2019年4月29日 月曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

パン屋・ベーカリー業界における事業売却がこのところ活発に行われています。特に大企業による事業売却や買収の動きは、目を見張るものがあります。
この記事では、そんな事業売却の事例から、パン屋・ベーカリー業界の潮流を読み解いていきます。

 

パン屋・ベーカリーにおける事業売却の動き


近年、事業売却はあらゆる業界で活発に行われており、パン屋・ベーカリー業界も例外ではありません。山崎製パンによるM&Aがその代表例で、同社の成長エンジンはM&Aにあるとも言われています。
一方で、町のパン屋の事業売却も活発で、オーブンやキッチンといった設備ごと買い取る、いわゆる居抜きの売却が盛んです。居抜きで売却した際に、非常に高値で取引されることが多いので、売る側にも充分にメリットがあるといえます。

 

パン業界の現状と動向

パン業界は、いまや1兆4000億円を超える巨大市場です。ちなみに、この業界の年収は平均で450万円ほどです。近年では「コメ離れ」が顕著で、パン食が主流になりつつあるため、業界としてはパンの製造量が増え続けています。データによれば、米を主食としていた家庭は、昭和58年に57.2%でしたが、平成15年には42.4%にまで下がっています。一方、パンを主食とする家庭は21.2%から31.4%へと大きく上昇しているのです。

今後の動向としては、日本の総人口が減少することが予想されるので、パン市場は縮小していくことが考えられています。そのため、業界としては海外に積極的に進出していくことがカギとなるでしょう。ちなみに、業界大手の山崎製パン、フジパングループの海外での売り上げは全体の10%未満。第一屋製パン、日糧製パンにおいては、海外における売り上げは0となっています。まだまだ、日本のパン業界が海外でシェアを伸ばしていく余地は十分にあると考えられます。

 

事業売却とは

そもそも事業売却とは一体何でしょうか。
事業売却とは、会社の事業を売却することです。会社全体を買収する手法と異なり、特定の事業のみを売却の対象とします。
最近は、会社の規模に関わらずM&Aを行う会社が増えており、事業売却を行うケースが増えています。事業売却をする理由としては、採算の取れない事業の切り離しや、事業継承の一環など、目的は様々です。

 

事業売却のメリット

売却側、買収側のそれぞれのメリットを整理していきましょう。

 

【売却側のメリット】

①利益を得たうえで組織の再編ができる

事業売却を行えば、事業を売却したことで利益を得られ、そのうえで組織の再編ができます。特に、事業譲渡で事業売却を行った場合、現金で利益を得られ、それを会社の資金に組み込むことができます。
事業売却は、事業からただ撤退するよりも、利益を得たうえで会社の組織を再編できるので、とても有効的な手段といえます。

 

②事業を存続することができる

事業売却をすることで、それまでの事業を存続させることができます。
近年では、中小企業を中心に、事業の継承が大きな課題となっています。経営者が高齢化し、後継者もいないというケースが増えていて、会社が利益を出しているにも関わらず、経営者の退任とともに会社を廃業した、という話もしばしば聞かれます。
廃業してしまうと、会社の積み上げてきた貴重なノウハウが失われ、地域の従業員の雇用までもが失われてしまうことになります。
そのような事態をさけるためにも、事業売却によって他の会社に事業を継続してもらうことができるのは、大きなメリットです。

 

【買収側のメリット】

①新規事業を低コスト・短時間で始められる

事業買収をした場合、買収側は新しい事業を低コストかつ短時間で始めることが可能です。これは、既に買収前の会社が手掛けてきた事業や設備を丸ごと買い取ることになるので、ゼロから事業を立ち上げるよりもコストを抑えることができるからです。

 

②技術力やマニュアルを手にできる

事業買収によって、買収側は、技術力やマニュアルを手にできるという大きなメリットがあります。ゼロから新しい技術を開発する場合、膨大な時間と人材、コストを投入しなければなりません。
しかし事業買収によって、その技術を手に入れることができるので、開発にかける時間を短縮し、早くから収益を上げることが可能です。

 

事業売却のデメリット

反対に売却側、買収側のそれぞれのデメリットにはどんなものがあるのでしょうか。

 

【売却側のデメリット】

①手続きの煩雑さ

事業売却における売却側のデメリットとして、売却に手間がかかることがあげられます。
事業売却では、その内容について売り手側と買い手側の双方が協議をする必要があり、その分手間がかかり、手続きにも煩雑になることは珍しくありません。
また、事業売却後は、従業員の雇用契約が一度白紙に戻るため、改めて雇用契約を結びなおす必要があります。その際は、各従業員の同意を得なければなりません。

 

②不確実な買収金額

事業売却をする場合、必ずしも希望通りの金額がつくとは限りません
特に、運営がうまくいっていない事業を売却する場合は、なおさら足元を見られて、買収金額を安く見積もられる場合があります。

 

【買収側のデメリット】

①人材の流出

事業買収において、買収側の注意点に、人材の流出リスクがあげられます。
事業買収によって元々働いていた従業員の職場環境が大きく変わることから、従業員間で不満が出やすく、その結果、従業員が大量に辞めていくような人材の流出が起こりかねません。

 

②競争環境の変化

買収時には想定していなかったことが買収後に起こることがあります。競合店が近い商圏に新規出店するなどがあれば、元々想定していた売上を維持することは難しいでしょう。
その様な不確実な将来の変化も踏まえて、事業を買収しなくてはなりません。

 

事業売却の流れ

事業売却は、他のM&Aと比べて手続きが非常に複雑なことが特徴です。
会社売却と違って、企業の一部門を売却するので、それほど時間がかからないイメージがありますが、実際のところ、手続きの複雑さを考えると、会社売却とほぼ変わらないと言えます。
それでは、事業売却の実際の流れを見ていきましょう。

 

①事業譲渡の準備開始

自社の強みや市場価値を分析し、どの事業をどのくらいの値段で売却するかに加え、手続きの流れなどの計画を立てます。

 

②取締役会での決議

取締役会がある会社は、取締役会で決議を行わなければなりません。この時、過半数以上の賛成が必要です。

 

③譲受先の選定と接触

譲受会社が決まっていなければ、金融機関やM&A仲介会社に相談しましょう。
譲受先が決まったら、企業のトップ同士が面談をして、条件を交渉し手続きを進めます。

 

④事業譲渡に関する契約の締結

事業を売却する会社と買収する会社の間で、交渉を経て合意に至ったら、基本合意契約を締結します。

 

⑤譲受先によるデューデリジェンス

基本合意契約が成立したら、買収する側の会社は、売却側の企業に対してデューデリジェンス(企業調査)を行います。

 

⑥事業譲渡契約書の締結

事業譲渡契約書の締結により、両社は最終的な合意に至ったことになります。

 

⑦各所への届け出

事業売却を行った企業は、会社法により公正取引委員会への届け出が必要になる場合があります。

 

⑧株主への通知・公告

事業売却の契約は、株主の承認を得られなければ効力が発生しません。また、事業売却をする会社は、効力発生日の20日前までに事業売却を行ことや、株主総会を開くことを公告しなければなりません。

 

⑨株主総会での特別決議

議決権の過半数以上を持つ株主が出席したうえで、2/3以上の賛成が得られれば事業売却が承認されます。

 

⑩財産などの名義変更や許認可手続き

 事業買収をした会社は名義変更手続きや許認可の手続きを行う必要があります。

 

⑪事業譲渡の効力発生

 事業譲渡の効力発生日を迎えて契約手続きの流れは完了します。

 

最近のパン屋・ベーカリーの事業売却事例


近年のパン業界では、M&Aが相次いで行われています。その代表例が山崎製パンです。
山崎製パンは業界最大手の企業で、国内においては救済型のM&Aを中心に手掛けてきました。また、同社は国内だけではなく、海外へも進出をしており、米国の会社を買収して子会社にするなどしています。そんなパン業界の事業売却事例を見ていきましょう。

 

パン業界の巨人「山崎製パン」の事業売却事例

国内で圧倒的なシェアを誇るパン業界最大手の企業が山崎製パンです。同社のシェアは4割を超え、連結売上高は1兆円を超えています。そんな国内で強固な地盤を持つ同社ですが、近年は海外進出に力を入れています。それは、日本の総人口が減少を続け、それに伴って国内のパン市場の縮小も予想されているからで、海外展開に打って出ることで、新たに利益を確保するためです。その同社の海外展開のエンジン役を担っているのがM&Aです。

この山崎製パンの動きを象徴するのが、2016年7 月の米国ベイクワイズ・ブランズ社の買収です。ベイクワイズは、ニューヨーク州に拠点を置き、主にベーグルを製造・販売しています。また、ベイクワイズは、ホテルやレストラン向けにアルチザンブレッドと呼ばれる高級パンを製造するトム・キャット・ベーカリー社を子会社に持っており、山崎製パンは、これらの会社と連携して、アメリカにおける事業拡大を目指しています。

一方、国内に目を向けると、山崎製パンは、2006年の東ハトを約172億円で買収したのを皮切りに、国内でもM&Aを次々に行っていきます。2007年には賞味期限切れ原料を不正使用した不二家の救済に乗り出し、不二家と業務資本提携を結び、関連会社化します。そして翌年、不二家の第三者割当増資約79憶円を引き受け、持ち株比率を35%から51%に引き上げ、連結子会社化しました。また2013年にはコンビニ事業を手掛けるデイリーヤマザキを吸収合併し、完全子会社化しました。

このように、山崎製パンは、国内においては救済型のM&Aを行ってきました。決して飛び道具としてM&Aを利用するのではなく、本業に軸足を置いたM&Aを行い、地道に事業拡大を図って、シェアトップに結び付けています。

 

パン屋・ベーカリーの事業売却を実施するうえでのポイント

パン屋・ベーカリーを事業売却するうえで、どのようなポイントがあるのでしょうか。ここでは様々な角度から、事業売却の注意点を見ていきたいと思います。

 

①店舗数

 店舗数は複数あることが望ましいですが、1店舗のみ買収したいという方もいらっしゃいます。実際のところ、個人経営の街のパン屋さんは、1店舗で経営されていることが多いです。
1店舗でも人気の事例は、設備をそのまま買収する、いわゆる居抜きの物件です。パン屋をオープンするうえで、専用のオーブンや機械の購入など、初期費用が非常に高いので、はじめから専用設備の整った物件には人気が集中します。

 

②立地条件

パン屋の出店にあたって、立地条件は極めて重要です。駅前、商店街、住宅の密集しているエリアなどは、多くの来客を見込めます。買い手側としても、このようなアクセスのしやすい店舗を買い求める傾向にあります。

 

③知名度

事業売却をするうえで、買収側は、そのパン屋の知名度に注目していることは言うまでもありません。一般的に知名度の高いパン屋は、テレビや雑誌等で取り上げられていることが多いでしょう。そういった有名店であるパン屋を買収したいと考えることは、当然のことです。
また、最近ではSNSで多く投稿されるお店も、知名度の高さの証と言えます。いわゆる「SNS映え」する商品は、その店の知名度を上げてくれます。

 

④独自のこだわり

お店独自のこだわりがあることも、事業売却のポイントになります。
例えば、最近では健康志向の高まりで、天然酵母を使った体にいいパンやオーガニック系のパンが人気です。
そういったパンを製造する技術のあるパン屋は、買い手側から非常に注目を受けます。

 

まとめ

パン屋・ベーカリーの事業売却から読み解く、業界の潮流を解説しました。パン屋の事業売却は、規模の大きなものから小さなものまで様々で、大企業のM&Aから個人経営の街のパン屋の買収にいたるまで、多岐に渡ります。
そして、近年のパン屋を巡る事業売却は熾烈なものがあり、特に大企業は、国内におけるパン市場の縮小が見込まれることから、大型のM&Aを行い海外にまで販路を広げています。パン業界は、M&Aを経て、これからどのように再編されていくのでしょうか。今後も業界から、目が離せません。

事業売却の事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》
パン屋・ベーカリー業界における事業売却がこのところ活発に行われています。特に大企業による事業売却や買収の動きは、目を見張るものがあります。
この記事では、そんな事業売却の事例から、パン屋・ベーカリー業界の潮流を読み解いていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月29日
ホテル・旅館の事業売却のポイントとは?
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