2019年7月21日 日曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《ビルメンテナンス企業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

ある日突然、会社経営が破綻寸前まで追い込まれたら、どのような解決策を講じますか?会社を売却するとなると、会社の独立性だけでなく、貴重なノウハウやブランドを一気に失ってしまいます。

そこでおすすめしたいのが、経営負担が大きい事業のみを売却することができる「事業譲渡」です。

事業譲渡を活用することにより、他にもどんなメリットをもたらしてくれるのか。また、ビルメンテナンス会社の事業譲渡事例から見えてくる近年の事業譲渡の風潮や、事業譲渡の効果を最大限に引き出すポイントをご紹介していきます。

 

ビルメンテナンス企業における事業譲渡の動き

近年の革新的なIT技術や、グローバル社会に感化された若者たちの職選びの多様化により、ビルメンテナンス企業への就職希望者が減少しています。このようなビルメンテナンス業界の動向に対し、企業はM&による事業譲渡で会社の資産である人材の確保に勤しんでいます。

では、事業譲渡による事業の売買で相手企業からどんな会社の資産を得ることができるのでしょうか。

まずは、ビルメンテナンス会社の役割と事業譲渡についてのご説明をしていきます。企業が事業譲渡に何を期待しているのか?業界内のM&A動向を見ていきましょう。

 

ビルメンテナンス会社の役割

ビルメンテナンス会社は、オフィスビルや商業施設の清掃、機器の運転・メンテナンス、保守などビルに関わる全てのサービスを請負います。

ビルメンテナンス会社は、オフィスであれば働く社員が気持ちよく業務に取り組むため、商業施設であれば客がショッピングを楽しめるようにするため、など対象は様々ですが、快適な空間作りに注力しています。

具体的な仕事内容は、空調設備・電気設備・ボイラー設備などの日常管理や保守点検、契約しているビルのテナントから不具合の依頼があれば修繕作業も行ないます。

施設を訪れた人達が快適な時間を過ごすためにも、ビルメンテナンス会社は必要不可欠な存在です。

 

事業譲渡とは

企業売買の手法の一つに「事業譲渡」という方法があります。

事業譲渡は、会社単位で売買を行なうのではなく、会社の「事業」に関連する資産や負債を売買する方法です。

事業とは、会社の人材・財産・債務・ブランド・取引先・ノウハウ・事業組織など、有形・無形資産問わない会社の資産です。

事業譲渡は、不採算部門だけを切り離したい場合など、一部の事業のみを譲渡することが可能です。そのため、会社の独立性・従業員などを継続して残すことができ、譲渡して得た売益金で、組織を再編成し、コア事業に力を入れることが可能となるのが事業譲渡の最大の特長です。

 

・「事業譲渡」と「株式譲渡」の違いは?

事業譲渡と似たものに「株式譲渡」という事業売買の方法があります。

株式会社の場合、株式の3分の2以上を有している株主が会社の経営権を持ち、取締役の選任・役員の報酬など決定することができます。

会社の経営権は株式が司っており、この株式を譲渡するということは、会社の経営権云わば、会社の全てを譲渡することになります。そのため、株式譲渡は、譲受する会社の子会社となるため独立性が失われてしまうという点が、事業譲渡と似て非なる事業売買方法です。

 

ビルメンテナンス業界のM&A動向

ビルメンテナンス業界は、労働力に大きく依存する傾向がある「労働集約型産業」です。

少子高齢化が進む中、クオリティの高いサービス提供を行なうため、ビルメンテナンス業界は若い労働者の確保が最重要課題となっています。

ビルメンテナンス企業への就職ルートは、工業系の高校や大学を経て入社するのが一般的です。しかし、ビルメンテナンス業への関心の低さや職選びの多様化により、新卒や若手転職希望者が極めて少ない状態に陥っています。

さらには、ビルメンテナンス業の未経験者や定年後の高齢労働者を清掃スタッフなどに再雇用していることで、メンテナンス技術が不足し、会社従業員の高齢化が顕著に見えてくるようになりました。

M&Aの事業譲渡を活用することで、譲受する企業の技術力・将来性を兼ね備えた優秀な若手従業員を確保することが可能です。

 

また、ビルメンテナンス業界では施設管理からフロント業務、清掃、警備、エネルギー消費管理などのサービスを一本化して顧客へ提供する、企業の「ワンストップ化」を目指すケースが増えてきました。

M&Aの事業譲渡により、事業を譲受した買い手企業は、「ビルメンテナンス事業」をビルオーナーに対して一括したサービス提供を行うことが可能になります

。これにより自社の業務プロセスを安定供給し、顧客満足度の向上と経営業績アップが可能です。

 

最近のビルメンテナンス企業の事業譲渡事例

ここまでビルメンテナンス業界のM&A動向を見てきました。あらゆる負の要因を取り除くため、ビルメンテナンス企業は前かがみとなってM&Aの事業譲渡を活用し、人材不足の解消・サービスのワンストップ化に取り組む様子が伺えました。

ここからは、ここ数年の間で企業がどんな目的をもって事業譲渡を行なっているのか、2つの事業譲渡事例を参考にご紹介していきます。

 

「株式会社あなぶきセザールサポート<現・あなぶきハウジングサービス>(総合メンテナンス事業)」が「ルフト株式会社(マンション管理事業)」を買収

・M&A概要

2017年10月、株式会社あなぶきセザールサポート(以下、セザールサポート)が、マンション管理事業を展開する、ルフト株式会社(以下、ルフト)のマンション管理事業を事業譲渡により譲受しました。

 

・事業譲受会社:セザールサポート(香川県高松市)

総合メンテナンス事業として、マンションなどの管理、清掃・設備を行なってきました。さらに、豊富な人材で管理組合を丁寧にサポートしています。中四国の管理会社では初めてISMSの認証取得をしており、国際基準の厳しいチェックをクリアした情報管理体制を維持することに成功しています。あぶなきグループは、住まい創りや不動産価値創造事業を通じて、地域社会の歴史と文化の創造に貢献することをモットーに、日々成長し続けています。

2018年7月に、親会社である「あなぶきハウジングサービス」と合併しました。

 

・事業譲渡会社:ルフト(神奈川県川崎市)

2007年設立。マンション管理業、営繕工事を中核事業としています。また、損害保険代理店業を扱っており、マンション管理組合保険を始め、他にも一般の火災保険や自動車保険まですべての種目の損害保険を取り扱っています。

 

・事業譲渡の流れ

買い手企業であるセザールサポートは、社内にマンション管理のM&Aシニアエキスパート社員が在籍させています。譲渡側の契約マンション棟数が少なかったこともあり、仲介会社を介さずに直接取引を行ないました。案件化から面談、意向表明書提出、デューデリジェンス、事業譲渡契約書の締結、マンション管理組合・取引先対応までをセザールサポートが中心となって行ないました。

 

「日本管財株式会社」が「株式会社日本プロパティ・ソリューションズ」に対し、一部の事業を譲渡

・M&A概要

2017年10月、日本管財株式会社(以下、日本管財)が連結子会社である株式会社日本プロパティ・ソリューションズ(以下、JPS)に対し、「プロパティマネジメント(PM)事業」を譲渡しました。

 

・事業譲渡会社:日本管財(東京都中央区)

1965年10月設立。日本管財は、AM・PM・BM、用途特性、業務特性に高い専門性を有したグループ会社で構成されています。「ビル・施設等の総合管理事業」「常駐警備」「省エネ・環境システムの開発・販売、コンサルティング」「PM」など、最適なソリューションの提供により、収益性の向上・建物のラウフサイクルコストの最適化に成功しています。社会情勢の変化によるお客様のニーズが多様化・複雑化していく中でも、対象用途・業務内容・レベル等で進化し続けてきました。

 

・事業譲受会社:プロパティ・ソリューションズ(東京都千代田区)

2002年8月設立。JPSは、PM事業において、専業のエキスパート集団による質の高いソリューションの提案に自信を持っています。会社設立以来、一貫したクオリティ重視のスタンスを変えずに、常に顧客であるビルオーナーの視点に立って判断・行動してきました。さらに、金融機関で培われた業務運用ノウハウをベースにした、堅実なプロセッシングによる事務処理の実施や、500棟以上のビルに提案してきた豊富な実績で顧客から高い信頼性を獲得しています。

 

・事業譲渡の目的

本事業譲渡に先立ち、日本管財はJPSの株式を100%取得し完全子会社化しました。今回、日本管財が事業譲渡に踏み入った経緯には、グループとしてのより一層の連携強化にあります。日本管財グループ内のプロパティマネジメント事業をJPSに集約することで、グループ内の業務を効率化し、PM事業に特化し高品質なサービス提供を目的としたものです。時勢の変化により、多様化していく顧客のニーズへの対応力を高め、新規営業での競争力強化を目指し事業譲渡を行ないました。

 

ビルメンテナンス企業の事業譲渡を実施するうえでのポイント

ここまで、近年行なわれた事業譲渡事例を見ていただきました。

ここからは、事業を譲受する企業(買い手側)が、事業譲渡でマッチング候補の事業価値を計る4つの要素、「契約物件数の多さ」「契約実績があるか」「経営戦略が明確化されているか」「専門家への相談」を見ていきましょう。

事業譲渡を成功に導く重要なポイントとなるので覚えておきましょう。

 

契約物件数は多いか

事業を譲渡する側の企業に、オフィスや複合ビル、賃貸マンションなどの契約物件を多く抱えている場合、譲受側企業は一気に顧客を獲得することができます。管理する物件数が増えることにより、ビル管理においてのサービス提供の場が広がり、収益アップが見込めます。

契約物件数が多いということは、ビルメンテナンス業務において高いクオリティでサービス提供を行い、顧客からの信頼を勝ち取っていることが分かります。

M&Aで専門業者などを介して面談を行う場合、譲渡企業が保有している契約物件数を確認するようにしましょう

その際、各契約物件のビルオーナーと交わした契約内容を、譲受企業の経営陣と擦り合わせを行なう必要があります。事業譲渡後も安定したサービス提供と安心の管理体制で、顧客との間で信頼関係を構築していきましょう。

 

契約実績はあるか

契約実績が少ない譲渡企業とのM&Aは、成約後の効果を期待することはできません。一方で導入実績があることは、事業を譲受する企業にとっては最大の着眼すべきポイントです。

大小問わず契約実績がある企業は、様々なオフィスビルや商業施設などのメンテナンスに携わった経験やノウハウを持っています。

長年のビル管理経験から得た、法定点検・清掃業務等のハード面の管理業務、入居者(テナント)への窓口業務で培った豊かなコミュニケーション力などのソフト面での対応により、安定した顧客マネジメントで信頼を勝ち取ってきたことが明白です。

契約実績がある企業との事業譲渡が成功すれば、譲受する企業は大きな資産を得ることが可能です。

 

経営戦略を明確化しよう

M&Aには様々な企業売買の手法がありますが、企業がM&Aを利用する場合には経営戦略を明確化する必要があります

M&Aを失敗する企業の多くが、ハッキリした戦略を持たずに持ち込まれた案件に対し行き当たりばったりで検討しています。

近年では、事業の拡大や海外展開など、企業規模の拡大を目指した前向きなM&Aが行なわれています。大きな目標なくして、理想の企業は現れません。

「企業の成長」「利益の向上」「経営の安定性を高めたい」など大局を見た戦略、「人材」「顧客」「情報」「技術」「ブランド」など、どのような資源を確保したいのかという事業の譲受希望を明確にしましょう。

事業譲渡の目的をしっかり持つことで、スピーディ且つ、理想のマッチング相手が見つけることができます。

 

専門家に相談しよう

事業譲渡を検討しているのであれば「M&Aアドバイザー」に相談することをおすすめします

M&Aは大きなメリットが期待できる一方で、多くの知識や情報が必要なビジネスツールでもあります。事業譲渡を行なう売買企業同士で手続きを進めていく中で、法的・税務上のトラブルが起きる場合があります。

M&Aプロセスで問題が起こることを防ぐために、M&Aアドバイザーは弁護士や会計士の紹介、事業譲渡の検討から成立まで全面的にサポートします。

事業譲渡は、マッチングしてから成立まで約3ヵ月~1年かかります

経営陣が事業譲渡にかかりきりになってしまうと、本業がおろそかになり収益性が低下する可能性があります。

M&Aアドバイザーを活用することで、事業譲渡を進めながら会社経営に力を注ぐことができます。

 

まとめ

M&Aの事業譲渡は、会社の骨組みを残したまま採算の取れない事業に関わる資産・負債を切り離すことで、経営の安定化・事業の拡大を図ることが可能です。

近年行なわれたM&A事例でも、譲渡企業の中核事業を譲受し、看板事業を強化する傾向にあります。

会社の中心となるコア事業を「選択・集中」するための経営戦略の一つとして、今後もM&Aによる事業譲渡が頻繁に行なわれていくことでしょう。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《ビルメンテナンス企業》
人手不足などの影響で、ビルメンテナンス企業の事業譲渡が盛んに行われるようになってきました。事業譲渡を活用することは、どんなメリットにつながるのでしょうか。本稿では、ビルメンテナンス企業の事業譲渡事例から見えてくる近年の事業譲渡の風潮や、事業譲渡の効果を最大限に引き出すポイントをご紹介していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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