2019年1月24日 木曜日

病院・クリニックのM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

近年、多くの病院・クリニックで、消費税増税・診療報酬改定の影響を受けてキャッシュフローの悪化が起きています。さらに、建て替えによる投資コストの増大が重なり、経営が逼迫されています。これを機に、大手は広域展開・規模拡大を図っています。しかし、医療法人のM&Aには様々な規制があるため、選択肢が限定されます。これによって、再編が難しい状況にあります。
現在、大手プレイヤー(公認会計士・税理士・弁護士・経営コンサルタント・フィナンシャルアドバイザー)の病院・クリニックのM&Aのマーケット占有率はやや低い状態にあります。しかし、今後の業界再編の可能性は高いとされています。
行政も地域的な業界再編を進めています。例えば制度の緩和・創設があげられます。目標として、複数の医療法人等に関する統一的な連携推進方針を決定することによって、横の連携を強化し、協調を進め、「地域で良質かつ適切な医療が効率的に提供される体制の確保」を掲げています。

 

病院・クリニックのM&A


ここでは、医療法人の類型の解説と、病院・クリニックのM&Aの手法や注意点についてご紹介します。

・医療法人の類型
医療を提供する施設の分類は、「病院」と「クリニック」があります。
病院は、20人以上の患者を入院させるための施設を有します。一方、診療所は、患者を入院させるための施設を有していないか、19人以下の患者を入院させるための施設を有するものとされています。医療法人であることと、病院・クリニックの区別は関係ありません。
開設主体は、個人・国・地方自治体・社会福祉法人・厚生連・学校・日本赤十字社・企業等、幅広いことが特徴です。

・医療法人が活用することが多いM&A手法
医療法人のM&A手法は、合併・出資持分譲渡(社員、理事の入退社、交代含む)と、事業譲渡だけです。株式会社における会社分割や株式交換・移転のような組織再編手法はありません。
医療法人のうち、最も多く採用されているM&A手法は、「出資持分譲渡」です。
合併や事業譲渡は行政の許可が求められ、手続き期間が比較的長い傾向にあります。一方、「出資持分譲渡」は、理事長含む役員等の変更届出および理事長の変更登記を行えば完了します。よって、手続き期間が比較的短い「出資持分譲渡」が選ばれることが多いです。

・出資持分とは
出資持分とは、出資者が医療法人を設立したときの出資分のことをいいます。
社団型の医療法人には、「出資持分の定めがある」医療法人と「出資持分の定めがない」医療法人があります。「出資持分の定めがある」社団医療法人の場合は、出資者が退社、あるいは医療法人が解散する際に、その出資持分に応じて払い戻しや分配を受けられます。
一方、「持分の定めがない」社団医療法人は、出資持分はなく、解散時の残余財産は、国または地方公共団体、他の医療法人に帰属します。

・医療法人の現在
現在、「出資持分の定めがある」医療法人が80%以上とされています(2014年3月末時点)。2012年施行の医療法改定により、この「出資持分の定めがある」医療法人の新規開設はできなくなりました。既存の「出資持分の定めがある」医療法人は、当分の間存続する旨の経過措置がとられています。そのため、「経過措置型医療法人」とも呼ばれます。しかし、「出資持分の定めがある」医療法人のままだと、納税負担が重くなってしまいます。

・病院・クリニックがM&Aを活用する際の注意点
病院・クリニックのM&Aの特徴は、「契約金が一般企業のM&Aと異なる」点と「クロージングに至るまでの期間が長い」点の2点があげられます。
病院等がM&Aを行う際に、「社員への出資金の払い戻し」がある場合は、契約金以外に資金を用意しなければなりません。また、病院等がM&Aを行う場合は、事前準備からクロージングまで、1年以上かかるとされています。そのため、経済面と時間面に余裕を持ってM&Aを行う必要があります。

 

病院・クリニックのM&Aを行う理由は?


病院・クリニックがM&Aを行う理由は様々です。経営者によって、存続したい場合もあれば、手放してしまいたい場合もあります。いずれにせよ、M&Aを活用することによって、現在抱えている問題を解決することができます。信頼のおける買い手を見つけて、今まで病院・クリニックを支えてくれた医師・看護師・取引先・患者に誠意を持って対応しましょう。
ここでは、M&Aを行うきっかけとなる理由を5点ご紹介します。

①医師の確保
医師の確保は、病院を存続するための絶対条件です。病院の経営が成功していたとしても、医師の確保ができなければ経営の存続は不可能です。
原因として、医療法人の理事長は医師であることが原則として定められている点があげられます。また、院長は必ず医師でなければなりません(自治体によって、医師以外でも許可が下りるところもあり)。医師ではない事務長が医療法人の経営を担う場合は、医師の確保が死活問題となります。しかし、M&Aを活用することによって、他社の協力を得られます。よって、医師の確保が可能となります。

②業績不振
患者数の減少を理由に、資金繰りが悪化する病院は少なくありません。地方で経営している場合は、人口の過疎化によって業績不振が起こります。また、近所に最先端医療の設備が整った大きな病院が開業されることによって、患者をとられてしまうこともあります。
赤字経営によって新たな設備投資ができなくなり、適切な医療を施せなくなってしまうことも、M&Aを決意する大きな要因となります。
M&Aを活用すれば、病院の経営を立て直す、あるいは手放すかを選択することができます。

③経営の選択と集中
経営している複数の病院のうち、一部を売却することによって、力を入れたい分野に集中することができます。また、売却したことによって得たお金で、新たな設備投資をすることができます。
閉院する場合は、建物や医療機器の処分費用、職員への退職金の支払いや法的手続き費用などの多額なコストがかかります。中には1000万円以上になるケースもあります。しかし、M&Aを活用し、譲渡を選ぶことによって、経済的な問題を解決することができます。

④後継者問題
経営者は、本来なら早い段階で後継者の育成・選定を進めておかなければなりません。医師が経営者である場合は、診療以外の仕事にも追われ、対応が遅くなる傾向があります。
しかし、近年は高齢化問題や医療提供体制の変化があるため、早急に後継者問題を解決しなければなりません。
医師の子供が医師になることはよくありますが、専門性の違いが原因となって、病院を継がないこともあります。そのため、M&Aを活用して信頼のおける後継者を探すケースが多くあります。

⑤アーリーリタイア
アーリーリタイアで早期退職後に新事業を行う人や、趣味に時間を費やしたい人がいます。しかし、どちらにせよ、アーリーリタイアをするためには、お金が必要です。
50歳でアーリーリタイアをするとなると、独身の人は5000万円、家族がいる人は1億円の貯蓄が必要です。
病院を経営している場合は、M&Aを活用することによって、アーリーリタイア後の資金を得ることができます。

 

病院・クリニックのM&Aを行うタイミングは?


M&Aは、必ずこの時期に行った方がいいという決まりはありません。しかし、できるだけ早めに準備すること・経営者が健康なうちに行うこと・収益が安定しているときに行うこと、等は気をつけなければなりません。M&Aは、買い手がついて、初めて成立します。できるだけ条件がよく、強みをアピールできる状態で取引きを行いましょう。また、M&Aの成立までにかかる時間は、病院・クリニックによるため、長く見積もり、念入りに準備することをおすすめします。

・M&Aは早めに準備する
M&Aを行うなら、できるだけ早い段階で準備を進めることが重要です。M&Aが成立するまでに、年単位の時間がかかることもあるからです
M&Aの商談の中で、買い手は売り手に対し、事業の調査(デューデリジェンス)を行います。その過程で、財務状況や組織体制が分かる資料や役所に提出している届出書類等、様々な書類の開示が必要です。事業に関する説明を投げかけられることもあります。
また、売り手の医師は、商談中も日々診療をしているため、買い手の依頼事項についてタイムリーに対応できない場合もあります。依頼した資料の開示・質問の回答が滞ると、商談がうまく進みません。

・収益が安定している
一定の収益があるうちに売却をしないと、買い手がつきにくい現状があります。
現在は、どのようなビジネスも長期繁栄・長期安定が難しい時代です。業績悪化が顕著な場合は、希望通りの条件を得ることができない可能性があります。
また、最終的に買い手がつかなければ、閉院せざるを得なくなります。売却を検討しているなら、廃業による巨額の経済損失を避けるためにも、一定の収益性や強みがあるうちにM&Aの交渉をスタートさせましょう。

 

病院・クリニックのM&Aを実施するのは誰か?


病院・クリニックのM&Aでは、医療法人が合併の買取り候補として認められています。しかし、医療法人のみが病院等の買収が認められているわけではありません。個人・公益法人・学校法人・社会福祉法人等も、病院等を買収することができます。
買収する際は、都道府県知事の許可を得なくてはなりません。また、株式会社においては、病院経営に参画することは許されていません。よって、株式会社は、病院買収の候補にはなりません。

 

病院・クリニックのM&Aの相談先は?

M&Aの相談をする際は、慎重に進めなければなりません。従業員や取引先にM&Aを検討していることがわかってしまうと、混乱が生じるからです。信用のおける相談機関を選ぶことが大前提です。
それだけではなく、看護師やまだ知られてはいけない人がいるような不適切な場所でM&Aの話題を出さないようにしましょう。院内で情報漏洩するケースは、意外と多いです。
M&Aの情報管理には、責任を持ちましょう。ここでは、相談するのに適切な専門機関と、専門機関に相談するメリットについてご紹介します。

・M&A仲介会社
M&A仲介会社にM&Aの依頼をすると、売り手と買い手の間に入ってくれます。特に中小企業では、仲介会社がM&Aアドバイザリーとして登用されます。
仲介会社は、売り手と買い手双方の利益を最大限に高めるために動きます。仲介業者の多くは、マッチングのみならず、クロージングまでの業務を一括で行います。多くのM&A仲介会社は、実質的にアドバイザリーの役割も果たします。病院・クリニックのM&Aの相談も無料で承っています。病院・クリニックのM&Aを仲介した実績がある所だと、より多くの情報を提供してくれます。

・FA(フィナンシャルアドバイザー)
FAは、M&Aのアドバイスを行う専門家です。FAは、仲介会社と異なり、売り手と買い手のどちらかに付き、M&Aの業務を行います。FAは、自身が付いた会社の利益を最大限に高めることに尽力します。基本的にFAは、上場企業同士やクロスボーダー(複数国の間で行われる取引)のM&Aで起用されます。以前は、M&Aアドバイザリーというと、FAを指していました。しかし、近年、中小企業がM&Aを活用するケースが増加傾向にあります。よって、M&Aアドバイザリーというと、仲介業者を指すことが定着しました。

・M&Aアドバイザリーに相談するメリット
「本業に集中できる」
M&Aを完了するまでにかかる期間は、数か月から1年以上といわれています。それに加えて、診察や会議等の普段通りの業務も行わなければなりません。専門機関を利用せずに実行するとなると、時間も労力も必要となってきます。本腰を入れて取り組めば、本業が疎かになる可能性が非常に高いです。
しかし、M&Aアドバイザリーを利用すれば、M&Aの実務を全て任せ、本業のみに集中することができます。

「売却先を見つけやすい」
専門の相談機関を利用せずに買い手を見つけることは非常に困難です。知り合いや初対面の経営者に、その都度自院の買収を依頼するのは非効率です。M&A仲介業者に依頼すれば、条件に合った買い手を探し、マッチングの協力をしてくれます。M&Aアドバイザリーは全国的なネットワークを持っているため、自院を買い取ってくれる可能性の高い企業を迅速に見つけられます。さらに、M&Aアドバイザリーは買い手が見つかった後のサポートも請け負うため、M&Aの成功確率が上がります。

 

まとめ

以前は、M&Aは「買収」という言葉からマイナスのイメージがありました。しかし、現在は、他社の協力を得て、理想の経営状態を目指すために、様々な業界でM&Aが普及しつつあります。病院・クリニックだけではなく、M&Aを実施する際は、念入りな下調べが必要です。M&A仲介会社のHPに記載されている、病院・クリニックのM&Aの成功事例を参考にすることもおすすめします。いい条件で取引きができるように、自院の強みや特徴をデータ化して、買い手にわかりやすく伝えられるようにしましょう。まずは、M&Aを行う目的を明確化し、専門機関に相談しましょう。

病院・クリニックのM&Aを実施する前に考えておきたいこと
近年、多くの病院・クリニックで、消費税増税・診療報酬改定の影響を受けてキャッシュフローの悪化が起きています。さらに、建て替えによる投資コストの増大が重なり、経営が逼迫されています。これを機に、大手は広域展開・規模拡大を図っています。しかし、医療法人のM&Aには様々な規制があるため、選択肢が限定されます。これによって、再編が難しい状況にあります。
現在、大手プレイヤー(公認会計士・税理士・弁護士・経営コンサルタント・フィナンシャルアドバイザー)の病院・クリニックのM&Aのマーケット占有率はやや低い状態にあります。しかし、今後の業界再編の可能性は高いとされています。
行政も地域的な業界再編を進めています。例えば制度の緩和・創設があげられます。目標として、複数の医療法人等に関する統一的な連携推進方針を決定することによって、横の連携を強化し、協調を進め、「地域で良質かつ適切な医療が効率的に提供される体制の確保」を掲げています。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月24日
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