2019年4月3日 水曜日

ファンドへの事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

近年の日本経済は、内外需が成長したことで、2017年上期の実質GDP成長率は前年比1.9%の上昇を記録しました。しかしながら、経済産業省の調査「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」では、中小企業・小規模事業者の生産性の低下が指摘されています。

経営難で不採算事業を手放したいと考える経営者は少なくなくありません。しかし、不動産だけは手元に残して資産として保有しておき、事業だけを売却したいと考えるケースもあるでしょう。
このような際に事業を売却する方法のひとつが「事業譲渡」です。事業譲渡の性質のひとつ、「事業の選択と集中」によって売却側には多くのメリットを得ることができます。

近年、M&Aが活発に実施され事業譲渡も大きな注目を集めています。その理由は、中小企業・小規模事業者の「後継者不在問題」を解決に導く手段のひとつとされているからです。そのため、国と「民間投資ファンド」が一体となってM&A、事業譲渡の促進を始めています。
会社の経営に関わる方は、事業譲渡について知識を深めておくこと必要があります。今回の記事では事業譲渡の概要から、事業譲渡を行うことで得られるメリット、そして事業の譲渡先は事業会社だけではなく投資ファンドに売却できるという点についてご紹介しています。

 

ファンドへの事業譲渡を検討してみては?


事業譲渡は古くから事業の「のれん分け」の仕組みとして知られてきました。しかしながら、現在では事業の縮小、経営難といったやむを得ない状況で事業譲渡が行われることが珍しくありません。

2017年に投資ファンドが中小企業・小規模事業者に対して行った投資額は、2000年代中盤と比較すると約200%も増加しています。さらに、2018年度には事業譲渡を含む中小企業に対して実施された「M&A」の成約件数・取引額は過去最高を記録しました。この結果は中小企業の経営者の高齢化・後継者不在問題の解決手段として、M&A、事業譲渡が実施された結果です。
さらに、事業譲渡を事業を拡大させるための成長戦略として実施するケースも増えてきています。事業譲渡が果たす役割はひとつではないのです。

そこで、まずは事業譲渡とは?ファンドとは?という重要な用語について解説をしていきます。

 

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、自社の事業の全部もしくは一部を他の事業者に譲渡することです。事業譲渡における「事業」とは有形・無形の資産のこと指し、主な譲渡対象として以下が代表的な例です。
 ・事業会社
 ・商標、ブランド
 ・人材
 ・顧客・取引先
 ・債務
事業を構成するために用いられるものが、事業譲渡の売却対象です。

上記の売却対象の中に「ブランド・商標」が含まれていることに注目すると、事業譲渡が非常に難しい判断を迫られるM&Aであることが理解できます。事業譲渡は事業を他の事業者に引き継いでもらうのではなく、「引き渡す」行為です。(事業をそのままを引き継いでもらう場合は「事業承継」と呼びます。)例えば、事業の買収目的がブランドではなく、技術やノウハウだった場合、それまで大切に育ててきたブランドが失われてしまった事例は少なくありません。

 

ファンドの目的

M&A・事業譲渡を行うファンドは「私募型ファンド」という投資家から集めた資金を運用する事業です。ファンドの主な目的は投資対象の売買差益を獲得することです。主に株や不動産に対して投資を行い、投資対象の経営に関与し価値を上昇させ再売却することで大きなリターンを得ることを目的としています。

中小企業・個人事業者のような株式を非公開としている企業に対して投資を行うファンドを「プライベートエクイティファンド(PEファンド)」と言います。PEファンドの投資の大きな特徴として、長期的な運用を前提としている点です。通常の投資の場合は短期的に投資対象を売買することで利益を獲得します。PEファンドは企業価値、つまり非公開株式を育てて株式公開時に売却することでハイリターンの獲得を目指します。

そのためPEファンドの投資は「支援」と呼ばれることがあり、ファンドに事業譲渡した後に前経営者が引き続き経営に関わることも珍しくありません。その理由はこれまでの事業の中で育ててきたブランドや技術・ノウハウといった資産について、ファンドの第三者の視点で価値をより高めることで、将来的に高いリターンを得るためです。 

 

事業譲渡する目的とは?譲渡した事業はどこへ?

では、ファンドの傘下に入った事業にはどのような変化がおきるのでしょうか?これまで雇用していた従業員の処遇はどうなるのでしょうか?

経営者は前述の通り、前経営者が代表者として引き続き事業の成長のために手腕を振るうことがほとんどです。後述しますが、経営者が高齢でリタイアを希望している場合は、ファンド側が新たな経営者を招致します。

従業員は事業において重要な人的資産であるため、再契約を結ぶことが一般的です。ファンドは長期的に事業の価値を高める必要があります。そのため従業員に対して大規模のリストラを敢行したり、給与・福利厚生の水準を下げたり、といった事業の継続において大きなリスクとなる判断は避けられている傾向です。

 

ファンドへ事業譲渡するメリット


PEファンドが事業を買収する目的は、将来的に高いリターンを獲得することでした。
では、事業を売却する側の企業にとってのメリットは、売却資金の獲得以外には一体どのようなものがあるのでしょうか?

 

事業の選択と集中

企業が事業譲渡を行う目的は様々ですが、主な目的として売却によってまとまった資金が手に入ることが挙げられます。譲渡先から対価として受け取った資金で債務を整理したり、コア事業を拡大させたり、といった新たな施策を打ち出すことができます。

不採算事業を売却し、資金をもとにコア事業に専念することから、「選択と集中」が事業譲渡の特徴とされています。また、事業を売却した資金をもとに新たに事業を立ち上げ、企業価値が高くなったところで事業を売却するケースもあります。

 

事業承継問題の解決策

2016年に経済産業省が発表した「事業承継に関する現状と課題について」では、廃業予定の経営者のうち、後継者不在が理由と回答した企業は過半数を超えています。そのため国は事業承継問題解決のため、「今後10年の集中的な取り組みが必要」として民間投資ファンドと協力し承継事業を勧めています。

現在は事業が順調でも、後継者がいないため廃業しなければならない、事業承継の準備もできていない、といった場合でもファンドへ事業譲渡を行うことで廃業を回避することが可能です。

 

長期的な関係、ビジネスパートナー

PEファンドへ事業譲渡行うと、必然的に長期的なビジネスパートナーとなります。PEファンドは現在の事業の強みは当然のことながら、潜在的な事業価値の発掘まで長期的な投資によって企業価値を高める必要があるからです。

そのため、ファンドは事業譲渡の交渉は友好的なスタンスで行われることがほとんどです。1990年代後半に行われていたような敵対的買収では、企業と長期的な関係を築き事業を成長させることは不可能です。
一方で、将来的に非常に高いリターンが期待できる条件の事業譲渡の案件だったとしても、売却側と友好的な関係を構築できない可能性がある場合、事業譲渡が成立しないこともあります。

PEファンドは、最終的には株式または事業の売却を行いますが、それまでの間に事業価値を高めるための最大限の投資と支援を受けることができます。
企業価値・事業価値を向上させる経営手法や、独自ネットワークを駆使した販路拡大など、あらゆるサポートを事業に投入します。

中小企業・小規模事業者は、事業譲渡によって企業価値を高める方法を経験できる絶好の機会であるとも言えます。また、ファンド側から新たに若い優秀な人材が集められることもあります。中小企業が持つ独自の技術と新しい技術の融合によって新たなサービス・プロダクトがいくつも生まれています。
ファンドと企業の長期的な関係でおこるシナジー効果は事業譲渡後の大きなメリットのひとつです。

 

ファンドへ事業譲渡する際のチェック項目


事業譲渡は資金の獲得にとどまらず、事業成長にも大きなメリットがあることをご紹介しました。
一方で事業譲渡を含むM&Aという取引は、非常に複雑で特殊な取引です。双方に大きな利益がもたらされる期待ができる一方で、一歩間違うと大きな損失が発生する恐れもあります。
ここからは、事業譲渡を検討する際にチェックしておくべき項目をご紹介します。

 

事業譲渡の目的を明確にする

ここまで、ファンドへの事業譲渡は友好的買収が前提で行われているとお話してきました。しかし、事業譲渡の本質は「事業の売買」です。ファンドは可能な限り安く買収したい、企業は最大限高く売りたい、双方は言うまでもなく互いの考えを理解して売買交渉に望みます。
長期的に友好な関係を結ぶ必要があるため、交渉の場で対立するような事は避けるべきです。現在の実績ではなく、過去の実績ベースで売却価格を提示して破談になってしまったケースも存在します。
高額の売却益を得たいという目的は、事業譲渡の目的として非常に明確な理由です。しかし、価格が事業価値にあまりにも見合っていない場合や、譲渡目的があやふやでは、どこを交渉の落とし所とするかの判断ができません。

現実的かつ具体的な売却益、譲渡後の事業での自信のポジション、雇用中の従業員の処遇、など、事業譲渡の目的は明確にしておく必要があります。事業譲渡の検討段階に入ったらまず、その目的を洗い出すところから始めましょう。

 

事業譲渡先

事業譲渡先のファンドの選定は、非常に頭を悩まされるポイントでしょう。
事業譲渡をはじめM&Aについて高度で専門的な知識を有しているのは、銀行など金融機関です。銀行も事業譲渡によって負債の返却が行われ、追加融資が可能になるとなれば協力してくれる可能性は充分に考えられます。

次に、公認会計士や顧問弁護士などが相談先として候補に挙がります。しかし、事業譲渡の準備段階で最も避けなければならないのは、事業譲渡の話が外部に漏れることです。事業の経営者・所有者が変わることは、取引先や顧客や従業員に悪い憶測を抱かせてしまうことがほとんどです。最悪の場合、現状の経営に悪影響を及ぼし、事業の売却価格が大幅に下がってしまうといった可能性があります。

そのため、事業譲渡先を相談する際は、信頼できる少数の相手に限定して行うことが重要です。実績のあるM&A仲介業者を利用して売却先となるファンドを紹介してもらう手段は、安全に譲渡先を選定する手段のひとつです。

 

事業価値

売却先のファンドが決まり、事業譲渡の内容の詳細な条件交渉で最も重要になるのが「事業価値」です。

上場企業のように株式時価総額が存在しない、さらに数ある事業のうちのひとつを売却するとなると、評価算出は困難を極めます
事業価値の算出はいくつかの方法で行われます。「DCF法(Discounted Cash Flow Method)」という方法は事業譲渡の際によく用いられる算出方法のひとつです。「現在の事業価値の評価」と「事業が将来的に生み出す※キャッシュ・フロー」の合計で事業価値を算出します。(※キャッシュ・フロー:一定期間における資金の流れ)

事業評価は公認会計士に依頼するのが一般的です。数値で示されることで明確になる事業価値ですが、注意すべき点があります。それは、評価方法にはそれぞれにメリット・デメリットがあるため、本来計上されるべき価値が見落とされている、といった事態が起こり得るという点です。ファンドとの価格交渉で損をしてしまわないためにも、様々な側面から事業価値を見極める必要があります。

 

まとめ

ファンドへの事業譲渡を検討する上で重要なチェック項目について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
今後ますます盛んになるとされているM&Aを上手く活用し、事業の発展を検討してみてください。ファンドへの事業譲渡は自社の力だけでは解決できない問題に直面した際に有効的な解決手段のひとつです。この記事が経営課題の解決策、事業譲渡の検討の役に立てていれば幸いです。

ファンドへの事業譲渡を検討する際のチェック項目
近年の日本経済は、内外需が成長したことで、2017年上期の実質GDP成長率は前年比1.9%の上昇を記録しました。しかしながら、経済産業省の調査「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」では、中小企業・小規模事業者の生産性の低下が指摘されています。
経営難で不採算事業を手放したいと考える経営者は少なくなくありません。しかし、不動産だけは手元に残して資産として保有しておき、事業だけを売却したいと考えるケースもあるでしょう。
このような際に事業を売却する方法のひとつが「事業譲渡」です。事業譲渡の性質のひとつ、「事業の選択と集中」によって売却側には多くのメリットを得ることができます。
近年、M&Aが活発に実施され事業譲渡も大きな注目を集めています。その理由は、中小企業・小規模事業者の「後継者不在問題」を解決に導く手段のひとつとされているからです。そのため、国と「民間投資ファンド」が一体となってM&A、事業譲渡の促進を始めています。
会社の経営に関わる方は、事業譲渡について知識を深めておくこと必要があります。今回の記事では事業譲渡の概要から、事業譲渡を行うことで得られるメリット、そして事業の譲渡先は事業会社だけではなく投資ファンドに売却できるという点についてご紹介しています。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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