2019年4月1日 月曜日

ファンドへの事業承継の事例から読み解く潮流

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

2017年の経済産業省発行のレポート、「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」では、事業承継問題が日本経済に与える影響が懸念されています。報告では、現状のままだと2025年までに650万人の雇用が喪失し、約22兆円のGDPが失われるという推計が出ています。

この中で、後継者不在問題・事業承継を解決する取り組み事項のひとつに「M&Aの活用、必要な行政サポート等の検討」が挙げられています。官民一体となり中小企業・小規模事業者に対しての投資による支援が必要とされ、民間の事業承継を支援する投資ファンドが大きな役割を果たすと期待されています。

この記事では実際に事業承継を目的にファンドから投資をうけた事例から、今後のファンドへの事業承継の潮流を読み解いていきます。

 

ファンドへの事業承継


事業承継の事例を読み解く前に、事業承継が抱える問題点とその解決方法として投資ファンドが活躍している理由について見ていきましょう。

 

事業承継が抱える問題点

2016年に経済産業省が発表した「事業承継に関する現状と課題について」には、中小企業経営者の年齢のピークが66歳、平均引退年齢は中規模企業で67.7歳、小規模事業者では70.5歳というデータがあります。1995年の経営者の平均年齢が47歳という数字から、2015年までの20年の間で事業承継が積極的に行われていなかったことがわかります。

さらに、60歳以上の経営者の50%超が、経営の継続が困難で廃業を予定としているというデータがあります。小規模事業者ではさらに多くなり、約70%が廃業予定と回答しています。しかしながら、廃業予定の経営者のうち約30%は「事業は同業他社よりも業績は良い」と回答、さらに「今後10年間の経営維持することは難しいことではない」と回答した経営者は約40%にも及びます

業績が順調でありながら、過半数の企業が廃業してしまう理由の多くが「事業承継の準備が終わっていなかった」「最適な後継者が見つからなかった」でした。さらに、廃業した企業への調査では廃業時に誰にも相談をしなかった経営者の割合は70%を超えています

 

第三者承継という選択

以上のような中小企業・小規模事業の事業承継問題を解決する手段として「M&A」が注目されています。M&Aとは企業・組織の「合併・買収」行為の総称です。主に、株式の譲渡・売却を行うことで譲渡側は企業や事業の権利を譲受先に渡します。

M&Aの買収ターゲットとなる企業や事業は、「既存事業に価値がある」「現在は潜在的だが将来的に莫大な利益を生み出す」「他社にはない独自の技術・サービス」です。
つまり、先述した「将来性はあるが廃業する予定」である企業は、M&Aのターゲットとなる可能性が大いにあるということです。

M&Aを利用して第三者に事業承継する際は、現株式保有者は株式を売却することで、まとまった資金を得ることが可能です。株式保有者が分散している場合の交渉では、専門のM&A仲介業者が交渉を取り纏めてくれるため、事業承継の準備も円滑に進みます。また、買収側は事業資産を(物的資産から人的資産、知的財産までを含みます)引き継ぐことができるため、一から事業を興すよりも遥かに早く、事業を展開することが可能です。

近年では事業承継の手段として、「投資ファンド」へのM&Aの取引件数が増加している傾向です。なかでも株式を非公開としている中小企業・小規模事業者に対して投資・支援を行う「PE(プライベートエクイティ)ファンド」が第三者承継先として取引が活発的になっています。

 

承継先としての投資ファンド

まず初めに、「投資ファンド」とはなにか?について解説します。
投資ファンドは個人投資家・大口投資家などから集められた「投資のための資金」のことです。ファンドには誰でも投資できるような投資信託のような「公募型ファンド」と、大口投資家のみが投資を行う「私募型ファンド」があります。

私募型・公募型ファンドの投資に対するリターンの獲得方法は「安く買って、高く売る」ことが基本です。バブル崩壊後には企業債権をタダ同然で買い叩き、再売却して短期的に莫大な利益を得ていたファンドもありました。利益の獲得方法としては中小企業・小規模事業経営者の事業承継を行うファンドも「安く買って、高く売る」というスタンスは変わりありません。

しかし、PE(プライベートエクイティ)ファンドは企業に対して中長期的な投資を行うという特徴があります。PEファンドの主な利益獲得方法は、企業価値を高めて、株式を公開時に株式を売却したことで発生する多大な売買差益です。株式の公開を目標としているため、ファンド側は企業価値を高めるために深く経営に関与します。(あくまでファンドは集めた投資資金を運用する組織ですので、外部から経営のプロフェッショナルを招き入れる事がほとんどです。)そのため、PEファンドによって行われる投資は「支援」として呼ばれることがあります。

 

最近のファンドへの事業承継事例


ファンドへの事業承継では、主に「株式の後継者への譲渡」と「外部資本によるM&A」の2つのケースでファンドから投資が行われます。最近の事業承継の事例を用いて解説していきます。

 

株式を後継者への譲渡、注意すべきは「株式の保有状態」

株式を後継者へ譲渡する際、経営の後継者は株式を取得する資金を準備しなければなりません。株式取得の資金を自己資金だけで調達することは少なく、ほとんどの場合は資金を外部から調達します。 そこでファンドがもつ潤沢な資金が運用されます。

【事例A】
輸送機器部品製造を行うA社の創業家経営陣が保有していた株式を、同社役員が企業を買収するためにファンドが支援を行いました。A社の株は相続などで散逸していたため、株式を集める事に非常に時間を要しましたが、およそ8割の株式を集め、買収を成功させます。
投資ファンドの傘下となった後、ファンドからさらに支援を受けたことで海外進出を果たし事業拡大も果たしています。

この事例でポイントとなるのが、株式の保有状態です。創業家経営陣が株式の全て、企業の「所有と経営」をまとめていた点に注目してください。
「所有と経営」が集中していると、例えば株式を保有していた経営者が高齢のため他界し、創業家家族内に有力な後継者がいない場合に、事業承継の手続きが非常に困難になってしまいます。

この事例ではファンドによる株式取得がスムーズに行われたことで、スムーズに株式の譲渡が行われました。事業承継問題で株式取得がトラブルの原因になってしまうことは少なくありません。回避方法のひとつとして、一定数の株式を予めファンドに売却しておくというファンドの活用方法があります。早い段階でファンドと関係を構築しておくことで、事業承継問題のみならず、ビジネスパートナーとしての支援も期待ができるでしょう。

 

外部資本によるM&A:後継者不在問題をスピーディーに解決

ファンドから外部資本を受け入れることで、突然訪れる後継者不在問題を解決する手段にもなります。事業企業とのM&Aで新たな事業を創造するという期待もできますが、それまで培ってきた企業の独自性が失われることも少なくありません。これからご紹介するのは事業承継問題をスピーディーに解決しながら、自社の独自性を守った事例です。

【事例B】
B社は社員数30名以下の会社で、農薬の製造から販売までを一貫して行う事業を展開しており、業績は非常に好調でした。しかし、経営者の高齢化を理由に早急に事業承継を行う必要がありました。同業社間でM&Aを行うことも検討されましたが、長年培ってきた自社の業界での独自性・企業価値を守るために、ファンドはB社の経営権を獲得します。ファンドが新た選定した経営者はこれまでの社風を最大限尊重した上で、事業の効率と集中の施策を実施する方針をとりました。その結果、販路を他県にまで広げ、さらなる成長を生み出しました。

この案件に携わったファンドは事業再生を得意とする投資ファンドのひとつで、「産業の中で価値を生み出している、存続しなければならないような企業の再生こそ当ファンドの指名」として支援を行っています。一方で「全ての事業承継問題を解決に導くことは現実的ではない。世代交代であらたな技術・サービスが起こる事も事実。」としています。

 

ファンドへの事業承継を実施するうえでのポイント


事例から、ファンドを活用することで事業承継を実現させた上で、さらなる企業成長戦略に舵をとれることがご理解いただけたでしょうか。

しかしながら、ファンドとのM&Aが活発的な状況だからといって、安易にファンドの投資を受けることは非常に危険です。ここからは、ファンドへの事業承継によってさらなる事業の発展を遂げるために、注意しておくべきポイントについてご紹介します。

 

投資ファンド市場の将来性について理解を深める

これまで、事業資金の調達といえば銀行からの融資によって行われていました。銀行からの融資は、安定した資金調達、金融のプロ目線から経営へのアドバイスを受けることができるといったメリットがあります。
しかし、バブル崩壊やリーマンショックの際に、特定の金融機関からだけ融資を受けていた多くの企業の経営が成り立たなくなりました。このころから「メインバンク制の崩壊」という言葉がよく語られるようになりました。そこで資金調達先を特定せず、複数の金融機関と取引を行う事で財務面の安定を図るようになりました。事例のなかでご紹介した、投資ファンドへ予め一定の株式を売却することも財務リスクを分散させる手法として活用されるようになっています。

ファンドの投資ターゲットが中小企業に向いたことで、投資家からPEファンドへの投資が増加します。これにより、ファンドへの売却案件は年々増加し、完全な売り手市場が形成されています。とはいえ、ファンドが事業承継を必要としている企業を全て買収する、ということは起こりません。あくまでファンドは利益を獲得することを目的としているため企業価値に対しては鋭く目を光らせています。

 

ファンドが重要視するのは企業価値

ファンドは株式の買値と売値の「売却差益」を見込めると判断した時に投資を行います。現在、事業承継を行うファンドは、産業の中で一定のシェアを持つ企業を事前調査し投資戦略を立てています。

上場企業の場合は株式の時価総額でおおよその企業の価値を計ることができますが、非上場企業の場合はそもそも公開株価が存在しないため、企業の評価は非常に困難です。ファンドとの交渉の際には、現在の企業の現在実績と、それによって発生する利益などを評価し企業の価値を算出します。これを「企業価値評価」と言い、一般的に公認会計士といった第三者の視点で評価が行われます。

 

企業価値評価には主に3種類の方法があります。

コストアプローチ
財務状況や株式取得価額から評価する方法(簿価純資産法・時価純資産法)

マーケットアプローチ
市場での取引価格をベースに評価する方法(類似業種比較法・類似企業比較法)

インカムアプローチ
将来獲得が見込まれるキャッシュフローを評価する方法(DCF法・収益還元法)

これらの評価方法を用いて企業価値を算出することは非常に重要ですが、注意すべきなのはそれぞれの評価方法のメリット・デメリットです。企業の特徴に見合った方法を用いて評価しなければ、間違った評価をしてしまうことがあります。

ご紹介した事例のように、時には急遽事業承継を行わなければならないこともあります。企業価値評価も事業承継の準備段階で早めに依頼することが必要です。

 

ファンドへの売却だけが最適解か見極める

事業承継は経営戦略のなかで大きなウェイトを占めています。ですが、事業承継の準備を行えずに廃業にしてしまう企業が多いことは冒頭でご説明した通りです。事業承継を企業の成長戦略のひとつとして捉え、「所有と経営」の分散などにも経営者は取り組む必要があります。

事業内容によっては事業会社とのM&Aや、メインバンクから追加融資を受けることで事業を拡大することが最適解であることもあるでしょう。投資ファンドとの取引は事業承継を円滑に進め投資と経営のバックアップを最大限に受けることが期待できます。
どこから資金調達をして、事業承継を通してどのように事業を拡大するかを見定め、ファンドだけが売却先ではないことを念頭に事業承継の準備を進めましょう。

 

まとめ

ファンドを利用して事業承継を実現した事例をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
冒頭でお伝えしたように、事業承継は国内経済の安定させるために今後10年は活発な市場となります。事業承継問題を抱えている中小企業・小規模事業の経営者の方は、さらなる企業成長・生産性の向上のために、投資ファンドの積極的な利用を是非ご検討ください。

ファンドへの事業承継の事例から読み解く潮流
2017年の経済産業省発行のレポート、「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」では、事業承継問題が日本経済に与える影響が懸念されています。報告では、現状のままだと2025年までに650万人の雇用が喪失し、約22兆円のGDPが失われるという推計が出ています。
この中で、後継者不在問題・事業承継を解決する取り組み事項のひとつに「M&Aの活用、必要な行政サポート等の検討」が挙げられています。官民一体となり中小企業・小規模事業者に対しての投資による支援が必要とされ、民間の事業承継を支援する投資ファンドが大きな役割を果たすと期待されています。
この記事では実際に事業承継を目的にファンドから投資をうけた事例から、今後のファンドへの事業承継の潮流を読み解いていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月1日
ファンドへの事業譲渡の事例から読み解く潮流
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