2019年5月20日 月曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《建設業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

東京五輪やラグビーワールドカップ、大阪万博が予定されている今、建設業界はその準備に追われています。また、外国人観光客の日本訪問は2018年に3,119万人で、2,869万人だった前年に比べ大幅に増加し、初めて3,000万人台を突破しました。彼らを迎え入れる施設やインフラを整える必要もあり、建設業界は多忙を極めています。また、東日本大震災の復興作業にも多くの工事業者が必要とされています。

仕事の需要は多すぎるほどあるのに、人手不足で手がまわらない建設業界。それを解消する選択肢として、また、事業拡大や海外への進出を実現する手段として、現在建設業界においては事業譲渡が数多く行われています。今回は、建設業者生き残りの策として、この事業譲渡について考えてみましょう。

 

建設業における事業譲渡の動き

今多くの人の関心を集めているのが、2020年7月に迫った東京オリンピック・パラリンピックです。日本のみならず、世界中の目が東京に注がれています。2013年9月に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定してから、関連施設の建設が始まりました。現在は、国立競技場、選手村、有明アリーナを始めとする、全部で12の施設が建設されています。また、湾岸エリアの開発も活発化してきました。晴海、豊洲、有明などに競技施設が続々と建設、整備されています。また、こうした臨海部では、超高層マンションも建設ラッシュとなっています。まさに五輪効果です。施設の建設に加え、交通インフラの整備も着々と進んでいます。東京メトロ有楽町線の延伸、鉄道の直通乗り入れ、晴海・銀座間のバス高速輸送システム設営など、大勢の選手や観客の移動を見込んで工事が進められています。

 

観客や大会関係者のインバウンド問題には東京都も取り組んでいます。オリンピックだけでなく、観光旅行に来る外国人観光客に対して、彼らの宿泊施設の確保が進められています。新しいホテルの建設、古くなったホテルの改築、カプセルホテルの改築、民泊施設の受け入れ態勢チェックなど、必要な作業量は膨大です。

 

こうした状況下で、直接的に影響をこうむり多忙を極めているのが建設業界です。オリンピック関連施設の建設を元請けするのは大手ゼネコンですが、その下には、一次請け、二次請け、三次請けの下請け企業が多数介在します。建設業界には仕事は山のようにあるのに、それを請け負う作業員が不足しています。五輪の建設事業だけでも、およそ33.5万人もの人材が必要だと推計されています。

 

ふり返れば、2011年の東日本大震災発生により、土木事業のニーズが急速に高まりました。それに次いで、東京オリンピック開催が決まった事で、建設業界の仕事のボリュームに対する人材不足問題が顕著になってきました。建設業界は、若者が敬遠する業界であることもあり、経営者、技術者ともに高齢化が進んでいます。仕事の依頼は来るのに、人手不足でそれを請け負えないという企業が数多く存在するのです

また、個人事業主の建設会社では、後継者がいないといった理由で事業を続けるのが難しくなっている会社が多くあります。実際に建設業に従事する人の人数を見てみると、国土交通省によると、建設業就業者は平成9年時点で685万人、平成22年時点で498万人、平成28年時点で492万人、技術者は平成9年時点で41万人、平成22年時点で31万人、平成28年時点で31万人、技能労働者は平成9年時点で455万人、平成22年時点で331万人、平成28年時点で326万人となっています。建設業就業者、技術者、技能労働者のいずれも人数が減少していることが分かります。

 

また、建設業就業者の高齢化も問題となっています。就業者割合は、55歳以上が約34%を占める一方、29歳以下は約11%にとどまっており、高齢化が進んでいるといえます。2016年時点では、全産業における就業者の平均年齢は45.3歳でした。製造業では44.4歳、建設業は47.4歳です。今後、建設業就業者が続々と定年を迎えると、更なる人手不足となることが予想され、技術の継承も不安視されます。受け継ぐ若者が圧倒的に少ないのです。

 

人手不足と経営者の高齢化。これらの問題を解決するために、会社全体ではなく事業単位で取引関係を結ぶ事業譲渡を検討する建設会社が増えています。ここで言う事業とは、事業組織やノウハウ、取引関係などを含む有形無形のあらゆる財産です。

前述の技術者や技能労働者も、建設業の事業譲渡では対象とされるケースが多い財産にあたります。事業譲渡のメリットとして、売り手は残したい事業だけ手元に残すことができる点、買い手は契約次第では債務を譲り受けることなく欲しい事業だけを手に入れることができる点が挙げられます。建設会社の生き残り策としては非常に有効な手段であり、昨今の業界事情から多くの企業が検討を開始しています。

 

最近の建設業の事業譲渡事例

続いて、昨今の建設業における事業譲渡の事例を幾つかご紹介します。特に、それぞれの事業譲渡の目的について、しっかり確認していきましょう。

 

積水化学工業によるフクビ化学工業への事業譲渡

2018年9月、積水化学工業は、環境・ライフラインカンパニー事業をフクビ化学工業へ事業譲渡しました。譲渡した内容は、積水化学工業が保持していた住宅向け高性能フェノールフォーム断熱材フェノバボード事業です。

本件は、両社の技術向上や新商品の開発を進める事を目的としています

 

下村建設による美樹工業への事業譲渡

2015年10月、大阪府を中心に不動産賃貸業を行う下村建設は、建設業者の美樹工業へ建設事業を事業譲渡しました。これにより、美樹工業は営業エリアを広げると同時に、当該事業における競争力を高める結果となっています。

 

総合建設業Aによる同業他社への事業譲渡

2017年7月、東日本で総合建設業を営むA社は、高いシェアを保ち順調に業績を上げていたところ、急遽経営者の体調不良により後継者を探す必要に迫られました。戦略の方向性の近い同業他社に建設事業を譲渡することで、廃業することなく事業を存続させることが可能になっています。

 

上記のように、最近は同業種間での事業譲渡が多く見受けられます。

 

建設業の事業譲渡を実施するうえでのポイント

事業譲渡は比較的実施しやすいM&Aの手法であると言われているものの、建設業の事業譲渡をするにあたって注意すべきポイントは多数存在します。以下では特に留意すべき主なポイントをご紹介します。

 

早めに準備を進める

事業譲渡は、以下のようなステップで行われます。

 

・譲渡先の候補企業を探す、または仲介業者に探してもらう

 

・買い手となる候補企業からの意向表明書を確認する

意向表明書には、譲渡に関しての条件や譲渡を進める予定が書いてあります。売り手は意向表明書を見て、相手が買い手としてふさわしいかを検討します。

 

・意向表明書の内容を確認し、双方が同意したら基本合意書を取り交わす

基本合意書は事業譲渡を決定付けるものではありません。あくまでも話を進めるという前提の文章です。

 

・買い手企業が売り手企業の調査を行う

売り手企業の企業価値や法律に関わる資産、リスクなどを詳しく調べます。

 

・売り手と買い手とが事業譲渡の契約書を交わす

譲渡する事業、資産、譲渡の対価、営業権、雇用の再締結などの項目が契約書には盛り込まれます。事業譲渡後のトラブルを防ぐためにも、契約書の取り交わしは重要です。

 

・株主総会に諮る

株式が公開されている企業は、株主総会を開催し、事業譲渡の承認を得なければなりません。承認には、株主の半数の出席及び3分の2以上の賛成が必須です。事業譲渡の承認を得るためには、企業と株主に対して事業譲渡のメリットを説明する必要があります。

 

・事業受け渡しの手続きを進める

債権や土地名義の移転、権利関係や法律的な引き継ぎ、現場上の引継ぎなどを行います。

 

上記のとおり、事業譲渡を成立させるためには多くのステップが必要で、事業譲渡には長い時間がかかります。買い手企業を探すところから、条件の交渉、実務の引継ぎなどを全部含めると、場合によっては数年かかることもあります。これを見込んだスケジュールを立てることは非常に重要です。事業譲渡の可能性が少しでも出てきた場合は、いちはやく準備に取り組むことをおすすめします。

また、2019年10月には増税が予定されています。現在M&Aや事業譲渡を考えている方は、増税前にある程度のプランを立てておくのが良いでしょう。

 

取引に関する契約を明確にする

事業譲渡によって事業が譲渡される場合、今までの取引先との関係が保たれるかどうかについても事前にきちんと確認しておかなければなりません。特に建設業界は、元請け企業から仕事を請け負う多数の下請け業者が存在しています。下請け業者は多層構造になっているだけでなく、仕事の特性上、工事の内容別に多くの専門業者が携わることで一つの契約が成り立っています。

 

具体的には、土木工事、大工工事、鉄筋工事、鋼構造物工事、板金工事、塗装工事、防水工事、とび・土工・コンクリート工事、屋根工事、石工事、水道管工事、足場工事、左官工事、電気工事、硝子工事、内装工事、ガス工事、電気通信工事、造園工事、建具工事などが存在します。

これらすべての取引先に関して漏れなく取り決めを行っておかないと、場合によっては事業譲渡後には取引関係を承継できずに契約時の想定どおりの利益を得ることができなくなってしまいます。進行中の契約がある場合にも、それが事業譲渡によってどのような影響を受けるのか細部にわたって取り決めをする必要があります。

 

秘密を厳守する

契約が成立するまでは、事業譲渡の話が進められていることは外部に漏れないよう細心の注意を払いましょう。事業譲渡の噂が漏れると従業員や取引先に余計な不安を与えてしまいます。話を進める際には、限られた社内の関係者のみが関与するようにしましょう。

また、弁護士や税理士、仲介業者に連絡を取る際には、電話をかける場所に注意を払わなければなりません。あるいはメールでのやり取りにし、関係者以外に情報が漏れることがないよう慎重に話を進めましょう。

 

譲渡する事業に関して虚偽の情報を与えない

事業譲渡は、買い手企業と売り手企業のお互いの信頼関係が大切です。売り手側は、譲渡する事業に関しては、どんな小さなことでも虚偽の情報を与えてはいけません。虚偽の情報を鵜呑みにして事業を買い取ってしまった企業は、詐欺にあったようなものです。

事業を高額で売ろうとして負の部分を隔しだてしたり、営業利益を水増しして伝えたりするなど、不誠実な態度は会社の信用にも関ります。譲渡に際しては、常に誠実な態度で臨みましょう。

 

仲介業者の助けを借りる

事業譲渡は書類の準備が煩雑で、社内だけで対応できるものではありません。必要に応じて弁護士や税理士、会計事務所、仲介コンサルティング会社など専門家の力を借りましょう

特に仲介業者については、業者によって得意な業界とそうでない業界とがあるため、過去に同じ業種の事業譲渡やM&Aの実績を何件か持つ所を選びましょう。また、実際会ってみて自分と相性が良さそうな、コミュニケーションが取りやすそうな相手に依頼することをおすすめします。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。東京五輪の準備工事や東日本大震災の復旧工事、はたまた個人住宅の耐震化・リフォーム工事などで、現在建設業界の需要は高まる一方です。一方で、人手不足や経営者や従業員の高齢化のため、仕事を請けられない企業が多くなっています。

こういった問題を解消するための選択肢として、事業譲渡は非常に有効な手段です

売り手にとっては手元に残したいコア事業だけを残したり不採算事業だけを手放すことができ、買い手にとっては有能な技術者を一度に手に入れることができたり事業の拡大を叶えることができます。建設業界において事業譲渡を検討する企業は今後ますます増えていくと思われます。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《建設業》
東京五輪やラグビーワールドカップ、大阪万博が予定されている今、建設業界はその準備に追われています。また、外国人観光客の日本訪問は2018年に3,119万人で、2,869万人だった前年に比べ大幅に増加し、初めて3,000万人台を突破しました。彼らを迎え入れる施設やインフラを整える必要もあり、建設業界は多忙を極めています。また、東日本大震災の復興作業にも多くの工事業者が必要とされています。
仕事の需要は多すぎるほどあるのに、人手不足で手がまわらない建設業界。それを解消する選択肢として、また、事業拡大や海外への進出を実現する手段として、現在建設業界においては事業譲渡が数多く行われています。今回は、建設業者生き残りの策として、この事業譲渡について考えてみましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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