2019年5月19日 日曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《建築資材卸業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

M&A市場での建築資材卸業に対する需要は増加傾向にあり、経営資源の拡大を目的とした大手建築資材卸業者によって、中小規模の同業他社が買収・統合されるケースが増加しています。大手企業による買収ニーズが高い現在は、中小規模の卸業者がM&Aを実施するのに適したタイミングであると言えます。

この記事では、建築資材卸業の事業特性について説明したのち、建築資材卸会社によって実施された事業譲渡の事例をご紹介します。会社を存続する手段として事業譲渡が存在することを解説した上で、実際に準備を始める際に必要な知識、および注意点についても解説します。

 

建築資材卸業における事業譲渡の動き

住宅の新規建築事業、またはリフォーム事業に向けた建築資材の卸売を行う事業を建築資材卸業と言います。

空調設備、水回り設備といった住宅設備機器を取り扱う住設機器卸業と類似していますが、広義には建築資材も含めて住設機器卸業と呼称する場合もあります。建材卸業の市場規模は新築需要の低下を理由に縮小傾向にあります。一方で、既存住宅をリフォームする事業に限っていえば、需要を伸ばしつつあります

住宅に用いるさまざまな商品、部品を取り扱う事業者を建材・住設機器卸業として分類する特性から、商材の種類や地域ごとに異なる企業がシェアを伸ばしているという業界特性を持ちます。他業種と比べて大手企業によるシェア占有が進んでいない状況であり、現在は中小企業同士による競争が激化していると言えます。近年は建材・住設機器を製作するメーカーが卸業者を直接買収することによって事業体系の効率化を図ったり、卸業者を介さない仕入れ体制を構築したりする事業者も増加傾向にあります。

 

複数業者を経由する従来の主流に沿った建材・住設機器卸業者は、中小企業同士で提携・合併することによってスケールメリットの拡大を図ったり、特定地域でシェアを伸ばしている業者が大手事業者に事業を売却することによって経営改善を図ったりする事例が増加しています。

建材・住設機器卸会社をM&Aによって売却する場合、一般的には株式譲渡か事業譲渡のどちらかを用いて売却側企業の企業価値を算出します。

 

事業譲渡とは

事業譲渡は、事業の一部もしくは全部を第三者へ譲渡することを意味します。譲渡の対象となるものは、事業運営に必要な有形または無形資産であり、不動産や従業員、売却側企業が保有する事業ノウハウや取引先との関係性などが該当します。事業譲渡によって事業を売却した場合、売却側企業は今後同一の事業を行うことが制限されます。これを競業避止義務といいます。

事業譲渡では売却側企業が事業内容をすべて売却した場合でも、企業自体は存続するという特徴があります。よって、不採算事業のみを切り離す、もしくは現在行っている事業を売却して新事業を始めたい場合などに活用されることが多い手法です。経営者の目的に応じて売却する事業内容を調整できるというメリットを持ちますが、従業員や取引先との契約関係や、各種許認可に関しては直接引き継ぐことができず、必要な場合は買収側企業が個別に再契約を行う必要があります。しかし、中小企業を買収する場合は、引き継ぐ従業員や取引先の数も比較的少ないことが一般的なので、中小規模のM&Aでは多く用いられている手法です。

なお、株式譲渡は大規模案件に多く用いられる手法で、売却側企業の全株式を買収側企業が取得、あるいは譲受することが特徴です。

 

最近の建築資材卸業の事業譲渡事例

以下では建築資材卸業の事業譲渡の実例を3件ご紹介します。

 

アイカ工業がインドBBT社の化粧板事業を譲り受けた事例

アイカ工業株式会社は、運営する子会社を通じてインドのBombay Burmah Trading社(BBT社)の化粧板事業を譲り受けるための事業譲渡契約を決議し、2011年8月10日に同契約を締結したことを発表しました。建築商品の大幅な需要増加が見込まれるインドに事業拠点を確保し、アジアでの生産力強化と最適生産に向けたエリア戦略を推進するために化粧板事業を譲受したとしています。

当事業譲受により、譲受した事業部門にアイカ工業が保有する技術を加えて製品の多様化、高品位化、高機能化を進めるとともに、インド国内を網羅するBBT社の販売網を活用する事によって同国内でのシェア拡大を目指すとしています。アイカ工業は海外に対する事業投資実績を多く持つ企業であり、BBT社との取引は同社における7番目の海外事業投資です。

 

大日本木材防腐がHOTTAの3PL事業を譲受した事例

大日本木材防腐株式会社は、完全子会社の東洋陸運株式会社を通じて、民事再生手続き中である株式会社HOTTAから、住宅建築材料を扱う3PL事業を譲り受けることについて合意し、2011年11月25日に事業譲渡契約を締結したことを発表しました。

同社の子会社である東洋陸運は、拠点間配送業務を主な事業内容としており、HOTTAが行っている3PL事業を譲受することによって、企業価値のさらなる向上を目指すとしています。この事業譲受は東京地方裁判所の許可を得ることが条件となっており、譲受価額は非公表とされています。

 

三和ホールディングスが日本スピンドル製造の建材事業を譲受した事例

三和ホールディングス株式会社は、日本スピンドル製造の建材事業を譲受することを2017年1月26日に発表しました。事業の取得は同年4月1日に実施されており、取得価額は非公表とされています。

事業譲受の実施に先がけて日本スピンドル製造の建材部門を分割して、同社の100%子会社であるスピンドル建材サービスに吸収させたうえで、三和ホールディングスが子会社の全株式を取得することによって事業譲受が実施されます。

日本スピンドル製造は木製学校間仕切の市場におけるトップシェアを持っている企業であり、スチール製学校間仕切の市場でトップシェアを持つ三和ホールディングスが当事業を譲受することによって、市場におけるシェア拡大を推進していくとされています。

 

建築資材卸業の事業譲渡を実施するうえでのポイント

建築資材卸業の事業譲渡をするにあたって、特に気をつけるべきポイントをご紹介します。

 

早めに準備する

事業譲渡や株式譲渡で事業を売却した場合、順調に交渉が進めば半年から1年ほどで手続きが完了します。経営者の親族や社員へ事業承継するよりも短期間で実施できるメリットはありますが、実際には、売却先が見つからなかったり、1社目との交渉が決裂したりといったケースもないとは限りません。

事業譲渡によって会社を売却することを考えている経営者は、最初に自社の事業内容を改めて把握してから、目的に応じて譲渡する事業内容を検討し、出来るだけ成約する見込みが高い売却先を選定するといった準備を整えておく必要があります。

実際に交渉を始めるまでは、平均して半年ほどは掛かると想定しておく必要があります。

 

条件を明確にする

建材・住設機器卸会社を売却する場合、相手企業に求める必須条件を明確に決めておく必要があります

一般的に重要視されやすい条件として、従業員の雇用引継ぎ、労働条件改善、売却側企業の経営者が引き続き経営に関わるかどうか、などが挙げられます。なお、事業譲渡をきっかけに退職する場合は、経営者が抱える債務や個人保証に関する扱いも考慮する必要があります。

建材・住設機器卸会社の経営者は二代目、三代目であることも多く、遠慮して条件を設けないということは避け、交渉に進む必須条件を明確にしておくことで余計なトラブルを防止することができます。逆に、明確な目的や条件を決めずに交渉に臨んだ場合、言動が一貫せずに相手企業から疑問を持たれたり、売却条件を調整しきれずに交渉が決裂したりといったリスクが想定されます。

 

売却額の相場を把握する

第三者への事業売却や譲渡では、業種や事業内容に応じて相場となる価格が存在します。卸売業である場合は、取り扱っている商材の種類や在庫状況、主要な取引先、財務状況などから企業価値を算出して、売却額を決定します。

譲渡する事業や契約内容によって売却価格は大きく変動しますが、建材・住設機器の卸売業のM&A市場における相場は数千万円から数億円となっています。建築需要が高い東京・大阪エリアに支店を保有していたり、地方に展開している場合でも独占的なシェアを持っていたりすると、相場よりも高い価値が付く可能性が高くなります。

 

近年はストック住宅のリフォーム事業が業績を伸ばしていることから、リフォーム事業を運営する大手企業を取引先に持っている場合は相場より高い価格で売却できる可能性があります。在庫不足を問題としている同業他社に対しても、売却側企業が有利な条件で事業譲渡を実施できることが見込めます。余剰在庫を多く抱えていることが前提となりますが、短期間で手続きを実施できる可能性が高く、早期退職や新規事業に向けた資金獲得を目的としている場合には有用な手段の一つです。

 

事業譲渡を実施するタイミング

事業譲渡を実施する目的によって最適なタイミングは異なります。後継者問題の解消を目的としている場合、経営者がリタイアを検討する時期に売却スケジュールを調整することで良い結果を得やすくなります。近いうちに財務状況の悪化が予想される場合、できるだけ早く準備を始める必要があります。事業譲渡は負債を抱えていても実施できますが、負債が無い場合と比べて売却先が見つかる可能性は低くなります。仮に売却先が見つかっても、充分な売却益を得ることは難しいと言えます。

 

事業譲渡によって高い売却益を獲得したい場合、債務や借入金を抱えていないタイミングで、買収側企業にとって需要が高い事業を売却する必要があります。債務を抱えている場合は黒字経営に転換するまでに数年かかることも多く、事業価値を上げる手段として設備投資を実施した場合、投資の経済効果を確認するまでにも数年は必要です。

 

事業譲渡は相手企業との交渉・調整段階に必要な期間は短い傾向にありますが、実施に必要な書類や情報の準備には多大な労力と時間を必要とします。最適なタイミングに合わせて事業を売却・買収できるように、後述するM&A専門業者にサポートを依頼することも有効な手段です。

 

M&A専門業者の知識を借りる

建材・住設機器卸会社には中小規模の事業者が多く、事業譲渡が成約した後のサポートを含めても数年で完了できることが一般的です。しかし、売却側企業が未上場である場合は公的な株価が分からないので、企業価値を算出するには改めて株価を計算する必要があります。上場企業を買収するよりも余分な時間とコストが掛かる分、売却先が見つかりづらいと言えます。

また、交渉の場に移れたとしても、買収側企業によるデューデリジェンスでは、売却側企業が提示した情報と実際の事業価値に違いがないかをあらゆる観点から確認、調査します。事業譲渡で売却側に回る経営者はM&Aに慣れていないことが大半であり、経営者個人の取り組みで事業譲渡を完了させるのは困難であると言えます。

買収先を探し始める前に、M&A専門業者へサポートを依頼することも視野に入れて準備を進める必要があります。実際に依頼を行う際は、建材・住設機器卸業に関する専門知識を備えたM&A専門業者を選んでサポートを依頼することになります。実際に建材・住設機器卸業の事業譲渡を多く成立させた実績があればより良いでしょう。

近年は無料で相談を受け付ける業者も多く存在しますが、問い合わせ時点で確認しておくと金銭トラブルを防ぎやすくなります。

 

まとめ

建材・住設機器卸会社には中小企業が多く、後継者問題の解消や経営改善を目的としてM&Aを実施する会社が増加傾向にあります。

実際の交渉過程では、買収側・売却側企業の間にM&A専門業者が仲介に入る事が一般的です。近年では大手の建材・住設機器卸会社が中小企業を買収するケースも増加しており、中小企業に対するサポート実績が豊富なM&A専門業者も多く存在します。

建材・住設機器の事業譲渡を確実に成立させるには、買収側、売却側企業の双方が納得する必要があるので、充分な調整期間が確保できるタイミングで売却交渉を始める必要があります。スムーズに事業譲渡を完了させるには、M&A専門業者のアドバイスを受けながら想定されるトラブルを回避することが重要です。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《建築資材卸業》
M&A市場での建築資材卸業に対する需要は増加傾向にあり、経営資源の拡大を目的とした大手建築資材卸業者によって、中小規模の同業他社が買収・統合されるケースが増加しています。大手企業による買収ニーズが高い現在は、中小規模の卸業者がM&Aを実施するのに適したタイミングであると言えます。
この記事では、建築資材卸業の事業特性について説明したのち、建築資材卸会社によって実施された事業譲渡の事例をご紹介します。会社を存続する手段として事業譲渡が存在することを解説した上で、実際に準備を始める際に必要な知識、および注意点についても解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年5月19日
事業承継の事例から読み解く潮流《建築資材卸業》
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