2019年5月31日 金曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《中小企業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

現在、中小企業の事業承継には、かつてないほどの変化が訪れています。

以前は、社長業が親から子へと、家業のように受け継がれることが一般的でしたが、近年ではM&Aを用いた事業承継の割合が増えています。そのような状況にある中小企業の事業承継には、どのような事例があるのでしょうか。

この記事では、中小企業における事業承継の事例と、そこから読み解く潮流を解説していきます。

 

中小企業における事業承継の動き

中小企業における事業承継といえば、一昔前は親族内での承継が圧倒的に多かったのですが、今ではその傾向も大きく変わってきました。最近の中小企業を巡る事業承継は、親族以外に会社の従業員や、社外の第三者へ承継するケースが増えています。

この章では、そんな中小企業における事業承継の動きをご紹介します。

 

事業承継とは

そもそも「事業承継」とは何でしょうか。

事業承継とは、会社の経営権を後継者に継承することです。この継承には2つの側面があります。

・誰を後継者にするか(経営の承継)

・誰に自社株を承継させるか(所有の承継)

またこの2つ以外にも、事業自体を承継するための取り組みも必要です。

後継者が経営を引き継いだ後も、その経営を安定して行うためには、株式や経営権の取得だけではなく、取引先とのつながりやノウハウ、従業員の帰属意識や経営理念など、前経営者が育んできた資産を受け継ぐ必要があります。

 

近年の事業承継における傾向

近年、事業承継において、その承継先に変化が生じています。中小企業庁の調査によれば、親族内での事業承継の割合は急激に落ち込み、それに代わって、従業員や社外の第三者への承継が増加傾向にあるということです。

特に、経営者の在任期間が短いほど、親族内承継の割合が大きく低下し、従業員や社外の第三者による承継の増加が顕著です。ここ5年間では、親族内承継の割合が約35%までに減少し、親族外承継が65%以上に増加しているという結果が明らかになっています。

この背景には、事業を継続していくことに対する不安の高まりや、後継者側の価値観の多様化などが関連していると考えられています。一方で、適任の後継者がいないという理由で、やむなく会社を廃業する経営者も多くいます。

 

廃業を選択した中小企業の経営者が直面した課題とは

中小企業庁の調査によると、廃業を実際に選択した中小企業の経営者が直面した課題として、次のようなものが挙げられます。

・取引先との関係の清算

・事業資産の売却

・従業員の解雇

・債務の整理

・経営者保証の問題

・連帯保証の問題

 

廃業をする前に一度M&Aのご検討を

会社の廃業を検討している経営者は、事業の継続性に不安を抱えている場合が多いと思われますが、経営課題を整理し、事業承継に向けて経営を改善することができれば、M&Aを用いた事業承継が可能となるケースもあります。

M&Aによる第三者への事業承継が浸透していくことで、独自のノウハウや技術を持った企業が事業承継を行うことができれば、それらを次世代へ引継ぎ、地域経済へ貢献し続けることが可能です。

 

最近の中小企業の事業承継事例

中小企業を巡る事業承継は、非常に多く行われています。

実際、どのように事業承継が行われているのでしょうか。最近の中小企業の事業承継事例をご紹介します。

 

M&Aで経営多角化を目指した事例

合成樹脂材料と製品販売を行うX社が、男性用のカジュアルシャツを製造するY社を買収した事例です。

 

・譲渡企業の概要

事業を譲渡したY社は、地方で男性用カジュアルシャツを生産する中小企業です。資本金は4,000万円で、売上高は20億円ほどです。従業員は20名で、高齢を理由に後継者を社外に求めていました。

 

・譲受企業の概要

事業を譲り受けたX社は、地方で合成樹脂材料と製品の販売を行う中小企業です。資本金は3,000万円で、売上高が約100億円の商社です。アパレル事業の拡大のため、買収先の企業を探していました。

M&Aを経て、X社はY社の全株式を取得しました。そして、Y社の取引先、従業員、不動産を全て引き継ぎました。Y社の経営者は、引き継ぎ終了後に社長職を退任しています。また、Y社の社員たちからの反発を防ぐため、Y社の営業部長を取締役にして、X社の社長がY社の代表取締役に就任しました。

譲渡契約までおよそ2カ月でしたが、これほど短期間で成約できた理由には、オーナー以外の株主達に株式譲渡の委任状を書いてもらった点が挙げられます。交渉する人物をオーナー1人に限定したことで、交渉の長期化を避けることができました。

 

M&Aによる事業譲渡の事例

ここでご紹介するのは、M&Aによる事業譲渡です。

通信・電子機器を販売するA社が、飲食業を行うB社から、一部の店舗を事業譲渡で手に入れた事例です。譲渡された事業は、A社が100%出資する子会社へ移り、継続して運営されます。

 

・譲渡企業の概要

今回、事業を譲渡した中小企業は、B社です。東京で飲食店を経営する会社で、複数の店舗を経営し、和食分野を中心に出店をしてきました。売上高は3億円で、従業員10人を抱える中小企業です。

 

・譲受企業の概要

事業を譲り受けた中小企業は、A社です。関東地方を中心に通信・電子機器を販売する会社で、携帯・PCの販売を行い、事業拡大を図ってきました。売上高はおよそ100億円で、従業員数は200名です。

 

・M&Aの背景

B社は、外食産業が好調であることから、その流れに乗って、着実に店舗数を増やしていました。しかし、出店を重ねるごとに開業資金などの借金がかさみ、厳しい経済状況を抱えていたのです。

一方、A社は事業の多角化を図り、従来の通信・電子機器の販売に加えて、サービス業を始めることになります。これまで培った経営スキルを活かせるとして、飲食業を買収することを考えていました。

まずは、B社からM&Aの仲介業者に相談を持ちかけたところから始まりました。希望する譲渡の条件として、譲渡する店舗はシナジー効果への関与が少ないところを提示して、買収を希望する企業が現れるのを待ちました。

そこへ、いち早くこの話に興味を持ったA社と連絡を取り、交渉を開始。B社はすぐにでも資金を調達したかったので、A社のみと交渉を進めました。そして、条件面での折り合いがついたため、事業譲渡を締結。在庫や設備、資産を引き継いで、従業員の雇用や、取引先と改めて契約を結び直しました。

 

家庭の都合をM&Aで解決した事例

家庭の事情によりM&Aを行った事例です。

C社はネイルサロンを経営しており、健康食品を販売するD社に対し会社を売却しました。会社の売却方法としては、株式譲渡が選ばれています。

 

・譲渡企業の概要

会社を譲り渡した企業は、東京でネイルサロンを運営するC社。売上高は1.5億円の中小企業です。会社の経営者は既婚者で、小さなお子さんを抱える主婦でもあります。

 

・譲受企業の概要

会社を買収した企業はD社。東京で健康食品の販売業を経営する中小企業です。

 

・M&Aの背景

C社の経営者は、第2子を望んでいました。そこへ夫の転勤も決まり、家庭と事業を両立することが困難になったため、M&Aを利用して会社売却を思い立ちました。

一方、D社は健康食品の販売だけではなく、ネイルサロン業への進出を考えていました。そして、自社でゼロからネイルサロンをはじめるよりも、リスクの少ないM&Aを考え、買収先を探していたのです。

C社はM&Aの仲介業者に会社の売却を相談しました。その時提示した条件は、従業員に対する丁寧な対応・円滑な売却・譲渡額の下限を提示することでした。その後、仲介業者からD社が紹介されました。交渉の結果、C社の条件に対し合意が成立し、売却が決定。M&Aを思い立ってから、契約締結までにかかった時間は約2カ月と、短期間での会社売却が実現しました。

 

中小企業の事業承継を実施するうえでのポイント

企業のM&Aは、売り手側と買い手側がいずれも中小企業であるケースが増えています。

ここでは、中小企業が事業承継を実施するうえでの、最低限注意すべきポイントを紹介します。

 

信頼できるM&A会社を選ぶ

M&Aを行うには、M&A会社と共同で案件を進めるのが一般的です。

M&A会社はM&Aに関して多くの実績があるので、非常に頼れるアドバイザー兼実務家といえるでしょう。M&Aを成功させるためには、当然のことながら高い実力があり、信頼できるM&A会社を選ぶ必要があります。

M&A会社は、企業の事業価値の向上やM&A戦略を立案し、リスクヘッジの支援を手厚く行ってくれるところから、ただ売り手と買い手を仲介するだけの会社までと様々です。そのため、自社のニーズに応えてくれる会社を、慎重に選ぶ必要があります。

特にM&A会社によっては、依頼者のニーズを無視してM&Aを進めることもあります。M&A会社は、M&Aの成立による成功報酬で成り立っているため、M&Aが成立すること自体が会社の利益になっていることを決して忘れないでください。

信頼できないM&A会社は、売り手企業と買い手企業に有利な情報ばかり伝えてきます。その一方で、M&Aを避けたくなるような情報は決して知らせてきません。このようにずさんなM&Aは、当然ながら失敗するので、M&A会社の選定には注意が必要です。

 

社内の幹部がM&Aに協力してくれる体制をつくる

M&Aを行うには、社内での協力も大切なポイントです。実際のところ、M&Aを実行していく段階では、社内にその事実を知られることがないように、必要な資料を揃えなければならない状況に多く遭遇します。

そのため、社内の経理や総務部門の責任者に加え、社外の専門家の協力は不可欠なので、協力してほしい社員には目星を付けておき、財務や税務上の問題となるポイントなども事前に把握しておく必要があります。

また、賃借対照表の表面上の数値と実態に違いがある場合、必ず抽出して、信頼できる人にチェックしてもらいましょう。特に中小企業の場合、決算書の内容については、過去数年の状況をオーナーがしっかり理解しておくことは、M&Aの交渉において非常に重要なポイントになります。

 

会社の売却額がいくらになるかを知る

会社の売却を想定する際は、売却価格がいくらになるのかを知る必要があります。この点の重要性を理解している経営者は意外に少ないのです。

「いくらで売れるのか」「いくらで売りたいか」「いくらで売るべきか」ということは、会社の売却を考える上で重要な決め手となるので、あらかじめ自社の売却価格を、専門家に依頼するなどして、目安となる金額を知ることは重要なポイントです。

参考として、会社の売値を決める際には、会社の時価純資産+営業利益(数年分)という計算方法があります。ただし、M&Aの交渉が始まった後でも、自社の強みを最大限に伸ばせば売却時の価格を大きく引き上げられる可能性もあるので、仲介会社と協力して、価格交渉では自分と相手の双方が納得のいく価格帯を探りましょう。

 

まとめ

この記事では中小企業における事業承継の事例をご紹介しました。

近年では、親族以外の従業員や社外の第三者への承継が増えてきています。この背景には、中小企業の経営者のなかに、「責任が重くプレッシャーの多い社長業を自身の子供達に受け継がせたくはない」という心理も働いています。そのため、後継者の不在により、やむなく会社を廃業にするケースも増えています。

しかし、会社を廃業してしまうと、そこで働く従業員は職を失い、会社として培ってきた技術やノウハウも消失してしまいます。長年、手塩にかけて育ててきた会社をそうした形で閉じることは、とても心苦しいものがあります。

一方で、経営の多角化が進み、会社がこれまで手掛けてこなかった分野に進出を試みる企業も増えています。新規参入ですから、ゼロから始めるには非常にリスクがあり、直前になって躊躇してしまうオーナー様もいらっしゃいます。

 

そこで、これらの問題を解決するために、M&Aによる事業承継を提案します。

M&Aを行えば、従業員の雇用を守ることも、会社の技術やノウハウを次世代に残すことも可能です。また、M&Aなら、新規参入をする上でのリスクを減らすこともできます。

会社を自分の代でたたもうかと考えている方や、新業種に新規参入を考えている方は、一度、M&Aによる事業承継を検討してみてはいかがでしょうか。

 

事業承継の事例から読み解く潮流《中小企業》
現在、中小企業の事業承継には、かつてないほどの変化が訪れています。
以前は、社長業が親から子へと、家業のように受け継がれることが一般的でしたが、近年ではM&Aを用いた事業承継の割合が増えています。そのような状況にある中小企業の事業承継には、どのような事例があるのでしょうか。
この記事では、中小企業における事業承継の事例と、そこから読み解く潮流を解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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