2019年4月9日 火曜日

ホテル・旅館の事業承継でお困りではないですか?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

訪日外国人旅行者の増加についてはニュースでも高い頻度で取り上げられています。2010年の訪日外国人旅行者は861万人、東日本大震災の影響による減少を経て、その後は急激な伸びに転じ、2018年には3,119万人に達しました(「訪日外客統計」日本政府観光局)。政府は2020年には4,000万人、2030年には6,000万人の訪日外国人旅行者数を目標に据え、各種の政策を実施しています。2020年には東京オリンピック、2025年には大阪万博の開催を控えており、今後も訪日外国人旅行者数は増加していくものと考えられます。

ホテル・旅館業は、バブル崩壊以来長期的に縮小を続けてきましたが、ここにきて外国人客の増加を牽引役としてホテル業は拡大、旅館業は横ばいへと転じています。2018年の旅館の客室稼働率は39.0%と伸び悩んでいますが、シティホテルは79.9%、ビジネスホテルは75.3%、リゾートホテルは58.3%と高い水準で推移しています(「宿泊旅行統計調査」観光庁)。

業界全体としては好調ですが、個人経営のホテル・旅館には、経営者の高齢化、後継者難の問題を抱えている施設も目立ちます。

ホテル・旅館の事業承継について、抑えておくべきポイントについて見ていきます。

 

ホテル・旅館を事業承継しよう


日本の少子高齢化が問題になってから時間が経ちますが、経営者にも高齢化の波は押し寄せています。経営者の平均年齢は年々上がり続け、2018年の経営者平均年齢は59.7歳と過去最高となりました。経営者の平均引退年齢は企業規模にもよりますが、67歳から70歳前後と推察されます。このことから今後多くの経営者が引退年齢を迎えると考えられ、事業承継をいかにスムーズに行うかが経営上の大きな課題になっています。

事業承継で最初の選択肢となるのは子供をはじめとする親族への承継です。親族内での承継は一般的には最もスムーズな承継で、経営者にとっても安心できる選択肢です。経営者の生前に計画的に承継をすすめることで財産権の譲渡に相続の仕組みを利用できることもあり、資金負担的にも有利であると言えます。また、社内外にも最も受け入れられやすいというメリットもあります。

デメリットとしては相続対象となる候補者が複数いる場合、会社の財産権の分散により経営の不安定化を招くリスクがあることが挙げられます。また、後継者の能力が不足気味である場合に、古参の従業員のコントロールが難しくなるという問題がある場合もあります。親族を後継者とする場合は、社外での経験、社内各部署でのローテーション、責任ある地位の経験などを通じて、計画的で十分な後継者教育の期間が必要です。

親族内での承継は減少を続けています。やや古い調査ですが、中小企業庁委託「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」(2012年11月)では、中規模事業者においては20年以上前は9割以上が親族内への承継であったのに対し、近年では全体の半分程度にまで減少しています。親族内承継減少の背景には「少子化の進行で子供がいない」「親の事業は子が継ぐものといった価値観の後退による子の承継意欲の減退」「親族の減少と経営環境の激化により、後継能力のある候補者の不足」といったことがあげられます。

では、親族内での承継が難しい場合、他にどのような選択肢が考えられるでしょうか。

 

後継者がいない、そんなときは


親族内から後継者を選定することができない場合は、外部に後継者を求めるなどの選択肢を検討する必要があります。

 

従業員による事業承継

親族から後継者が見つからない場合、役員や従業員を後継者とすることが考えられます。従業員への事業承継では、後継者は事業に精通しているため、多くの場合、事業の実務面についてはスムーズな承継が可能です。また、親族内承継についで、社内外からも比較的受け入れられやすい承継の形であると言えます。

ただ、従業員への事業承継では注意すべき点も多く見られます。相続対象者を中心とする親族の合意が十分に取れていない場合、もともと継ぐ意思のなかった親族が急に継ぐと言い出すなどで横やりが入る場合があります。また、後継対象外となった社員の反発があることもあります。この点については、親族内、従業員、どちらが後継者であるほうがトラブルが少ないかはケースバイケースですが、いずれにせよ社内の十分な合意がないと経営の不安定化にもつながりかねないため注意が必要です。

また、従業員への事業承継で最も問題になることが多いのが、後継者候補の資金力です。後継者は会社の財産権を承継するために、会社の株式を譲受する必要があります。この株価は原則として任意に設定することができますが、税制上の評価額とかけ離れた額の譲渡は贈与とみなされ、贈与税がかかります。会社の借入金を経営者が連帯保証している場合は、連帯保証人を後継者に変更するか、借り換える必要があり、後継者に信用力が必要になります。経営状態のよい会社では株式譲渡に伴う負担が大きく、経営状態の思わしくない会社では借入金が大きくなりがちで、いずれにせよ後継者の用意できる資金が事業承継のポイントです。

 

第三者による事業承継(M&A)

企業の後継者不足が深刻化するとともに増えているのがM&Aによる事業承継です。

M&AはMergers & Acquisitions(合併と買収)の略ですが、その中身と比較すると一般のイメージはあまり良いものではないかもしれません。乗っ取りや身売りといったイメージは報道で大きく取り上げられることの多い「敵対的買収」によるものと思われます。敵対的買収では買収対象となる企業の経営者、役員と買収側企業が対立し、食うか食われるかといったイメージが持たれることもあります。

しかし、多くのM&Aは譲渡側と譲受側の同意に基づいた穏やかなものです。特に株式が非公開である中小規模の事業者では敵対的買収は発生しません。また、中小事業者では従業員も企業価値を構成する重要な要素であることがほとんどであるため、買収に伴う従業員の解雇が行われることも多くはありません。後継者が見つからない場合の事業承継の手段としてM&Aを利用するケースは増え続けています。

 

廃業

後継者が見つからず、売却先が見つからないなどM&Aによる事業承継も困難である場合、廃業を検討することになります。

事業承継には十分な準備期間が必要ですが、廃業の場合は状況によっては早い段階での決断が必要なこともあります。資産が負債を十分に上回っている場合は良いのですが、経営状態が思わしくない場合、タイミングを逃すと倒産となり、周囲への影響が廃業と比べ物にならないほどに大きくなってしまうこともありえます。

廃業に伴う様々な手続きは開業より複雑であり、専門家の助けを借りるのが一般的です。

 

M&Aによる事業承継を選ぶメリット


事業承継の手段として増え続けているM&Aを選択した場合のメリットについてご紹介します。

 

事業の継続・発展

現在の経営体制での経営に限界を感じていても、M&Aによる事業承継を選択することで、事業の継続、あるいは発展につなげられることがあります。

買収側がM&Aを行う理由は様々ですが、多くの場合買収対象の企業とのシナジーを狙っての買収が行われます。仕入れを共通化してのコストダウン、間接部門の共通化、チェーンの地域補完、技術やノウハウの相互提供など、スケールメリットと言われるものが多くあります。現体制では経営に行き詰まっていても、スケールメリットを背景にする、あるいは事業再生に強みを持つ大手事業者の傘下に入ることで、大切に育ててきた事業を継続できる可能性があります。

 

雇用・取引先の継続

後継者難等の理由で廃業を選択した場合、従業員は解雇しなければなりません。宿泊サービス業の有効求人倍率は高い状態が続いていますが、再度の職探しは従業員にとっては重い負担です。現在のホテル・旅館で積み上げたノウハウにも失われる部分が少なくないでしょう。M&Aにより事業を継続することができれば、多くの雇用を継続することが可能です。

 

また、廃業の場合、仕入先等の取引先にも影響を及ぼしてしまいます。M&Aにより事業承継を行った場合は、取引先との取引継続が可能な場合も少なくありません。

 

創業者利益の確保

M&Aによる事業承継では、事業が継続されるということのほかに、売却に伴い収入を得ることができるという側面もあります。ここまで事業を育ててきた結果を創業者利益という形で手にできます。リタイア後の資金としても、他業種への進出の資金としても活用できます。

 

ホテル・旅館の事業承継のポイント


ホテル・旅館の事業承継を検討する場合のポイントについて見ていきます。

 

事業承継へ向けての準備

事業承継に当たって、まずは経営の現在の状況と課題の可視化を行います。経営上抱えている課題、同業他社に対する強み(展開しているホテル・旅館の数と展開エリア、設備や独自性、集客の工夫)といった事業面、経営者個人による債務の保証や事業に使用している経営者個人の土地など、会社との貸借関係などを明確化します。事業の可視化作業で後継者が引き継げるもの、解決する必要のあることを明確化します。

 

事業の可視化をおこなった後は、事業の磨き上げを行います。後継者、あるいはM&Aでの売却先にとって魅力的な状態になるように、経営改善を行います。貸借対照表や損益計算書をできるだけすっきりとした形に整えます。過剰な税金対策で本業の儲けがどの程度あるのか、といったことが覆い隠されてしまうことのないようにします。営体制が経営者個人に依存している場合は属人化している部分を廃して組織として動けるように改善します。

 

事業承継には事業の磨き上げに必要なコスト、事業に使用している経営者の個人資産の買い取り費用、財産権分散を防止するため相続対象者から株式を買い取る費用などのコストがかかります。現経営者が金融機関などから資金を調達しておく必要があります。

 

後継者の選定と育成

事業承継を検討する場合、後継者の選定が最初の難関です。中小企業の廃業理由の3割近くが後継者難によるものです。親族や従業員を後継者とする場合は、後継者候補が経営を引き継いでいくことができるのかどうか、人となりを見極めなければなりません。

 

経営者として最低限必要な財務面、法務面を理解する力、マネジメント力、精神力と経営に対する覚悟、実務能力等、経営者として求められる資質は多くあります。従業員の中から後継者を選定する場合、実務面の能力に優れた人物であればその面での教育期間は短くて済みますが、他の古参社員を引っ張っていけるリーダーシップに欠けるような場合、事業承継後の経営に問題が生じる場合があるので注意が必要です。

 

M&Aアドバイザーへの相談

外部に後継者を求める場合、すなわちM&Aによる事業承継を選択する場合は主にM&Aアドバイザーに相談したうえで売却先を選定することになります。経営者個人の心当たりをたどる形で、個人的に売却先を選定することも不可能ではありませんが、この方法は秘密が漏えいしやすいという欠点があります。売却意図の秘密が漏れた場合、売却先を見つけるのは極めて難しくなる上、現在のホテル・旅館の営業に悪影響を及ぼすこともあります。M&Aアドバイザーとの間では機密保持契約を結んで手続きを進めますので、比較的安心して売却先を選ぶことができます。

 

この後のM&Aプロセスの各段階でも専門家の助言が必要になる場面は少なくありません。売買交渉の際の価格のベースとなる事業価値の算定は会計士を中心とした専門家の知識の必要な非常に複雑な作業です。最終契約書の草案作成も専門家の助けが必須です。個別に依頼することも可能ではありますが、M&Aの実務を多く経験し、ワンストップで対応が可能なM&Aアドバイザーへ相談するのが多くの場合はスムーズにM&Aを進めることができます。

 

まとめ

事業承継には時間がかかることから、準備は早めに取りかかるに越したことはありません。訪日外国人旅行者増加を背景に経営環境が比較的良いと言える現在は、M&Aへの好機でもあります。事業承継の問題は先送りにせず、直近の問題として検討しておきましょう。

ホテル・旅館の事業承継でお困りではないですか?
訪日外国人旅行者の増加についてはニュースでも高い頻度で取り上げられています。2010年の訪日外国人旅行者は861万人、東日本大震災の影響による減少を経て、その後は急激な伸びに転じ、2018年には3,119万人に達しました(「訪日外客統計」日本政府観光局)。政府は2020年には4,000万人、2030年には6,000万人の訪日外国人旅行者数を目標に据え、各種の政策を実施しています。2020年には東京オリンピック、2025年には大阪万博の開催を控えており、今後も訪日外国人旅行者数は増加していくものと考えられます。

ホテル・旅館業は、バブル崩壊以来長期的に縮小を続けてきましたが、ここにきて外国人客の増加を牽引役としてホテル業は拡大、旅館業は横ばいへと転じています。2018年の旅館の客室稼働率は39.0%と伸び悩んでいますが、シティホテルは79.9%、ビジネスホテルは75.3%、リゾートホテルは58.3%と高い水準で推移しています(「宿泊旅行統計調査」観光庁)。

業界全体としては好調ですが、個人経営のホテル・旅館には、経営者の高齢化、後継者難の問題を抱えている施設も目立ちます。
ホテル・旅館の事業承継について、抑えておくべきポイントについて見ていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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