2019年4月26日 金曜日

ホテル・旅館の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

ここ数年、ホテル・旅館への需要は都市圏を中心に急増しています。事業拠点の確保を目的として大手宿泊業者が積極的にM&Aを実施しており、取得額も1000万円単位から10億円以上までさまざまです。

本稿ではホテル・旅館の事業譲渡に関する基本的なプロセスや実施するメリットを紹介した後、実際に検討する際のチェック項目について解説します。

 

ホテル・旅館の事業譲渡を検討してみては?


まず事業譲渡の定義として、事業内容の一部または全部をM&Aによって第三者企業へ譲渡する売却方式を事業譲渡と呼称します。売却する事業領域を細かく調整できるので、ノンコア事業を売却してコア事業へ専念する、収益性の高い事業を売却して得た対価で債務を打ち消すといったことが可能です。

続いて、宿泊業界の現状について紹介します。ここ数年におけるホテル・旅館への需要は都市部を中心に増加しています。特に2020年の東京五輪に向けて大手事業者が集中的にホテルを新規建設しており、2016年にはホテルの施設数が1万件を上回ったとされています。
訪日外国人の増加も背景にあり、強いブランドイメージと資金力を持つ大手事業者がシェアを伸ばしている状況です。
一方で宿泊施設1軒単位の収益額は減少しており、設備の修繕が滞って経営難に追い込まれる中小規模のホテル・旅館は増加しています。

国内ホテル・旅館の経営難を受け、中国系を主体とした外国企業が立地や従業員の質に優れる日本の宿泊施設の確保を目的として活発的に買収を実施しています。事業体制が整っている場合は、資金の供給によって立て直せるケースも多く、事業譲渡によって大手事業者の経営基盤を共有することは有効な手段であると言えます。

 

ホテル・旅館を事業譲渡するメリット

・後継者問題の解決

後継者の確保は宿泊業界全体の問題ですが、特に中小規模のホテル・旅館は後継者不在を問題としているところも多数存在します。
事業譲渡によって同業他社へ売却した場合は、外部の経営スキルを持った人物が事業を引き継ぐので、他の承継方式に比べて短期間で手続きを完了できます。適切な相手企業へ譲渡できれば今後の経営も安定する可能性が高く、懸念無く事業を引き継ぐことができます。

 

・売却益の獲得

ホテル・旅館をM&Aによって事業譲渡する場合、宿泊施設や従業員を引き継げることは譲渡側企業と譲受側企業の双方にとって大きなメリットです。経営難や後継者不在によって廃業を選択する宿泊業者は多いですが、事業施設の処分にも費用が掛かり、借入金や債務への対処も問題になります。

事業譲渡を用いる場合は従業員の雇用や施設の所有権などを自動的に引き継ぐことはできず、譲受側企業が個別に再契約する必要があります。とはいえ、ホテル・旅館の場合は引継ぎによるコスト削減効果が作業コストを上回るケースが多いことから中小企業の売却では多く用いられます。

ホテル・旅館は新規建設に多額のコストが掛かるほか、開業から時間が経過するほどメンテナンス費用が重なってきます。廃業時には施設の老朽化が進んでいることも多く、買い手が付いたとしても期待するほどの価値は付かないケースが一般的です。

しかし、宿泊業者の中には経営困難になった同業他社を買収して立て直す企業も一定数存在します。経営状況が良好な場合と比べると買収価格は基本的に下がりますが、譲渡側企業にとっては一定の資金を得た上で事業を存続できることが大きなメリットと言えます。

譲受側企業にとっても新規建設や許認可に係るコストや労力を大幅に短縮できるほか、譲受したホテル・旅館の利用客を引き継げるのでオープン直後から一定の収入が見込めます。

常に高い品質の仕事が求められる宿泊事業の特性上、従業員の育成には時間が掛かります。近年は宿泊施設への需要増加に伴ってどの宿泊業者も人材不足であり、事業譲渡によってスキルを身に付けた従業員を引き継げるのは、譲受側企業からすると新規雇用および育成に要する時間とコストを省けるメリットが得られます。譲渡側企業にとっても、雇用してきた従業員へ引き続き同業種の仕事を提供できるので、再雇用先に関する懸念も不要となります。

 

・個人保証の解除

中小企業の経営者は負債がある状態で個人保証や担保があるケースが多いですが、事業譲渡によって負債を含めた事業資産を全て譲渡することによって、個人保証を解除できる場合があります
ただし、個人保証や担保提供の解除は自動的には出来ず、M&A成立後に借入先である金融機関へ個別に交渉を行う必要があります。
M&Aによって経営権を移行する場合は基本的に解除可能ですが、必要な手続きや例外規定が複雑なので、M&A専門業者へ別途相談するとより確実です。

 

・経営力の強化

ホテル・旅館をM&Aで売却した場合は大手事業者が譲渡先となるケースが多く、資金供給によって経営を立て直すことができます

宿泊業界に新規参入する業者は、国外や他業種で高度な経営スキルを培っていることが多く、買収後も事業拡大に向けて積極的に投資を行う傾向にあります。譲受側企業の属する業界向けに特化した事業体系を構築しやすいですが、基本となる旅館事業に関するノウハウは譲渡側企業に依存します。強化したい分野が明確である場合、他業種や国外事業者への売却は有用な手段であると言えます。

同じ宿泊業者の大手チェーンへ譲渡した場合は金銭的なメリットに加え、事業ノウハウとブランドイメージを共有できるので集客力の向上が見込めます。後を引き継ぐ人物の経営スキルも信頼しやすく、会社の立て直しや成長性の維持を目的としているときは大手宿泊業者への売却は有効な手段です。

 

ホテル・旅館を事業譲渡する際のチェック項目


ここ数年におけるホテル・旅館のM&A実施件数は増加傾向にあり、交渉成立のみを目的とする場合は比較的容易に達成できる環境が整っています。しかし、売却条件にこだわる場合はM&A専門業者に相談した上で慎重に手続きを進める必要があります。ここでは事業譲渡を実施する前にチェックしておくと良い項目を紹介します。

 

・譲渡の目的

ホテル・旅館の事業譲渡を実施する場合、何を目的として売却を実施するのかを明確にしておく必要があります。

後継者問題の解消を目的とする場合は、譲渡する事業の範囲や資産・債務の内訳、会社の財務状況、希望売却額など基本的な情報を手早く揃え、早さと正確性を重視して手続きを進めることが要求されます。ホテル・旅館の譲渡は従業員や事業施設によって評価額が高額になりやすいので、譲渡を検討する段階から役員報酬の見直しや税制の適用によって評価額を適正化する取り組みを進めておく必要があります。

その上で売却益を債務が上回る場合は、コスト削減や宣伝活動の強化など中長期的な経営改善プランを作成し、債務を引き継いでも将来的に回収できる根拠を揃えておくことが重要になります。譲受側企業にとっては不利な条件を提示することになるので、売却交渉の時点で赤字幅や債務を最小化しておく取り組みは必須と言えます。
経営努力は多くの場合財務諸表に数値として出るものであり、事業展開に関する工夫は遅くともデューデリジェンスの過程で把握されます。M&Aによる事業譲渡は他社の経営者が交渉相手となるので、経営プランの具体性については特に注意を払っておく必要があります。

経営の立て直しやアーリーリタイアを目的とする場合は、売却益を高めることに時間と労力を割くことになります。建物の管理状況や立地条件の良さ、技量の高い従業員を多く雇用・育成しておくなど、譲受側企業にとって需要の高い要素を出来るだけ多く揃える必要があります。
効果が表れるまでに数年かかるものも多く、拠点を新規建設する場合は莫大な投資金額を極力早く回収できるように取り組む必要があります。

その上で経営者の人脈や周辺の同業他社、M&A専門業者のWebサイトなどからホテル・旅館の買収希望案件をピックアップし、出来るだけ需要と供給が一致していそうな譲渡先を探し出す必要があります。

 

・譲渡先

ホテル・旅館の買収先となるのは国内の大手宿泊業者であるパターンが多いですが、訪日外国人の増加によって宿泊業界の事業規模が拡大している現在は、他業種からの新規参入や海外投資家などによる国内進出も増加しています。

国内の大手事業者は事業拠点の確保による即時的な利益以外にも中長期的な利益も重視していることが多く、譲受時点で経営難となっている地方のホテル・旅館でも積極的に買収し、事業ノウハウと資金を投下して再建することで事業規模の拡大とブランドイメージの強化を図る企業も増加傾向にあります。

他業種による新規参入は、宿泊業界の安定性に注目し、経営リスクを分散させることが主な目的であることが多いです。ただし旅館業の運営には許認可が必要であり、旅館業を運営していない会社へホテル・旅館を譲渡する場合は別途申請を行う、もしくは会社分割による承継方式をとる必要があります。いずれの場合も複雑な手続きを必要とするので、必要に応じてM&A専門業者へ相談するとともに、相手企業が引継ぎに関するシステムを把握しているかは基本合意書を作成する前に確認しておくことをおすすめします。

海外投資家は中国人が主体であり、東京五輪の開催が決定した2013年頃から積極的に国内市場へ参入しています。訪日外国人の増加によって市場が活性化していることに加え、日本では外国人が不動産を取得することに関して規制が無いことなども要因となり、海外投資家の資産運用先として日本のホテル・旅館が注目されています。日本の老舗旅館を中国企業が経営再建した事例もあり、対日外国人向けに特化した事業プランの提供を受けられるメリットは大きいと言えます。

 

・事業価値

事業価値とは、事業活動に用いる有形または無形の資産によって得られる価値を数値化したものです。事業価値に非営業資産を加算した数値が企業価値であり、事業譲渡の過程では企業価値を基に取得価額が決定されます。

宿泊業はホテル・旅館といった不動産の保有が前提となっている事業であり、事業価値の大半を固定資産が占めることも多いです。不動産の事業価値を算定する際には築年数、設備の劣化度合い、立地などが主なポイントになります。

新しい建造物は基本的に状態が良く、引き継いでから間を置かずに営業を再開しやすいぶん価値が高くなります。古い建造物である場合は現在の建築基準を満たしていないことが点検時に発覚するケースもあり、その場合は基準をクリアするための工事が必要になります。

都心部はホテル・旅館の需要が高く、常に一定以上の集客が見込めることから、事業の安定性が高く評価されやすい傾向にあります。郊外エリアでも、近くに人気の高い観光地や、利用客の多い駅がある場合は、中小規模のホテル・旅館でも相場より高い価格で売却できる可能性があります。ただし、周辺に同業他社がどれだけ展開しているか、何をきっかけに利用客が増減しているかは入念に分析しておく必要があります。

 

・譲渡タイミング

事業譲渡は業界内の景気が好調であるタイミングで実施するのがベストであり、その点ではホテル・旅館の事業譲渡を実施するのは現在が最も良いタイミングと言えます。

ここ数年におけるホテル・旅館の事業規模は拡大しており、今後も2020年の東京五輪や2025年の大阪万博を指標として宿泊施設への需要増加は続く見通しであることから、大手企業による買収事例は今後とも増加していくと予想されています。

M&Aが活発ということは、好条件の買収案件が成立していく速度が上がるということでもあります。特にホテル・旅館の売却案件は大半が中小規模であり、経営状況や設備面などの条件が類似しやすいので、準備や譲渡先の選別に時間を掛けすぎると他の企業に先を越されるリスクが増大してきます。短期間で最適な譲渡プランを策定するにはM&Aに対する慣れが不可欠なので、迷った場合はM&A専門業者へ相談することも視野に入れておくことを推奨します。

 

まとめ

日本国内の宿泊産業は2012年以降から成長を続けていますが、経営難や後継者問題によって閉鎖する中小事業者が多い業種でもあります。事業譲渡の成立までには複雑な手続きが必要ですが、財務状況や保有している資産などを正確に把握し、明確な目的を持って取り組むことで成約率を大きく向上させることができます。
ホテル・旅館のM&Aが活発な状況は今後数年続くと思われますが、事業譲渡を迷っている場合はM&A専門業者へ相談する事を推奨します。

ホテル・旅館の事業譲渡を検討する際のチェック項目
ここ数年、ホテル・旅館への需要は都市圏を中心に急増しています。事業拠点の確保を目的として大手宿泊業者が積極的にM&Aを実施しており、取得額も1000万円単位から10億円以上までさまざまです。
本稿ではホテル・旅館の事業譲渡に関する基本的なプロセスや実施するメリットを紹介した後、実際に検討する際のチェック項目について解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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