2019年1月28日 月曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《保険代理店》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

保険会社からの委託を受けて保険商品を販売する業態を、保険代理店と呼びます。現在、保険代理店の業界で、大手保険会社が自ら保険代理店を経営する動きが強まっています。
大手保険会社が店舗や人員を獲得する主な手段は、事業譲渡やM&Aです。
事業譲渡の事例から、保険代理店業界の最近の動きを見てみましょう。

 

保険代理店における事業譲渡の動き

保険代理店とは

保険代理店とは、保険商品の販売を保険会社から請け負い、顧客に販売する事業形態です。保険代理店は、保険を紹介したり、顧客の相談に乗ったりするほかに、保険契約の締結や、保険内容の変更、解約などの手続きを実行します。また顧客が事故にあったり病気やけがになったりしたときの保険金請求手続きもサポートします。

保険商品には多数の種類があり、特約などの仕組みも複雑です。顧客のライフステージや個別の事情を考慮して適切な保険商品を紹介するのは、かなりの知識が必要です。このため、保険商品を販売するためには、一定の資格が必要とされます。保険販売者には、基本的な資格を取得した後にも、より高い資格を取得していくことが求められています。

保険代理店は、保険販売のみを行う「専業」と、自動車ディーラーが自動車保険も販売する場合のような「副業」の2つの種類に分かれます。また、一つの保険会社の商品のみを扱う「専属」と、複数の保険会社の商品を扱う「乗合」に分けて考えることもあります。

 

保険代理店業界の動向

近年の保険販売の傾向として特に目立つのは、店舗を所有する乗合型の保険代理店が人気を集めていることです。最近は保険商品も多様化しているため、複数の保険商品を比較して選択したいと考える顧客が増えてきました。そうした顧客は、店舗を訪れて販売員と相談しながら、多様で複雑な保険商品の中から、自分に適した保険商品を選択したいと考えています。

保険販売のもう一つの流れは、保険会社がオンラインで保険商品を直販する流れです。こうしたダイレクト通販の流れは、自動車保険の分野で徐々に拡大しています。ダイレクト通販のメリットは、保険料が安くなることです。保険のダイレクト通販は、安い保険の領域では健闘しているものの、高額の保険商品の領域では、複雑な商品の中から自力で選択することが難しいので、あまり目立っていません。

 

保険代理店業界での事業譲渡の動き

乗合型の保険代理店に対する需要が高まる中、保険会社が自らそうした乗合型の保険代理店の経営に乗り出す傾向が強まっています。また、2016年の改正保険業法により、保険代理店は、販売員の処遇や、顧客への情報提供に関して規制が強化されています。

規制の強化により中小の保険代理店の経営が圧迫されていることと、大手保険会社が、自社の保険商品の枠を越えて、乗合型の保険代理店の経営に乗り出していることを受け、事業譲渡やM&Aを通じて中小の保険代理店が、大手傘下に入る動きが強まっています。

 

最近の保険代理店の事業譲渡事例

第一生命がアルファコンサルティングを買収した事例

2018年4月、第一生命保険株式会社(第一生命)は株式会社アルファコンサルティング(アルファコンサルティング)の全株式を取得し、子会社化しました。
アルファコンサルティングは、複数の生命保険会社から保険商品の販売を受託する乗合型保険代理店であり、全国に22の拠点を置き、保険募集人120名を擁する会社です。

近年、第一生命は、複数の保険商品を比較して加入したいという顧客ニーズの変化を認識していました。第一生命は、アルファコンサルティングとともに、代理店チャネル向けの商品・サービスの共同開発や、人材交流を通じたノウハウの共有を行うことで、乗合代理店チャネルにおいても顧客ニーズに沿った高品質のサービスを提供できると考え、この買収に踏み切りました。

第一生命グループは、第一生命ホールディングス株式会社を頂点の持ち株会社とする企業グループです。傘下の第一生命保険株式会社は、2016年に株式会社として上場するときに、保険事業を継承しています。

第一生命グループが2018年に発表した新中期経営計画「CONNECT 2020」の中で、QOLを高める商品・サービス、チャネルの強化と多様化を加速することや、事業を通じて地域の課題を解決することなどを通じて、顧客や地域とより密接にかかわっていくことを目標に掲げています。今回の買収も、そうした新中期経営計画「CONNECT 2020」に沿ったものと考えることができるでしょう。

 

SOMPOインターナショナルがイタリアの農業保険代理店を買収した事例

2018年2月、バミューダを拠点とする損害保険と再保険の会社、SOMPOインターナショナル(SI)は、イタリアの農業保険市場におけるリーディングカンパニー(代理店)である、A&A, S.r.l(A&A)の買収を発表しました。

A&Aの買収は、SIが以前に発表した新方針、「Agri Sompo」に合致したものです。A&Aの従業員、組織、経営は維持される予定です。会長とCAO(Chief Administrative Officer、最高総務責任者)は現職に残留し、SIから、4人が取締役に加わります。

SOMPOホールディングスは、損害保険ジャパン日本興亜株式会社などの保険会社を傘下に持つ持ち株会社です。現在、東京海上ホールディングス、MS&インシュランスグループホールディングスとともに、いわゆる「三メガ損保」の一角を形成しています。
SOMPOホールディングスの形成は新しく、その前身は、2010年に損害保険ジャパンと日本興亜損害保険株式会社が経営統合した時に生まれました。M&Aを活用しつつ、日本国内と海外への事業展開を行う中で、何度かの社名変更を経たのち、2016年に、 SOMPOホールディングス株式会社に商号変更しました。

SOMPOインターナショナルは、SOMPOホールディングスグループの中で、海外保険事業に取り組む子会社です。2018年3月現在で、30カ国の国と地域、218都市をカバーするネットワークを形成し、先進国から新興国まで、グローバルに事業を展開しています。
「AgriSompo」は、SOMPOインターナショナルが2017年11月に立ち上げた、農業保険のグローバル統合プラットフォームです。「AgriSompo」の目的は、農家・農業事業者・農業保険会社に対して、統一的な基準で保険を提供し、また保険商品に対する専門知識と技術を提供することです。

 

住友生命が保険デザインを買収した事例

2017年7月、住友生命保険相互会社(住友生命)は、株式会社保険デザイン(保険デザイン)の株式を、親会社である株式会社ACNより取得し、子会社化しました。

保険デザインは、株式会社ACNのグループ会社として、関西エリアに乗合型保険ショップ20店舗を展開してきました。
近年、少子・高齢化が進む中で、顧客ニーズが多様化しており、保険の見直しを相談するためにショップを訪れる顧客が増加してきました。「お客さまの人生を守ること」を仕事の原点と考える住友生命は、今回の買収によって幅広い顧客ニーズを受け止め、その要望に応えることができると考えています。

住友生命は、これまで首都圏を中心に、子会社の保険ショップ「ほけん百花」71店舗を展開してきました。今回の買収で、乗合型保険代理店の店舗展開を、関西圏に拡大することができました。

 

日本生命が保険の110番を買収した事例

2017年3月、日本生命保険相互会社(日本生命)は、株式会社ほけんの110番(ほけんの110番)の全株式を取得することで合意しました

ほけんの110番は、複数の保険会社の代理店となる『乗合型保険代理店』であり、九州地方を中心に全国に店舗を展開しています。ほけんの110番は「生涯を通じてお客様を守り続ける」を経営理念とし、幅広い知識を備えた募集人が、顧客ニーズに応じた保障を提案しています。
日本生命は、店舗を展開する乗合型保険代理店が人気を集める中、複数の保険商品を比較して選択したいと考える顧客の要望に応えるために、乗合型代理店の強化に取り組んでいます。今回の買収も、そうした取り組みの一環です。日本生命は、自身の経営資源や企業ネットワークを活用して、ほけんの110番の事業拡大を図ります。

 

楽天がアンセルインシュアランスを買収した事例

・買収事例
2016年11月、楽天株式会社は、生命保険と損害保険の代理店業務を展開する、株式会社アンセルインシュアランス(アンセル)の全株式を取得しました。

アンセルは、中小法人向けの保険商品の提案を主な事業とする、対面販売型の乗合代理店です。アンセルは、全国でビジネスを展開しており、中小法人に対して、「保険を活用したリスクマネジメント提案」をコンセプトとした、コンサルティング活動を行っています。
楽天は、これまで楽天生命保険株式会社、楽天インシュアランスプランニング株式会社を通じて、生命保険と損害保険を提供してきました。ここに、中小法人に対する事業保障のアンセルを加えることで、保険サービスの提供範囲を広げることができました。

・買収後の展開
2019年1月、楽天に買収されたアンセルは、おなじく楽天傘下の株式会社みらいの保険とともに、楽天インシュアランスホールディングス株式会社に統合されました。この統合のねらいは、生命保険、損害保険、ペット保険の枠にとらわれずに、顧客にもっとも適した保険商品を、オムニチャネルで提供することです。

 

ワイエムライフプランニングが保険ひろばを買収した事例

2016年9月、株式会社山口フィナンシャルグループは、子会社のワイエムライフプランニングを通じて、株式会社保険ひろばの全株式を取得することを決定しました。

山口フィナンシャルグループは、顧客一人一人の人生に寄り添う身近で信頼できる相談相手となるため、フィナンシャルプランニング事業を強化していました。
保険ひろばは、中国・九州地方を中心として、ショッピングセンターなどに出店している中堅の乗合型保険代理店です。保険ひろばのビジネスは、顧客のライフプランに沿った保険商品の提案することです。

山口フィナンシャルグループは、自身の信用力や多様な金融商品と、保険ひろばの人材、ノウハウ、店舗網を融合させることで、「ライフ・プランニングに基づくワンストップ金融サービス」を速やかに実現できると考え、この買収を決定しました。

山口フィナンシャルグループは、山口県下関市に本社を置く金融持ち株会社です。2006年に設立され、現在全国第6位の地域金融グループを形成しています。
ワイエムライフプランニングは、2016年に設立された、ライフ・プランニングに基づく保険代理店業務、金融商品仲介、銀行代理業を事業内容とする、山口フィナンシャルグループの連結子会社です。

 

保険代理店の事業譲渡を実施するうえでのポイント

社員が業務を行うための資格を持っているか

保険代理店で業務を行うためには、あらかじめ資格を取得しておかなければなりません。生命保険を販売するためには、「生命保険募集人資格」が、損害保険を販売するためには、「損害保険募集人資格」が必要です。また、生命保険を販売するための資格、損害保険を販売するための資格には、それぞれグレートがあり、販売する商品の種類に応じた資格の保持も必要です。事業承継を行う前に、現状の社員の資格保有状況を一覧表にまとめておきましょう

 

社員が資格を取得するための仕組みが整っているか

新卒採用の場合はとくにそうですが、保険代理店の社員を募集するときには、はじめから必要な資格をすべて保有している人を採用するわけではありません。保険代理店は、自社の仕組みとして、社員が資格を取得するための仕組みを整えなければなりません。保険代理店には、社員が資格を取得することを、金銭面でも業務面でも、サポートすることが期待されます。社内制度を確立することや、資格取得に前向きな社内文化を作ることができれば、事業承継を行う上で、自社の価値が高く評価されるポイントとなります

 

店舗型か、オンライン型か

保険販売の形態には、複数の保険会社の商品を販売する乗合型と、一つの保険会社の商品だけを販売する専属型があります。
最近人気を集めているのは、店舗に来客した顧客が、販売員と相談しながら複数の会社の商品を比較して選択する、店舗型・乗合型の保険代理店です。一方専属型の保険代理店には、一つの会社の商品に精通しているという強みはありますが、この点ではむしろオンラインで直接保険会社から商品を購入する動きが目立ちます。購入したい商品が決まっている場合、オンラインで購入すると保険料が安くなるメリットがあります。

 

まとめ

以上、事業譲渡の例をご紹介することで、近年、保険代理店業界で生じている流れの一端を見てみました。大手保険会社が、自社商品の枠を越えて、乗合型の保険代理店の経営に乗り出している背景には、近年の、複数の商品を比較して自分にもっとも適した保険商品を選択したいという顧客ニーズの高まりがあります。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《保険代理店》
保険会社からの委託を受けて保険商品を販売する業態を、保険代理店と呼びます。現在、保険代理店の業界で、大手保険会社が自ら保険代理店を経営する動きが強まっています。
大手保険会社が店舗や人員を獲得する主な手段は、事業譲渡やM&Aです。
事業譲渡の事例から、保険代理店業界の最近の動きを見てみましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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