保険代理店です。

保険代理店の主な業務としては、保険商品のお客様への紹介、契約内容の変更や締結の実施、保険料の受取の代行などを行っています。事故や病気などもしもの事態にも、保険料の請求手続きを行えたり、事故通知のアドバイスももらえたりします。
このように保険代理店は多岐にわたる業務を請け負っており、お客様と保険会社のやりとりをより円滑にする役割を担っています

 

保険代理店業界の現状

【全体について】

保険業界全体としては、銀行など異業種からの新規参入や外資企業の参入、生命保険と損害保険の相互乗り入れが活発です。顧客の動向としては、従来型の訪問営業に加えて、顧客自らが来店するスタイルの来店型保険ショップにも人気が集まっています。加えて非対面型チャネルであるインターネットショップによる保険商品の購入も、気軽に自分にあった最適な商品を選べるとして利用者が増えています。

 

【生命保険業界について】

2010年の保険料の支払額は、東日本大震災の影響もあって1900億円にまで達しています。それだけではなく株価も下落したために損益が悪化しました。また少子高齢化の影響も受けており、新規顧客の獲得には苦戦している状況です。
そんな厳しい状況を打開しようと、いくつかの動きが目立っています。
例えば高齢者向けや女性向けの商品開発を強化する取り組みや、銀行窓口での販売を推進させようとする取り組みがあります。お客様のニーズにあった商品を積極的に提供し、ビジネスチャンスを掴みたい狙いが伺えます。他にも低迷する国内市場だけでなく、海外に活路を求める企業もあり、インドや中国などのアジア市場で事業を展開しようとする動きも活発です。

 

【損害保険業界について】

損保業界でも東日本大震災の影響は大きく、保険金支払いが増加したために2010年度は損害保険会社各社共に赤字計上しています。2011年以降も震災の影響は続いており、地震保険に対する政府の支援がある一方で、再保険料が上昇しているため、コスト負担の増加が心配されています。また自動車保険についても、特に高齢ドライバーの事故が増加しており、支払金が増加して苦戦している傾向にあります。

 

保険代理店業界におけるM&Aの動向

【大手企業によるM&A】

大手の企業はその豊富な資金力を活かしてM&Aを行い、さらにその勢力を拡大させようとする動きが増えています。事例の詳細は追って紹介しますが、日本生命保険はライフプラザパートナーズとほけんの110番をM&Aにより買収しています。楽天が運営している楽天生命も、M&Aによる子会社化によって取得されています。近年、来店型保険ショップが増加している背景には、このような大企業のM&Aの影響があると言えます。

 

【保険会社同士によるM&A】

前述した通り、大手企業によるM&Aは活発で、市場の競争はより激しくなっています。ただ、保険代理店の市場規模自体は少子高齢化などの影響もあって縮小傾向です。このため大手ではない中小規模の保険会社は、事業の存続が難しくなってきています。なんとか事業を継続するために、中小の保険会社同士のM&Aを選択するケースも増えています。M&Aを実施すれば、市場シェアや販売手段の拡大、販売コストの減少などが期待できます。今後も保険代理店業界内での生き残りをかけて、中小の保険会社同士のM&Aは増加していくと考えられます。

 

【事業継承のためのM&A】

現在多くの企業、特に中小企業では、経営者の高齢化の問題を抱えています。それは保険代理店業界でも同様で、どのように事業を継承すべきか、頭を悩ませている経営者は多いです。職業選択の自由化などの影響もあり、後継者不足の問題は切実です。中小企業庁の統計をみても事態の深刻さは顕著で実際に事業の廃業を検討している中小企業のうち、後継者問題を抱えている企業は半数を超えています。このような事情もあって、M&Aを活用して、事業を継承してもらいたいと考える事例が増えています

 

最近の保険代理店のM&A事例


続いては実際に行われた保険代理店のM&Aの事例をいくつかご紹介します。ここでは5つの事例を紹介しますが、近年でも活発に保険代理店のM&Aが行われているのが分かると思います。具体的にどの様な手段と目的でM&Aが行われたのか、早速みていきましょう。

 

【M&Aの事例①】

売却会社:ライフプラザパートナーズ
買収会社:日本生命保険
実施年度:2015
M&Aの手段:出資
売買価格:3.8億円

まず初めにご紹介するのは、出資によるM&Aの事例です。M&Aを検討していたのは、生命保険会社大手の日本生命保険です。
日本生命保険は多様化していくお客様のニーズに対応しなければならないという課題を抱えていました。そんな中、着目したのがライフプラザパートナーズでした。ライフプラザパートナーズは乗合型の保険代理店(複数の保険会社の商品を扱う保険代理店)なので、M&Aを実行すればお客様に対して幅広い保険商品を比較・検討できる場を提供可能です。2015年に日本生命保険はライフプラザパートナーズの株式を取得する決断をしました。

 

【M&Aの事例②】

売却会社:ETERNAL
買収会社:東海東京フィナンシャル・ホールディングス
実施年度:2017
M&Aの手段:株式譲渡
売買価格:20~30億円(見込み)

2つ目のM&Aは株式譲渡による事例です。実際にM&Aを考えていたのは、東海東京フィナンシャル・ホールディングスです。東海東京フィナンシャル・ホールディングスは、複数の証券会社を取りまとめている持ち株会社です。そんな東海東京フィナンシャル・ホールディングスがM&Aを検討した理由は、お客様との接点をより増やしたいと考えていたためです。そこでM&Aの対象とされたのが、ETERNALでした。ETERNALは生損保の事業を営んでおり、来店型保険ショップも展開していました。東海東京フィナンシャル・ホールディングスは来店型保険ショップを自社で展開できれば、特に若い世代に対して顧客拡大を狙えると考え、2017年にETERNALの株式取得に踏み切りました。

 

【M&Aの事例③】

売却会社:エイチ・エスライフ少額短期保険
買収会社:フジトミ
実施年度:2017
M&Aの手段:株式譲渡
売買価格:969万円

続いても株式譲渡によるM&Aの事例をご紹介します。この事例にてM&Aを検討していた企業はフジトミです。フジトミは保険事業や先物の商品取引などを展開している企業です。
そんなフジトミがM&Aの対象に考えたのは、エイチ・エスライフ少額短期保険でした。フジトミはエイチ・エスライフ少額短期保険の株式を取得しようと考えた理由は、既存のお客様に対して更なるサービスの拡充を図るためです。具体的には、新しい保険商品の提案や開発が行えるようになる事を期待していました。2017年にエイチ・エスライフ少額短期保険の株式をフジトミが取得しています。

 

【M&Aの事例④】

売却会社:ほけんの110番
買収会社:日本生命保険
実施年度:2017
M&Aの手段:出資
売買価格:数十億円(見込み)

続いてご紹介するのは、まさに時代の流れを汲み取ったM&Aの事例です。この例でもM&Aを検討していたのは、事例①でも登場した日本生命保険です。日本生命保険は、事例①の際と同様に時代と共に多様化する幅広いお客様の要望に応えるためにはどうすればいいか検討していました。
そんな中、日本生命保険はある会社に注目します。それは乗合型の保険代理店を展開していた「ほけんの110番」です。M&Aをほけんの110番に対して実行できれば、複数の保険商品からお客様ごとのライフスタイルにマッチした保険商品を選んで頂く事が可能となるので、お客様の利便性は更に高まる事が期待できます。2017年には、ほけんの110番の株式を日本生命保険が取得する判断をしています。

 

【M&Aの事例⑤】

売却会社側:幸楽苑ホールディングス
買収会社:ヒューリック保険サービス
実施年度:2018
M&Aの手段:事業譲渡
売買価格:1.55億円

最後にご紹介する5つ目のM&A事例は、事業譲渡を行なったケースです。事業譲渡の決断をしたのは幸楽苑ホールディングスです。幸楽苑ホールディングスは子会社が展開している、保険代理店事業を譲渡できないものか検討していました。
実際に譲渡を実行したのは2018年の事で、ヒューリック保険サービスに対して保険代理店事業の譲渡をしました。幸楽苑ホールディングスがこの様な事業譲渡を行なった理由は、飲食事業に対して資本を集中させたかったためです。なお、従業員に関しては幸楽苑ホールディングスが雇用を継続する判断をしています。

 

保険代理店のM&Aを実施するうえでのポイント


最後にお伝えしたいのは、M&Aを実施するうえでのポイントです。M&Aは時間も手間もかかる大変な決断ですので、誰もがなるべくスムーズに満足のいく結果を出したいと願うはずです。以下にはそんなM&Aを行う上で大切にすべき5つのポイントをまとめました。M&Aを行う前には改めて下記のポイントについて考えてみて下さい。

 

①社員の資格の有無をよく確認する

保険代理店にて保険商品を販売するためには、資格の取得が必要です。
生命保険、損害保険の商品を取り扱っている保険代理店であれば、「➀生命保険募集人資格」・「②損害保険募集人資格」の2つの資格試験への合格が必須です。それぞれの資格は段階的により専門的な試験が設定されており、お客様に対してより幅広い商品の提案をするためには多くの試験をクリアする必要があります。M&Aの対象に考えている企業の社員の資格取得状況はまず確認しておくべき事項と言えます

 

②資格取得に向けた環境が整備されているかチェックする

上述したように、お客様に対して満足のいく保険商品の提案ができるかは、各種資格の取得状況に大きく影響されます。熱意や思いがあっても、資格がなければ様々な保険商品をお客様に提案する事は出来ません。
そんな中で重要となるのが、保険代理店における資格取得に向けた環境整備が整っているかです。環境整備が出来ており、社員の教育や勉学へのマインドが高い企業であれば、M&A実施後にも高いパフォーマンスが期待できるでしょう。

 

③保険商品の販売形態をよく考える

保険商品の販売形式は、インターネットが主流になった事もあり多様化しています。昔ながらの訪問販売をしているケースもありますが、現在で身近なのは店舗型かオンライン型です。M&Aを考える際も、対象の企業がどの様な販売形態を強みにしているのかをよく考えるようにしましょう。自社の強みとしている販売形態をさらに強化したいのか、それとも新たな方法を取り入れて、新規の顧客を呼び込みたいのか、慎重に判断したいところです。

 

④M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーを起用する

M&Aを考える際に、自社のみでM&Aを実施するというのはあまり現実的ではなく、M&A仲介会社やM&Aアドバイザリーと呼ばれる専門家の力を借りるのが一般的です。彼らはM&Aの一連の業務を一貫してサポートしてくれますので、彼らを起用すれば、M&Aを考えている企業は本業務に集中する事ができ、M&Aの成功にぐっと近づきます。ただ気を付けなければいけないのが、どんなM&A仲介会社やM&Aアドバイザリーを選定するかです。一口にM&Aといってもその種類や業界など様々です。M&Aのプロフェッショナルと言っても、得意としている分野がそれぞれにあります。よく見定めて最適なパートナーを見つけましょう。

 

⑤売り手企業の考えを理解する

M&Aをしたい、という強い思いを持つ事は大切ですが、売り手企業のビジョンや考えを明確に理解しようとする姿勢を忘れてはなりません。買い手と売り手、それぞれの考えに不一致が多いようでは、M&Aもうまくいきません。M&Aは企業を買ったら終わりではなく、その後も事業運営は続いていきます。M&Aの交渉段階にて、お互いのビジョンや今後の戦略について綿密にすり合わせを行うようにしましょう。

 

まとめ

保険代理店のM&Aの動向について、実例を交えながらご紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか。保険代理店業界でも、企業ごとの事情によって様々な種類のM&Aが行われています。本記事をこれからM&Aを行おうとする際の参考にして頂けたら幸いです。

M&Aの事例から読み解く潮流《保険代理店》
M&Aの動きは様々な業界で広がっていますが、保険代理店業界も例外ではありません。保険代理店業界では様々なサービス形態が増えた事により市場の競争はますます激化しています。さらに少子高齢化の影響も大きく、苦戦を強いられている保険代理店も目立ちます。そんな状況を切り開く手段として、M&Aは注目されており、実際に多くのM&Aが行われています。具体的にどのようなM&Aが行われているのか、その目的や背景は何なのか、詳しく迫っていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月30日
事業承継の事例から読み解く潮流《保険代理店》
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