2019年5月18日 土曜日

建設業の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

「人材不足」と「経営者の高齢化と後継者不足」は、多くの建設業者が抱えている共通の問題です。これらを解決するために、「事業売却」という選択肢があります。

M&Aが売り手企業の会社全体を吸収・合併するのに対して、事業売却は、売り手企業の一事業、もしくは複数の事業を相手企業に買い取ってもらう形式を指します。事業のみを売却するので会社自体を売却することにはなりません。事業売却をすることで、会社として次のステージへステップアップしたり、一部の事業に集中したり、あるいはそれを機に経営者が引退したりすることもあります。ここでは、M&Aとは違った側面を持つ事業売却について、その目的や注意点について解説します。

 

建設業の事業売却で次のステージへ

内閣府が2019年5月13日に発表した国内景気の基調判断は、6年2カ月ぶりに悪化となりました。外需の低迷で、生産や輸出が落ち込んだことが主な理由です。自動車の出荷指数や鉱工業生産指数も落ち込みました。半導体やフラットパネルの製造装置など資本財の出荷についても落ち込みが見られます。

 

一方、建設業に目を転じてみると、東京五輪に関連した工事の特需で、一見景気は良好です。オリンピックの競技施設は40会場以上あります。既存の施設を使う競技もありますが、カヌー・スラロームセンターや大井ホッケー競技場など新たに建設される施設も多く、特に東京の建設業界は五輪特需の恩恵を受けています。

国内外からの観客を収容する宿泊施設の建設や、公共の建物、商業施設、百貨店、飲食店など、客を迎え入れる施設の整備・建設も急ピッチで進んでおり、併せて道路や鉄道等交通インフラの整備も行われています。

 

2019年秋に開催されるラグビーワールドカップも同様で、多くの集客が見込まれています。人が集まれば、それを収容する施設が必要になり、食事や買い物ができる店舗はリニューアルをして集客に努めるでしょう。こうした世界的なスポーツイベントの設備造営に携わっている建設業者は、表向きは好景気を呈しています。しかし、諸手を上げて喜んでばかりはいられません。建設業界は、かつてない深刻な人手不足と後継者不足に見舞われているのです。仕事はあるのに、人手がないため仕事を請けられず廃業する会社もあります。

東京五輪の開催都市は、設備整備で活況を呈していますが、一方、地方の建設業からは、「景気は悪くないと言われているにも関わらず、実際の問い合わせは少なく、景気の良さを全く感じられない。」「受注は増加しているものの、安い単価で仕事を請け負う他業者の存在により、低価格で仕事を請けざるを得ず、利益は減少傾向にある。」といった声も聞かれます。

仕事があって報酬の高い都市部に技術者や作業員が集中しがちで、地方では人材の不足が更に顕著になり、中堅を中心に廃業が増えているのです。

 

このように、都市部でも地方でも建設業の置かれている状況は複雑です。需要はあるのに請け負えない、後継者がいない、利益を上げることができないなど、様々な理由から企業の行く末に不安を抱えている経営者は少なくありません。

そこで、事業売却という手段によって事業の存続や成長を試みようとする流れが、こと建設業界においては主流になってきています。後述するように、事業売却によって得られるメリットは実に多岐にわたります。事業譲渡という手段によって、企業そのものが新たなステージに進むことが求められているのです。

 

建設業を事業売却する目的にはこんなものがあります

売却目的

建設業の事業売却には様々な目的が存在します。例えば下記のような目的は代表的です。

・事業を拡大させる

・新しい業界に進出する

・両社の得意分野やノウハウを生かす

・外注していた工事を社内で施工する

・海外に進出する

・後継者不在問題を解消する

・廃業を避ける

・従業員の雇用を確保する

・財務の安定やブランド力の向上を図る

・取引先や顧客へ与える影響を最小限にとどめる

 

上記の主な目的について、以下で解説します。

・事業を拡大させる

自力で事業を拡大させるには、既存の契約を続けつつ入札などを通して地道に事業を拡大していく必要があり、多くの場合多大な時間と労力を要します。事業売却を通して資金力がある大手の傘下に入ることによって、これまで扱ってきた事業を一度に拡大させることが可能です。

 

・新しい業界に進出する

買い手企業のバックグラウンドを足がかりとして、それまでとは異なった業界に進出し新しい事業に着手することができます。建設業は他業界との親和性があまりないように思う方も多いかもしれませんが、後述する通り、業界進出を目的とした事業譲渡も多数存在します。場合によっては、本業よりも新規事業の方が利益を生み出し将来的に業態を変革していく可能性もあります。

 

・両社の得意分野やノウハウを生かす

買い手側と売り手側双方の得意分野やノウハウを共有することにより、効率的に技術力を上げて両社ともに相乗効果を得ることができます。建設業はスケールメリットが効きづらい業種だと言われていますが、よりクリエイティブで時代に合ったサービスを提供する高い技術力の有無は、今までの施工経験や取引先との関係によって大きく影響を受けるため、事業譲渡によって得られるメリットの一つだと言えます。

 

・外注していた工事を社内で施工する

工事の上流から下流までを一手に自社で請け負えるようになることで、直接的にはまず費用や人件費を削減することが可能になります。また、外注工事を社内で施工するにあたっては既存業務の見直しが必要不可欠であり、これによって無駄なプロセスを見直して全体的な業務の効率化を図ることもできます。

 

・海外に進出する

国内の建設需要は高いものの、自社の強みとする分野が将来的に高い需要を保つかどうかは定かではありません。近い将来に不安のある企業の経営者にとっては、事業売却を通して建設需要がより大きな海外市場を狙う場合も少なくありません。海外進出の足がかりとして、海外の企業に事業売却をするケースも増えています。

 

・後継者不在問題を解消する

建設業に限ったことではありませんが、経営者のみならず、従業員や技術者も高齢化している昨今、若手がいる企業に事業売却することで、事業の継続を図ることができます。

    

・廃業を避ける

事業売却は売り手の事業のみを買い手が買い取るため、一般的なM&Aと異なり、売却後売り手企業は独立して存在できます。売却する事業を一事業だけに絞ったり、複数の事業に限定したりと、売却する範囲を決めることができるので、会社を残して事業を手放したり、会社を手放して事業を残したりといった売り手側経営者の希望に沿った措置を取ることができます。

 

・従業員の雇用を確保する

廃業した場合には従業員の解雇という最終手段を取らざるを得ません。従業員やその家族の生活を守るべく、事業とともに従業員も買い手側に引き継げるよう事業を売却する場合もあります。

 

・財務の安定やブランド力の向上を図る

買い手側が業界でも大手の部類に入る企業であれば、事業売却により売り手側の経営状態を安定させ、そのブランド力により取引先からの信頼も得ることもできるようになります。

 

・取引先や顧客へ与える影響を最小限にとどめる

これまで取引があった代理店や仕入元、顧客も、取引先企業が変わることには少なからず不安を覚えます。事業売却であれば、対象となる事業のみを売却しそれ以外の事業は残すことができるので、必要以上の不安を与えずに済みます。

 

業界進出を目的とした事業売却の具体例

建設業の事業売却の目的として事業の拡大や経営の安定といったものは想像しやすいところかと思いますが、全く新たな業界への進出を目的としたものには一体どのような例があるのでしょうか。ここでは具体例を2つご紹介します。

 

建設会社が化粧品の開発に成功

青森県の総合建設会社は、地元に建設業以外に雇用の受け皿がない状況を鑑み、地域を活性化するためのビジネスを考えました。現地に多く生息するヒバを加工した化粧品の開発に成功し、現在では化粧品工場を建設して多くの雇用を生み出しています。

 

建設会社が介護事業に参入

北海道の建設会社は、高齢者・障害者が住みやすい住環境を考えたリフォーム事業に着手しました。社内に居宅介護支援事業所を設け、ケアマネージャーが介護を必要とする高齢者に関わりながら住宅改修の支援を行っています。リフォーム事業室のスタッフは、福祉環境コーディネーターの資格を持ち、介護保険の仕組みを理解し、かつ建築のサポートを行っています。

 

上記のように、建設業とは一見親和性のない業界であっても、事業売却という手段によって進出を実現している企業は数多く存在します。

 

建設業の事業売却を行う上での注意点

実際に事業売却を行う上で、建設業ならではの注意点があります。以下で主なポイントをご紹介します。

 

建設業許可

建設業の事業売却に際しては、建設業許可を承継する必要があります。建設業許可を維持するには、経営業務管理責任者と専任技術者の2つの要件が欠かせません。事業売却を行う際には、これらの要件を満たさなくなる可能性がないか、事前に確認する必要があります。

経営業務管理責任者とは、営業取引上対外的に責任を有する地位にあり、建設業の経営業務について総合的に管理執行した経験を持つ人のことをいいます。

経営業務管理責任者は常勤で、法人においては役員が務めます。専任技術者とは、建設会社における専任技術者です。建設業の許可種類ごとに一定の資格や経験を持つ人のことをいいます。

 

建設機械や重機の処分

売却に際して、売り手側がこれまで所有していた建設機械や重機が不要になった場合、これらの機械の処分も大きな問題となります。同業者や専門業者に見積もりを依頼して売却しなければなりません。

ここで注意することは、重機や機械が会社の資産ではなく、リース物件であった場合です。間違ってこれを売却してしまたりするとトラブルの原因になります。売り手側は、売却に当たっては、会社の資産も洗い出して、リース物件がどれなのかも整理しておく必要があります。

 

工事中の物件

工事中の物件には特に注意が必要です。できるならば、現在作業をしている工事は全て完了させてから事業売却に臨みたいところです。しかし、長い工期で受けている物件があるとそういう訳にもいきません。その際は、工事の残りを引き継いでくれる業者を見つけるか、後継業者に引き継ぐか検討する必要があります。後継業者との費用の割合も明らかにしましょう。いずれの取り決めも発注者に正しく伝えておかなければなりません。

 

資金の回収と支払い

建設業界では、売掛金の回収や手形を振り出した日から支払い期日までの期間が長いのが特徴です。売却に際しては、売掛金、買掛金の確認を行い、きちんと精算できるようにしておきましょう。手形を使っている場合は、当座預金口座に現金を残しておくことも必要です。

 

まとめ

建設会社の事業売却が他のM&Aと大きく違う点は、売却対象が一事業もしくは複数の事業であって、会社全体を売却するのではないということです。したがって、会社本体を残す事ができるので、売却益を使って他の事業の拡大を図ったり、異分野の事業に乗り出したりすることができます。

後継者不足、人材不足という建設業全体の課題がある中で、事業を売却したり、異事業に進出したりという生き残り案を各社が検討し始めています。市場が活況な今こそ、事業売却をする最適なタイミングです。

建設業ならではの注意点があることを念頭に置きながら、収益力の向上や異事業への新規参入などを目指して、事業売却の検討を始めてはいかがでしょうか。

建設業の事業売却のポイントとは?
「人材不足」と「経営者の高齢化と後継者不足」は、多くの建設業者が抱えている共通の問題です。これらを解決するために、「事業売却」という選択肢があります。
M&Aが売り手企業の会社全体を吸収・合併するのに対して、事業売却は、売り手企業の一事業、もしくは複数の事業を相手企業に買い取ってもらう形式を指します。事業のみを売却するので会社自体を売却することにはなりません。事業売却をすることで、会社として次のステージへステップアップしたり、一部の事業に集中したり、あるいはそれを機に経営者が引退したりすることもあります。ここでは、M&Aとは違った側面を持つ事業売却について、その目的や注意点について解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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