2019年4月17日 水曜日

投資ファンドへのM&Aの事例から読み解く潮流

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

投資ファンドによる中小企業のM&Aが年々増加傾向にあります。2017年には2000年代中盤の約200%の成長を記録しています。
2008年に起こった金融危機「リーマンショック」直後から長く投資ファンドの活動は停滞気味でした。近年、投資ファンドが中小企業をターゲットとした投資が活発になっている原因とは一体何が原因なのでしょうか?

本稿では実際のファンドへのM&Aの事例から、投資ファンドの潮流を読み取っていきます。

 

ファンドへのM&A


M&Aを用いた企業・事業の売却先は、個人から公的機関まで多岐に渡ります。数ある売却先のなかのひとつである投資ファンドへ企業・事業を譲渡・売却するメリットとは一体どのようなものがあるのでしょうか?
利益を優先するが故に買収後に既存の事業が整理されてしまのでは?といったデメリットについて疑問もあることでしょう。

まずは、M&Aとはなにか?ファンドとは?といった基礎的な知識を深く理解することが、ファンドへのM&Aを成功させるカギとなります。M&Aに関する知識は複雑を極めますが、ここからはファンドへのM&Aの概要をご紹介します。

 

M&Aとは

M&Aの「 Merger& Acquisition」の略称で、「合併・買収」を意味しています。M&Aは企業の譲渡・売却のみなならず、資本提携・業務提携なども含まれ、とても広い意味で使われます。M&Aはよく「時間を買う」と手段として紹介されます。買収側は事業に関わる有形・無形の資産を目的にコストを支払います。

特に「無形資産」には原則的に、人的リソース、事業に必要とされる知識・ノウハウから、顧客・取引先までもが含まれます。無形資産を一から育成・開発、市場開拓するには多大な時間を要します。

またM&Aを実施するまえには企業のこれまでの実績を洗い出した上で合併・買収を行います。そのため、買収側は将来的に獲得できるキャッシュフロー(現金流量)を予測しやすく、投資の手段としてもリスクを抑えることができます。

 

ファンドとは

金融業界で使われるファンドとは「投資を目的として集められた資金を運用する」事をさします。投資ファンドは資金の集め方で大きく2つに分類することができます。
ひとつは証券会社で取り扱われている投資信託など、誰でも投資できるファンドで、これをを「公募型ファンド」といいます。
もうひとつは、企業買収など目的に限られた大口投資家から投資を募るファンドで、これを「私募型ファンド」といいます。
今回お話するM&Aにおいては企業の譲渡・買収に巨額な資金を必要とするため、後者の私募型ファンドが資金運用します。

ファンドの目的は「投資額以上のリターンの獲得」です。基本的に「安く買って高く売る」ことで利益を獲得します。多くの資金を運用しているファンドへのM&Aを実施することで企業側はまとまった資金を獲得できます。売却側の企業がファンドへM&Aを行う目的は、ファンドと同じく「お金儲け」と言えます。

 

ファンドへのM&Aのメリット・デメリット

ここでは、事業を譲渡・売却する企業側の主なメリット・デメリットについて解説します。

売却による利益の獲得・財務面の改善、経営理念の実現化、ファンド側との相乗効果による事業拡大など、いくつものメリットが様々なサイトで紹介されていますが、これらのメリットを全て享受することは非常に難しいです。

さらに言えば、メリットは裏返すとデメリットである場合があります
事業拡大にフォーカスしてお話をすると、ファンド側の新経営者の意向によってこれまで掲げてきた経営理念が捻じ曲げられるといった事が起こり得ます。ファンド側は企業の価値を高めるという大前提があります。そのためであれば、古い経営体質や社風にこだわる事無く、利益優先の経営にシフトすることは珍しくありません。

したがって、ファンドへのM&Aを検討する際はメリットとデメリットが裏表の存在であることを認識しておかなければ、M&Aは失敗に終わってしまいます。

 

最近のファンドへのM&A事例


2008年以降、ファンドが関与したM&Aは大型取引となる大手企業の案件は減少傾向、中小企業の案件は増加傾向です。ファンドが行うM&Aは今後も中小企業がターゲットになるとされています。

 

事業再生ファンド

続いては、事業再生ファンドのM&Aについてご紹介します。

事業再生ファンドは「ハゲタカファンド」呼ばれていた時代があります。それは、バブル崩壊後に経営難に陥った企業の株式を格安で取得して利益を上げていく様子からこう呼ばれています。今でも経営者の中には「ファンド=ハゲタカファンド」のイメージは根強く、売却先にファンドだけは選びたくないという経営者は少なくありません。
しかし、そのようなイメージは正確ではありません。

事業再生ファンドは、事業を再生させ多額の利益を生み出すために、非常に高い再建知識・技術、解析・分析能力で企業を再生させます。また、事業再生ファンドは後継者不在問題と経営難という2つの問題を抱えている傾向が強い中小企業の問題を一手に引き受けることができるという特徴があります。

 

事業再生ファンドの事例:年間5000万円のマイナスを純益1200万円へ再生

とある自動車関連部品の下請け企業は、主業務の製造部が年間で5000万円の赤字を計上、メインバンクへの返済も滞っており役員の個人保証で借り入れを行って経営を続けていました。

金融機関からの資金供給が困難なため、事業再生ファンドが企業を再編、事業を新会社に譲渡(事業と従業員との雇用関係は継続)します。この際、公平的な譲渡代金を算出するために、弁護士とM&A専門のコンサルタントに入ってもらうと共に、新会社の設立・運用に対しても意見をもらい、事業再生に向けた盤石な体制を築き上げました。

事業再生の実行フェーズでは多額の赤字を解消するために、顧客との取引データを分析、部門・顧客別に損益分析を行いました。その結果、元請けとの取引額が赤字の過半数であるこが判明します。

そこで、新会社経営陣は元請け企業と掛け合い、赤字の原因解消となるデータを揃えたうえで製造単価引き上げの交渉を行います。一気に単価アップとはなりませんでしたが、徐々に単価アップすることを確約でき、M&A後3期目には黒字へ転換します。
純益1200万円を計上し、事業再生に成功しました。

 

事業承継ファンド

M&A仲介会社に相談がある譲渡案件の半数以上が「事業承継」というデータがあります。中小企業庁の発表の「事業承継に関する現状と課題」によると、中小企業の経営者の平均年齢は上昇傾向です。

こうした、中小企業の後継者不在問題の解決策として、ファンドのみならず企業間でのM&Aも近年活発になってきています。また、「早期リタイア」を目的としてファンドへ事業譲渡の案件が持ち込まれることも少なくありません。この場合は、事業拡大や若い経営者を呼び込むことを目的とした経営戦略上での事業承継M&Aです。

経営者が企業をファンドに売却するM&Aのなかでも、事業承継を主たる目的としたファンドが「事業承継ファンド」よばれます。事業承継ファンドの特徴のひとつとして、「中小企業基盤整備機構」が投資ファンドの総額の20%を受け持ち投資する点です。これにより、事業承継問題を抱えている中小企業に対して多角的な支援を可能としています。

 

事業承継ファンドの事例:後継者不在問題と経営体制の刷新

広島県の大手農業グループファームは、売上が年間60億円になるほど順調に経営を続けていましたが、社内で後継者の育成に失敗していました。原因は経営者が優秀であるが為に役員以下従業員は、経営者の「指示待ち」体質の社風であったことにあります。

加齢や病気などで経営から退くことになった際に、経営を維持できる体制にないことに不安を感じていました。そこで、投資ファンドの事業承継部門を提携、ファンド側から新たな役員が経営に参加します。

新たな経営者を迎えまず着手した施策は、トップダウン経営の解決です。社内の有力な従業員の意見を拾い上げ、ボトムアップの経営体制を構築しました。徐々に社内の組織力は向上し、目的のひとつである社風の改善を図ることに成功します。

そして、後継者不在問題も新経営陣と良いパートナーシップを築くことができ、新たな体制で会社を存続する目的をファンドとのM&Aを活用することで達成できました。

 

ファンドへのM&Aを実施するうえでのポイント


日本で投資ファンドが実施したM&Aの件数は決して多くはないものの、増加傾向であることは間違いありません。1990年代後半からゆるやかに取引案件は増え、2008年に起こった金融危機「リーマンショック」の際には規模が縮小したものの、2012年を機に取引数が増加し、2018年には過去最高のM&A取引件数を記録しました。

ファンドを積極的に活用することが企業成長に有効な手段として実績で示されていますが、M&Aを実施するうえでおさえておくべきポイントを2点ご紹介します。

 

ファンド市場の将来性

国内のファンド市場の現在、将来性を知る上で「PEファンド」の存在は欠かすことの出来ない存在です。PEファンドとは非上場企業の株式を取得し、株式公開などで利益を出すことを目的として投資を行います。

株式非公開の中小企業は、銀行の「融資」からPEファンドの「支援」に資金供給を切り替える傾向が高まっています。
銀行からの融資は安定した資金供給、金融のプロの目線から経営アドバイスを受けることができるといったメリットがあります。
ところが、「リーマンショック」が起こった際に、銀行が救済措置をとらなかったことで、経営危機に陥いった多くの企業が破綻しました。このことから、多くの経営者は銀行との取引、なかでも「メインバンク」だけからの資金調達のリスクを認識しました。

そこでファンドから資本を調達するという流れが生まれました。投資家もこの流れに乗り、ファンドに投資資金は潤沢なものになりました。そのため、ファンド間の投資競争も激化したため、短期間で企業を安く買い・高く売るといったこれまでの手法が取りづらくなりました。

そのため、PEファンドは「長期的な投資」「企業の潜在価値を最大限に発揮させる」の2つを大きな柱として、企業とタッグを組んで企業価値を向上させることで、高い利益を生む出すために動いています。
なかでも高い収益性を上げているPEファンドは、経営に深く関与しています。これを「ハンズオン方式」といい、資本だけの関係に留まらない企業とPEファンドのシナジー効果は新たな価値想像の機会として期待されています。

 

会社の価値

「企業が今後のビジネスでどれだけの価値を生み出すことができるか」、これは売却する企業側は高額で売却するために、ファンド側は将来的に高いキャピタルゲインを得るために、M&A実施の際に重要視されるポイントです。

会社側は「会社の価値」が高いほど、会社の株式を高額で売却できます。「会社の価値」は「企業価値」「事業価値」「株式価値」で算出されます。上場企業の場合は、株式の時価総額があります。株価は企業の業績に基づく評価の集合ですが、会社の価値を表す絶対的な数字ではありません。

PEファンドがM&Aの対象とする株式非公開の企業の会社の価値は、指標となる公開株価がないので評価が非常に難しいです。非上場企業の場合の会社の価値の評価は、一般的に公認会計士などに「企業価値評価」を依頼します。企業価値評価には株式価値や事業価値から不動産も含めて資産を評価します。

主に3つのアプローチを用いて、複数の側面から価値評価を行います。

  1. インカムアプローチ:将来獲得が見込まれるキャッシュフローを評価する方法(DCF法等)
  2. マーケットアプローチ:市場での取引価格をベースに評価する方法(類似上場比較法等)
  3. コストアプローチ:財務状況や株式取得価額から評価する方法


これらの評価方法で厳密な会社の価値を算出することはM&Aにおいて必須です。M&Aという取引は多くの時間と人員が必要です。交渉過程で
帳簿にない負債が見つかるといったリスクは排除しておく必要があります

また、M&Aが検討段階であったとしても、第三者の専門的視点で評価を受けることで企業価値の向上、新たな価値の創造につながるといったメリットもあります。したがって、はやい段階で専門家からアドバイスを受けることは企業の成長戦略の一環としても非常に有効な手段です。

次に、ファンド側が見る「会社の価値」についてです。前述の通り、ファンド間の競争が激化しているため、M&Aのマーケットは売り手市場です。そのためファンド側が積極的に買収先の企業を選定し、M&Aを実施しています。
企業の選定の際に「経営戦略」「事業戦略」を精査し、買収する企業が「企業が今後のビジネスでどれだけの価値を生み出すことができるか」を想定することで、投資に見合うリターンを得られるかどうかを算出します。

 

まとめ

いかがでしたか? M&Aといっても、PEファンドと買収対象企業は共に協力し合って起業家日を高めようとしていることがご理解いただけたと思います。
ファンドへのM&Aは、中小企業の後継者不在問題の有効な解決策というメリットもあります。
一方、ファンドへのM&Aがトレンドだからとといって、安易に売却を検討するのは危険です。専門家などにしっかりと検討を重ねた上で投資ファンドを活用することが、事業拡大・成長のポイントになることでしょう。

投資ファンドへのM&Aの事例から読み解く潮流
投資ファンドによる中小企業のM&Aが年々増加傾向にあります。2017年には2000年代中盤の約200%の成長を記録しています。
2008年に起こった金融危機「リーマンショック」直後から長く投資ファンドの活動は停滞気味でした。近年、投資ファンドが中小企業をターゲットとした投資が活発になっている原因とは一体何が原因なのでしょうか?
本稿では実際のファンドへのM&Aの事例から、投資ファンドの潮流を読み取っていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月17日
ファンドとのM&Aを実施する前に考えておきたいこと
2019年4月17日
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