2019年5月11日 土曜日

建築資材卸業のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では建築資材卸業の概要や市場特性に関して触れるとともに、M&Aを実施する前に行うべき準備・注意点を売却側、買収側企業の視点からそれぞれ解説します。

実際にどのような企業がM&Aを実施するか、どのタイミングで準備を始めればよいかといったポイントに関しても解説していきます。

 

建築資材卸業のM&A

建築資材卸業とは

建築資材卸業は、住宅建設に用いる建材を仕入れ、卸売する事業です。

関連事業である住宅設備機器の卸売事業と併せて一つの事業として扱われることが一般的です。水回りや空調設備など、住宅の周辺設備を住宅設備機器と呼びます。

住宅に関する商品を取り扱っている複数の業界を集合させて一つの業界としており、商品を構成する多数の部品も定義として含まれます。

資材卸業の物流には多くの事業者が関わっており、複雑な状況を形成していますが、全体的な流通システムとしては製造業者が幅広く存在し、多様な業界に需要があるので、卸売業者が仲介を行います。

 

M&Aについて

M&Aとは、「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略で、直訳すると「合併と買収」という意味になるビジネス用語です。実際に用いる場面として、企業を売買することによって複数の企業を一つに統合する手法をM&Aとして扱います。

売り手は、事業承継による企業の存続や資金調達、コア事業への専念を主な目的として戦略的にM&Aを実行します。買い手は、事業規模の拡大や新規事業を始めることを主な目的として、戦略的にM&Aを実行します。

中小企業がM&Aを実施する場合、殆どは後継者問題の解決が主な目的になっています。

高齢化や職業選択の多様化が進んでいることもあり、後継者不足に悩む中小企業は近年増加しています。

 

事業承継ができない場合は廃業を選択するのが従来では一般的でしたが、会社の創立以降培ってきたノウハウや技術を失うことは経営者にとって残念な話です。加えて、従業員や取引先に対しても多くの迷惑をかけることになります。特定地域を支えていた企業である場合、廃業してしまうと国内経済に影響を与えることも考えられます。

しかし、2000年代初期から大手企業同士のM&Aが多く実施されたことをきっかけとして、M&Aの有効性が幅広い層に知られつつあります。

 

市場規模

住宅に用いる建材や住宅設備機器の市場規模は縮小傾向にあります。国内人口の減少によって建材や住宅設備機器に対する新規需要が低下していることが主な要因となっています。

しかし既存の住宅に対するリフォーム事業は売上を伸ばしており、国の消費振興対策や低金利政策が推進されているといった流れも見られます。

 

中小企業が多い業界

建材や住宅設備機器は多様に分類されており、地域に根差した中小企業が全国各地に存在することが特徴となっています。

大手の建材・住宅設備機器の卸売業者は地域型業者と業務提携を行うことで事業エリアを広げています

 

建築資材卸業のM&Aを行う理由は?

では、建築資材卸業がM&Aを行うには、どのような理由があるのでしょうか。

 

売却側の目的

後継者問題の解決

国内における労働者の平均年齢は上がり続けており、多くの中小企業で後継者不足が問題となっています。後継者がいない状況では経営者が60代、70代の定年に退職できず、病気やケガなどで廃業に追い込まれることも考えられます。

後継者不足に悩む経営者にとって、M&Aは多くの問題を解決できる方法です。

経営者個人のネットワークでは後継者が見つからない場合でも、M&Aでは全国から事業の売却先を探すことができます。優れた技術や経営実績を持つ企業が後継者不在で廃業を選ぶことは少なくないですが、M&Aを活用することで会社を存続する事ができます。

 

売却益の獲得

リタイアの方法として廃業を選んだ場合、会社は解散となり、事業設備や在庫は放棄もしくは売却することになります。

廃業時に得られる売却益はM&Aに比べて確実に低く、債務を抱えていた場合は対応が困難になります。廃業しても債務は残るということを念頭に置いて行動することをおすすめします。

 

M&Aによって事業を売却できれば、譲渡した事業価値に見合った現金を得ることができます。事業拠点や設備以外にも、取引先との契約や事業エリアの優位性、ネームバリューなども評価されるので、条件が整っていれば多額の売却益を得られる可能性もあります。

近年ではM&Aによる売却を前提として新事業を始め、事業規模の拡大に費やしたコストを回収した段階でM&Aを実行し、多額の売却益を得ることを目的とした経営者も出てきています。

 

買収側の目的

事業領域の拡大

建材・住宅設備機器は商品や部品の種類が非常に多いので、事業領域の拡大を目的としてM&Aを実施するケースが存在します。

一定以上の販売実績を持つ商品を新たに取り扱うことで、買収側企業は多くのメリットを得られます。買収直後から収益の増加が見込めるほか、より多くの顧客に対して商品を提供できるようになるので、企業の信用度が向上することも見込めます。

事業内容がうまく噛み合った場合、市場で大きくシェアを伸ばせる可能性もあります。

 

主力事業の強化以外にも、自社の売れ行きが伸びない地域や商品がある場合、対象となる地域や商品の販売ノウハウを持つ企業を買収することで問題を解決できるケースもあります。

 

営業拠点の拡大

建材・住宅設備機器の卸売業者には地域特化した企業が多く、M&Aによって事業拠点や顧客を確保できることは大きなメリットです。

地域型企業は顧客と営業担当者の信頼関係が強い傾向にあるので、買収直後から対象地域でのシェアを伸ばすことができます。

 

市場の変化に素早く対応できる

時代による需要の変化や技術の向上に対応していく際、自社だけでは経営リソースが追いつかなくなる状況も想定されます。

対応が遅れるほど収益に繋がるチャンスを逃すことにもなり、場合によっては初期投資を回収する前に需要が収束するリスクもあります。

M&Aによって自社の課題を解決できる企業を買収することによって、市場の変化に素早く対応していけるようになります。

 

シナジーを形成できる

M&Aによって企業を買収する際には多額のコストが掛かります。投資に見合ったメリットを得るには、自社が取り扱っている商品や部品、主要な事業エリア、事業拠点の状況などを改めて把握し、抱えている問題を解決できる会社を買収する必要があります。

シナジーを期待する際は不足部分を補うのが一般的ですが、同じコア事業を持つ会社を買収して企業の収益力を強化するパターンも存在します。

 

建築資材卸業のM&Aを行うタイミングは?

M&Aを行うには今が良い

建材・住宅設備機器の市場規模は1990年代前半をピークに減少しており、現在はピーク時の半分程度となっています。

主な要因である国内人口の減少は今後も続くと見られており、建材・住宅設備機器に対する需要が縮小していく可能性も高いことから、中小企業にとっては厳しい経営環境が続いていくと想定されます。

 

建材・住宅設備機器の卸売業者の多くは特定地域に特化した中小業者であり、特定の中小企業と継続的に取引し続けている建設会社、工務店なども多く存在します。

大手企業による影響が比較的少ない業界であり、多数の企業がシェアを奪い合っている状況です。競争相手となる企業が増加する一方で事業規模は縮小しているので、競争は年々激化しています

中小企業間での競争激化を受けて、事業規模の拡大や会社存続を目的としてM&Aを実施する企業が増加しています。事業エリアや取り扱う商品などでシナジーを得られる同業他社に対する需要が高いです。

 

現代では顧客からのニーズが多様化しており、事業運営に必要な投資コストも増大し続けています。M&Aによって経営資源の集約を図る企業は近年増加しており、今後も同様の流れが続くことで業界再編が進んでいくと想定されます。

建材・住宅設備機器の卸売業では、2代目、3代目の経営者の多くが事業承継を実施する時期を迎えており、今後は事業承継を目的としたM&Aが増えてくると予想されています。

 

M&Aを行う前の準備

売却側

まず、事業活動に関するデータを体系的にまとめる必要があります。

自社の財務状況を把握するため、過去の決算書や事業計画を整備しておくことは基本です。決算書や勘定明細に加え、データを裏付ける内部管理資料も揃えておく必要があります。

卸売業である場合、製品別の売上や営業利益、導入コストなどの資料を整備することが必要です。

 

次に、経営戦略を明確にしておくことが挙げられます。

M&Aによる売却を検討する会社は経営難である場合も多く、設備投資や新規採用、社員教育などが滞っているケースも想定されます。

計画として存在する事業戦略や業績改善に向けた施策の内容、及び計画の実現に必要な経営リソースを具体化することによって、売却後の成長性をアピールすることができます。

 

買収側

買収側企業がM&Aを成功させるには、買収対象となる相手を入念に分析して、多額の買収費用を使って取得するべき事業であるか、そうでないかを的確に判断する必要があります。

M&Aを活用する目的は企業ごとに異なりますが、何を目的として買収を実施するかは前もって明確に決めておくことをおすすめします。

M&Aを成立させることは勿論重要ですが、成立してからの経営戦略はより重要です。M&Aを実施する目的を明確に決めることによって言動に一貫性を持たせられるので、会社内の意見を統一しやすくなるメリットが得られます。

 

共通する準備

M&Aを実施する際には、売買を行う企業の間で”秘密保持契約”を締結することがほとんどです。

企業の売却や買収を検討していることが外部に知られると、両社の事業運営に多大なダメージを及ぼす可能性があります。M&Aの過程では詳細な財務状況や事業内容などを公開するリスクを負うので、機密性の保持や損害賠償などについて規定した書類を作成し、契約を交わす必要があります。

買収側企業の不手際や理解不足で情報が外部漏洩した場合、売却側企業が受けた損害を全て賠償しなければならない可能性があります。

会社の信用にも関わる問題なので、社内全体に情報管理の必要性を周知しておく必要があります。実際に行うべき対策としては、情報によって共有する役職を限定し、情報の記録や伝達に用いる手段を統一しておくことなどが考えられます。

 

建築資材卸業のM&Aを実施するのは誰か?

建築資材と関わりの深い工務店や建設会社などが、建材・住宅設備機器の卸売事業をM&Aによって売買する事例が増加傾向にあります。

売却を実施するケースとしては、価格競争による負担が大きい工務店が経営改善を図り、卸売事業を専門に行う業者が業績を維持する目的で大手企業の傘下に入るなどのケースも存在します。

買収を実施するのは開発コストを商品価格へ還元したい大手企業が多く、地方で実績を上げている中小規模の卸売業者を買収してスケールメリットの強化を図るパターンが多いです。

 

建築資材卸業のM&Aの相談先は?

M&Aは成立までに複雑な手続きが必要です。

特に多様な商品を取り扱う建材・住宅設備機器の卸売事業を売買するときは、専門知識を持ったM&A仲介業者に相談することが一般的です

M&A仲介業者とは、M&Aの実施に不可欠である売却・買収先となる企業探しをサポートする業者です。M&Aブティックという名称でも呼ばれます。

多くの場合、交渉過程における書類作成やデューデリジェンスなどに関してもM&A仲介業者はサポート対応を実施してくれます。

 

また、多くのM&A仲介業者は、事業価値の算出に必要な公認会計士や税理士などの専門家が社内に常駐して、各業種に対して全国的なネットワークを保有していることも多いです。

仲介業者へ相手企業の仲介や各種手続き代行を依頼することで、M&Aの手続きをスムーズに進めることができます。

 

まとめ

近年は大手企業による中小企業の買収案件が増加傾向にあります。

建材・住宅設備機器の卸売業に関しても業界再編の流れが活発化しており、現在はM&Aによる事業売却・買収を実施するのに適したタイミングであると言えます。

M&Aを実施する際は目的を明確化し、M&A仲介業者からアドバイスを受けながら慎重に手続きを進めることによって成約率を大きく向上させることが見込めます。

建築資材卸業のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
この記事では建築資材卸業の概要や市場特性に関して触れるとともに、M&Aを実施する前に行うべき準備・注意点を売却側、買収側企業の視点からそれぞれ解説します。
実際にどのような企業がM&Aを実施するか、どのタイミングで準備を始めればよいかといったポイントに関しても解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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