2019年6月12日 水曜日

人材サービス業の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、人材サービス業界で事業売却が増加している背景を紹介した後に、売却側企業の経営者が、一般的にどういった目的で事業売却を実施しているかをご紹介します。加えて、これから人材サービス業の売却を検討する経営者がスムーズに手続きを進めるのに必要な知識を解説していきます。

 

人材サービス業の事業売却で次のステージへ

近年は多くの業種で事業体系の再編が進められており、人材派遣や人材紹介のサービスを活用する事業者が増加しています。国内の労働者人口減少による人手不足が需要増加の主な要因であり、今後も人材サービス業への需要は増加を続けていくと考えられています。

一方で人材サービス業では人手不足が問題となっています。人材派遣、人材紹介事業への新規就業者は大手事業者に就職するケースが特に多く、中小企業の多くは長期的に人材不足となっています。

人材サービス業界は中小事業者が多い業種であり、後継者問題に直面している経営者も多く存在します。近年では親族内承継や社内への外部承継を選択する経営者は減少しつつあり、M&Aによる第三者承継が増加しつつあります。

また、業界内におけるシェア争いも近年活発化しており、大手事業者による買収や統合、業務提携などが多く実施されています。シェア争いの影響で取引先を維持できなくなる中小企業も増加しています。

近年では既存の人材サービス業者に対する資産要件も厳しくなっており、事業存続の手段として事業売却を実施する中小業者が近年増加しています

2015年に改正された労働者派遣法の猶予期間が2018年9月に切れたことで、人材サービス業界は今後大規模な再編が進んで行く可能性が高いと予測されています。業界再編の時期は買収ニーズが増加することから、今後は中小規模の人材サービス業者によるM&A、事業売却が増加していくと思われます。

 

事業売却とは

事業売却とは、企業が運営している事業を他社へ売却することを指します。経営者の目的に応じて一部事業のみを売却できることが特徴であり、中小企業のM&Aで多く用いられる方法です。

事業売却の活用例としては、不採算事業を売却して主力事業へ専念する、負債以外を売却して獲得した金銭で負債を返済するといった方法があります。売却内容を細かく調整できる事から、買収側企業は簿外債務や潜在的なリスクを回避出来るというメリットがあります。

ただし、事業売却では契約関係や許認可を無条件で引き継ぐことはできないという特徴があります。

従業員や取引先を引き継ぎたい場合、契約を一旦解消してから個別に再契約を実施する必要があります。

売り手が大手企業である場合は個別作業の煩雑さがデメリットになりやすく、取引規模が大きくならない中小企業に多く用いられる売却方法です。

 

人材サービス業を事業売却する目的にはこんなものがあります

ここでは、人材サービス業を事業売却する経営者がどういった目的で事業売却を選ぶのかを何点かご紹介します。

 

後継者問題の解消

人材サービス業者の多くは中小企業であり、近年では多くの経営者が事業承継の時期を迎えています。第三者へ事業売却を実施することで、廃業を回避しながら経営者が退職することができるようになります。

売却先が同業他社となった場合、人材サービス業界の近況や事業特性を熟知した相手に事業を引き継げるので、親族内承継や従業員承継に比べて短期間で事業承継ができるというメリットが得られます。

 

従業員の引継ぎ

人材サービス業を売却する時には従業員を引き継ぐことが一般的です。事業売却が成立した場合、売却側企業は従業員の再雇用先をすぐに提供できるというメリットがあります。

一部事業のみを売却する時や新事業を始める場合、必要な従業員は引き継がずに手続きを行うことも可能です。

仮に事業所を閉鎖する場合、雇用していた従業員は解雇する必要があります。人材サービス業界は人手不足が問題となっており、後継者不在の中小企業が事業売却を行うケースは近年増加傾向にあります。

 

創業者利益の獲得

人材派遣、人材紹介事業を第三者へ売却することで、売却側企業は対価として現金を獲得できることがあります。売却する事業内容や相手企業との調整結果によって獲得できる金額は変動するので、場合によっては多額の現金を得ることができます。

事業売却で獲得した資金は経営者の所得となるので、各種税金を差し引いて残った分は経営者が個人的に使用することができます。

事業売却では資産の一部を取引するケースが多いので、全事業資産を取引する会社売却に比べると獲得できる金銭は少額になりやすいと言えます。しかし、人材サービス業界でのM&Aは他業種よりも平均的な取引価格が高いことから、事業譲渡を実施する企業は近年増加傾向にあります。

 

負債や個人保証の解消

事業売却で人材サービス業を売却することで、負債の解消や経営者に紐づいている個人保証を解除できる場合があります。事業売却では相手企業の同意があれば負債を引き継ぐことが可能です。ただし、引継ぎに伴って支払責任者が変わる場合は債権者から個別に了承を得る必要があります。

また、売却側企業が個人経営である場合、事業資産を全て売却することで個人保証や担保の支払い義務を解除できることがあります。売却に伴って経営者が退職するケースでは、基本的に解除できるとされます。

 

経営基盤の強化

事業売却を実施して大手事業者の系列に加わることで、大手事業者が持つ高度な営業スキルや豊富な経営資源を共有できるというメリットがあります。

派遣業界を中心としてトラブルが相次いだ時期以降、依頼主となる企業の間で信頼度の高い大手を優先する傾向が強まっており、中小企業には厳しい状況が続いています。しかし、資金繰りが厳しい企業でも大手事業者の系列に入る事でクライアントからの信用度が上がり、安定して依頼を受けやすくなることが見込めます。

また、中小事業者間で事業売却を実施することで規模を拡大し、特定の地域や業種でシェアを伸ばすというケースも想定されます。人材サービス業はスケールメリットを拡大することが重要な業種なので、売り手が中小企業の場合でも比較的買い手が付きやすい傾向にあります。

 

人材サービス業の事業売却を行う上での注意点

ここでは、人材サービス業を売却する経営者が手続き上で注意しておきたい点を解説していきます。

 

従業員の人数やスキルを把握する

人材派遣事業や人材紹介事業を売却する時のポイントとして、売却側企業は所属している従業員の実稼働率や、保有する業務スキルを改めて把握しておくことが重要です。

データ上は登録していても近年の勤務実績が無い、他社で就業している、といったことは実際にあり得るので、事業売却で実際に引き継げる人数は前もって調査する必要があります。

売却側企業を探しやすくする方法として、どういった業種への派遣、紹介実績を持つか、どの従業員がどのような業務経験や資格を所持しているかは具体的にデータ化しておくことが重要になります。公的な資格以外にも、会社内で業務スキルをランク分けするシステムを構築している場合は有用な判断材料になる可能性があります。

 

取引先の確認

人材サービス事業は取引先の状況に収益力を左右されるので、経営を安定させるには各業界に出来るだけ多くの取引先を持っておく必要があります。同じ収益額である場合、一社の大手企業よりも複数の中小企業から依頼を受けている方が事業価値は高く評価されやすいです。

取引先は長期的な収益力を判断する指標であり、長期的な取引先を多く持つ企業は優れた収益力があると言えます。

 

効率的な業務配分が出来ているか

人材サービス業は人材を派遣、紹介することで収益を得るので、獲得した案件を就業希望者に対してすぐに配分できるかは重要なポイントです。従業員へ効率よく業務を配分できる企業は収益が安定しやすく、取引先からの評価も上がりやすいと言えます。

また、自社構築のシステムで優れた業績を上げている場合は独自の強みとしてアピールすることが可能です。

 

事業売却の相場を把握する

事業売却を実施する時には、売却する事業資産に応じて相場となる価格が存在します。人材サービス事業は他業種よりも平均的な相場が高く、売り手が中小企業でも高額案件になるケースは充分考えられます。相場と離れすぎた価格を提示してしまうと売却先が見つからない、もしくは安く売却して損をする等のリスクが出てきます。

一般派遣事業の場合、売却価格の相場は最低100万円からとされます。派遣・紹介事業に必要な許認可の有効年数も売却価格に影響するとされており、更新直後である場合は特に売却価格がアップしやすいと言えます。

正確な売却価格を算出するには財務関係の専門知識が必要となるので、税理士や公認会計士といった専門家から知識を借りることが確実な方法です。

 

事業売却の目的を決める

人材サービス事業を売却する時は、相手企業に対して要求する条件を具体的に決めておくことが重要です。優先度の高い条件によって、必要な準備や相手企業の選び方も異なります。

後継者問題の解消を優先する場合、売却側企業は前もって負債の軽減や取引先とのトラブル解消などを進めた上で、自社と経営方針が近い相手企業を探すことを推奨します。経営者の考え方や社風が近い企業とは比較的スムーズに話が進みやすい傾向があり、時間的な余裕がない状況でも事業売却を行える見込みがあります。

売却益の高さを重視する場合、従業員の多さや技能、豊富な取引先であるなど、事業価値を向上させる要素を出来るだけ多くデータとして揃える必要があります。事業売却を実施することによって、買収側企業にどういったメリットがあるかを具体的に示すことが重要なポイントです。

また、事業を売却した後に経営者が留任するかどうかも重要です。成立後に引退を考えている場合でも、買収側企業から一定期間だけサポートを依頼されるケースもあります。経営者の状況や目的に応じて、一貫した対応を行う事が重要なポイントです。

 

事業体制の見直し

人材サービス業の事業売却を実施する企業は、自社が法律的、倫理的に問題のない企業である事を示すデータが必要になります。

倫理面では、会計記録が実態と異なっていないか、汚職はしていないか、反社会的組織と関係を構築していないか、といったことが挙げられます。会計記録に関しては、単純な記載ミスを放置した場合でも問題となる点には注意が必要です。

近年は”働き方改革”に基づいた法律が順次施行されているので、就業規定や従業員との契約条件が現行法に対応しているかをチェックする必要があります。場合によっては修正を行う必要がありますが、見直しを実施する時には弁護士やM&A仲介会社であるなど、法律に関する専門家のサポートが不可欠です。

 

財務状況の見直し

人材サービス業を売却する企業は、収入源となる人材派遣、紹介料の適正化や、広告宣伝費や人件費などが過剰に高くないかといった財務状況の見直しを実施することが重要です。

取引先が多い企業でも、過剰に低いコストで案件を集めている場合はダンピングが疑われやすく、売却先から信用を得づらくなります。逆に価格設定が理由で案件が取れない状況を改善していないと、経営力に疑問を持たれる要因になります。

また、人材サービス業は新規就業者を集める広告活動や、取引先を集める営業にコストが掛かりやすい業種です。収益に対して過剰な支出をしていないかはチェックしておくことを推奨します。

 

M&A仲介会社の選び方

事業売却を実施する上で、信頼できるM&A仲介会社を選ぶことは特に重要です。M&A仲介会社は、買収側企業と売却側企業の双方から依頼を受けて、経営者の意向に沿った相手企業を紹介する役割を持ちます。

人材サービス業の業務内容に詳しく、最新の市場動向や法律関係に関する知識を備えている業者であるほど、適切な相手企業へ事業売却を行える確率は高くなります。近年は中小企業が事業売却を実施するケースが多いことから、中小企業のサポートを得意とする仲介会社も増えつつあります。

また、仲介業者によっては着手金やリテイナーフィー、中間報酬などが必要になるケースがあります。成立までのコストを抑えたい場合、完全成功報酬制の仲介会社を選ぶことを推奨します。

 

まとめ

人材サービス業の事業売却では相手企業の選び方が特に重要です。

売却側企業の経営者は、目的を明確化した上で具体的な売却条件を提示する必要があります。事業売却は相手企業の同意が前提なので、状況に応じて譲歩可能な点を決めておく事も重要なポイントです。

適切に事業売却を進めるには各分野の専門家を活用することをおすすめします。

人材サービス業の事業売却のポイントとは?
人材サービス業界で事業売却が増加している背景と、実際に事業売却を行う際の効果や、注意点についても詳しくまとめました。これから人材サービス業の売却を検討する経営者がスムーズに手続きを進められるよう、必要な知識を詳しく解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年6月12日
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