2019年5月7日 火曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《建設業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では建築業が持つ事業特性に関して紹介した後、建設業者によるM&Aの実施数が増加している背景について解説します。

また、建設業で実際に行われたM&A事例を基に、これからM&Aを検討する売却側、買収側企業の経営者が注意するべきポイントについても解説していきます。

 

建設業におけるM&Aの動き

最初に、建設業という事業について解説します。建設業法の定義に従い、建設工事を請け負っている事業者のことを建設業者と呼称します。

土木作業から建築までを請け負うゼネコンと、部分的に担当するサブコン、設備面を担当する設備工事業に大別されています。

建設業界は元請け業者と下請け業者から構成されており、元請け業者が発注者から請けた案件を下請けへ割り当てていく形で事業が行われています。

受注者は国や行政といった公共団体と、民間企業や個人に大別されています。

近年では公共工事の受注が減少していることに加え、国内人口の減少もあって、建設業に対する需要は停滞しています。

建設投資は1992年の84兆円をピークとして減少傾向にあり、近年は50兆円台で推移を続けています。2018年度の建設投資見通しは57兆1,700億円であり、前年比2.1%増となっています。2020年の東京五輪に向けて建築需要が高騰していることが業績向上の要因と思われます。

 

・人手不足による廃業が増加

建築需要が高騰する一方で、建設業者の間では人手不足が問題となっています

ハローワークにおける建築・土木・測量技術者の有効求人倍率は5倍を超えており、今後も人手不足は継続する見込みが高いと思われます。

新規就業者数が減少したことにより、人手不足で事業を運営し続けることが困難となる建設業者が増加しています。2018年において廃業した事業者の3割ほどが建設業者とされており、総事業者数もピーク時の75%程度まで減少しています。従業員以外にも、後継者不在が原因となって廃業に追い込まれる企業も多いとされます。

 

・M&Aが近年活発化している

建設業は、受注した業務に対して必要分の人員を割り当てる仕事であり、会社の規模を拡大しても1件辺りに費やすコストは大差ない場合が多いことから、M&Aを実施するメリットは大きくないとされてきた事業です。

しかし、建築業者が事業を存続する手段としてM&Aを実施するケースが近年増加しており、2018年には日本国内における建設業のM&Aが108件と、2000年以降の最多件数を更新しています。

M&Aは一方的な買収であるというイメージが以前は広まっていたとされますが、近年では買収側、売却側企業の双方が納得した上でM&Aが成立する事例も増加しています。

また、将来的に国内需要が伸び悩むことが予想される事から、海外の建設会社をM&Aによって買収する国内業者が増加しつつあります。大手建設業者同士によるM&A事例も存在しており、今後は海外企業を対象としたM&Aが増加してくると予測されます。

 

最近の建設業のM&A事例

・事例1:旭化成ホームズが中央ビルト工業と業務・資本提携

旭化成ホームズ株式会社は、中央ビルト工業株式会社との間で業務及び資本提携を行うことについて合意し、契約を締結したことを2017年2月14日に発表しました。

この業務提携により、両社の信頼及び協力関係を強化するとともに、関東地区における住宅用鉄骨部材の生産力強化、金属加工事業におけるコストダウンを実現するための事業ノウハウの共有を含む業務の提携を推進していくとされています。

旭化成ホームズが中央ビルト工業株式を保有するアルインコ株式会社から株式を取得したうえで中央ビルト工業の第三者割当増資を全額引受けることによって、同社が当時における中央ビルト工業の発行済株式数の32.37%を取得したとされています。

 

・事例2:ヒノキヤグループがハウジーホームズを子会社化

ヒノキヤグループ(旧桧家ホールディングス)は、静岡県内の建築業者であるハウジーホームズの全株式を取得し、完全子会社化することを2018年4月6日に発表しました。当M&Aによって両者は情報を共有し、新規拠点の開設を含めた事業拡大を加速していくとしています。

ヒノキヤグループは2018年1月から静岡県を中心とした東海地方への進出を推進しています。

また、ハウジーホームズは同年7月に”(株)桧家住宅東海”へと社名を変更しています。

 

・事例3:京成電鉄が式田建設工業を子会社化

京成電鉄株式会社は、千葉県に拠点を持つ建築業者である式田建設工業株式会社の全株式を取得し、子会社化したことを2019年4月3日に発表しました。

式田建設工業は、千葉県内において官公庁舎、民間事務所などの建築を幅広く請け、安定した事業展開を行っている企業です。この案件によって京成グループが同社の全事業を継承することに加え、同年7月1日には京成グループの建設事業を中核的に担っている京成建設と合併する予定であるとされています。

京成電鉄は、M&Aによって京成グループの既存事業を育成、強化していくとしており、当案件も事業方針に沿ったM&Aであるとされています。

 

・事例4:積水ハウスがWoodsideHomesCompanyを子会社化

積水ハウス株式会社は、アメリカの戸建住宅販売業者であるWoodside Homes Company, LLC (ウッドサイドホームズ社)の全株式を取得し、完全子会社化することを2017年2月22日に発表しました。

積水ハウスは2017年から住宅事業に特化した成長戦略を推進しており、国内外で事業領域を拡大している実績を持つ企業です。特にアメリカの住宅市場を最も注力するべき市場の一つとして位置付けており、同国内の大手建築業者であるウッドサイドホームズ社を子会社化することによって米国事業の拡大を図っていくとされています。

 

・事例5:淺沼組がSINGAPORE PAINTSを子会社化

株式会社淺沼組は、シンガポールで建物外壁塗装および修繕工事を展開しているSINGAPORE PAINTS & CONTRACTOR PTE. LTDの株式を取得し、子会社化することを2018年8月30日に発表しました。

淺沼組は海外事業の強化を中期的な経営戦略に掲げており、その一環として当M&Aを実施したとされています。対象企業の株式譲渡は2回に分けて実施される予定で、1回目で議決権所有割合に達する80.0%の株式を保有し、2回目で残り20.0%を保有するとしています。

 

建設業のM&Aを実施するうえでのポイント

・従業員の引継ぎ

建設業界への新規就業者数は近年減少している一方、震災復興や東京五輪による建築特需が重なっており、結果として建築業界全体で人手不足が問題となっています。

また、建築業における専門技能を習得するまでには時間が掛かります。常に一定の新規就業者数を確保できている大手事業者でも、M&Aによって建築技能を持った人材を確保できることは大きなメリットです。

業務経験が豊富で、現場を統括できるような資格を保有している従業員は特に貴重であり、買収側企業にとっても獲得したい人材と言えます。

売却側企業にとっても、雇用してきた従業員を引き継ぐことで即座に再雇用先をあっせんする事ができます。引き継ぐ従業員が優れた技術者であることが前提ですが、従業員を引き継ぐかどうかで売却価額に数倍の差が付くこともあります。

 

・顧客の引継ぎについて

M&Aによって売買する事業には、取引先との契約関係も含まれます。建設業者には地域密着型の業者が多く、会社と取引先の信頼関係も強固である場合が多いです。

取引先の契約を引き継ぐ際は、必要に応じて売却側企業の担当者も合わせて引き継ぎ、買収後も同じ取引先を担当させるといった工夫が必要になります。

都市部は競争が厳しく、顧客となる国内の人口数も減少傾向にあります。

効率的に事業を拡大する手段として地方の建設業者を買収することは有効な手段ですが、買収に伴って相手企業の顧客を手放すという事態は出来るだけ避ける必要があります。

近年は建設需要が高い海外へ進出する企業が増加しつつありますが、自力で新規開拓を行う場合、初期段階におけるリスクや必要なコストの高さがネックになりやすいところがあります。

しかし、現地の企業を買収したり、すでに海外展開している国内他社と提携したりすることによって、低リスクで海外進出の足掛かりを得ることができます。

 

・財務状況の改善

M&Aを確実に成立させたい場合、売却側企業の経営者は買収側企業にとって魅力的な財務状況を構築しておく必要があります

安定した収益力を持った企業は買収側企業に長期的な利益を提供し得る企業であり、M&A市場でも高い需要が見込めます。

収益の金額は勿論重要ですが、適切な原価管理や借入金・債務の償却などを実行できているかも重要なポイントです。

また、元請け案件の比率を上げておくことも重要になります。下請けだと業務を請け負うまでに手数料が掛かるので、元請けに比べて費用対効果が悪くなります。

また、赤字受注は出来るだけ行わないようにしておく必要があります。

 

・情報を共有するタイミング

一般的に、M&Aの情報は具体案が固まるまで経営陣以外に共有しないものですが、建設業の場合は抱えている物件の工期が滞ると大きな損失につながります。

M&Aが成立すれば事業規模は拡大しますが、場合によっては依頼する運搬業者を切り替えない方が現場レベルではプラスに作用する場合もあるとされます。

依頼する業者を切り替える場合は、スムーズに引継ぎができるように一部情報を共有して調整を進めていく必要があります。

 

・M&Aを実施するタイミング

後継者問題を抱えている経営者にとって、第三者へ事業を承継できるM&Aは問題を解決するのに有効な手段です。

建設会社を買収する企業は大手建設業者である事が多く、身内や社員に事業承継するのに比べて短期間で引継ぎを完了できるというメリットもあります。

しかし、相手企業との間で売却条件の調整に時間が掛かったり、折り合いが付かなかったりしてM&Aを断られることは少なからずあります。

M&Aの手続きを行うには1社あたり半年から1年ほど掛かる事が多く、相手企業を探し直す過程にも時間が掛かる事を考えると、事業承継を検討し始めた時点からM&Aの準備を始めることをおすすめします

時間的な余裕がない状況でM&Aを進めようとした場合、成約できたとしても売却側企業に不利な条件で引き継ぐことになる可能性が高くなります。すでに時間的な余裕がない場合を除き、M&Aの準備は充分に時間をかけて進めておく事をおすすめします。

 

・シナジー効果の形成

同じ建設業者の中でも、土木、建築作業を全般的に請け負っているか、建築の一部工程を担当しているかなどは異なります。また、主な取引先が民間か、公共かによっても担当事業は異なってきます。

M&Aを効率的に実行するには、売却・買収側企業の事業内容を見比べたうえで、お互いの不得手な分野を補完できるか、どれだけシナジー効果を形成できるかという観点で相手企業を選ぶことが重要になります

売却側企業にとって採算性の低い事業でも、買収側事業の経営資源や事業ノウハウを共有することで優良事業に変わる可能性はあります。費やしたコストを上回る収益を得られた場合、十分なシナジー効果を形成できていると言えます。

 

・M&A仲介業者の選び方

建設会社のM&Aをスムーズに進めるには、M&Aの手続き代行を専門に行う仲介業者の協力が必要不可欠です。売却、もしくは買収先となる相手企業を仲介してくれ、複雑な書類作成や売却額の計算などをサポートする業者です。

建設業界の現状について詳しく、建設会社のM&Aを数多く成立させている仲介業者であるほど信用して依頼できる業者と言えます。ただし、同じM&A仲介業者の中でも専門分野は異なります。売却を検討している事業に合わせた仲介業者を選ぶことが重要です。

 

まとめ

建設業におけるM&Aでは、事業を統合することによって得られるシナジー効果の大きさが特に重要視されます。事業拡大に必要な従業員や取引先との契約関係を確実に引き継げるように、統合後に起こり得る問題に関しては出来る限り時間を掛けて対策を打ち出す必要があります。

建設業でのM&Aが活発化したのは近年になってからですが、M&A仲介業者を活用する事によってM&Aに慣れていない経営者でもスムーズに手続きを進めることが可能です。

M&Aの事例から読み解く潮流《建設業》
この記事では建築業が持つ事業特性に関して紹介した後、建設業者によるM&Aの実施数が増加している背景について解説します。
また、建設業で実際に行われたM&A事例を基に、これからM&Aを検討する売却側、買収側企業の経営者が注意するべきポイントについても解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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