2019年5月5日 日曜日

建設業のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

株式会社東京商工リサーチの調べでは、2018年に全国で休業、廃業、解散した企業は約4万7千件にのぼり、前年に比べ約14%も増加しました。また、休業、廃業、解散をした企業の経営者は8割以上が60代以上となっています。2016年の時点で一番多くの割合を占めていたのは60代でしたが、2018年には70代が全体の4割を占め、60代の17%を大きく上回っています。

これらのことから、経営者の高齢化が休業、廃業、解散の大きな要因となっていることがわかります。休業、廃業、解散の割合を産業別に見ると、1位はサービス業で約3割、2位は建設業で2割となっています。事業継承は、休業、廃業、解散に比べて、経営者や従業員が多くのメリットを得ることができます。今回はどうすれば建設業の事業継承を成功させることができるのか、注意点やポイントなどを見ていきたいと思います。

 

建設業のM&A

M&Aとは

M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略で、直訳すると「合併と買収」です。合併と買収と聞くと身構えてしまう方もいるかもしれませんが、複数の企業を一つにし、一方の企業が別の企業を買うことだけでなく、事業の再編や統合全般のことも指します。

1990年代前半に起こったバブル崩壊後、国際的な競争力や収益率を回復させるため、多くの企業が事業再編を行いました。また、企業が事業再編を行うために政府が援助として行った民事再生法や社会更生法などの法律の改正によって、倒産処理過程でのM&Aの適応範囲は拡大しました。バブル崩壊後の日本において、事業再編の手段や大型企業倒産の処理手段としてM&Aは活用されていたのです。

事業の再編と統合には、資本が移動するものと移動しないものとがあります。資本が移動するものの例として、株式譲渡や事業譲渡による買収や、複数の企業が1つの企業になる合併があげられます。資本が移動しないものの例は、契約などを通じ共同で研究や開発を行い、仕入れや物流を共同化する業務提携などがあります。

 

建設業界の動向

建設業界の今後は、長期的に見て右肩下がりだと考えられています。1992年にバブル経済の影響で約84兆円となった建設投資額は、その後下降が続き、2010年には約42兆円まで減少しました。しかし、2013年に東京オリンピックの開催が決定したことで、建設投資額は50兆円以上へと回復し、2016年には約52兆円となりました。今後も建設投資額が回復し続けるのかどうかは、2019年に予定されている消費税増税や、2020年の東京オリンピックの影響で変化するため、意見が分かれているところです。

建設業界の動向としてもう一つ注目すべきなのはサービスの統合化です。従来の建設業界では、建物や設備が完成した時点で仕事が終わると考えられてきました。しかし、最近はリニューアルやメンテナンスなどの依頼が増えており、購入後の総合的なサービスを求められることが多くなっています。このことにより、建築業界に求めるものは、標準的な建物や施設を「いかに安く作るか」から「いかに質の高いサービスを継続的に総合的に提供していくか」へと変化してきているのです。

 

建設業界のM&A

建設業界は長年、業界再編が起こりにくいと言われてきました。その第一の理由は、建設業の受注生産方式にあります。建設業の場合、まったく同一の工事というものはなく、一つ一つの発注に個別に対応が求められます。このため、現場ごとに資材や機械、人員を確保しなければならず、規模を大きくすることで同じ仕事を効率的に、費用を抑えて受注できるという、いわゆる規模の経済が働きにくい構造となっていたのです。

建設業界で業界再編が起こりにくい第二の理由は、公共工事などで行われる入札制度です。最近はさまざまな観点から業者を評価する「総合評価方式」が導入されることも多くなりましたが、基本的には最低価格で入札した業者が落札します。合併などで企業が1つになってしまうと、それだけ入札参加機会が限定されてしまうため、企業合併が起こりにくいのです。

そんな中でも、現在の建設業界ではM&Aが活発化しています。その要因として、建設需要の増大による人手不足に対応するためにM&Aを活用する動きがあることや、大手建設会社が総合的で質の高いサービスを提供することを目指しM&Aを活用しようとしていることが挙げられます。大手建設会社は、M&Aによって多数の業態をグループに取り込み、「メガ・プラットホーム」を構築しようと考えています。このように、近年の建築業界に対する需要の変化が、業界再編が起こりにくいとされていた建設業界の常識を変えたのです。

 

建設業のM&Aを行う理由は?

では、建設業の経営者がM&Aを選択する理由にはどのようなものがあるのでしょうか。代表的な理由をいくつかみていきましょう。

 

後継者問題の解決

現在、中小企業にとって後継者不足は大きな問題となっています。1995年の経営者年齢のピークは47歳でしたが、2015年には66歳となり、経営者の高齢化は深刻になっています。また、60歳以上の経営者の約半数が後継者不在となっており、廃業の予備軍とも呼べるこのような企業は今後も増加していくと考えられます

また、直近10年前後で休廃業した業者を業種別に見てみると、最も件数が多かった業種は建設業となっています。建設業の経営者が高齢により事業継承を希望しているにも関わらず、受け継ぐべき後継者が見つからずに休廃業に追い込まれてしまうという企業は決して少なくありません。

この後継者不足の問題を解決する切り札として、M&Aが活用されています。M&Aでは、今まで身内や知り合いのみに限定されていた事業の継承先を、非常に広い範囲から探すことができます。また、今までの事業が評価されるなどの経営者にとってのメリットだけではなく、既存事業が果たしてきた役割が存続するなど、地域社会にとってもメリットがあるのです。

経営者が病気や事故などによって今まで通りの事業を続けられなくなることもあります。この場合も、後継者問題と同様に、M&Aを活用して事業を継承することで廃業に追い込まれることが少なくなります。

 

現金の獲得

廃業に追い込まれた企業は、事業を解体し、所有していた設備や機材などを処分することになります。しかし、経営者に債務があった場合、廃業してもその債務がなくなるわけではありません。

M&Aが成功した場合、経営者は今までの事業ノウハウや、顧客、評価なども含めた事業価値を現金に換えることができます。つまり、M&Aを行うことで一度に大きな現金を獲得できる可能性があるのです。なかには、このM&Aによる会社の売却を目的として起業する経営者も存在します。このような経営者は、企業の経営を成功させることで事業価値を高めたのち、企業を売却することで、多額の現金を獲得することを目指しています。

 

戦略的M&A

戦略的M&Aとは、企業の経営者が、自社の抱えている経営課題を解決するために実施するM&Aです。経営者は自社を大手企業に株式譲渡し、自身は大手企業の子会社の社長となることで引き続き経営を行います。経営者は、自社を売却することによって形式的には独立した経営者としての地位を失うことになりますが、買収会社の資金力や信用を背景として、今まで行うことができなかった設備投資や大手企業のネームバリューにより採用活動などが容易になるなど、今まで抱えていた経営課題を強化することができます。

また、不況により資金繰りが厳しくなることが予測できる場合、あらかじめ資本を強化するためにM&Aで事業売却を行うこともあります。

 

建設業のM&Aを行うタイミングは?

建設業のM&Aを行う上で大切なのは、M&Aを実施するタイミングです。業界の需要が多くなればそれだけ買取需要が高まり、M&Aを成功させやすくなります。また、自社の業績が好調であれば、それを買い手にアピールすることでさらにM&Aを成功させやすくなるでしょう。

現在、建設業界の買取需要は非常に高まっています。これは、震災復興や東京オリンピックなどによって建設需要が増大していることが要因と考えられます。しかし、東京オリンピック終了後も今の状態が続くかどうかはわかりません。建設業界の買取需要が高まっている今がM&Aを行うタイミングといえるでしょう。

 

建設業のM&Aを実施するのは誰か?

建設業でM&Aを実施する場合、どのような企業が買収や売却を行うのでしょうか。一般的なM&Aの形をご紹介します。

 

同業者同士による買収、売却

人材不足などにより廃業が差し迫っている地方の建設会社が、同業者に事業譲渡や売却を行う形です。この場合、売り手側は廃業することなく事業を第三者に引き継ぐことができ、買い手側は人材の確保や商圏の拡大が期待できます。

 

異業種の企業同士による買収、売却

建設業の企業と異業種・他業種の企業がM&Aを行う形です。それぞれの業界ごとの強みを生かし、事業の拡大を目的にM&Aを行います。

 

海外企業とのM&A

最近増加しつつあるM&Aの形として、海外企業とのM&Aがあります。2020年以降の国内建設業の需要に不安がある中で、海外需要を獲得することが目的です。

 

建設業のM&Aの相談先は?

M&Aを行うには、M&Aの検討事項や財務、法務など、M&Aに関する専門知識が必要になります。

経営者が独力で事業売却を行うことは、時間的にも専門知識的にも現実的とは言えません。では、実際にM&Aによる事業売却を考えた際、誰に相談すればよいのでしょうか。

M&Aについて相談できる窓口には、士業事務所や金融機関、商工会議所、M&A仲介業者などがあります。それぞれ特徴やメリット、デメリットがありますので、よく検討し、自分にあった相談窓口を選ぶことが大切です。

 

士業事務所のメリット、デメリット

士業事務所とは、税理士や司法書士、弁護士、公認会計士、行政書士、中小企業診断士などのことです。企業の経営者には身近な相談窓口であり、顧問として長く信頼関係にある事務所ならば会社の状況も理解していることでしょう。税金や法律、会計などの専門知識を持っているという点もメリットです。デメリットとしては、士業事務所の場合だとエリアや情報が限定されてしまうため、M&Aの良い相手先を探すことができない場合があります。また、M&Aの専門家ではないため、M&Aの手続き全てに明るくない事務所や、M&Aに関する業務を行っていない事務所も存在します。相談の際には、M&Aについての見識があるかどうかを確認しましょう。

 

金融機関のメリット、デメリット

銀行や信用金庫、証券会社などの金融機関でもM&Aの相談をすることができます。会計に関するノウハウがあるほか、金融機関の広範囲にわたるネットワークを活用することができるため、M&Aの相手先を探しやすいというメリットがあります。しかし、金融機関は主に一定規模以上の大手企業を対象にしているため、中小企業が相談することは難しい場合があります

 

商工会議所のメリット、デメリット

商工会議所の中には、M&Aの相談窓口を開設しているところもあります。地元企業や地域特有の産業についての情報が多いため、地元の企業とM&Aをしたいと考えているのならば良い情報源となります。デメリットとしては、全国の商工会議所が相談窓口を開設しているわけではないことと、登記や税金などの手続きは自力で行わなければならないことです。

 

M&A仲介業者のメリット、デメリット

M&A仲介業者はM&Aに特化した専門家で、初期段階の相談から、マッチング、手続き、最終契約締結まですべて引き受けてくれます。M&Aに関することをすべてM&A仲介者に任せることで、経営者は通常業務に専念することができます。デメリットとして、仲介会社によって料金設定や特化している分野が異なることが挙げられえます。M&Aを初めて検討する場合は、マッチングから最終契約締結までを一貫してフォローしてくれる仲介業者を選びましょう。

 

まとめ

いかがでしたか?今、建設業界では、後継者不足や人員不足、高齢化の問題が深刻になっています。また、2020年以降の国内需要に不安があることも指摘されています。今までM&Aについて考えたことがなかったという方も、ぜひこの機会にM&Aという選択肢を考えてみてください。

建設業のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
株式会社東京商工リサーチの調べでは、2018年に全国で休業、廃業、解散した企業は約4万7千件にのぼり、前年に比べ約14%も増加しました。また、休業、廃業、解散をした企業の経営者は8割以上が60代以上となっています。2016年の時点で一番多くの割合を占めていたのは60代でしたが、2018年には70代が全体の4割を占め、60代の17%を大きく上回っています。
これらのことから、経営者の高齢化が休業、廃業、解散の大きな要因となっていることがわかります。休業、廃業、解散の割合を産業別に見ると、1位はサービス業で約3割、2位は建設業で2割となっています。事業継承は、休業、廃業、解散に比べて、経営者や従業員が多くのメリットを得ることができます。今回はどうすれば建設業の事業継承を成功させることができるのか、注意点やポイントなどを見ていきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年5月5日
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