2019年4月28日 日曜日

ホテル・旅館の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

ホテル・旅館業界では、円高や東日本大震災の影響を受け、市場が減少傾向にありました。しかし近年では震災の復興が徐々に進むにつれて、市場の動きが活発になっています。また2020年の東京オリンピック開催を受け、外国人観光客の増加に伴い、ホテルや旅館の宿泊業の需要が高まっています。これらの需要を取り込むため、大手のホテル企業や他企業が個人経営や中小企業のホテルや旅館の事業売却を行う傾向があります。
ホテル・旅館側としても、激化する競争についていけない、インターネットを利用したwebマーケティングに対応できないなどの理由から、積極的に事業売却を行うホテル・旅館が多くなっています。

ここでは、今後も増加が見込まれるホテル・旅館の事業売却のポイントについて解説していきたいと思います。

 

ホテル・旅館の事業売却で次のステージへ


ホテル・旅館ではなぜ、事業売却が増えているのでしょうか。

 

・ホテル・旅館業界の現状

近年は外国人観光客の増加に伴い、ホテル・旅館業界の市場全体の売上は増加傾向にあります。ですが、新規ホテル・旅館の増加によって個々のホテル・旅館あたりの売上は減少する傾向にあります。激化する競争について行けず、経営が困難になるホテル・旅館も増加しており、倒産件数は年間100件以上と言われています。

また、これまでは旅行代理店を通しての宿泊予約が多かったことから、旅行代理店からの評価が重要視されていましたが、インターネット上のレビューサイトと宿泊予約サイトが登場したことで、webマーケティングにも力を入れる必要が出てきました。ですが、webマーケティングにはスキルとノウハウが必要でなかなか導入できないホテル・旅館も多いようです。

宿泊客を増やすために施設の修繕や設備改修に投資をしたくても資金の余裕がないホテル・旅館も多いと思います。他にも、ホテル・旅館の経営を引退したいが後継者がいない、廃業後の従業員の雇用を確保できない、廃業用の資金がないという場合もあるはずです。

このような問題で困っているホテル・旅館は事業売却することで問題を解決することができるかもしれません。

 

・ホテル・旅館業界の事業売却

現在では、経営が悪化するホテル・旅館の増加と、2020年の東京オリンピック・2025年の大阪万博開催に伴う外国人観光客よるインバウンドの増加を見込んで、国内外の不動産会社、投資ファンド、ホテルグループによるホテル・旅館業界への投資や買収が活発になっています。最近では2019年1月8日に東京都内の大型ホテルヒルトン東京お台場が624億円で売却されることが発表されました。

新しくホテル・旅館業界へ事業参入を考えている場合、一からホテルや旅館の経営を始めようとすると建築や従業員の育成などで莫大な費用と時間が必要になります。しかし、事業買収を行うことで、土地や施設、経験のある従業員と、ホテル・旅館経営のノウハウを短期間で手に入れることができます。
また、すでにホテル・旅館を経営している場合でも、事業拡大による知名度の向上、新規顧客の獲得などといったスケールメリットを得ることができます。

事業売却をする側としても、資金に余裕のある大手企業に子会社化されることで融資を受けられる点、後継者問題の解消、経営者の負債の解消と売却益が手に入るといったメリットがあります。

 

ホテル・旅館を事業売却する目的にはこんなものがあります


ホテル・旅館を事業売却する目的は、従業員の雇用の維持、後継者問題の解消、大手企業の子会社化、売却益の獲得、担保や個人保証の解消が挙げられます。

 

・従業員の雇用の維持

ホテル・旅館が廃業してしまうと、そこで働いていた大勢の従業員が解雇されることになります。大量の従業員の解雇は周辺の地域に大きな影響を及ぼします。しかし事業売却をおこない、ホテル・旅館の運営が継続されることで、従業員の雇用を維持し、買収側の企業でそのまま働く場合が多いです。

事業買収した企業にとっても、経験のある従業員はホテル・旅館での仕事について一から教育する必要がなく、即戦力として働いてもらえるため重宝します。

 

・後継者問題の解消

老舗のホテル・旅館では世襲制で経営者が決められていたケースが多いのですが、最近では経営者の血縁者がホテル・旅館を継ぎたがらないことも多く、後継者がいないというホテル・旅館も少なくありません。
経営者が高齢になる場合、早期引退を考えているが後継者がいない場合であっても、事業売却すれば買収した企業から新しい経営者を派遣してもらうことができるので後継者問題を気にする必要がなくなります。

 

・大手企業の子会社化

大手企業にホテル・旅館を事業売却し子会社化されると、大手企業から資金の融資を受けることができ、経営基盤の強化や老朽化した設備の改修をすることができます。また、自社には無い、大手企業が保有している技術やノウハウを取り入れることで新しいサービスを始める、経営を効率化するなどの相乗効果も期待できます。

さらに、大手企業は顧客を数多く抱えているので集客力の上昇も見込めます。
大手投資ファンドによる経営破綻した地方のホテルや旅館の再生も多く行われています。

 

・売却益の獲得

ホテル・旅館を事業売却すると売却益を獲得することができます。

何らかの理由でホテル・旅館の経営を引退し廃業させる場合、廃業手続き用の資金が必要になります。ですが、ホテルや旅館を事業売却した場合には廃業用の資金は必要なく、逆にホテル・旅館の値段分の利益を得ることができます。

事業売却の相場は、ホテルや旅館の立地条件や温泉施設や宴会場、客室数などの設備の充実具合によって変化しますが、一般的には中小規模の場合数千万円から数億円、大きな施設であれば数十億円で取引されています。

 

・担保や個人保証の解消

中小規模のホテル・旅館の場合、経営者が担保や個人保証を抱えている場合があります。この場合、ホテル・旅館を事業売却すると経営者が抱えている負債も事業買収した企業に引き継がれることになるため、担保や個人保証を解消することができ前述の売却益と合わせ利益を得ることができます。

 

このようにホテル・旅館を事業売却する目的は多岐に渡ります。
事業買収する側の企業も、施設や土地、即戦力となる従業員の確保、企業の事業拡大、ホテル・旅館業界への参入、新規顧客の獲得、許認可の継続、ノウハウの獲得といった利益を得ることができます。

 

ホテル・旅館の事業売却を行う上での注意点

事業売却を行う場合は、買収予定の企業から客室数、立地条件、不動産設備、収益率、コスト管理、集客の工夫といったホテル・旅館の営業状態の開示を求められます。情報が不十分な場合や不明瞭な内容が多い場合には交渉をまとめるのが難しくなってしまいます。
確実に事業売却の交渉を成功させたいのであればこれらの情報を事前にまとめておきましょう。

 

・客室数

客室数は事業売却の際に一番に確認される要素になります。
ホテル・旅館の売上は客室数に依存します。客室数を増やすことは簡単ではないので、客室数が多いホテル・旅館ほど事業売却の際に買い手も増加するでしょう。一定以上の客室数のホテル・旅館を買収の条件にしている企業も多くあります。これから外国人観光客の増加が見込まれる都市部ほど客室数が多いホテル・旅館の需要が高まっています。

 

・立地条件

観光名所や繁華街に近い、駅や空港といったターミナル施設からのアクセスが良い立地であれば、大きな収益が望めるため人気があります。
逆に、近くに観光名所がなくアクセスも悪いホテル・旅館や、周辺にライバルとなるホテル・旅館が多く宿泊客を取られてしまっている場合、大きな収益が見込めないためあまり人気はありません。
また、人気のあるリゾート地では、すでにホテル・旅館が多数あり希望通りの土地にホテル・旅館を建設することができないことが多いため、人気の高い土地に建っているホテル・旅館は事業売却に有利になります。

 

・不動産設備

ホテル・旅館の設備が古い場合や、内装やデザインのコンセプトが買収側の企業に合わない場合は、買収後に改築する必要があります。事業買収する企業もできる限りコストはかけたくないと考えるので、綺麗な内装やデザイン性の高いホテル・旅館は買収側には大きなポイントになります。
またホテル・旅館の不動産価値が高いと判断された場合には相場以上の値段で取引されます。

 

・収益率

ホテル・旅館を事業買収した企業は、買収後そのホテル・旅館の経営を続ける場合がほとんどです。そのため、収益率は買収後のホテル・旅館経営に大きく関わります。
収益率が悪いと長期的に経営を続けるのが困難になるため、買収側の企業が気にする点になっています。webマーケティングやサービスの改善など、経営改善に意欲的であることも重要になります。

 

・コスト管理

ホテルや旅館を運営するには、従業員の人件費や設備維持の費用といった固定費が多くかかります。更に、設備に投資した資金の回収に時間がかかることもあり、コスト管理が不十分なホテル・旅館は事業売買で敬遠されがちです。
また、中小規模のホテル・旅館では借入金があることが多く、借入額がどの程度であるか確認されます。

 

・集客の工夫

ホテル・旅館の近くに観光地があるか、交通の便が良いかといった立地条件や、集客を仲介業者に頼っているか、自社で独自の販売網を築いているか、webマーケティングに投資を行なっているか、新規の集客が見込める個性的なサービスや満足度の高いサービスがあるか、宣伝力があるかといった集客力についても重要になります。

 

また、事業売却の交渉をする際には事業売却の目的を明確にしておくことも大切です。

目的を明確にしておくことで、買収側との交渉の際に、どこに力を入れればいいのかが分かります。ホテル・旅館を売却して資金の調達をしたいと考えているなら、売却金額にこだわって交渉すべきですし、子会社として融資を受けたい場合には、経営改善に意欲的であることを示す必要があります。後継者問題を解決し事業を承継してもらいたい場合には、売却金額にあまり拘らず、円滑に交渉を進められるようにすべきです。

 

他にも、事業売却を検討しているという情報の漏洩は絶対に避けるべきです。

この情報がホテル・旅館の従業員に伝わると、従業員が経営状況などの悪化を考え、人材流出の可能性もあります。ホテルの従業員は買収側の企業にとっても貴重な人材なので、従業員が辞めてしまうと事業売却の条件が悪くなり取引が成立する可能性が下がってしまいます。そのため、事業売却を検討していることを伝えるのは最低限の関係者のみにして、誰に何を伝えたのか記録しておくのが良いでしょう。

また、ある事業売却の案件が何度も同じ買い手側の企業や仲介業者に持ち込まれると、その案件は出回り案件として扱われるようになります。出回り案件となると、ワケありの案件だと捉えられ、なかなか買い手がつかなくなってしまいます。
これは、本来良い条件の事業売却であればすぐに買い手がつくはずなのに、出回っているということは何か欠陥があるのではと警戒されてしまうためです。
仲介業者側でも出回り案件は扱いたがらないため、事業売却が困難になります。

情報の漏洩を避けるためには、仲介業者に案件の横流しを禁止して一社専業で売却先企業を探してもらうか、仲介業者同士で連携してもらい、複数の仲介業者から同じ企業に案件が持ち込まれないようにする必要があります。また、事業売却のマッチングサイトにあまりにもわかりやすい形で掲載してしまうのも危険です。

買収側の企業から情報が漏洩することにも注意すべきなので、事業売却の際には仲介業者を通して買収側の企業と秘密保持契約を結ぶようにしましょう

 

まとめ

年々増加する外国人観光客によるインバウンドと、ホテル・旅館需要の影響により多くの企業がホテル・旅館の事業買収に意欲的になっています。
ホテル・旅館業界内の競争が激化することで、今までの経営では運営するのが難しいと考える場合には、事業売却を行い新しい経営方法や技術を取り入れるのも有効な手段であると言えるでしょう。

事業売却にあまり良いイメージを持っていなかった経営者の方も、事業売却を行う事で自社企業の発展を目指してみるのはいかがでしょうか?

ホテル・旅館の事業売却のポイントとは?
ホテル・旅館業界では、円高や東日本大震災の影響を受け、市場が減少傾向にありました。しかし近年では震災の復興が徐々に進むにつれて、市場の動きが活発になっています。また2020年の東京オリンピック開催を受け、外国人観光客の増加に伴い、ホテルや旅館の宿泊業の需要が高まっています。これらの需要を取り込むため、大手のホテル企業や他企業が個人経営や中小企業のホテルや旅館の事業売却を行う傾向があります。
ホテル・旅館側としても、激化する競争についていけない、インターネットを利用したwebマーケティングに対応できないなどの理由から、積極的に事業売却を行うホテル・旅館が多くなっています。
ここでは、今後も増加が見込まれるホテル・旅館の事業売却のポイントについて解説していきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月28日
事業承継の事例から読み解く潮流《ホテル・旅館》
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