2019年5月10日 金曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《建築資材卸業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、建築資材卸業の持つ事業特性に関して紹介したのち、経営戦略の一つとして近年注目されている事業売却について解説します。

建築資材卸業で実際に行われた事業売却の成功事例を基に、これから事業売却を検討する経営者が注意するべきポイントを解説していきます。

 

建築資材卸業における事業売却の動き

現代では国内人口の減少と少子高齢化が重なり、住宅の新規建設数は減少傾向にあります。

ストック住宅をリフォームする事業は緩やかに業績を伸ばしていますが、建築資材卸業における全体的な市場規模は1991年をピークに縮小しており、2016年時点ではピーク時の半分以下まで売上が低下しています。

 

新築需要が減少していることを受け、建築資材卸業者の仕入れ先となっているメーカーが大々的に統合または提携を集中的に実施したことによって、メーカー側の資本力が強化される流れが発生しています。

従来は建材を含む住設機器メーカーが卸業者を経由していましたが、近年ではメーカー側が直接販売を行う商流が一般化しつつあります。

結果として、複数の事業者がシェアを奪い合う状況が形成されており、卸業者の間でもスケールメリット強化を目的としたM&Aが増加しつつあります

 

建築資材卸業者がM&Aを実施する場合、株式売却もしくは事業売却というスキームに沿って進められる事がほとんどです。

住設機器卸業者には中小企業が多く、M&Aの規模も比較的小規模である事から、事業売却を用いる方が買収、売却側企業の双方にとってメリットが大きくなりやすい傾向にあります。

両スキームの異なる点に関しては以下で解説します。

 

・事業売却と株式売却の違い

事業売却は会社が運営している事業を売却することであり、交渉が成立した後も売却側企業は存続します。

事業に用いる不動産や機械、商品の在庫といった有形資産や、事業ノウハウや取引先との信頼関係といった無形資産が主な取引対象です。

売却側企業は、不採算事業のみを切り離して主力事業へ集中し、保有している事業を引き継いだ後に同じ会社で新事業を始めることもできます。目的に応じて事業の一部だけを売却できるのが事業売却の特徴であると言えます。

ただし、事業売却では従業員や取引先との契約関係、各種許認可などを直接引継ぐことは出来ないので注意が必要です。従業員を引き継ぎたい場合、一度退職とした後に再度就職させる手続きを踏むことで引き継ぐことが可能になります。

 

株式売却は、会社の株式を売買することで事業の経営権を移行することです。交渉が成立した場合、売却側企業は相手企業へ吸収合併されることが特徴です。

事業資産を全て受け継ぐので、事業売却と比べると必要なプロセスが少なく、短期間で実施できるメリットがあります。

しかし、買収側企業が簿外債務や潜在的な負債を引き継ぐリスクも存在します。

 

最近の建築資材卸業の事業売却事例

従来の建築資材卸業は、多数の中小企業が全国に点在している業態でしたが、近年では大手事業者による中小企業の統合、吸収が増加しています。

獲得する事業を明確化するため、事業を子会社へ分割した後に吸収するという事例も増加傾向にあります。

ここでは、建築資材卸業の中で実施され、成立した4件の事例を紹介します。

 

・事例1:マイスターエンジニアリングがエコー防災を子会社化

株式会社マイスターエンジニアリングは、消防用設備に関する事業を実施しているエコー防災株式会社の株式を取得し、子会社化したことを2018年10月23日に発表しました。

同社は半導体製造やメカトロ機器、および建築設備のメンテナンスやエンジニアリング業を展開しており、ファシリティやメカトロに関連する業務をコア事業としています。

この株式取得によってエコー防災は同社のグループ企業として、マイスターエンジニアリングが展開するファシリティ関連事業のサービス品質及び領域がさらに拡大できるとしています。

ならびに、人財面や事業面におけるシナジー効果の発揮を通じて総合的なグループ力強化に大きく寄与するとしています。

取得価額は非開示であり、株式の取得は発表が行われた10月23日に実施されています。

 

・事例2:アイナボホールディングスがタイル卸売会社の今村を子会社化

株式会社アイナボホールディングスは、関西を中心にタイル卸売および工事業などを実施している株式会社今村の株式を取得し、子会社化したことを2018年9月21日に発表しました。

同社は関東及び東海エリアを中心にタイルなどの住宅関連商品販売、内装や設備工事などを主な事業としています。

買収対象となる会社はタイル以外にも衛生陶器や風呂釜などの住設機器卸売業を実施しており、水回りの専門商社として事業を実施しています。

両社は2017年9月から資本業務提携を行うことで協力関係の強化に努めていたが、当株式取得によって協力をさらに強化するとしています。双方の営業エリアが補完関係にあることを活かし、工事力や企画力に関する情報交換を行うとともに、販売チャネル共有化による販売網強化に協力していくとしています。

 

・事例3:キムラがテクノ興国を子会社化

株式会社キムラは、北海道の帯広エリアで住宅用足場の施行サービスやレンタルを主な事業としている株式会社テクノ興国の株式を取得し、子会社化したことを2018年3月22日に発表しました。

同社は住宅資材を中心とした卸売業、不動産賃貸および販売業を実施している他、子会社によるホームセンター経営や建築足場のレンタル業などを運営している企業です。

当株式取得により、帯広市を中心とした十勝地区において、より密着した足場レンタルサービスとスピードアップが図られ、営業基盤の拡大が見込めるとしています。

 

・事例4:OCHIホールディングスが建設会社の丸滝を子会社化

OCHIホールディングス株式会社は、長野県で建材・住設機器の販売、および住宅の内外装、水回り工事などを実施している株式会社丸滝の株式を取得し、グループ会社とすることを2017年12月21日に発表しました。同社は建材・住設機器卸業、木材加工事業、環境事業、建設工事や介護関連事業などを実施している企業です。

買収対象となる丸滝は、特に内装工事を中心とした建築分野で高度な技術力を蓄積しており、地元で確固たる地位を築いている企業です。

当株式取得により、対象企業が展開する事業を中核として甲信越地区における事業展開を図り、人材の交流による技術、ノウハウなどを蓄積して、事業ポートフォリオの拡充とグループシナジーを一層追求していくとしています。

 

建築資材卸業の事業売却を実施するうえでのポイント

・売却額の相場

M&Aによって外部企業へ事業を売却する場合、対象とする業種や事業によって相場価格は基本的に決まっています。

卸売業の場合、売却する事業施設、商材の種類や在庫量、顧客、収益といった観点から企業価値を算出し、買収価格を決定します。

 

市場からの需要が高い商材を多く扱っている、事業エリアが広い、といった場合などは相場よりも高い価値が付く事もあるとされます

引き継ぐ従業員や相手企業からの需要にも左右されますが、建築資材卸会社を外部企業へ売却する場合、平均して数千万~数億円が相場とされています。

 

適正な売却額を計算する方法はいくつか存在しますが、対象企業の時価純資産に税引き後利益を加算する方法を用いることが多いです。場合によっては税金対策向けの役員報酬や設備投資などをさらに加算することもあります。

時価純資産は貸借対照表があれば算出可能ですが、複雑な計算が必要となります。

事業売却を実施する際の参考として相場を計算する場合、税理士や公認会計士といった専門知識を持った人物からアドバイスを受けながら計算することを推奨します。

 

・事業売却に必要な期間

中小規模の建築資材卸会社をM&Aで売却する時には、引き継ぎが完了するまでに平均して半年から1年ほど掛かるとされます。

M&Aに必要な知識や技能を持った人物が売却先探しや各種手続きをサポートすることが前提であり、高い売却益を得たい場合は必要な情報や準備が多くなるので、より長い期間が必要になります。

特に事業承継を検討する時期に差し掛かっている場合、経営者が現役である間に事業売却を完了できるように準備を進めることが最も重要な事です。

 

相手企業との交渉過程では、事業売却の専門家からアドバイスを受けながら手続きを進めることが一般的です。売却側企業はM&Aに関する予備知識がない事も珍しくないですが、M&A代行業者がサポートを行うことで大手事業者と対等に近い条件で交渉を行いやすくなります。

また、多くのM&A代行業者は相手企業を探し始める前の売却準備についてもアドバイスやサポートを実施してくれます。

 

・目的を明確化しておく

事業売却を実施するにあたって、相手企業に要求する条件は明確にしておく必要があります。

一般的に重要な条件として、売却益の獲得、従業員の雇用引継ぎ、後継者問題などが挙げられます。

売却側企業から条件を設けることは基本的にメリットの方が多いので、特に譲れない条件に関しては前もって明確に伝えておくことを推奨します。

遠慮して相手に合わせたり、深く考えずに事業売却を始めてしまうと交渉が難航したり、成立しても事業が上手く行かず、後悔する結果を招く可能性が高くなります。

 

・事業内容の把握

建築資材卸業を売却することによって高い利益を得たい場合、自社の事業内容を改めて把握したうえで独自の強みを見出してアピールしていく必要があります。

例えば、特定地域の顧客を殆ど占有していたり、幅広い地域に支店を持っていたりする卸業者は高い事業価値を持っていると言えます。

事業拠点の数が多くない場合でも、市場需要が高い商材を安定して調達できる流通ルートを持っている、代用品が無い人気商材を取り扱っているような建築資材卸業者は買収需要が高いと言えます。

買収側企業から見て高い収益につながりそうな事業であるほど、高い金額を支払っても取得したいと思うものです

建築資材卸事業は中小規模の企業が中心となっていましたが、近年では大手が地方の事業者を買収、統合する事例が増加しつつあります。

 

・M&A仲介業者の力を借りる

第三者への事業売却は、経営者の親族や従業員、役員に承継するよりは短期間で実施可能ですが、手続きがスムーズに進まなければ必要な期間は延びていきます。

事業売却を成立させるまでには多くの手続きが必要であり、書類作成や売却条件の調整に時間をかけすぎていると相手企業からM&Aの話を断られる場合もあります。

ここ数年、建築資材卸業者によるM&A件数は増加傾向にありますが、買収先が見つからない企業も増加しています。売却側企業が未上場である場合が多く、株式の時価を算出するのに多大な時間とコストが掛かる事が売り手過剰の理由に挙げられます。

 

これから建築資材卸業を売却することを検討し始める場合、M&A仲介業者へ相談することから始めた方が、自力で進めるよりも良い結果になりやすいです。

M&A仲介業者は、事業売却に必要な相手を独自のネットワークによって仲介してくれる業者です。近年は中小企業が企業存続を目的として積極的に事業売却を実施する傾向があり、中小企業のサポートを得意とする業者も増加傾向にあります。

多くの場合、交渉過程や書類作成といったところでもサポートを受けられるので、短期間で確実に事業売却を成功させるにはM&A仲介業者へ依頼する事をおすすめします。

建築資材卸業に関して詳しく、事業売却を多く成立させている業者であるほど、信頼できる業者であると言えます。

 

まとめ

第三者との間で企業が運営してきた事業を売買する時には、双方の事業内容を見比べて、可能な限り双方が納得できる条件で事業を引き継げるように調整する必要があります。

紹介した4件の事例では、買収側企業は事業エリア拡大や取扱商品の増加を特に重要視していると解釈することができます。

多くの売却希望案件に紛れずに事業売却を成立させるには、財務状況や市場動向などの条件が整ったタイミングで実施することが重要です。

最近になって事業売却を検討し始めた経営者でも、M&A仲介業者のサポートを受ける事でスムーズに手続きを進めることが可能になります。

事業売却の事例から読み解く潮流《建築資材卸業》
この記事では、建築資材卸業の持つ事業特性に関して紹介したのち、経営戦略の一つとして近年注目されている事業売却について解説します。
建築資材卸業で実際に行われた事業売却の成功事例を基に、これから事業売却を検討する経営者が注意するべきポイントを解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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