2019年1月30日 水曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《病院・クリニック》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

現在「病院の跡継ぎがいない」「経営が苦しく自主再建が難しい」などでお困りの方はいらっしゃいますか?
経営が苦しいなどの場合は、経営再建に向けた努力をすることで改善の方向へ進むことも出来るかも知れませんが、跡継ぎの問題は病院の存続が危ぶまれる大きな問題です。思い入れのある病院だからこそ、代々続いていってほしいという願いもあるかと思います。
そんな方々に提案できるのが、第三者に業務を譲渡するM&Aです。本記事では、病院やクリニックでのM&Aの動きや、事例を併せてご紹介し、もしM&Aを行う場合に【押さえておきたいポイント】もご紹介します。

 

病院・クリニック業界におけるM&Aの動き


病院やクリニックが抱えている問題として多いのは「後継者問題」「医師の高齢化」「度重なる医療制度改革」「設備投資による借入金の増大」といったものです。
特に、後継者不足では、診療分野の専門化や細分化により、後継者候補である子供の専門が実家の病院とは異なっていたり、開業・勤務医を希望してたりするなどで、親の病院を継がない場合があるのが実態です。
事実、医療機関全体の70%を占める、200床未満の中小病院の多くが事業承継に頭を悩ませていることがわかっています。実情として、毎年多くの病院・クリニックが開業する一方で、開業数と同定数の病院が医師の高齢化や後継者不在の為に閉院してるという現象が起きているのです

そうした病院やクリニックが存続していくために、積極的にとられている方法がM&Aの事業継承です。事業承継を行なうことにより、病院の規模が大きくなったり、再建に成功したり、後継者問題の解決につながったりといった事例が多くあります。

 

病院が事業承継する方法

病院が事業の承継をする場合、一般的な方法として以下が挙げられます。

  1. 親族または、社員や役員へ承継
  2. 上場して株式を公開
  3. 病院やクリニックを廃棄して清算する
  4. 第三者へ譲渡する(M&A)

そもそも後継者不足で悩んでいる場合、1の承継は現実的ではありません。また2の場合、医療法人は上場不可能であることから、なかなか厳しい現実があります。3の廃棄の場合、患者や従業員への影響が大きい他、借入金の返済ができていない場合は、廃棄することも不可能です。

そこで、一番現実的な承継方法として考えられるのがM&Aによる第三者への譲渡です。
M&Aを行なうことで、病院・従業員の雇用・地域医療を全て守ることが出来ます。

 

活発化するM&A

M&Aは、少子高齢化によって生じる後継者問題を解決し、地域の患者に継続した医療を提供できることなどから、近年活発に行われています。中小企業白書の2007年以降のデータによると“第三者承継”と”M&A”の数を足した割合は”親族承継”の数を上回るほどです。M&Aを実施した病院では、「経営のプレッシャーから解放される」「後継者問題の解決」「事業の拡大」「従業員の雇用継続や待遇改善」などの結果を生んでいます。一方、病院を継承する側も、「建物・設備などの不動産、従業員・スタッフや患者さんをそのまま引き継ぐことができる」というメリットがあり、双方が得をすることができます

 

最近の病院・クリニック業界のM&A事例


病院やクリニックでは、企業本体の債務超過の解消、病院閉鎖などのために経営を立て直すべく、M&Aにより譲渡する場合があります。破産宣告に至った場合などでは最早、自主再建は不可能ですよね。そこで活用できるのがM&Aです。
では、実際にM&Aを実施するに至った病院はどの様な経緯を辿り、譲渡金額はいくらほどだったのでしょうか?ここからは、実際にM&Aを行なった病院やクリニックの事例を見ていきましょう。

 

事例①:株式会社東芝 東芝病院

東芝は、グループ社員の福利厚生の一環として東芝病院を運営していました。しかし、2016年4-12月期連続決算で計上する損失額が7000億円弱になる見通しであることが判明。それまでの資本金が3600億円であったことから、負債が資産を上回ってしまう債務超過に陥ってしまいました。そういった本体の経営不調による債務超過を解消するために、一部事業の売却を検討するとしました。その一部企業の中に、東芝病院が入っていたのです。

東芝病院のM&Aの要項は以下になります。

  • 売り手 :株式会社東芝
  • 買い手 :東芝の同医療法人 医療法人社団緑野会
    (緑野会:カマチグループは九州や関東で幅広く展開。26の病院・12の診療所・7つの専門学校を運営)
  • 譲渡価格:285億円
  • M&A形態:事業譲渡
  • 対象企業:東芝病院にかかる事業の全部

緑野会への譲渡により、高度急性期から在宅復帰まで幅広い知見・地域のニーズに沿った医療の充実・地域医療へ一層の貢献が実現できると判断したため、譲渡に至ったと説明しています。事業を継承した医療法人社団緑野会のカマチグループは九州や関東で、26の病院・12の診療所・7つの専門学校を運営するなど幅広くに事業展開しています。株式会社東芝 東芝病院は2018年3月をもって、東京品川病院として形を変えて存続しているようです。

 

事例②:日本郵政株式会社 横浜逓信病院

続いての事例は、日本郵政株式会社が運営していた横浜逓信病院に関してです。日本郵政は、全国各地で逓信病院を運営していましたが、赤字部門となっている病院事業の合理化を図っていました。そのため、地域の救急医療の充実を目指しており、そのことが済生会の思惑と一致し、M&A実施に至りました。横浜逓信病院のM&Aの要項は以下になります。

  • 売り手 -:日本郵政株式会
  • 買い手 :社会福祉法人恩賜財団済生会
  • M&A形態:事業譲渡

社会福祉法人恩賜財団済生会は、日本郵政から横浜逓信病院を譲り受け、院内の改正工事後、2018年2月にリハビリテーション病院として生まれ変わりました。済生会で、最も歴史のある済生会神奈川県病院は、リハビリテーション機能を新病院に移し、緊急・重症の患者さんを対象にした急性期病院となりました。その結果、各病院が異なる機能を生かし、地域の方々のニーズに応じた医療を提供できる【地域完結型医療】体制を構築することが実現しいました。

 

事例③:七沢リハビリテーション病院脳血管センター

続いての事例は、七沢リハビリテーション病院脳血管センターによるM&Aです。七沢リハビリテーション病院脳血管センターは、2016年度末に病院閉鎖に追い込まれていました。しかし、回復期病床として存続することを前提とし、県以外の設置・運営主体にM&Aを実施することを決定しました。2018年11月に、募集要項を公表し移譲先事業者を募集したところ、応募があった1事業者の審査を行い移譲先を決定したとしています。

  • 売り手 -:七沢リハビリテーション病院脳血管センター
  • 買い手 -:医療法人社団葵会
  • M&A形態:事業譲渡
  • 提案価格:10億1,000万円(税抜き)

七沢リハビリテーション病院脳血管センターは、移譲の条件も詳しく公開しており、「病院運営」「移譲方法」「土地」「建物」「運営費等への補助」「病院運営の継続」などを定めていました。移譲先に決まった”葵会”は、都内千代田区に本部を置く医療法人で、全国に9の病院・7の診療所・40の介護老人保健施設など計110の施設を運営しています。2017年には3月には神奈川リハビリテーション病院と統合され、再スタートを切りました。

 

事例④:JA埼玉県厚生連 熊谷総合病院

最後に、JA埼玉県厚生連 熊谷総合病院の事例についてご紹介します。

埼玉県厚生農業は、かつて熊谷総合病院と幸手総合病院を経営しており、地域の中核的な病院として年収入高約67億800万円を計上していました。その後、事業は拡大していましたが、設備投資等のコストが重くのしかかかり、医師の採用難と新築移転による経営が厳しくなったのです。追い打ちをかけるように、当期純損失約14億8600万円に至ってしまい、自主再建を断念し、2016年7月22日に破産手続を開始しました。破産手続きの際に、熊谷総合病院、幸手総合病院共をM&Aにより事業承継することを決定しています。

  • 売り手 :JA埼玉県厚生連
  • 買い手 :社会医療法人北斗
  • M&A形態:事業譲渡
  • 負債 –:65億3374万円

社会医療法人北斗は、JA埼玉県厚生連熊谷総合病院が柱としてきた診療科である内科・外科・整形外科に、北斗が強みとしている循環器内科や脳神経外科といった領域をプラスすることで、新しい熊谷総合病院の医療を確立したいと考えM&Aを決めたと言われています。旧熊谷総合病院は「PET総合検診棟(総合健診センター)」へと生まれ変わり、地域への貢献を目指しいるようです。

 

病院・クリニックのM&Aを実施するうえでのポイント


M&Aでは、相手にとって魅力的な病院であれば、契約に至るスピードが早くなる傾向にあります。その際、押さえておきたいポイントとは一体何なのでしょうか?

まずは、M&Aを実施する際、売り手側が備えておくべきポイントについてご紹介します。その後、買い手側はどのようなことを意識してM&A実施に至るのかもご紹介します。これにより、売り手側が何を強みとしてアピールしたら良いのか、明確になると思います。
病院のオーナーである方は、自分の病院が「買い手にとって魅力的なものなのか」考えてみて下さい。

 

売り手のポイント

M&Aはスタートからクローズまで約1年を要します。しかし、M&A自体が縁の世界であるため、タイミングよくすぐに決まることもあれば、長引いてしまい苦戦するケースも少なくありません。そこで、ここからは、売り手目線でのM&Aに向けたポイントについてご紹介します。

・譲渡条件の優先順位を明確にする

売り主の事業者や先生方は、長年勤めてきた思い入れのある病院を譲渡することになります。そのことから、譲渡条件をあれこれ求めてしまいがちですが、それでは買い手がつかないことにもなりかねません。M&Aでは、売り手と買い手、双方が折り合いをつけながら進めていきます。そのため、妥協できない条件や優先事項を明確にしておくことが必要です
特に注意すべき項目を3つご紹介します。

*譲渡金額
譲渡にあたって、最重要事項はお金でしょう。希望譲渡価格が「妥協できないものなのか」「条件次第で値引き可能なのか」「交渉の場合の最低金額はいくらなのか」を明確にしておくことが必要です。ある程度、落とし所を決めておくとトラブルを防ぐことにも繋がります。

*スタッフの承継
経営者として、今まで一緒に働いてきたスタッフの雇用を守ることも重要なことです。ある程度は雇用継続することを、譲渡契約書に盛り込むことは可能です。ただし、承継後の経営に口を挟むことはできません。そのため、譲渡のタイミングで退職金の支払いを済ませることでトラブルを防ぐことができます。

*スケジュール管理
M&A実施の際、譲渡する期限が決まっている場合もあるかと思います。その場合、条件面での交渉では低迷してしまう恐れもあるため、ある程度譲歩するなどして、スケジュールに沿って進行していくことが大切です。
しかし、譲渡の期限を明確に伝えることは、相手に譲渡条件や譲渡額で足元を見られてしまう場合もあるため慎重に進める必要があります。

 

・価格相場を把握する

譲渡金額を算出するには以下の3つの方法がとられます。

*資産基準+営業権方式
 …純資産の価値に営業権の価値を加算。

*買収事例比較方式
 …M&Aの事例を参考にし、譲渡価格を算出。

*ディスカウント・キャッシュフロー方式
 …今後得られると考えられる利益を現在価格に直し、利益額を元に譲渡価格を算出。

いずれにしても、病院の規模や経営状態などで相場は変動します。例えば、個人経営の場合、契約金が1000万円で収まる場合がある一方、大規模な医療法人では10億円にまでのぼる場合もあるでしょう。

 

・秘密保持の徹底

M&A実施において、情報漏えいのリスクは最小限に抑える必要があります。ただ、病院医療の秘密保持への意識は、残念ながら他の業界よりも低い傾向にあります。そのため、風評被害により自己の利益が損なわれる可能性も捨てきれません。もし、仲介業者を利用する場合は、秘密保持に関して徹底している顧問会計事務所やM&A専用コンサルタントなどを利用しましょう。

 

・仲介業者に注意する

最後に、仲介業者にM&Aを委託する場合はその会社選定に注意を払いましょう。病院のM&Aは、一般企業のM&Aと違い特殊であるため、悪徳仲介業者には注意が必要です。信頼できるM&A仲介業者を選定するポイントは以下が挙げられます。

  • 秘密保持契約の話をしっかり行なっているか
  • 譲渡価格を安易に保証しないか
  • 話に矛盾がないか
  • 口コミの評判や実績があるか
  • 初回面談で買い手の名前を出してこないか
  • 料金体系が整っているか

上記は一例ですが、少しでもおかしな点がある場合は直ちにそのM&A仲介業者への相談を中止しましょう。

 

買い手のポイント

M&Aを実施するには、買い手の存在も重要です。買い手にとって魅力的な病院であれば、M&Aをスムーズに進めることが出来るでしょう。そこで、ここからはM&Aを行う際に、買い手がどの様なポイントについて気にしているかご紹介します。

・立地

どこのエリア・どこの県にあるのかというだけではなく、駅からの距離やビルの何階に入っているのか、周囲の環境についても買い手が気になるポイントです。特に女性が多い診療科目については、周りに競争相手が多い、調剤薬局の有無などによって値段に変動があります。

 

・診療内容

最近のトレンドとしては、外科・整形外科・内科などが人気があり、美容外科や歯科医院はは特に譲渡希望が多いため、やや人気です。病院・クリニックの譲受に積極的になっている投資ファンドなどでは、内科や外科に強い傾向があります。

 

・患者数、カルテ数

患者数やカルテ数については、数が多いかだけではなく、年齢・性別、患者別の分布なども買手が気にするポイントです。若い患者が多い方が、競争は激しくなりますが、今後の収益を見込めることが期待できます。一方、高齢の患者が多いエリアでは、競争がゆるい反面、今後の収益については、厳しくなる可能性があるでしょう。

 

・導入機械類

病院のM&Aで重要なポイントは、事業を引き継ぐ際に「譲渡先の診療サービスで診療を行えるのか」それとも「新たに機械類を整備しなければならないのか」です。そのため、導入機械や診察台、ソファ等の設備状況についても開示が必要となります。

 

・医師・看護師・スタッフ数

医師や看護師などのスタッフ数が、患者数に対して多いか少ないかは、労務面でも重要なポイントとなるため、買手も気するポイントです。また、契約形態がパートか常勤か、医師の場合は業務委託か出勤日数かなども細かく提示する必要があるでしょう。

 

・スタッフの引き継ぎの有無

近年、人手不足の影響から、新規採用が難しい傾向にあります。そのため、人材が引き継げるかどうかで、譲渡価格が大きく変動するでしょう

 

・病院名の変更

病院のM&A実施した後に病院名の変更有無が確認されます。M&Aを実施したことを患者に知らせたくない場合もありますよね。そのため、病院名をそのまま利用できるか、変更しなければならないかは、質問事項でよく取り上げられる点です。

 

まとめ

今や高齢化、少子化、医師の都心進出などにより、特に地方の病院は衰退していく危機にあります。また、大企業が所有する病院であっても、企業の財政の悪化により、病院を手放さなくてはならない場合も中にはあるでしょう。しかし、 病院を廃棄するにも膨大な金額がかかってしまいます。
一方で、病院の規模を拡大したいと考えている経営者側は、低コストで再利用できる病院を獲得し、必要であれば低コストで改修したいと考えています。
その両者の願いが叶う方法がM&Aです
売り手の希望条件や、買い手の希望条件は食い違う場合が多いのですが、落とし所を見つけることで、良好な関係を保ち、危機に陥った病院の再建を叶えることが出来るでしょう。

M&Aの事例から読み解く潮流《病院・クリニック》
現在「病院の跡継ぎがいない」「経営が苦しく自主再建が難しい」などでお困りの方はいらっしゃいますか?
経営が苦しいなどの場合は、経営再建に向けた努力をすることで改善の方向へ進むことも出来るかも知れませんが、跡継ぎの問題は病院の存続が危ぶまれる大きな問題です。思い入れのある病院だからこそ、代々続いていってほしいという願いもあるかと思います。
そんな方々に提案できるのが、第三者に業務を譲渡するM&Aです。本記事では、病院やクリニックでのM&Aの動きや、事例を併せてご紹介し、もしM&Aを行う場合に【押さえておきたいポイント】もご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年1月30日
事業承継の事例から読み解く潮流《病院・クリニック》
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