2019年5月8日 水曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《建設業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

現在、建設業は少子高齢化による労働人口の減少や不況の影響から、業者数・売上ともに減少しつつあり、苦境に立たされています。また、経営者の高齢化によって廃業を余儀なくされる企業も増加しています。

その影響から、これまであまり行われていなかったM&Aによる事業承継が徐々に増加してきています。建設業におけるM&Aは他の業種とは違い、異なる業種間でのM&Aや海外企業とのM&Aが多く、新しい需要を求める動きが見られます。

この記事では、建設業の事業承継の動きやその事例をご紹介していきます。

 

建設業における事業承継の動き

最初に、現在の建設業の動向を確認しておきましょう。

国土交通省による建設業許可業者数調査によると、2018年3月時点で一般建設業許可を保有している業者数は、44万2,292業者となっています。業者数が最も多かった2000年3月時点と比較すると約13万のマイナス、割合としては23.4%減少しています。また建設業就労者数も1997年の約700万人から2016年には約500万人と大幅に減少しています。

また、建設業全体の売上は、バブル崩壊や公共工事の減少によってピークだった1998年から2016年まで右肩下がりとなっており、苦しい状況に立たされています。

 

長年M&Aは進んでいなかった

これまでの建設業では、大手のゼネコンによる中堅ゼネコンの吸収合併などはありましたが、M&Aはあまり行われていませんでした。理由としては以下があげられます。

 

・規模の経済が働きにくい

建設業は、事業や仕事の規模を大きくすることで単価あたりの費用をおさえる、規模の経済(スケールメリット)が働きにくい構造になっています。そのため、企業規模を大きくする必要がありませんでした。

 

・公共工事における入札参加が制限される

建設業では、公共工事を受注するためには入札に参加する必要があります。

ですが、M&Aなどで企業規模を拡大すると、入札参加資格の格付けが高くなることで公共工事の入札に参加できる機会が減少することがあります。

格付けが高くなることで低いランクの工事に参加できなくなってしまうため、むやみに企業規模を拡大させることはありませんでした。

 

廃業が増えている

建設業は他の業種と比べて業者数の減少幅が大きく、現在でも廃業を余儀なくされる建設会社が多く存在しています。

これには売上の減少以外にも、経営者が高齢になったものの会社を継いでくれる後継者がいないことや、建設業に興味を持つ若者の減少による人材不足といったことも、大きく影響していると言われています。

 

問題解決のためのM&Aが増加している

建設業の各企業が抱えている人材不足、需要の低下といった問題を解決するために、M&Aを行う企業が増加しつつあります。

M&Aによって経験豊富な従業員を確保する、事業を展開するエリアを拡大する、ノウハウを取り入れ業務の効率化を図る、といった目的があります。

 

業界をまたいだM&Aが活発化している

最近では、業界をまたいだM&Aも増加しています

これは建設業に他の業界の技術を取り入れ、他の業種に建設業の技術を取り入れることを目的としています。

一例としては、戸建て建設の大手である大和ハウス工業株式会社がパーキング事業大手の株式会社ダイヨシトラストを買収し、駐車場の運営・管理事業に参入し事業を成功させています。

建設業や他業界の強みを活かすためのM&Aが今後も増えていくと思われます。

 

海外M&Aが徐々に増加している

国内の建設需要が伸び悩みを見せている中、海外の需要機会を得るために海外企業とM&Aを行う建設会社が徐々に増加しています。

大和ハウス工業株式会社はアメリカのバージニア州で戸建て住宅の開発・販売を手がけてきたスタンレー・マーチン社を買収するなど積極的に海外展開を図っています。

 

最近の建設業の事業承継事例

最近の建設業における事業継承の事例をいくつか紹介していきます。

 

株式会社大林組による大林道路株式会社の完全子会社化

スーパーゼネコンとも呼ばれる建設業最大手の株式会社大林組は、道路の舗装や土木・建築工事の請負を主な業務としている大林道路株式会社を2017年6月の公開買付けによって完全子会社化しました。

大林道路株式会社は元々株式会社大林組の連結子会社でしたが、建設事業における中長期の収益向上を見据えて、大林グループの経営基盤の強化、大林グループ全体の事業効率の向上が見込めるとして完全子会社化に踏み切りました。

 

株式会社長谷工コーポレーションによる株式会社総合地所の買収

株式会社長谷工コーポレーションは2015年5月、首都圏・近畿圏でマンション分譲・管理事業、不動産ソリューション事業を展開していた株式会社総合地所の全株式を取得し子会社化しました。

このM&Aによって、分譲マンションの管理受託戸数が約35万戸まで拡大され、共同発注など事業規模拡大によるメリットを狙いとしています。

 

また、株式会社総合地所のデベロッパーとしての実績と、株式会社長谷工コーポレーションの施工実績を合わせることで、より質の高いサービスを提供できるとしています。

 

大東建託株式会社による在宅介護サービス事業会社の株式会社ソラストの持分法適用関連会社化

2015年12月、マンション・アパートの建設・管理・運営をコアビジネスとしている賃貸事業大手の大東建託株式会社は、在宅を中心とする介護サービスに特化している株式会社ソラストを持分法適用関連会社化しました。

大東建託株式会社のサービス付き高齢者向け賃貸住宅への高齢者の入居増加と、介護が必要になった際には株式会社ソラストの有料老人ホームへの入居というスキームの構築と、介護事業のノウハウを共有することで、サービス付き高齢者向け賃貸住宅の入居者への介護サービスの拡充を目指しています。

 

鹿島建設株式会社による、アメリカのFlournoy社の買収

鹿島建設株式会社は2017年12月、アメリカ現地法人のカジマ・ユー・エス・エー社を通して、アメリカ南部での賃貸集合住宅の建設・運営を行なっているFlournoy社との間に売買契約を締結しました。

カジマ・ユー・エス・エー社を通してのアメリカ企業の買収は4件目で、鹿島建設はアメリカへの事業進出を積極的に行なっている。アメリカの現地企業による不動産開発・建設・マネジメントを自社グループで行う事ができるため、アメリカ内における景気の変化に対して対応しやすくなっています。

 

サンユー建設株式会社による型枠工事の行方建設株式会社の子会社化

2018年4月、サンユー建設株式会社は、型枠工事を手掛けている行方建設株式会社を株式の取得によって子会社化しました。

建築・不動産・金属製品事業を主要事業としているサンユー建設株式会社と大手建設会社の下請け工事を中心に、大規模物件の工事実績を持っている行方建設株式会社は同じ建設業でありながら得意分野が異なり、サンユー建設株式会社の経営資本、営業力と行方建設株式会社の技術力によって収益力と競争力を強化する目的があります。

 

ファースト住建株式会社、アオイ建設株式会社を子会社化

2018年5月、ファースト住建株式会社は、人口増加が進む関東圏での事業強化を目的として、アオイ建設株式会社の株式のうち60%を取得し連結子会社化しました。2021年には残りの40%の株式を取得し完全子会社化を予定しています。

ファースト住建株式会社は主力事業である戸建て分譲住宅の事業エリア拡大を進めており、神奈川県を中心に関東圏での売上増加を目指しています。

 

建設業の事業承継を実施するうえでのポイント

建設業における事業承継のポイントを売り手側、買い手側の両方から解説していきます。

 

建設業のM&Aの売却とは?売る・売りたい場合

建設業でのM&Aの売却における一番の目的は会社の存続です。

会社を継いでくれる後継者が見つからない建設会社や、不況や需要の低下によって経営が悪化してしまった建設会社であっても、M&Aを成功させることができれば存続させることができます。

M&Aによって大手企業の傘下に入ることができれば大手の資本で経営基盤を強化することができますし、余裕が生まれることで新しい事業を始めることができるかもしれません。

また、従業員の雇用を維持することができるのも大きなメリットです。

人手不足が深刻になりつつある建設業では、会社で働いてくれていた従業員は貴重な人材です。買い手側の企業に資金力があれば従業員の待遇を改善することができ、新しい人材を増やす事ができるかもしれません。

 

M&Aで売り手側になる場合、何らかのリスクを抱えているとなかなか買い手がつかないということがあります。赤字受注が多く、原価管理が杜撰な企業は買い手側から敬遠される可能性が高いです。

もともとM&Aの成功率はあまり高くなく、どの業界であっても3割~5割だと言われています。

さらに、M&Aの成功後に経営統合の失敗や事前情報との違いなどのトラブルによって、提携関係が解消されるということも少なくありません。

このようなトラブルに巻き込まれないように買い手側の企業は売り手側を調査するので、事前にリスクを解消しておくことが重要です。リスクを残したままにしておくと、M&Aが成功する可能性が下がるだけでなく交渉の際に不利な条件で締結しなければなりません。

このようなことがないように売り手側は従業員の意見を取り入れつつ経営統合の妨げになるようなリスクは取り除いておくようにしましょう。

 

建設業のM&Aの買収とは?買う・買いたい場合

建設業のM&Aで買い手側となる場合、最も優先すべきポイントは人材になります。買い手側は不足している人材を確保することを念頭にM&Aを進める必要があります。

ただ人手を増やすのではなく、できることなら技術力のある人材を確保できるようにしましょう。

そのためには、買収を検討している建設会社が抱えている人材の傾向を調べておく必要があります。その会社の従業員が、有用な資格を持っているのか、長年働いている経験豊富な人材はいるのか、他にも年齢構成や稼働率も調べておくと良いでしょう。

 

また、買収を検討している建設会社がどの地域を中心に事業を展開しているかも重要なポイントです。

事業を展開している地域が増えると新たな顧客や取引先を見つけることができる可能性が高まります。

国内需要の減少に伴い、海外に事業を展開するために海外企業を買収する建設会社も増えてきましたが、海外では地域ごとに法律や税制などが異なるため、事前にその地域の情報を集め対策を立てておく必要があります。

これを怠ると余計なトラブルを招いたり、事業展開に悪影響が出たりする可能性があります。

 

他にも、買収を検討している建設会社の実績も注目すべきポイントです。

これまで難易度の高い工事を受注し、何度も成功させている実績がある建設会社であれば、ノウハウや高い技術力も持つ人材があるということです。

更に、多くの実績があり信頼性の高い建設会社を買収することができれば、そのまま実績を引き継ぎ今後の事業展開にプラスになるでしょう。

 

しかし、技術力のある人材がいる建設会社を買収しても、そのままにしていてはあまり意味がありません。

建設業における人材不足の原因である待遇の悪さや仕事のキツさを改善しないことには人材の流出は避けられません。定着率を上げるためにも必要に応じて待遇を改善する必要があります

待遇を改善すれば新しい人材が入ってくる可能性も増えるので積極的に行うと良いでしょう。

建設業以外の業界に進出しようとしている場合には、これまで蓄積してきた建設のノウハウを活かすことができる事業を選ぶようにしましょう。

 

まとめ

建設業におけるM&Aによる事業承継について解説してきましたがいかがでしたか。

大手建設会社も人材の確保、新しい事業の展開や事業エリアの拡大を狙ったM&Aに積極的になりつつあります。

後継者問題や経営の悪化に悩まされている企業はこの機会を逃さずM&Aによる事業承継を行いましょう。

M&Aの準備には時間がかかるので、M&Aによる事業承継を検討している企業は早めにM&A仲介会社に相談するなどしてM&Aに備えておくのがよいでしょう。

事業承継の事例から読み解く潮流《建設業》
現在、建設業は少子高齢化による労働人口の減少や不況の影響から、業者数・売上ともに減少しつつあり、苦境に立たされています。また、経営者の高齢化によって廃業を余儀なくされる企業も増加しています。
その影響から、これまであまり行われていなかったM&Aによる事業承継が徐々に増加してきています。建設業におけるM&Aは他の業種とは違い、異なる業種間でのM&Aや海外企業とのM&Aが多く、新しい需要を求める動きが見られます。
この記事では、建設業の事業承継の動きやその事例をご紹介していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年5月8日
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