2019年7月20日 土曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《ビルメンテナンス企業》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

これからの会社の未来を真剣に考えた時、事業承継の知識はどんな企業のトップであっても持っておくべきものでしょう。この記事では、ビルメンテナンス業を営む経営者の方に向け、事業承継について、事例を交えながら解説していきます。

 

ビルメンテナンス企業における事業承継の動き

事業承継は、後継者問題に直面した企業を救うための一翼を担っています。特に経営者の年齢が高いビルメンテナンス企業において、事業承継という手段がいずれ必要になってくる可能性は多いにあります。この章では事業承継とはどのようにして行われていくのか、そもそも事業承継とはどのようなことを指すのかにフォーカスしていきます。

事業承継とは

事業承継とは会社のトップである経営者が他のものに経営権を移すことを指します。事業承継先には2つ選択肢があり、親族に事業承継することを親族内承継、それ以外の外部の人、または法人に事業承継することを親族外承継と呼びます。

親族内承継

経営者の家族に事業を承継することを親族内承継と呼びます。新しい世代に事業を承継するので、経営者よりも若い年齢の人物に承継を行うことが一般的です。

親族外承継

親族外承継には所有する企業を売却する売り手と、企業を買収する資産を有する買い手企業の2つの企業が関与します。

双方の利害関係が一致したときに、事業承継が取り行われます。約20年前には親族内承継が通例で、全体の85%の割合を占めていました。ところが最近では親族外承継が親族内承継よりも多くの割合を占めてきていているのが現状です。企業の進退を決する決めごとなので、双方の入念な話し合いのもとに事業承継は進められていきます。

親族外承継の売却企業の思惑

親族以外に手塩にかけて育ててきた企業を売却するメリットはあるのでしょうか。

売却企業が事業承継をする目的は様々です。自社よりも大きな企業の傘下に入ることで、安定した財を手に入れて経営を続けるケースや、資金面でやりくりが困難になった場合に、助けを求める形で企業を売却するなどが挙げられます。

特に最近では経営者の後継者が見つからないことが理由で事業承継を進める中小企業が増えています。経営者がいざ事業承継をしようと考えた時に、引き継ぐ候補者がいないことが主な原因です。

親族外承継の買収企業の思惑

一方で、買収する企業の目的は、自社の企業をより発展させるという理由がほとんどです。売り手企業が有していた人材や設備、あらゆる財産を引き継ぐこととなるので、規模が拡大し、さらなる飛躍が見込めます。財産とは目に見える金銭や設備だけでなく、例えば販売ルートや人脈、企業ブランドも指します。

 

最近のビルメンテナンス企業の事業承継事例

事業承継の承継先に経営者とは直接関係のない企業を選ぶ企業が増えてきています。理由として単純に後継者が立てられないという事情が多いためです。目ぼしい後継者がいたとしても、税金の絡みや、相続の問題から諦めるケースもあります。相続問題や後継者問題に後押しされる形で、反対にM&Aによる事業承継が増加してきているのです。

実際に事業承継の事例を見てみましょう。

「日米ビルサービス株式会社」から「いちご株式会社」へと事業承継のケース

【M&A概要】

2012年1月19日にビル清掃業を主な事業として展開していた「日米ビルサービス株式会社」が地域および地球に優しいクリーンエネルギー事業を積極的に一つのコア事業として動き始めている「いちご株式会社」へと事業承継により株式を譲渡しました。

 

売却側企業:「日米ビルサービス株式会社」

日米ビルサービス株式会社は千葉県松戸市に昭和45年創業しました。創業当初はビル清掃業務が中心でしたが、ビル管理に関わる全業務を自社内対応することで頭角を表していきました。しかし、長引く不況から価格競争の激化等の影響もあり、二代目の社長は、別事業に専念するために東証一部の投資事業であるいちご株式会社に会社を事業承継することを決めます。

 

買収側企業:「いちご株式会社」

2000年3月にいちご株式会社の前身である株式会社ピーアイテクノロジーが設立されます(不動産ファンド等の運営)。2010年9月「いちごグループホールディングス株式会社」へ商号変更します。近年では公益社団法人日本プロサッカーリーグ「Jリーグ」との提携契約を締結し、トップパートナーとなります。社名である「いちご」は千利休が説いた茶人の心構えである「一期一会」に由来しており、「人との出会いを大切にする」という精神を理念としています。

 

事業承継目的:今回の事業承継でいちご株式会社は2010年3月に子会社化したタカラビルメンテナンスとの事業シナジーによる地域密着型のプロパティマネジメントと、ビルマネジメントの機能強化、首都圏を中心とした営業エリアの拡充を目的としています。

「トキワ防災電気株式会社」から「共同管理株式会社」へと事業承継のケース

【M&A概要】

電気工事業と併せて都内、関東近県の消防設備保守点検および工事業を重点的に取り行っていた「トキワ防災電気株式会社」が賃貸マンションや駐車場の仲介・管理、マンションリフォームまでを手掛ける「共同管理株式会社」へと事業承継により株式譲渡しました。

 

売却側企業:「トキワ防災電気株式会社」

東京都千代田区に本社があるトキワ防災電気株式会社は、1962年6月に設立されました。1974年10月には理研鋼機株式会社開発の「ダクト自動消火装置」の東京総代理店となります。消防設備点検・防火対象物定期点検・消防設備工事を全般に請け負っている会社です。後継者不在を理由に、サービスライン拡充のために同業の共同管理株式会社に事業承継しました。

 

買収側企業:「共同管理株式会社」

京都府京都市西京区にある共同管理株式会社は1983年10月に設立されました。京都南部エリア全域を中心に物件を取り扱っており、多様化するニーズに対応し続けている会社です。豊富な物件量で居住用からテナントまで、ありとあらゆる要望にも耳を傾ける京都府にある企業です。

 

事業承継目的:同じ畑の不動産を取り扱う企業同士の事業承継ということで、その目的意識ははっきりとしています。「共同管理株式会社」の営業エリアやサービスラインの拡充に標準を合わせての事業承継となりました。

「株式会社エーカン」から「株式会社ライフポート西洋」へと事業承継のケース

【M&A概要】

2016年1月1日に事業承継という形で「株式会社エーカン」は「株式会社ライフポート西洋」へと株式を全て譲渡しています。共にマンション総合管理会社としてこれまで首都圏、中京圏、関西圏を中心に営業活動をしており、常にお客様の立場に立った管理サービスのご提供を目指す点で、両社は共通するところがありました。

 

売却側企業:「株式会社エーカン」

株式会社エーカンは東京都葛飾区に本社のあるマンション管理業を営む会社です。資本金1000万円で従業員は18名体制で事業を展開していましたが、オーナー創業者である黒﨑栄章氏が体調に不安を感じはじめ、後継者問題もあり、年商一億円のビルメンテナンス会社の業容拡大を目指してマンション管理会社である株式会社ライフポート西洋に事業承継しました。なお、事業承継は2016年1月に双方の合意の元に取り行われています。

 

買収側企業:「株式会社ライフポート西洋」

セゾングループの「株式会社コミュニティサービス」にマンション管理部門が創設されたのが「株式会社ライフポート西洋」の前身です。その後大阪支店、横浜支店と順調に支店を増やしていきます。そして、「株式会社ライフポート西洋」に商号変更したのは2004年10月です。管理会社としての公正性を保つため、大規模修繕工事の直接請負はしておらず、一級建築士事務所の立場で建物診断・修繕設計を経て、施工会社選定のサポートを行い、施工監理を実施しています。「もっと心地よいマンションへ、もっと輝くマンションへ」を合言葉に、手をかけ、知恵を絞り、心を砕くことをモットーとしている会社です。

 

事業承継目的:「株式会社ライフポート西洋」におけるマンション管理部門の力の入れ方が、より顕著となったと同時に「株式会社エーカン」のオーナー創業者の体調面での不安があったことが、事業承継のきっかけとなりました。「株式会社ライフポート西洋」が首都圏、関東圏での営業エリアの拡充への足掛かりになるという考えが事業承継の主な目的です。

 

ビルメンテナンス企業の事業承継を実施するうえでのポイント

ビルメンテナンス企業の事業承継において掴んでおくべきポイントがあります。項目別に分けて列挙していきますので、ぜひ事業承継の際の参考にしていただけたらと思います。

事業承継には時間がかかる

事業承継には準備が必要不可欠です。10年ぐらいかけてようやく準備が完了することもあります。事業承継をすぐに行おうと急いで実行に移しても、大抵の場合は失敗にすることになりがちです。事業承継を考えているのであれば、思い立ったが吉日ですが、準備は入念に時間をかけて行うことが必要です。

誰に引き継ぐのかが焦点

親族内承継にしても親族外承継にしても、「誰に企業を承継するのか」というのは非常に重要なトピックです。前項に挙げたように事業承継にはしっかりとした準備が肝となります。

しかし、親族内承継であればどの親族に引き継ぐのか、親族外承継であればどの企業に引き継ぐのかということが明確にならないと具体的な準備を行うことは難しいことです。次項でさらに細分化して親族内承継の時に選ぶべき選択肢についてと、親族外承継についての承継先に選ぶ方法をお伝えしていきます。

親族内承継 子息

ひと昔前の事業承継先に最も一般的だった親族に承継するケースです。家族であるからこそ理解が得られやすく、事業を引き継ぐにあたり安心な面もあるでしょう。家族であるから密に連絡を取りあうことも容易で、自ら立ち上げた会社を子息に引き継いでもらいたいと考えるのは自然な流れです。

子息を後継者に考えているのであれば、時間をかけて準備する事もさして障害とはならないことでしょう。また関係者から心情的にも理解が示されやすく、余計な軋轢が生じることなく事が運ぶことが期待できます。

親族外承継 従業員ないし役員

親族外承継の従業員や役員から後継者に抜擢する選択肢もあります。経営者の素質のあると見込んだ人材をじっくり選定するには従業員から選ぶというのも決して消極的な選択ではないです。企業のために長らく働いてくれていた従業員であれば、企業理念や経営方針などの理解も深く、一貫性を保てるというメリットもあります。

従業員承継を行う場合の重要なことが一点あります。親族株主の了解を得ることです。経営者が水面下において親族間で調整を行い、関係者全員の同意と協力を取り付けることは必須事項です。事業承継後に骨肉の争いが生じないようしっかりと道標を示しておくことが重要です。

親族外承継 M&A

M&Aにより、株式譲渡などのスキームで承継を行う方法です。経営者は会社の売却益を得ることができ、親族や従業員に適任の後継者を見付けられない時には非常に有効な手立ての一つです。M&Aによる事業承継を想定しているのであれば、企業価値の向上に努めることが重要です。具体的には企業の本業の強化や従業員の教育の徹底、内部の統制体制の構築を図っておきましょう。M&Aにより最適な候補が見つかる期間は、M&A対象企業の特性やタイミング、経済環境に大きく支配され、大まかに数ヶ月~数年と期間に大きな振れ幅があることが多いです。

候補が見つかった後は何度も双方の企業のトップが面談による交渉を繰り返し、最終的に先方との合意がなされなければM&Aは成し得ません。M&Aを実施することを考えているのであれば、十分な時間的余裕をもって長期戦になることを想定することが大切です。

 

まとめ

会社を存続させ、危機を乗り切るのは経営者の使命です。自分の会社の未来のためにも、M&Aによる事業承継の可能性を視野に入れておくことは、いざとなった場合においても会社とその従業員を救うことになります。

今回の記事が事業承継を選択肢として考えるきっかけになれば幸いです。

事業承継の事例から読み解く潮流《ビルメンテナンス企業》
経営者の年齢が高いビルメンテナンス企業は、事業承継という手段がいずれ必要になってくる可能性が高いです。本稿では、ビルメンテナンス業を営む経営者の方に向け、事業承継について、事例を交えながら解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年7月20日
M&Aの事例から読み解く潮流《ビルメンテナンス企業》
2019年7月20日
事業譲渡の事例から読み解く潮流《ビルメンテナンス企業》
WEBからお問い合わせ
当社はお客様の事を最優先で考える成果報酬型エージェントです。
匿名をご希望されるお客様には、会社情報など一切公開せずにお問い合わせ頂く事が可能です。

お問い合わせ内容

氏名

電話番号

メールアドレス

メールアドレス(確認)

業種

お問い合わせ内容