2019年1月26日 土曜日

病院・クリニックの事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

昨今、日本では高齢化が進み、病院やクリニックの存在は非常に大きなものとなっています。しかし、患者の医療費負担が増加するという問題と共に、診療報酬の引き下げが実施されたことで、病院は従来のように診察を行えば収益が上がるということにはなっていません。そのため、病院やクリニックの競争は年々激しくなっているのです。

そんな中、病院は「赤字経営」「後継者不足」「人材不足」などの問題にも悩まされており、市場規模の拡大や収益向上、人材の確保などが課題となっています。それらの課題の解決策として、近年増加傾向にある経営手法がM&Aです

では、M&Aを今後考慮する場合、M&A実施後病院はどう変わっていくのでしょうか。
本記事では、病院やクリニックのM&Aにおける事業売却で叶えられる次のステージや、事業売却の目的などについてご紹介します。

 

病院・クリニックの事業売却で次のステージへ


病院の経営状態が悪かったり、人材が不足していたりと、病院の存続が危ぶまれる事態は起こり得ます。そのような事態が起きた場合に検討したいのが事業売却です。
しかし、事業売却を実施する上で、将来病院がどうなっていくのかなどを見極める必要があります。そこでまず、事業売却を実施する場合の売り手側のメリットを見ていきましょう。

・後継者問題の解決
病院の経営を継ぐことができる子どもや後継者がいない場合、事業売却を実施することで、買い手によって病院の経営が継続されます。これにより、子どもがいる場合は、子どもが自由に職を選べたり、医師であっても開業医や勤務医を目指したりなど、その子のライフプランを尊重することができるでしょう。

・スタッフの雇用を維持
病院が経営難に陥り運営が成り立たなくなってしまった結果、閉院してしまうとスタッフの雇用の問題が残ってしまいます。
しかし、事業売却の契約内容に従業員の雇用について盛り込むことで、一定期間従業員の雇用を維持することが可能です。

・医療へ集中・専念できる
医師であり経営者でもある場合、診療業務の他にも、資金繰りや労務管理など経営者として従事しなければならない業務は多く、医師としての業務が疎かになってしまう場合があります。
事業売却を実施することで、経営者としての業務の負担が削減し、より良い医療サービスを提供することに専念できます。

・創業者利益を獲得
事業売却を実施することで、売り手の創業者は事業を現金化することができます。特にハッピーリタイアを考えている創業者にとっては大きなメリットです。

・借入金の個人保証や担保を解消
病院を運営していく上で、病院の改修や改築などは、場合によっては必要経費となるでしょう。また、CTやMRI、電子カルテなどの設備投資には多額の費用がかかるため、金融機関からの借入金が必要となり、個人保証や担保が重くのしかかってしまいます。
しかし、事業売却を実施することで、これらの経営責任からも解放されます。

・有力なグループの傘下で安定的で効率的な経営ができる
事業売却によって大手企業や大手グループの傘下に入ることができた場合、経営資本を背景とした”規模の経済”のメリット受けることが出来るほか、社会的な信頼度の向上が期待できます。また、小規模な病院の経営に比べ、収益の安定や向上が見込めるでしょう。

 

続いて、上記のようなメリットを期待して事業売却を実施した病院は、実施後どのようなことが改善したのでしょうか。過去の事例から事業売却・実施前後の問題と解決を見ていきます。

過去の事例Aでは、企業の経営のもと運営していた病院がありましたが、赤字部門であった病院を売却するに至っています。その結果、改装工事が実施されただけでなく、売り手の病院と買い手の病院の異なる機能を生かし、地域の方々のニーズに応じた医療を提供できる体制を構築することができました。

続いての事例Bでは、設備投資などのコストや人材不足の問題で、病院の売却を実施が決定しました。売却したことで問題が解決した他、診療領域の拡大という結果に至っています。

このように、事業売却では、もともと解決したい問題があった上で実施した結果、問題解決に付随して、それ以外の恩恵も受けることができる場合が多いのです。事業売却は、ただ「病院を手放す」という見方ではなく、今の病院がより発展し、次のステージへ進むためのプロセスと考えると良いでしょう。

 

病院・クリニックを事業売却する目的にはこんなものがあります


ここまで、事業売却のメリットや考え方などをご紹介していきましたが、ここからは、過去にM&Aを実施した病院が、どのような目的をもって実施したのか事例と併せて見ていきましょう。

【事例①】某医療法人Aの目的
某医療法人Aは、30年にわたり精神病院を運営してきました。この病院の経営状況は好調でしたが、理事長が高齢になったため、後継者への引き継ぐを検討していました。
しかし、後継者候補の医師である息子や病院の勤務医とは方針の違いが生じており、承継に至らず、最終的にはM&Aを検討するに至っています。
この某医療法人AのM&Aの目的は、後継者問題を解決し、病院の経営を引き継いでもらうことでした。M&Aを実施したことで、買い手となる医療法人の若手理事長により、後継者問題が解決しただけではなく、事業拡大に繋がっています。

【事例②】某医療法人Bの目的
某医療法人Bは、病床数200以下の中小規模の病院で、稼働率の低さなどから長らく赤字経営が続いていました。それどころか、施設や設備も老朽化し、改修の必要性があったため廃院の危機に陥っていたのです。しかし、理事長は高齢となり、病院を立て直すほどの体力がなく、限界を感じていたためM&Aを決意しました。
この某医療法人BのM&Aの目的は、病院の存続と立て直しです。
M&Aの専門家に相談したところ、すぐに大手医療法人が買い取りを申し出てきたため、某医療法人Bが希望していた合併が成立しました。M&Aを実施したことにより某医療法人Bは、病院の存続と改修を実現することができ、地域の医療体制は継続されることになりました。

【事例③】某個人病院の目的
某個人病院は、事業規模は小さかったものの、地元の人に愛される病院で、経営は安定していました。しかし、院長は早期リタイアを検討しており、M&Aを実施するに至りました。
この某個人病院のM&Aの目的は、早期リタイアを希望し病院を売却することでした。
某個人病院の買い取りを希望したのは、独立を希望する大学病院の勤務医です。医師が独立するためには、全ての医療器具を揃えるために多額の資金が必要です。そのため、独立の希望があってもなかなか実現することができなかった医師は、M&Aにより既存の病院を買い取ることで低コストな独立を可能にしました。
結果、某個人病院は、年間の利益や医療設備などから換算して、契約資金約1,500万円で売却することができ、早期リタイアを叶えることができたと同時に、買い手の医師も独立を実現することができました。

【事例④】某クリニックの目的
某クリニックは、院長がまだ若く、経営も順調でした。しかし、後継者候補の息子はまだ幼く、将来的な従業員の雇用維持にも不安を抱えいました。ただ、地域に継続的な医療提供をするという責任があるため、最終的にM&Aを検討するに至りました。
この某クリニックのM&Aの目的は、クリニックの将来への不安を解消することです。
その後、以前から親交があり互いに信頼関係にあった某医療法人とのM&Aの交渉において仲介会社を交えています。買い手の某医療法人は、安定した財務基盤を築けており、売り手の某クリニックは、経済的なメリットを手に入れることで将来への不安が解消でき、更に診療に集中できる体制を作ることができました。

近年、医療法人や病院、クリニックでは、院長や理事長の高齢化による後継者問題だけでなく、早期リタイア、経営難、将来への不安など様々な問題を抱えています。それらの問題は各病院の特色により異なりますが、問題解決をM&Aの1つの目的として、売却価格を決めたり、売却条件を決めたり、売却先を選定したりすると良いでしょう。

 

病院・クリニックの事業売却を行う上での注意点


病院やクリニックの事業売却では多額の資金が動くことになる反面、思わぬトラブルが発生してしまう場合があります。そのため、事業売却開始からクローズまで情報漏えいなどの対策をとり、事業売却実施における大きな損失を回避しなくてはなりません。
そこで、ここからは事業売却を実施する上で、売り手が注意すべき点を見ていきましょう。

・時間軸が限られている
事業売却実施において問題として上がるのが時間軸についてです。特に、再生局面にある病院やクリニックでは、「金融機関との契約期日」「資金繰りのリミット」などが存在する場合が多いと言われています。期日までの限られた時間の中で、買い手の選定からクロージングまで進めるスピード感が重要となるため、交渉においての妥協点などを事前に明確にしておくと良いでしょう。

・目的を明確にする
これまで本記事では、事業売却の目的について記載してきましたが、目的を明確にした上で事業売却を実施する必要があります。
仮に、目的が明確でない状態で実施してしまい、ずさんな診療や経営をする医師に売却してしまったとします。その場合、それまでかかりつけだった患者さんに迷惑がかかるだけでなく、事業全体の存続が厳しくなり、手の打ちようがなくなってしまうでしょう。
そのため、事業売却を検討する段階で「なぜ事業売却を実施したいのか」「事業売却を実施して何を実現させたいのか」など目的を明確にしましょう。それに伴い、交渉時の”譲れない条件”を明確にしておくことです。

・適切な売却価格を設定する
「事業価値」とは、病院やクリニックの医療行為からもたらされる価値のことです。その病院が、将来どれだけの収益を見込めるかを見極めることができる要素となります。
また、「売却価格」は、事業価値の他にも病院の立地や、建物の状態、設備、周辺薬局、競争相手、ビルの何階にあるかなどが要素となり決定されます。

売却価格の相場は、主に以下の3つの方法で算出可能です。
『資産基準+営業権方式』
 … 純資産の価値に営業権の価値を加算

『買収事例比較方式』
 … 事業売却の事例を参考にし、譲渡価格を算出

『ディスカウント・キャッシュフロー方式』
 … 今後得られると考えられる利益を現在価格に直し、利益額を元に譲渡価格を算出

上記の算出方法で、病院の売却価格の相場を算出し、病院の状態や周辺情報などの要素を踏まえ、実際の売却価格を算出します。しかし、適切な売却価格を設定するには、病院の価値を客観的に見なければなりません。
その場合に役立つのが「専門アドバイザー」や「M&A仲介会社」です。M&Aの経験が豊富で、専門的知識で病院を客観的に見極め、長所・短所を踏まえ価値化してもらうことで、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。

・仲介会社の選定
さきほど「M&Aの専門アドバイザーや仲介会社に頼ると良い」と記載しましたが、その選定には注意が必要です。特に仲介会社や仲介業者の中には、病院のM&Aの経験がなかったり、そもそもM&Aの実績がなかったり、情報漏えいの危険があったりする業者がいます。そのため、信頼できる仲介会社を選定しなければなりません。そこで、仲介会社の選定の際の一般的な注意ポイントを見ていきましょう。
 *自己紹介の際、自慢話が多くないか
 *話に矛盾がないか
 *秘密保持契約の話を行なうか
 *口コミなどの評判が良いか、実績はあるか
 *売却価格を安易に保証しないか
 *病院や医療法人とのネットワークが広いか
 *相談に対して迅速に対応してくれるか
以上は一例になりますが、少しでも”おかしい”と感じた場合、その仲介業者に事業売却を依頼するのは中止しましょう。

・適切な買い手を選定する
買い手として望ましいのは、売り手の価値を超える価値を見出してくれる相手です。その様な買い手を選定するためには、買い手のメリットについて考えなければなりません
例えば、医療設備やエリアへの進出、患者の紹介、ドミナント戦略の実現などが挙げられます。また、売り手が資金的な制約から実施できない設備投資を、買い手の資金力で実現できることなど、売り手が本来持つ潜在的な価値を実現できる点も、買い手のメリットと言えるのです。

・秘密保持を徹底する
事業売却を行う場合、従業員あるいは仲介業者、取引先などから第三者に情報が漏れてしまうことが考えられます。適切な仲介会社を選定することで、仲介会社からの情報漏えいは防ぐことができます。しかし、従業員や出資者、患者などに事業売却の話が漏れてしまうと、良からぬ噂が広まってしまったり、各々の不安を仰いでしまったり、それに伴い従業員が辞めてしまったりなど、病院への信頼を失いかねません。そのため、事業売却の開始からクローズまでの一連の話を口外しないよう努めましょう

 

まとめ

今後、あらゆる問題の中、病院やクリニックのM&Aでの事業売却の件数は増加していくでしょう。
「売却」という言葉から、負のイメージを持たれていた方もいらっしゃるかと思います。しかし、事業売却は問題解決の一つのプロセスであり、病院の将来への希望です。事業売却を実施することで、売り手側の病院が存続できるだけでなく、買い手側がエリアを拡大できたり、低コストで独立ができたりと双方にメリットが生まれます。
もし、経営難などで閉院に追い込まれているような場合、諦める前に事業売却を検討してみてはいかがでしょうか?

 

病院・クリニックの事業売却のポイントとは?
昨今、日本では高齢化が進み、病院やクリニックの存在は非常に大きなものとなっています。しかし、患者の医療費負担が増加するという問題と共に、診療報酬の引き下げが実施されたことで、病院は従来のように診察を行えば収益が上がるということにはなっていません。そのため、病院やクリニックの競争は年々激しくなっているのです。
そんな中、病院は「赤字経営」「後継者不足」「人材不足」などの問題にも悩まされており、市場規模の拡大や収益向上、人材の確保などが課題となっています。それらの課題の解決策として、近年増加傾向にある経営手法がM&Aです。
では、M&Aを今後考慮する場合、M&A実施後病院はどう変わっていくのでしょうか。
本記事では、病院やクリニックのM&Aにおける事業売却で叶えられる次のステージや、事業売却の目的などについてご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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