2019年5月15日 水曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《建築資材卸業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

アベノミクスによって、2011年の東日本大震災の復興事業、2020年の東京五輪開催による会場建設など、多くの公共事業に関わる仕事が建設業界に舞い込んできました。現場数が増え、労働者の生活が守られる一方で、建設現場数の多さに対して、働き手が足りないことが業界内で問題視されています。

そんな中、中小の建築資材卸業はM&Aによる事業承継で困難を乗り越えようと画策しています。

 

建築資材卸業における事業承継の動き

人口の減少や少子高齢化により、あらゆる事業で後継者不足が深刻化しています。中でも、地域に根ざした業者が多い建築資材卸業界では、専門的な知識や高い技術を兼ね備えた、即戦力となれる人材を確保できないという悩ましい課題を抱えています。

近年、こうした後継者不足により、事業承継が出来ない場合、M&Aによる事業の売却や買収で経営資源を獲得することに成功しているケースが多くみられます

M&Aの活用により、専門人材の確保と既存事業に更なる付加価値が期待できることから、建築資材卸業界のM&Aが活発になってきています。

 

M&Aの事業承継がもたらす効果

建設業界で大きく問題視されているのが、後継者不足です。特に地方の建材業者では、後継者がいないために、長年地域ユーザーに評価され続けた会社が廃業してしまうことがあります。

このような状況を防ぐためにも、M&Aを活用することで、事業を継続して地域に貢献し続けることができます。

その他、M&Aの事業承継を活用することのメリットをいくつかご紹介します。

 

人材を確保できる

現在、さまざまな企業では人材の確保に頭を悩ませています。建設業界でも同じく人手不足により、M&Aの事業承継を利用する企業が年々増加しています。

こうした背景を理由に、M&Aによって高いスキルや専門技術を持った人材を事業買収によって獲得することが可能です。長い時間をかけて新たな人材を育成するより、遥かに効率的な経営資源の確保が実現出来ます。

卸売業界では、相手をよく観察し、交渉相手に上手く働きかけ、信頼関係を築いていける「人間力」を持った人間が重宝されます。お客様を満足させ、会社に価値を生み出せる「人間力」と貴重な技術者を残すことが、M&Aによる事業承継の大きな使命です。

 

ブランド力が上がる

建設業界は、施主からゼネコンを通じて、卸業者、建材・住宅設備メーカー、部材メーカーと多層構造になっています。

近年、建設業界内でのM&Aによる事業承継が行われるようになってきました

他のジャンルの企業ではなく、建設会社同士のM&Aが頻繁に行われるようになった原因の一つに、他業者との技術共有があります。既存の事業に加えて、新たな専門分野を一から構築していくのには時間がかかるため、事業をそのまま承継出来るM&Aによる買収で効率的な会社事業の立ち上げが可能です。

さらに、資材メーカーとのM&Aが実現すれば、材料生産から受注、販売までの最初から最後まで請け負う事が出来ます。自社の開発技術と資材メーカーとの技術の融合で、企業ブランドを高めることが可能です。

 

最近の建築資材卸業の事業承継事例

建設業界では、同業者同士のM&Aによる事業承継が多く利用されていることをお伝えしてきました。ここからは、実際に最近行われた建築資材卸業の事業承継事例をいくつかご紹介していきます。

 

事例①

2018年3月、建材・住宅設備機器卸売の「OCHIホールディングス」が、同業の「丸滝」を子会社化しました。

 

・買収側 「OCHIホールディングス株式会社(福岡県福岡市)」

建材・加工・生活・その他の4つの事業を手掛けています。

最近では、常に変動する市場動向に対応するため、省エネルギーや創エネルギー、環境にも配慮したスマートハウスなどの「環境」「エネルギー」といったテーマをはじめ、高齢化に対応した住まいの「安心・安全」、さらに中古住宅の「リフォーム」などを主にテーマに、暮らしと住まいに関連する新規商材の提供に取り組んでいます。

建材・住宅設備機器の卸売において、西日本地区で売上1位の規模を誇っています。

 

・売却側 「株主会社丸滝(長野県駒ヶ根市)」

建材・サッシ・住宅設備機器・エクステリア類など2万アイテムにのぼる建設資材の総合商社です。特に、高い技術力を持つ内装工事では、設計から施工までを手掛け、軽量鉄骨による天井間切り、壁工事では県内トップの実績を誇っています。

 

・事業承継理由

OCHIホールディングス株式会社における今後の成長戦略として、事業エリアの拡大や建築工事、隣接分野の強化を掲げ、持続的に成長できる事業体制の構築を目指しています。

地元で内装工事を中心に確固たる地位を築き、3拠点で顧客の様々なニーズに応え、高い技術力とノウハウを持つ「丸滝」を買収し、グループシナジーを図りました

丸滝をコアに添え、甲信越地区への事業展開、人材交流による技術の向上、事業ポートフォリオの拡大を追求します。

 

・効果

丸滝を中心とした甲信越地方への事業展開の拡大に成功しました。人材と技術の交流、事業サポートを行った結果、グループシナジーを向上させることに成功しました。

 

事例②

2018年1月、住宅用資材を中心とした卸売「株式会社キムラ」が、ガラス工事業・建具工事業を営む「東洋ガラス工業」を子会社化しました。

 

・買収側 「株式会社キムラ(北海道札幌市)」

住宅資材総合商社として、住宅資材の卸売業、不動産事業のほか、住宅足場リース、子会社におけるホームセンターの経営など、住まいに関する幅広い分野で事業展開を進めています。会社独自開発である自然素材のプライベートブランド「Skog(スコーグ)」で、環境に優しく、快適な住まいの実現を目指しています。

 

・売却側 「東洋ガラス工業株式会社(北海道石狩市)」

新築、改修、ビル・住宅用のガラス、サッシ工事を設計・施工・監理までの一貫した技術集団として、年間ビル現場約100棟、施工現場に関しては約2000を超える現場を施工しています。また、アルミサッシ、ガラスの鋼製建具工事を主とし、住宅用エクステリア、自動ドア、改修工事、樹脂サッシ工事、シャッター工事など、多種にわたる営業種目を取り扱っています。

 

・事業承継理由

キムラは、中長期の経営戦略を画策していくなかで、顧客への利便性の拡大から、グループの成長で企業の総合力強化を目指しています。グループの一体化により、外注している各種施工に対してスピーディーな対応とサービス幅の拡大が狙いです。

熟練された加工技術と施工のノウハウを取り入れ、強固な顧客基盤を保持している東洋ガラス工業株式会社を買収し、シナジー効果を期待しています

 

・効果

卸売業において外注している各種施工をグループで対応することが可能となり、サービス幅の拡大とスピードアップ、双方の顧客に対して新たなサービスを提供することが出来ました。ホームセンターでのリフォーム業でも互いに補完し合えるようになりました。

更なるシナジー効果を追求することで、両社の一層の成長とキムラグループの企業価値向上という結果が得られました。

 

事例③

2018年10月に、住宅資材全般を取り扱っている「JKホールディングス株式会社」が、内装用工具のカタログ販売を主要事業とする「株式会社広島」を子会社化しました。

 

・買収側 「JKホールディングス株式会社(東京都江東区)」

木質系建築資材を主要取扱商品とする住宅向け総合建築資材販売の企業集団です。「快適で豊かな住環境の創造」を企業理念に掲げ、事業活動を通じて社会の発展に貢献することを目指しています。

総合建材卸売業をはじめ、総合建材小売事業、建設工事事業、合板製造・木材加工事業、フランチャイズ事業、運送・倉庫・その他事業と幅広い事業を展開しています。海外に営業拠点を持ち、グローバルな展開を図り、国際商取引に通用する人材育成にも注力しています。

 

・売却側 「株式会社広島(大阪市住吉区)」

内装用工具のカタログ販売を主要事業としています。プライベートブランドである「ヱビス」は、内装職人の間で評判が高く、業績アップに大きく貢献しています。2018年3月期の売上高は11億6000万円、営業利益が1400万円、純資産は4億3900万円でした。

 

・事業承継理由

JKホールディングスは、㈱広島の顧客基盤や特色ある取り扱い商材を取り込み事業基盤の拡充を目指しています。双方のお客様に各々の強みがある商材を提供し、さらなる顧客満足の向上を図ります

また、業界の再編成が遅れている住宅産業を活性化させるため、M&Aの事業承継を利用しました。

 

・効果

双方の会社が連携してより高い総合力と生産性向上を実現し、企業グループ全体の底上げに成功しました。

 

建築資材卸業の事業承継を実施するうえでのポイント

事業承継によって、その後の会社運営が円満になることをイメージされるかと思います。しかし、適切なやり取りをしなかったために、事業承継後に経営が伸び悩んでしまったり、経営難に陥ったりする可能性があります。

スムーズな事業の承継と事業経営の維持・向上を図るためにも、事業承継で双方がおさえておくべきポイントをご紹介していきます。

 

買収側がおさえておくべきポイント

・地域のシェアがあるか

一般的に、M&Aの事業承継で買収側が事業地域の拡大を目指す場合、その地域で最もシェアの大きい企業との事業承継を望みます

理由は、顧客と営業拠点を効率的に獲得するためです。

そこまでシェアが大きくはない企業を買収したとしても、M&A実施前と経営業績がほとんど変わらない、もしくは下がってしまうなど、メリットが得られません。事業地域でのシェアが大きい企業ほど、買収する側からの注目が集まりやすく、売却側は、高値で企業を売ることが出来ます。

 

・長期的な取引がある

建築資材卸会社は、地域に密着している企業が多いのが特徴です。そのエリアの工務店や建設会社などに自社の製品を卸していれば事業価値がかなり大きくなります

事業価値とは、会社が実施している特定の事業や資産が、今後生み出す予定の価値の総和「企業価値」から、会社の手元に残っている資産運用株式や投資信託「非事業価値」を差し引いたものです。

会社の将来性を評価する事業価値が高ければ、収益性が見極められるので、「事業価値」は、M&Aの企業買収で重要なキーワードです。

買収した企業に、長期的な取引実績がある場合、独自のルートだけで不足がちな商材を入手することが出来ます。また、長期間固定客に商品を卸していることで、商材の充実だけでなく、信頼と実績があることが分かります。

 

・建築資材の適切な在庫管理が行き届いているか

建築資材卸業界において、新たな顧客契約にいつでも対応出来るように、建築資材の在庫を多めに残しておくものです。これはごく普通のことですが、建築資材の在庫過多であると、管理コストがかかってしまいます。

倉庫内に建築資材が溢れ返っていると、人間が動けるスペースが狭くなり、稼働率の低下で経営業績も下がります。さらに、購入した商品を業者に卸すことが無かった場合、無駄な出費となります。在庫を管理する保管費、廃材となり廃却費用が発生するなど、在庫の管理コストは想像以上に会社に負担をかけます。

買収する企業の建築資材の在庫を見るだけでも、がさつな運営をしているかどうか見極められます。

 

売却側がおさえておくべきポイント

・譲れない条件を明確化する

一定以上の売却額や従業員の雇用条件の改善、契約先との取引の継続などの条件を承諾できない場合、交渉には移れないということを買収側に伝えましょう。

売却側は、買収側と対等な立場にあるため、互いに条件を提示することが出来ます

この際、会社の状況やM&Aの目的などを確認することが重要です。例えば、アーリーリタイアによりその後の人生を豊かにしたいのであれば、余生を存分に楽しめるだけの売却益を得なければなりません。さらには、経営者が代わることで従業員が辞めてしまう場合は、職場環境を改善し引き留める必要があります。

M&Aによるトラブルを未然に防ぐためにも、明確な条件設定を行いましょう。

 

まとめ

建築資材卸業者にとって、建設市場で生き残るための術として、M&Aによる事業承継がスタンダードになっています。

特に、最近の傾向としては、同業他社との事業承継による企業売買が多く行われています。

新たな隣接分野の事業導入により、高い技術とノウハウを習得することで、グループシナジー効果が期待出来ます。自社の中核部分の事業だけではなく、事業の多角化により常に変動する市場に対応しようとする企業が、市場で安定した地位を得られるでしょう。

事業承継の事例から読み解く潮流《建築資材卸業》
アベノミクスによって、2011年の東日本大震災の復興事業、2020年の東京五輪開催による会場建設など、多くの公共事業に関わる仕事が建設業界に舞い込んできました。現場数が増え、労働者の生活が守られる一方で、建設現場数の多さに対して、働き手が足りないことが業界内で問題視されています。
そんな中、中小の建築資材卸業はM&Aによる事業承継で困難を乗り越えようと画策しています。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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