2019年6月13日 木曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《人材サービス業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、人材サービス業の近況や今後の展望を紹介するとともに、人材サービス業界で実施された事業売却の事例を紹介していきます。これから人材サービス業の事業売却を検討している方が知っておきたいポイントに関しても解説します。

 

人材サービス業における事業売却の動き

人材サービス業とは、企業からの需要に応じて人材を派遣、紹介する事業全般を指します。

とくに有名な事業としては、派遣事業、請負事業、職業紹介事業、求人広告事業の四業種に大別できます。

 

人材サービス業の近況

近年、人材サービス業は多くの業種から需要のある事業となっています。少子高齢化によって国内全体で従業員不足が問題となっており、多くの業界で大手企業が他社を買収、統合する形で業界再編が進められています。事業領域を拡大する過程では人手不足が生じやすく、派遣社員や請負社員を活用する事業者は増加傾向にあります。

一方で、人材サービス業界でも他業種と同様、従業員の確保が急務となっています。近年になって派遣、請負を活用する業種が増えてきたことに加え、建築業やIT業を中心として人材サービス業への需要が大幅に伸びていることなどが理由として挙げられます。

2008年度をピークとして人材サービス業全体の市場規模は下落してから横ばいとなっていましたが、少子高齢化や経営再編などによって派遣、請負、就職支援などに対する需要が近年増加しています。2017年度には派遣業、紹介業、再就職支援業を合算した市場規模は前年比で23.5%増加しており、今後も需要拡大は継続すると予測されています。

 

事業売却に向けた動き

人材サービス業の市場規模が拡大していることを受け、大手人材派遣業者による大規模なM&Aが近年相次いで実施されています。同業他社との統合、事業提携以外にも、取引先の業界に属する企業を買収する事例も存在しています。

大規模なM&Aは目立ちやすいですが、人材サービス業界では中小企業によるM&A、事業売却が活発に実施されています。人材派遣、人材紹介会社の9割以上は年間売上5億円以下の中小企業とされており、シェア争いが激化しやすい環境と言えます。

実際に中小規模の人材派遣、人材紹介会社の廃業数は近年増加しており、市場規模が伸びる一方で総事業者数は減少傾向にあります

 

今後の見通し

また、人材サービス業界では多くの経営者が後継者問題に直面しています。近年は経営者の高齢化が進んでいる事や、従業員不足で事業を引き継げる人物が居ないというケースが増加傾向にあります。

親族や会社内に後継者が居ない状況では、第三者へ事業を売却することで問題を解決できる可能性があります。人材サービス業界では全体的に人手不足であり、中小企業が大手企業の傘下に入る事例が近年増加しつつあります。

 

事業売却とは

事業売却とは、会社が運営する事業を第三者へ売却することを指します。取引対象となるのは、事業運営に必要な有形資産、契約関係や技術といった無形資産が主になります。

売却側企業は、事業の全部、もしくは一部だけを切り離して売却することが出来ます。仮に全事業を売却した場合でも、売却側企業は同じ会社として存続することが事業売却の特徴です。

なお、事業売却では各種許認可や、従業員や取引先との契約関係を直接引継ぐことは出来ないという特徴があります。許認可が必要な事業を引き継ぐ場合、基本的に買収側企業が事前に許認可を取得している必要があります。契約関係に関しては、一旦解約した後に買収側企業が個別に結び直す必要があります。

手続きが複雑なことから、大規模なM&Aでは会社売却というM&A方式が用いられるケースが一般的です。中小規模のM&Aでは比較的短期間で利益を得やすいことから、事業売却が用いられることが多いです。

 

最近の人材サービス業の事業売却事例

ここでは、人材サービス業界で実際に行われた事業売却の事例をご紹介していきます。

 

グローバルウェイが転職webサービス事業を譲受

社会人向けの情報プラットフォーム「キャリコネ」を運営する株式会社グローバルウェイは、株式会社ディスコが運営する国内向け転職webサイト「キャリタス転職・を譲り受けることで基本合意が成立したことを2016年12月に発表しました。

当事業譲受により、両社が持つ企業の採用活動をサポートするノウハウと求職者への支援サービスを統合する事で、全世代の社会人に一層充実した採用支援サービスを提供するとしています。

 

ムラタアクティブパートナーがパソナへ人材派遣事業を譲渡

株式会社村田製作所の100%子会社である株式会社ムラタアクティブパートナーは、株式会社パソナへ人材派遣事業を譲渡することを2016年4月1日に発表しました。

同社は村田製作所のグループ企業として、京都、滋賀、島根、福井エリアで人材派遣事業を展開していましたが、当事業譲渡以降は教育事業に専念するとしており、今後はムラタグループにおける人材育成の強化に向けて取り組んでいくとしています。

 

夢真ホールディングスがJSCの建築技術者派遣事業を承継

夢真ホールディングスは、2018年12月2日にJSC株式会社を分割会社、夢真ホールディングスを承継会社とする吸収分割の方法によって、対象企業の建築技術者派遣事業を承継することを発表しました。当会社分割による対価として、JSC社に金銭200百万円が交付されています。

同社は建築技術者派遣事業および製造・IT業界向けエンジニア派遣事業における人員増加と事業拡大を中期経営計画としています。

当事業譲受により、同社の建築技術者派遣事業における技術向上と収益基盤の強化などからグループ全体の成長が見込めるとしています。

 

事例から読み取れる傾向

人材サービス業界で実施される事業売却の事例を見ていくと、大手事業者が買い手となるケースが多いことと、近年有効求人倍率が特に高い建設業、IT業におけるシェア拡大を図った事例が多いことが分かります。

 

人材サービス業の事業売却を実施するうえでのポイント

従業員の人数、スキルの把握

人材サービス事業の売却を考えている企業は、引継ぎを行う従業員の人数と、各々が保有している業務スキルや資格を把握しておく必要があります

人材サービス会社は所属する社員と稼働実績がある社員の数が異なる場合があるので、実際に引き継げる人数は早いうちから調査しておくことを推奨します。

従業員がどういった業務経験や資格を持っているかで、人材サービス会社が対応できる業種の幅や業務品質が異なってきます。買収側企業に対して具体的なデータを提示することで、売却する事業を高く評価してくれる相手企業を見つけやすくなります。

 

取引先の確認

人材サービス事業は取引先の景況や法改正によって売上が変動しやすいので、事業売却を実施する企業は自社がどういった取引先を保有しているかを改めて確認する必要があります。

大手企業への人材派遣、紹介実績があることは営業力を示すデータとなりますが、多数の中小企業から依頼を受けている方が、収益が安定しやすく、買収先が短期間で見つかる確率が高いと言えます。

 

シナジー効果

事業売却では、買収側企業が事業資産を引き継ぐことで得られるメリットを具体的なデータとして示すことが重要です。従業員や事業拠点といった目に見える有形資産以外にも、売却側企業が構築してきた事業体系や営業スキル、派遣・紹介先に応じた業務スキルであるなど、目に見えない無形資産は多く存在します。

事業資産を統合することで対応できる業種が増えた場合、新規採用や社員教育を実施する時間やコストを省いて事業領域を拡大することができます。加えて安定した取引先を引き継ぐことで、新規営業を実施するリスクや時間を削減した上で、引継ぎから短期間内に収益を得られるようになるメリットも見込めます。

無形資産を引き継ぐことで将来的に収益が見込める場合、売却側企業は事業資産の評価金額とは別に、営業権という名目で別途金銭を得ることができます。営業権はのれんと呼ぶ場合もあり、売却する事業の業種や将来性などに応じて金額が変動します。買収側企業から見て価値が高い案件であるほど、営業権の金額は高くなります。

また、事業内容が類似している他社へ事業売却を実施することで、特化型業者としてシェアを伸ばす作用が見込めます。人材サービス業界は大手事業者が万能型を目指す一方、中小事業者は一部事業に特化した方が安定した収益を得やすい傾向があります。

 

事業売却に必要な書類

事業売却を成立させるまでには多くの手続きや書類が必要になります。書類の多くは売却価格の算出に用いるデータであり、事業売却を成立させる上で書類作成は必須業務です。

特にデューデリジェンスの過程では多くの書類が必要になります。売却側企業の財務、事業関連、人事関連、法務、税務であるなど、デューデリジェンスでは総合的な情報が要求されます。

一般的な財務デューデリジェンスでは、過去3期分の決算書や総勘定元帳などが必要とされます。その他、会社の基本情報となる商業登記簿謄本、定款、役員一覧役員変遷表、組織図、株主一覧、人事関係規定、財務関連規定などに関する書類も必要になります。

実際に全てのデューデリジェンスを実施するとは限らず、場合によっては必要書類が変わってくることもあります。事業売却を検討する経営者は、早いうちからM&A仲介業者に相談を行い、事業売却に必要な書類を一通り揃えておくことを推奨します。

 

事業売却の計画を公表する時期

事業売却を進めていく過程では、売却先が決まって事業を引き継ぐ当日までは事業売却に関する情報は伏せておく必要があります

早い段階で従業員や取引先に情報を伝えてしまうと、事業売却に反対する従業員が離職してしまうことや、取引先や従業員を経由して競合他社に事業売却を知られるといったリスクが想定されます。

事業売却を進めていると事業内容に関する書類が必要になるので、基本合意後に経理責任者や信頼できる役員などに事業売却の計画を伝えておくことで手続きをスムーズに進められる場合があります。

買収側企業によるデューデリジェンスの過程では、売却側企業の問題点を調べる目的で会社に直接訪問される機会があります。同過程では特定人物へのインタビューを予告される場合もあるので、対象となる社員には適宜説明を行う必要があります。

従業員や取引先に対しての説明は、事業売却の契約を締結した後に実施することが一般的です。場合によっては、契約の締結と履行を同日中に完了させるというケースもあります。

 

M&A仲介業者の選び方

人材サービス業を買収する会社は事業売却の手続きに慣れている可能性が高いですが、売却を検討している業者はM&Aに不慣れであるケースが多いと言えます。

M&A仲介業者は事業売却の交渉を行う二社間に入り、公平に手続きを進められるようにサポートを実施することが主な役割となっています。事業売却を実施する経営者は、買収先を探し始める前にM&A仲介業者と契約することが一般的です

M&A仲介業者を選ぶときは、人材サービス業の事業特性を的確に把握しており、事業売却を多く成立させている実績を持つ仲介業者を選ぶことで事業売却の成約率を大きく向上させることが可能です。

近年では完全成功報酬制である仲介業者が多いですが、業者によっては中間報酬や月間報酬が必要な場合もあります。低コストで事業売却を実施する場合は完全成功報酬制の業者を選ぶ事を推奨します。

仲介業者を選ぶときに特に重要なポイントとして、経営者が相談した内容に基づいた相手企業を仲介してくれるか、希望条件を達成できるように的確なサポートを実施してくれるか、といった点が挙げられます。

 

まとめ

人材サービス業に対する需要は今後しばらく拡大していくと予測されており、事業規模の拡大を目的とした買収事例も増加すると思われます。人材派遣、人材紹介事業を売却しようと考える経営者にとっては、現在が好条件で実施しやすいタイミングであると言えます。

事業売却は情報の精度が重要なので、準備を進める時はM&A仲介業者や弁護士といった専門家の知識を借りることが事業売却を成立させるポイントです。

事業売却の事例から読み解く潮流《人材サービス業》
人材サービス業の近況や今後の展望を紹介するとともに、人材サービス業界で実施された事業売却の事例を紹介していきます。人材サービス業界は後継者不足などの問題を抱える企業が増えつつあります。そんな問題の解決のために、人材サービス業の事業売却を検討している方が知っておきたいポイントに関しても詳しく解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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