2019年5月6日 月曜日

建設業の事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

最近、都内や観光地の商業施設やホテル、公共施設の改築が数多く見受けられます。また、新築ビルの工事現場も各地に多く見られます。2019年秋に予定されているラグビーワールドカップや、2020年の東京五輪の集客のために、設備の改修やリニューアルをする企業が多いということがその理由として挙げられます。

こうした工事現場で働く人、建設業者は、いわゆる3K(仕事がきつい、汚い、危険)という現状に加え、かつてない程の人手不足により過労働を強いられています。若い世代の中で、いわゆるブルーカラーのなり手が少ないのが現状です。加えて、建設業の中でも個人事業主の会社では、経営者の高齢化や後継者不足という問題が発生しています。人手不足を解消し、後継者問題を解決するために、建設業の事業譲渡という選択肢について考えてみましょう。

 

建設業の事業譲渡を検討してみては?

従来、建設業は、事業譲渡での売却が難しい業界だとみなされてきました。別会社であった方が公共工事の入札参加機会は増える上に、そもそもスケールメリット(企業規模の拡大によって得られる様々な効果の総称)が働きにくい業界であったことが理由として挙げられます。よって事業譲渡の成功例は少なく、収益力の低下も影響して、建築業では多くの企業が廃業する傾向にありました。

しかし、最近は人材不足の解消を目的として、事業譲渡に乗り出す会社が増えつつあります。建設会社では、会社の後継者不足や経営不振などの理由から、会社の建設部門を事業譲渡するケースがあります。事業譲渡が会社の合併と異なる点は、公告や登記をする必要がなく、事業譲渡した業務以外は従来通り存続できるので、合併に比べて各種手続きも簡略化できる点が挙げられます。

ただし、建設業界において忘れてはならないのが、許可や経営事項審査が関わってくることです。例えば、譲り受ける会社が業種の許可を持っていない場合は、新たに許可を取得しなければなりません。また、経営事項審査(国、地方公共団体などが発注する公共工事を直接請け負う場合に必ず受けなければならない審査)は、合算した状態で改めて審査を受け直す必要があります。これは譲渡時経審といいます。建設業界の事業譲渡においては、事業継承後の会社が以下の許可要件を満たせるかが重要です。

・経営業務の管理責任者
・専任技術者
・誠実性
・財産的基礎 など

国も建設業の廃業問題に関して手をこまねいて見ている訳ではありません。国交省は平成31年1月31日に建設業における事業承継について基本問題委員会を開きました。その場で話し合われたのは、個人事業主が高齢化する中で、早期の事業継承は喫緊の課題となっていること、個人事業主の事業継承が阻害されないよう建設業の許可制度について何らかの措置を検討すること、さらには、個人事業主の事業継承時の許認可手続の簡素化といった議題が討議されました。ちなみに、全業種の個人事業主のうち、建設業者が占める割合は7%です。他の産業と比べて建設業界では経営者の高齢化が顕著です。事業を継承することは重要課題の一つなのです。これに対応する方策として、事業譲渡による企業の再編は今後も選択肢の一つとなるでしょう。

最近よく耳にする建設業の外国人労働者の受け入れも新たな課題です。人材不足を補うため、2019年4月から新たな在留資格が新設されました。外国人は建設現場での型枠、左官、鉄筋施工といった単純労働に従事し、最長5年間働くことができるようになります。2025年までに30万人の受け入れが目標とされています。

他の業界も同様ですが、建設業界においても、個人事業者の高齢化による後継者不足や、外国人のマンパワーを借りなければ成り立たないといった問題があります。今後、国がどのような方向で取り組んでいくのか、企業として生き残るためにどの道を選ぶのが賢明か考える必要があります。

 

建設業を事業譲渡するメリット

事業譲渡とは、会社の事業を第三者である別の会社に譲渡する事を意味します。この場合の事業とは、有形・無形の財産・債務、人材、ノウハウ、ブランド、取引先との関係など全ての財産を指します。事業譲渡はM&Aの手法の一つです。一度事業譲渡をすると、それ以降は同じ事業を行うことが制限されます(競業避止義務)。事業譲渡は、会社の事業の全てを譲渡することもできますし、一部の事業のみを譲渡することも可能です。買い手にとっては、契約の範囲を定めることで、帳簿外にある債務(簿外債務、偶発債務)を遮断することができるのがメリットの一つです。

事業譲渡をする目的には以下のようなものがあります。

・不採算部門を処分する際に赤字になっている事業だけを事業譲渡で切り離す
・ノンコア事業を事業譲渡で外してコア事業だけに集中する
・新規事業をスタートするため、他の事業を譲渡してもらう
・事業譲渡で他の事業を全て手放し、残った法人格で新しい事業を立ち上げる

また、先ほどから繰り返し言及している、経営者の高齢化問題ですが、経営負担の大きい事業を事業譲渡で手放し、経営負担の少ない事業のみを残しておくことで、老後の生活資金を稼ぐ猶予を作っていけるというケースがあります。これにより、経営者の生活は保障され、コア事業を他社に事業譲渡することでブランドやノウハウを存続させることができます。

事業譲渡は様々なケースで有効な手法であり、個々の企業が抱える問題を解決するのに役立っています。買い手側と売り手側の主なメリットは次章のとおりです。

 

買い手側のメリット

・譲渡対象の資産や負債の範囲を当事者間で自由に決めることができるので、欲しい部分だけを手に入れられる
・人材不足を解消できる
・経験豊富な技術者や技能者を確保できる
・売り手側、買い手側それぞれの得意分野を活かすことができる
・工事実績を引き継ぐことができる
・新規顧客、取引先を獲得することができる
・事業エリアを拡大させることができる
・資材の一括購入によるコスト削減ができる

 

売り手側のメリット

・自社に残したい事業はキープしつつ不採算部門を譲渡することで、財務状況を改善できる
・後継者ができることで会社の存続が図れる
・守ってきたノウハウやブランドを残すことができる
・従業員の雇用を安定させられる
・キャピタルゲインを獲得できる
・借入金の個人保証や担保を解消できる
・買い手から資金援助を受けることで、運転資金を確保できる
・会社を清算するよりも、税制の優遇などによって多くの手取りを得られる

 

建設業を事業譲渡する際のチェック項目

事業譲渡の目的

事業譲渡を選択するにあたっては様々な目的があります。代表的な例を見ていきましょう。

 

・後継者を見つけるため

後継者がいないため廃業せざるをえない企業は多くあります。廃業には多くの費用がかかる場合があり、結局手元に残ったのは負債のみというケースも少なくありません。譲渡によって後継者が見つかれば、従業員の雇用を守れる上に、経営者は売却益を手にすることができます。

 

・債務超過を解消するため

事業譲渡により得た対価で、それまでの債務を精算することができます。

 

・経営の健全化を目指すため

不採算部門からの撤退、売却益を用いた事業の再建、赤字部門の他社への事業譲渡などによって、経営の健全化を目指すことができます。

 

・多角化した事業や子会社を売却し中核事業に注力するため

手を拡げすぎた経営の縮小化を図り、コアとなる事業に集中することができます。

 

・大手企業の傘下に入り会社を安定させるため

大きな組織の元で安定した事業を行い、従業員の生活やモチベーションを保つことができます。

 

事業譲渡に際しては、今後も継続していきたいことや、どこまでなら譲歩できるかなど、条件を事前に明確にしておくことが重要です。売却先に対してそれを伝えることが、今後の会社のあり方にもつながっていきます。

 

事業譲渡先

事業を譲渡する相手選びは特に慎重に行うべきポイントです。近年では、ハウスメーカーが大手ゼネコンを買収するケースも増えています。また、これは譲渡ではありませんが、異業種の企業同士が新たな会社を興し、互いの特長を活かしながら建設業を営んでいく例もあります(例:パナソニックとトヨタの事業統合)。このように、必ずしも建設業が本業ではない企業同士のM&Aも最近では見ることができます。

建設業は、元請けであるゼネコンの存在があり、そこから仕事を請け負う下請け業者の存在があります。下請け業者にも、一次下請け、二次下請け、三次下請けなどがあり、階層的に仕事の流れがあります。
請け負う工事の内容別に、土木工事、大工工事、鉄筋工事、鋼構造物工事、板金工事、塗装工事、防水工事、とび・土工・コンクリート工事、屋根工事、石工事、水道管工事、足場工事、左官工事、電気工事、硝子工事、内装工事、ガス工事、電気通信工事、造園工事、建具工事などの専門工事業者が存在します。これらの共同作業で建設物は成り立っているのです。

元請けの建設業が他社に事業譲渡する場合、これまで長く一緒に仕事をしてきたこれら下請け業者は今後どうなるのかも考えなければならない問題です。付き合いがあった下請け業者にこれまでどおり仕事をまわせるのか、譲渡先と検討しなければなりません

譲渡先を見つけるには、仲介業者の存在が欠かせません。仲介業者は、売り手側の希望を満たす譲渡先や譲渡条件を紹介してくれます。仲介業者を使うメリットは、時間や手間が省けることです。過去に似たような建設業の事業譲渡をした実績を持つ仲介業者なら、なおのこと安心です。

なお、事業譲渡に関しては、秘密保持も大切な要件です。譲渡の交渉中に、従業員や代理店、仕入れ元、下請け業者などに譲渡の話が漏れると、余計な憶測を生み、従業員や関係者の不安を煽ることになってしまうからです。事業譲渡の話が形を成すまでは、極力秘密裏に話を進める事が大事です。

 

事業価値

事業価値とは、会社が行っている事業や事業に利用される資産が将来に渡って生み出す価値の総和を指します。この場合の価値とは経済的価値のことで、事業から得られるフリーキャッシュフローの現在価値を、会社が存続するという前提の元で将来に渡り算出し、それらを合算することで求められます。

事業譲渡における対象企業のバリュエーションは、以下のように算出されます。

事業価値=対象事業の資産時価+(実質営業利益×3)

※対象事業の資産価値とは、売り手側が現在行っている事業の価値の事を指します。

※実質営業利益とは、企業の本業による利益の事を意味します。売上だけでなく、売上から人件費や材料費などの経費を引いて算出します。

事業譲渡の話が本格化してきたら、事業価値を算出することが重要です。事業譲渡に際しては、買い手側が売り手側の事業を引き継ぐことになるため、買い手側にとって、売り手側が現在行っている事業の価値は大事なチェックポイントとなるのです。

 

タイミング

事業譲渡のタイミングは、早いに越したことはありません。社内で地道に準備をしている間に、他社に先を越されることもあるからです。他社に先んじて、人材や技術、シェアを獲得する事が、より良い条件での事業譲渡へとつながります。また、新規事業に乗り出す際にも、研究や技術開発、社員教育の時間を短縮することができます。さらにいえば、事業が悪化してから動き出すのでは、事業価値が低くなってしまいます。より良い条件で会社を買い取ってもらうには、業績が良く経営者が高齢化してしまう前に検討を進めるのがよいでしょう。

 

まとめ

以前は、個人の住宅建築や改築を請け負うのは個人事業主の〇〇工務店や〇〇建設などでした。しかし、事業主の高齢化と後継者不足で個人事業主の建設業は少なくなり、大手ハウスメーカー(三井林業、ミサワホームなど)の旗が建設現場にはためくようになってきました。個人の住宅は、従来、技術のある大工さんや左官屋などが手間暇かけて作ったものですが、最近のハウスメーカーによる住宅は、予め工場で材料を用意し、現場で組み立てるといった手法が多くとられます。時代の流れと共に、個人の住宅でも経営者や作り方に変化が生じているのです。規模の大きいビルやホテル、商業施設などを造る建設業にも、従業員や仕事の流れに変化が生じるのは当然のことです。

経営を存続させるためにすべきことは何なのか、事業譲渡を含めて早めに検討することが求められます。

建設業の事業譲渡を検討する際のチェック項目
最近、都内や観光地の商業施設やホテル、公共施設の改築が数多く見受けられます。また、新築ビルの工事現場も各地に多く見られます。2019年秋に予定されているラグビーワールドカップや、2020年の東京五輪の集客のために、設備の改修やリニューアルをする企業が多いということがその理由として挙げられます。
こうした工事現場で働く人、建設業者は、いわゆる3K(仕事がきつい、汚い、危険)という現状に加え、かつてない程の人手不足により過労働を強いられています。若い世代の中で、いわゆるブルーカラーのなり手が少ないのが現状です。加えて、建設業の中でも個人事業主の会社では、経営者の高齢化や後継者不足という問題が発生しています。人手不足を解消し、後継者問題を解決するために、建設業の事業譲渡という選択肢について考えてみましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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