2019年1月25日 金曜日

病院・クリニックの事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

医療費抑制政策によって、病院経営は苦境に立たされています。
全国の病院の8割近くが赤字経営ともいわれ、病院の経営体制は改革が求められています。公立病院は、診療報酬以外に繰入金によって診療報酬が減少した分を補っています。しかし、財政基盤が弱い民間病院は、経営悪化から閉院へ追い込まれてしまうケースが後を絶ちません。
そのような状況下の中、企業経営の手法を積極的に取り入れることによって、病院の業績を改善し、赤字経営の病院を買収して再生する医療法人グループが出てきています。今後、小規模の病院・クリニックの事業譲渡の事例は増加していくとされています。本記事では、病院・クリニックの事業譲渡を検討する際の注意点をまとめていきます。

 

病院・クリニックの事業譲渡を検討してみては?


事業譲渡は、病院・クリニックが抱えている問題を解決する糸口となります。事業譲渡はM&Aの1つの手法であり、近年では医療業界で広がりつつあります。

事業譲渡とは

病院・クリニックにおける「事業譲渡」とは、経営している病院のなかで、売るものと売らないものを決めて引き渡す方法です。
この場合売るものは、医療機器などの有形のものから、ノウハウなどの無形のものまであります。
病院経営では、不動産賃貸契約や各種取引基本契約など様々な契約関係がありますが、事業譲渡ではこれらの契約を買い手に承継することはできません。

 

事業譲渡と事業承継の違い

事業譲渡と事業承継は、「オーナーが病院・クリニックを譲る」ということには変わりません。異なる点は、「誰に引き継がせるか」という点です。
事業譲渡は、第三者に事業を譲渡します
一方、事業承継は、後継者に継がせることです
ここでは、第三者に事業を譲渡する「事業譲渡」を取り上げています。
特に、個人診療所の場合は、他の病院やクリニックと合併することができないため、後継者が不在の中、病院を存続させたい際に、事業譲渡を行うケースが少なくありません。

 

「出資持分のある医療法人」

「出資持分のある医療法人」とは、社団医療法人であり、その基本契約に出資持分の定めを設けているものをいいます。この定めとは、社員(株主)の解散に伴う出資分の払い戻しを行い、医療法人の解散に伴う残余財産の分配に関する定めのことをいいます。
なお、医療法人を設立する際に出資をする株主のことを、社員と呼びます。従業員という意味は持っていません。
「出資持分のある医療法人」の最大の特徴は、「オーナーが医療法人の財産権を持っている」ことです。

 

「出資持分のない医療法人」

「出資持分のない医療法人」とは、社団医療法人であり、その基本契約に出資持分の定めを設けていないものをいいます。定めの内容は、「出資持分のある医療法人」と共通です。
平成19年より、社団医療法人を新規設立する際は、「出資持分のない医療法人」しか認められない、第五次医療法改正が施行されました。
「出資持分のない医療法人」の最大の特徴は、「オーナーが医療法人の財産権を持たない」ことです。

 

「出資持分のある医療法人」の現状

現在、「社団たる医療法人」が医療法人全体の大多数を占めています。
この「社団たる医療法人」の中でも、約8割が「出資持分のある医療法人」です。
「出資持分のある医療法人」は、多額の贈与税や相続税などの財務上のリスクがあるため、「出資持分のない医療法人」への移行が推奨されています。しかし、「出資持分のない医療法人」の手続きは煩雑なものが多く、各医院によって条件も異なるため、移行する病院がなかなか増えないのが現状です。

 

出資持分の有無の確認方法

出資持分の有無を確認する際は、持ち分の確認をしたい方と医療法人の関係によって異なります。医療法人の定款を閲覧可能な方は、2通りの方法があります。

1つ目は、対象医療法人の最新の定款を確認する方法です。「出資持分のある医療法人」の場合は、出資持分払戻請求権、残余財産分請求権についての条文があり、「出資額に応じて払い戻し、分配する」という内容の記載があります。

2つ目は、対象医療法人を管轄する官公庁で「決済届」を閲覧する方法です。決算届を閲覧すれば、出資持分の有無がわかります。また、決算届は誰でも閲覧することができます。

 

今後の病院・クリニックの在り方

これからの時代、病院の経営を株式会社により近づけることが、病院を存続させるための対策の1つといえます。人口の減少は今後も進んでいくでしょう。そうなると、国が定める診療報酬などの制度に頼っているばかりでは、病院の経営維持は難しくなります。他院との差別化を図り、独自のポリシー・理念に従い、地域で何を提供すればいいか、常に追究することが必要です。よって、より良い技術やノウハウを取り入れるために、事業譲渡を活用する病院やクリニックは、今後増えていく可能性があります。

 

病院・クリニックを事業譲渡するメリット


病院・クリニックを事業譲渡するメリットは7つあります。ここでは、解説を添えて、7つのメリットについてご紹介します。
最初の2つは、金銭的なメリットといえます。事業譲渡を始めとするM&Aは、金銭的メリットが大きいことが特徴です。他にも、心理的負担からの解放や、医療技術の質の向上などがメリットとしてあげられます。
病院は、医師や看護師、患者から取引先まで、多くの人が関わっています。事業譲渡によって、お世話になった方たちにしっかり向き合いましょう。

 

①廃院にする際の費用の削減
これは一般企業にも共通していえることですが、事業を畳むとなると多額の費用が発生します。事業譲渡を行えば、廃院にすることを避けられるため、多額の費用を削減することができます
個人病院・医療法人を廃院にする際は、病院の規模や診療科目によって異なりますが、カルテや医療機器の処分から建物の原状回復まで行うと、トータルで1000万以上かかるケースが少なくありません。また、廃院にする際には莫大な量の手続きを行わなければなりません。事業譲渡を活用することによって、費用と手間がかからなくなります。

 

②譲渡対価が生じる
事業譲渡を行うと、譲渡対価(売却益)が生まれます。これは、病院・クリニックを継続することによる将来的な価値を算定して、現金化されます。譲渡対価は、不動産などの病院の資産と診療報酬などの病院自体の価値を合わせて算出します。よって、土地などの不動産のみによる譲渡所得より、高い金額を受け取ることができます。

また、オーナーが事業譲渡をする際、出資持ち分を上回った場合は、創業者利潤を得られます。事業譲渡は、金銭的なメリットが強い傾向があります。

 

③後継者問題を解決できる
病院の存続の道が絶たれる1つの要因に、後継者の不在があげられます。子供がいる場合も、専門とする医療が異なる場合や、個人経営の病院より、大学病院を選ぶ場合があります。病院の経営は、ハードな業務を長時間こなさなければならない印象が強く、働き方が見直されている近年では、魅力を感じない人が増えています。しかし、事業譲渡を活用すれば、廃院にすることもなく、安心して第三者に病院の経営を任せることができます。買い手と条件をすり合わせることによって、よりよい病院に変えられます。

 

④地域医療への貢献
事業譲渡を活用することによって、地域医療へ貢献することができます。病院の存続は、医療過疎地ではとても重要だからです。
過疎化が進んだ地域は、もともと病院の数も多くありません。その状況下で閉院してしまうと、地域の過疎化は進み、残された人たちも困ってしまいます。しかし、事業譲渡を行えば、今までの患者や、新しい患者に医療を提供し続けられます。また、第三者の協力を得ることによって、最新の医療技術を取り入れることができます。

 

⑤個人保証や担保提供から解放される
病院経営は、先行投資のために金融機関から巨額の借入を行っています。病院の改修や改築、さらには医療機器の買い替えや新設投資には、費用がかかり続けます。経営が悪化している場合は、それらの借入の返済が滞り、心的負担が大きくなります。
しかし、事業譲渡が完了すれば、個人補償や経営責任を後継者に任せることができます

実際、傾いた経営を立て直した事例も多くあります。個人保証や担保提供が負担になっている場合は、事業譲渡を行うことをおすすめします。

 

⑥医療に集中・専念できるようになる
病院のオーナーとなると、診察に加えて、労務管理や資金繰りなど莫大な量の業務があります。事業譲渡によって第三者に介入してもらうことで、自分自身はより良い医療サービスの提供に集中・専念できるようになります

例えば、診察以外の業務を分担して行う、あるいは全て任せることによって、最新の医療技術を学ぶ時間をつくることができます。また、病院を複数経営している際は、病院の数を減らして、各医院の質をあげることに専念することができます。

 

⑦従業員の雇用の確保ができる
経営悪化や、後継者不在によって、所属している医師や看護師、事務スタッフなどの従業員の雇用の継続が困難になる場合があります。しかし、事業譲渡を行えば、その問題を解決することができます。
買い手に「従業員の雇用の継続」という条件を出すことによって、雇用の継続の確保が可能となり、従業員の生活を守ることになります。また、今まで通院していた患者の診療を継続して行ってもらえます。買い手は、従業員と患者の確保ができるため、事業譲渡がもたらす効果は大きいです。

 

病院・クリニックを事業譲渡する際のチェック項目


ここでは、病院・クリニックで事業譲渡を行う際にチェックするべき項目をご紹介します。

最初に明確にしておきたいのは、事業譲渡を行う目的です。目的によっては、事業譲渡が適さない場合もあるからです。そして、譲渡先は慎重に選びましょう。医療法人のみにとらわれないことがポイントです。

また、事業価値に見合った売却価格を設定し、その根拠を買い手に提示しなければなりません。病院・クリニックを事業譲渡する際は、早いタイミングで準備を進めましょう。

 

譲渡の目的

事業譲渡を行う際には、事業譲渡の目的は明確にしておきましょう。なぜなら、目的によって取るべき最適な選択肢が変わってくるためです。
例えば、経営悪化を立て直すための「経営の効率化」や、後継者確保のための「事業再生」であれば、事業譲渡が効果的に働きます。
一方、病院を大きくしたいという目的から「合併」、医療法人を退社したくない場合は「出資持分譲渡」など、事業譲渡以外の選択肢が向いているケースもあるため、注意が必要です。

 

譲渡先

経営悪化や先行き不安から事業譲渡を検討している場合は、医療法人や社会福祉法人、一般社団法人を譲渡先として選ぶことをおすすめします。また、まれに医療業界への進出を検討している株式会社を買い手として選ぶ病院もあります。

医師や看護師不足が要因の場合は、医療法人の他に、大学に買い取ってもらうことも選択肢としてあげられます。政府による方針や、地域中核病院創設のためであれば、別の大きな病院を買い手とする事例が多くあります。

 

事業価値

立地条件や競合病院の有無などの事業価値は変えられません。しかし、診療体制や安全面、サービス面は、努力次第で改善することが可能です。また、長期的な設備投資も、買い手の評価を左右するポイントとなります。データとして示せる事業価値を提示して、希望価格で買い取ってもらえるようにしましょう。

また、患者からの評判も重要となります。受付にアンケートを設置するなどして、病院・クリニックの客観的な事業価値をリサーチすることや、それをふまえて改善することも、事業価値向上の一歩です。

 

譲渡タイミング

事業譲渡を行うことが決まれば、できるだけ早いタイミングで準備を進めることが推奨されています。病院やクリニックは、金融機関との契約期日や資金繰りのリミットが存在することが多くあります。限られた時間の中で、買い手の選定、交渉、クロージングを行わなければなりません。

また、従業員や患者の引き継ぎの問題もあります。事業譲渡するまでの前半5年間と、譲渡してからの後半5年間、といった風に事業譲渡期間を見積もることが一般的です。

 

まとめ

今後、病院・クリニックの事業譲渡の事例は増加していくと思われます。
事業譲渡によって、現在抱えている問題を解決しましょう。
まずは、医療業界のM&Aに詳しい専門家に相談して、早い段階から準備を進めてみてはいかがでしょうか?

 

病院・クリニックの事業譲渡を検討する際のチェック項目
医療費抑制政策によって、病院経営は苦境に立たされています。
全国の病院の8割近くが赤字経営ともいわれ、病院の経営体制は改革が求められています。公立病院は、診療報酬以外に繰入金によって診療報酬が減少した分を補っています。しかし、財政基盤が弱い民間病院は、経営悪化から閉院へ追い込まれてしまうケースが後を絶ちません。
そのような状況下の中、企業経営の手法を積極的に取り入れることによって、病院の業績を改善し、赤字経営の病院を買収して再生する医療法人グループが出てきています。今後、小規模の病院・クリニックの事業譲渡の事例は増加していくとされています。本記事では、病院・クリニックの事業譲渡を検討する際の注意点をまとめていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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