2019年5月9日 木曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《建築資材卸業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、建築資材および住設機器の卸業が行う事業内容と市場規模について紹介した後、M&A市場における現状や抱えている問題点、M&Aを行う目的に関して解説を行います。

そして、建築資材・住設機器卸業界で実際に行われたM&A事例を基に、実際に売却・買収を行うときに把握しておくべき知識や注意点などを解説します。

 

建築資材卸業におけるM&Aの動き

建築資材卸業とは

新築住宅やリフォームなどに用いる建築資材(以下、建材と呼ぶ)や、空調設備、水道設備などの住宅設備機器を販売する事業を建築資材卸業といいます。

住宅建設に用いる多様な商品および部品を取り扱っている多業種の会社を纏めて建材卸業者として扱うので、様々な商材を提供する中小企業が全国に分散しているという特徴があります。

地域ごとに異なる企業が根付いており、他業種に比べて大手企業によるシェアの寡占が行われていない状況です。

一方で通常住宅や集合住宅の新築需要が減少していることによって、全体的な市場規模は縮小しています。1990年代初期をピークに市場規模は基本的に減少し続けており、現在はピーク時と比べて半分ほどに低下しています。

しかしリフォーム事業に対する需要は増えているといった動向も見られます。

 

建築資材卸業のM&A動向

国内では全体的な人口減少が問題となっており、多くの中小企業が後継者不足に悩んでいます。

建材・住宅設備機器の卸業者には地域に密着した中小企業が多く、後継者問題を解決する目的で事業や会社を売却するケースが増加しています。

工務店やハウスメーカー等による、建材・住宅設備機器の卸売業を運営する会社をM&Aによって買収・譲渡する事例が増加傾向にあります。中小企業が多いために価格競争が激しく、建材・住宅設備の卸売事業を取り込むことで商品価格を抑えることが狙いとなっています。

このように、大手企業に事業を売却することによって同じ系列に入り、経営資源を共有することを目的としたM&Aも近年は増加しつつあります。

 

最近の建築資材卸業のM&A事例

・事例1:三和ホールディングスが日本スピンドル製造の木材事業を買収

三和ホールディングス株式会社は、兵庫県で建材の製造及び販売などを行う日本スピンドル製造株式会社より建材事業を譲り受けたことを2017年1月に発表しました。

日本スピンドル製造は木製間仕切の市場においてトップシェアを持つ企業であり、今回の事業譲受によって三和ホールディングスが注力している間仕切事業の拡大が大きく前進する体制が整えられたとしています。

 

・事例2:文化シャッターが西山鉄鋼製作所を子会社化

文化シャッター株式会社は、(有)西山鉄鋼製作所の全株式を取得し、子会社化することを2015年3月に発表しました。取得株数は4,000株であり、取得価格は非公表となっています。

西山鉄工製作所は、主に首都圏に向けた住宅用の鉄筋ユニットや溶接金網などの製造メーカーであり、1962年の創立以降から取引先のニーズに対応した製品開発・販売を行っている企業です。

今回のM&Aによって建材関連の事業領域拡大、顧客基盤強化、収益モデルの多様化を図るとしています。

 

・事例3:阪和興業がダイサンを子会社化

阪和興業株式会社は、東京・大阪で鋼材の卸売事業を展開している株式会社ダイサンの全株式を取得し、完全子会社化することを2015年6月に発表しました。

阪和興業が推進する経営戦略に基づいたM&Aであり、買収後は事業拠点の連携を推進することによって、東京・大阪エリアでの流通網を拡充していくとされています。

株式の取得日時は7月1日であり、取得金額は非公表となっています。

 

建築資材卸業のM&Aを実施するうえでのポイント

売却側のメリット

後継者問題の解消

近年は労働者人口が減少し続けていることに加え、経営者の子孫に対して職業選択の自由を認める動向が広まりつつあります。

中小企業では経営者が70代を越えても後継者不在で事業承継を実施できず、病気やケガなどによって廃業に追い込まれるケースが少なからず存在します。

 

M&Aによって建材・住設機器の卸売事業を売却する場合、市場全体から承継相手となる企業を探すことができます

中小企業のM&Aはスムーズに実施すれば半年から1年ほどで完了できることも多く、交渉しだいで売却前の経営方針を維持することも可能です。

M&Aと聞いて悪い印象を持つ場合もあるかと思われますが、近年では事業承継を目的としたM&Aが一般的に実施されています。建材卸売事業の経営者は2代目、3代目であることも多く、事業承継の難しさを理解していることも充分に考えられます。

 

売却益の獲得

後継者不在で廃業を選択する経営者は少なくありませんが、事業設備や拠点を処分するには多額のコストが掛かります。

余剰在庫は売却することも可能ですが、原価で買取られることが多いと思われます。なお、債務を抱えていた場合は廃業後も引き続き返済していく必要があります。

事業譲渡を用いて事業を売却した場合、売却側企業は現金を獲得できる可能性があります

売却額は企業価値をベースに決定されるので、状況に応じてコア事業を売却することも選択肢のひとつです。

 

買収側のメリット

事業規模の拡大

他企業を買収するメリットとして、営業エリアや取扱商品を拡大することがあります。

特に建材・住設機器の卸売業者には地域に根ざした中小規模の会社が多いので、未開拓地域へ進出する手段として競争ではなく提携・買収を行う大手事業者が増加しています。

 

地域型業者は取引先との信頼関係が強固であることが多く、買収直後から安定した顧客を獲得することができます

新規展開するよりも低いコストで行える事に加え、顧客の獲得競争を行うリスクを払わずに事業規模を拡大することができます。

特定地域へ進出を図る場合、地域内で高いシェアを持っていて、安定した取引先を複数構築している企業を買収することで効率的に目的を達成する事ができます。

 

シナジーの獲得

自社と異なる商材を取り扱う会社を買収することによって、新規営業に係るコストを抑えながら短期間で業界内におけるシェアを伸ばすことが見込めます

買収側、売却側企業で取り扱う商材の組み合わせが良ければ、想定以上に収益を得られる可能性もあります。

自社で不足している商材を取り扱っている企業を買収した場合、相手が保有していた在庫を確保することができます。加えて仕入れ先を共有することによって、長期的な生産力向上も見込めます。

 

建材・住設機器卸業のM&Aを実施する際の注意点

買収額の相場

M&Aでは、買収する事業内容や業種によって相場となる価格が決まっています。

重要な評価基準は業種によって異なりますが、建材・住設機器の卸売業であれば売却側企業が保有する店舗や保管施設といった事業設備、取り扱っている商品、主要取引先、財務状況などから、売却額のベースとなる企業価値を算出します。

 

売却額は交渉を行う企業間が個別に算出しますが、最終的な金額は交渉内容しだいで大きく変動します。

建材・住設機器の卸売業をM&Aによって売却する場合、数千万円から数億円ほどが相場とされています。

売却側企業が優れた事業ノウハウや独自の取扱商品を保有している、優良な取引先を多く保有している場合は相場よりも高い価格で売買されるケースも想定されます。

 

売買に用いる手法

建材・住設機器の卸売業を運営する商社をM&Aによって売買する時には吸収合併、事業譲渡など様々な手法が用いられますが、その中でも株式譲渡という方法が多く用いられます。

株式譲渡とは、買収側企業が直接取得や譲渡によって売却側企業の全株式を保有し、経営を引き継ぐM&A手法です。

事業設備だけではなく、従業員の雇用や取引先との契約、その他事業資産を全て引き継ぐことが特徴となっています。

大規模なM&Aでも比較的短期間で実行可能というメリットがありますが、買収側企業は潜在的な負債やトラブルまで引き継ぐといったリスクも存在します。

 

実際に株式譲渡によるM&Aを行う場合、売却・買収側企業の間にM&A代行業者が仲介役として入る事が一般的です。

とはいえ、成立スピードが重視されるM&Aでは問題を見落とすというリスクは残ります。

 

株式譲渡と同じく、他のM&A手法にもメリット・デメリットがあります。

買収、売却を行うときの状況に応じて、双方が最大限のメリットを得られる方法で手続きを進めることがM&Aを成功させるポイントです。

 

M&Aを実施するタイミング

M&Aで建材・住設機器の卸売事業を売却する場合、事業承継を検討する時期に差し掛かって、売上の維持が難しくなってきた頃が売却に適しているタイミングです。

中小規模の会社をM&Aで売却するには、平均して半年から1年ほどは掛かります。

 

交渉期間中に売却側企業の経営が破たんし、経営者が病気やケガなどでリタイアを余儀なくされた等のトラブルが起こると、基本的には相手企業に交渉続行を断られてしまいます。

仮に売却が成立したとしても、トラブルが無かった場合よりは売却額が下がる可能性は高いです。そもそも、交渉に応じてくれる相手企業を見つけられないパターンも想定されます。

 

買収側企業は、獲得した相手企業が将来的にどれだけの利益を上げられるかを慎重に計算した上で買収の可否や金額を決定する必要があるので、その時間的余裕があるタイミングでM&Aを検討することが一般的です。

売却・買収を問わずM&Aに適したタイミングとして、業界再編が行われている時期があります。

建材・住設機器の卸売業は近年継続的に市場規模が縮小しており、今後も同様に縮小していくとみられていることから、事業資源の集約を図った大手事業者による買収案件が増加しています。

売却を検討している建材・住設機器の卸売事業者にとっても、中小もしくは大手の同業他社、新規参入を図る他業種など、多くの企業から売却先を探しやすくなるメリットが得られます。

 

M&A代行業者へ依頼するメリット

M&Aを成立させるまでには複雑な手続きが必要です。1件ごとに掛かるコストも高く、大手事業者でも1年に1~2件の買収を実施していればM&Aに積極的な企業であるとされます。

売却側企業の場合、1度M&Aが成立した後に潜在的なトラブルが発覚する、シナジーが形成できないといった理由で契約を撤回されてしまうと、2社目以降の相手企業からは信用されづらくなります。もちろん、問題が起こらない限りは考える必要が無い話です。

 

交渉を行う企業同士がお互い納得してM&Aを成約させるには、M&Aの専門知識を持った第三者による仲介が不可欠です

実際の手続き過程ではM&A代行業者が仲介に入る事が一般的です。M&A代行業者は、M&Aの実施に必要な相手企業探し、手続きに必要な書類作成や、デューデリジェンスを代行もしくはサポートすることを専門に行う業者です。

建材・住設機器の卸売業に関して詳しい代行業者へ依頼する事により、売却。買収側企業の双方が納得できる条件でM&Aを制約させられる可能性を高くする事ができます。

 

近年では完全成功報酬制の代行業者も多いですが、業者によってはアドバイス料や月間報酬などが必要になる場合もあります。

加えて、成功報酬の算出基準も複数あり、業者によって異なることが想定されます。

コストを最小限に抑えてM&Aを行いたい場合、初回相談時に必要な手数料や報酬規程に関する確認をしておくとリスクを低減できます。

 

まとめ

建材・住設機器の卸売事業をM&Aで売買する際には、大手企業が地方の中小業者を買収するケースが多くみられます。

従業員や取引先との契約が高く評価されやすい業種なので、会社ごと承継できる株式譲渡によって売買されることが一般的です。

買収側企業は潜在的なリスクを避ける手段としてデューデリジェンスを実施する期間を確保し、信頼できるM&A代行業者の協力を得ることによって、リスクを抑えながら事業拡大を行うことができます。

売却側企業はM&Aの実施に必要な書類や情報を揃えた上で、財務状況や経営者の年齢・健康面に余裕のある時から売却準備を進めることによって、債務を解消したうえでの早期退職や、新事業へ転向するといった目的を達成しやすくなります。

M&Aの事例から読み解く潮流《建築資材卸業》
この記事では、建築資材および住設機器の卸業が行う事業内容と市場規模について紹介した後、M&A市場における現状や抱えている問題点、M&Aを行う目的に関して解説を行います。
そして、建築資材・住設機器卸業界で実際に行われたM&A事例を基に、実際に売却・買収を行うときに把握しておくべき知識や注意点などを解説します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年5月9日
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