2019年7月19日 金曜日

ビルメンテナンス企業のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

この記事では、ビルメンテナンス企業がどのような業務を行っているのか、企業同士の売買で出てくる「M&A」とはどういったものなのか、そのM&Aをビルメンテナンス企業が実施する背景には何があるのかを、順を追って解説していきます。

 

ビルメンテナンス企業のM&A

ビルメンテナンス業界の売上高は、2012年以降拡大しています。前年度に起きた東日本大震災による復興需要、2013年以降はアベノミクスによる景気の改善効果で売上高は右肩上がりが続いていくと予想されています。

 

しかし、これからお話しするビルメンテナンス業界の動向を追っていくと、M&Aが盛んになっている理由がよく分かるでしょう。まずは、ビルメンテナンス企業が行っている業務をご紹介していきます。

 

ビルメンテナンス企業はどんな事業を行っているのか

基本的にビルメンテナンス業は、顧客がオフィスビルや商業施設などをビルのオーナーとする「ビル管理業」と、マンション管理組合を顧客とする「マンション管理業務」に分類されます。そして、ビルメンテナンス企業は、ビルの管理に関する全ての業務を行います。

 

ビルメンテナンス業務を大きく分けると以下の5業務に大別されます。

 

・設備管理業務…空調設備、電気・通信設備、エレベーター、消防設備

・保安警備業務…防災・防火、警備、駐車場

・環境衛生管理業務…清掃、廃棄物処理、給・排水

・建物設備保全業務…建築設備や建物構造部の点検・整備

・その他管理業務

 

大型商業施設や都市部にあるような高層のオフィスビルの場合、「ビル管理法」に定められた点検項目や検査方法を利用して、施設の所有者に代わってビルのメンテナンス業務を行います。ビルメンテナンス企業がビルを安全に整備することで、消費者や施設従業員にとって過ごしやすく、働きやすい環境を作り出しています

 

普段は目立たない、施設のバックグラウンドで黒子のような役割を担っているビルメンテナンス業ですが、トラブルなく快適な空間作りにはビルメンテナンスは必要不可欠です。

 

業界動向からみるM&A

それでは、ビスメンテナンス業界内の動きはどうなっているのでしょうか?

 

ビルメンテナンス業界は、アベノミクスや2020年の東京オリンピックの効果もあり、都市部やオリンピック種目の会場になる場所では需要は伸び続け、安定的な収益を得ています。近年では、大手のデベロッパー(土地開発業者)が、親会社を持たずに独立するビルメンテナンス企業が増加傾向にあります。

 

独立系のビルメンテナンス企業は、大規模修繕に加えLED照明や電気ブレーカーの導入など、固定費見直しを含めたトータルサポートで事業成長を遂げています。さらに、ビルメンテナンス企業は、国内企業全体の省エネに対する意識改革に乗じた省エネ対応住宅の提案、マンション自体の寿命を延ばす提案、さらには管理組合への支援などで、ビルメンテナンス業界の市場拡大に貢献しています。

 

一方で、ビル賃貸料の低下や空室量の増加、人口減少による国内市場の縮小により、今後は限られたシェアを奪い合うような状況に陥ることが予想されています。そこでビルメンテナンス業界では、M&Aにより従来のビルメンテナンス事業だけではなく、「総合ファシリティマネジメント」としてサービスの多角化を図っています。

 

・M&Aとは

経営資金の獲得、人材不足の解消、既存事業の強化・新規事業への参入などを目的とし、同じ業界もしくは他業種の企業との事業売買・統合することです。いまやビジネススキームとして、海外進出で企業価値の向上を狙う大手企業や、他の企業へ事業の売却を行い収益を上げ、国内市場での生き残りを目指す中小企業によって、頻繁に行なわれるようになりました。

 

日本の少子高齢化、労働人口の減少による会社廃業に歯止めをかけるべく、今後もM&Aの有効性を知った企業の事業売買が行われることになるでしょう。

 

ビルメンテナンス企業がM&Aを行う理由は?

ここまで、ビルメンテナンス企業の事業内容と、業界内の動きをご紹介してきました。

 

ここからは、なぜビルメンテナンス企業がM&Aを行うのかを解説します。業界内が抱えている様々な問題を知れば、ビルメンテナンス企業がM&Aを活用する目的が明確に見えてくるでしょう。

 

人材不足

ビルメンテナンス業界は、慢性的な人材不足に悩まされています。近年、時代の変化と共に若者たちの考え方・職業選択が多様化し、ビルメンテナンス企業に就職するという選択肢が少なくなってきた現状があります。新卒で入社してくる将来性豊かな人材の獲得に至らないこと、さらには高齢者の再就職先になりやすいことが、ビルメンテナンス業界で大きな課題となっています。

 

M&Aを行うことによって買い手会社の従業員を取り入れることが出来ます。そして財務基盤の強化することが出来れば、労働条件が改善しやすくなり、新卒・転職者希望者が増えることが期待出来ます。

 

ビルメンテナンスは、現場での業務が一般的だというイメージを持たれるかと思いますが、デスクワークに自信を持った人材は重宝されます。日報や点検表、点検で事故を防ぐための手順などを書類として作成することが日常業務でもあります。

 

ビルメンテナンスの主要業務である設備のメンテナンス技術はもちろん、付加価値としてパソコン業務がスムーズに出来る人材確保が出来れば、よりクオリティの高いサービスを顧客に提供することが可能になります。

 

収益源の確保、資金不足の解消

日本の中小企業でよく起こるのが、資金不足による経営破綻です。ビルメンテナンス業界の中小企業でも、その規模ゆえに資金繰りに苦心し、廃業を余儀なくされる企業も少なくありません。会社を廃業するとなると、会社が抱えている負債の返済や従業員の解雇通告など、経営者は大きな精神的ダメージを受け、多くの損失が生じます。

 

M&Aによって大手企業に会社を売却することで経営資金の調達が可能となり、廃業することなく会社経営を維持しながら、相手企業が持っている顧客ルートが手に入ります。そうすることで新たな収入源を獲得することが出来ます。

 

新たな事業への参入

先ほどお伝えしたビルメンテナンス業界の動向通り、労働人口の減少や激化する顧客獲得争奪戦、市場の収縮により、中核事業で経営業績を上げていくのが難しくなってきました。そこで、新規事業でサービスの多角化を図るため、既存事業である「ビルメンテナンス」からM&Aを活用した「総合ファシリティマネジメントサービス(FMS)」にシフトチェンジが行われるようになりました。

 

FMSは、これまでの施設管理業務の枠を大きく超えた総合的サービスの提供であり、ビジネスビルや商業施設のテナント(入居者)の満足度を高めるため、コストの削減や施設の効率的利用で資産価値を向上させるサービスです。

 

FMS事業への転身を目指して、あらゆるビルメンテナンス企業は、営繕工事やこれまで外注していた資材調達などの周辺業務を取り込み、入居しているテナントのBPO(ビジネスの間接業務委託)やセキュリティなどの付加価値サービスの提供を始めました。さらには、物件内での飲食や小売りなどをメンテナンス会社が手掛けるような経営の多角化を目指し、M&Aが利用されるようになりました。

 

ビルメンテナンス企業のM&Aを行うタイミングは?

ビルメンテナンス業界は、人手不足や経営資金を補うために、M&Aを活用し経営の安定と向上を図っている様子が伺えました。

 

M&Aを行う目的が明確になった次の段階として、会社を売買するタイミングを見計らう必要があります。闇雲に会社の売買を行ってしまうと、相手の経営状態によっては自分の会社に大きな支障をきたす場合があります。

 

そこで皆様に、M&Aを行うべき最良のタイミングをお伝えします。

 

経営者自身に健康上の問題が発覚したとき

まず初めに、経営者の体に健康上の問題があると分かったときや、高齢化により体力面・気力面で会社経営に対して消極的になったときに、早期の事業売却をすると良いでしょう。

 

経営者が事業に関与する度合いが低下すれば、会社の売上が伸び悩み、収益が悪化する可能性があります。そうなれば、会社の事業価値が下がり、売却額に大きく反映されます。経営者が自分の体の不調を見て見ぬふりをし続け経営が困難になった場合、M&A条件や売却条件が悪化する可能性があります。このような状況を防ぐためにも、経営者の早期の判断が必要なのです。

 

業界再編が始まったとき

業界再編とは、優良企業が集まり業界内の豊かな将来性を考え、強力な連合を構成して業界自体の構造を変える新たなビジネスチャレンジです。業界再編が起こる背景には、法改正や人口減少、技術革新、デフレ・インフレなど様々な社会情勢があり、同業者間の競争や異業種企業による業界への新規参入が始まります。

 

業界再編の進行中、多くの企業が積極的にM&Aで会社を売買します。ここでは急がずに売主企業が減ってくるのを待ち、自社の事業価値を高く評価してくれる相手とのM&Aに臨みましょう

 

業界の再編は永遠に続くことはありません。買い手企業よりも売り手企業が一定程度増えれば、業界の大手企業が規模の利益を実現し、それ以上買収する必要がなくなり業界再編は止まります。こうなってしまうと、希望する売却額で買収してくれる企業を見つけるのが難しくなってきます。業界再編の波を上手に乗りこなすのは至難の業です。M&A専門の業者を介して適切なタイミングを見極めてもらいましょう。

 

会社の企業価値が上がったとき

企業価値とは、企業が将来生みだす予定のキャッシュが現時点でどれくらいの価値があるかを判断する指標のことです。

 

ビルメンテナンス業界の企業価値の目安は、上場企業の株価の影響により変動しますし、東京オリンピック後の市場動向や米国・中国などの景気によっても株価は左右されます。また、ビルメンテナンス業務に精通している人材がいれば、企業価値がさらに上がります。

 

メンテナンス業務をそつなくこなしながらも、建築基準法や省エネ法、ビル管理法、消防法など多くの法律を順守しておく必要があります。

 

ビルメンテナンス企業のM&Aを実施するのは誰か?

最良のタイミングでM&Aを実施することで、M&A後の会社経営の安定と繁栄が見込めることが分かりました。

 

ビルメンテナンス企業のM&Aを実施するのはどの様な企業でしょうか。次に、マーケット拡張のため海外進出を狙う大手事業者と、総合FMSへのシフトチェンジで事業の多角化を目指す、2つの企業を見てみましょう。

 

総合FMSを目指して周辺事業を取り込みたい企業

企業がノンコア事業としているものを一括受託し、サービス提供の幅を広げ、収益性を上げるのが「総合ファシリティマネジメントサービス(FMS)」です。コア事業のビルの清掃・警備・施設管理といったビルメンテナンス業務だけでなく、オフィス資材調達・従業員の業務を支援するサービスを増やし、コストの削減と業務の効率化につなげることを目的としています。

 

企業の競争が激化し、グローバルな生存競争の渦中で、経営資源をコア事業に集中させて外注していたアウトソーシング業務に対して、ヒトやモノを使って効率的にこなすことを目的に、総合ファシリティマネジメントサービスに取り組む企業が増えてきました。

 

海外展開を目指す企業

縮小し続ける国内市場に危機感を感じた日本のビルメンテナンス企業は、シェアの拡大を図り、アジアを中心に海外展開する傾向が増えてきています。海外に新たな販路を見出すことが出来れば、新たにシェアを拡大することが可能になります。経済成長が著しいアジア諸国では、高層ビルマンションが続々と建設され、ビルメンテナンス企業による整備が急務となっています。

 

海外のビルメンテナンス企業からみると、日本の高い技術力をすぐにでも手に入れたいと思っているはずです。日本の優秀なビルメンテナンス企業とのM&Aが成功すれば、売却した海外企業の知名度や信頼度が格段に上がることは間違いないです。

 

また、買収した日本の企業にとっては、自国で培ったノウハウや技術力を生かし、現地の従業員に指導していくことで、自分たちの更なるスキルアップと自信につなげることが出来ます。

 

日本のビルメンテナンス企業がM&Aを利用する背景には、海外へ事業拠点を置き、シェアの拡大と限りある国内市場から脱却するための手段として、M&Aでの海外展開を狙っています。

 

ビルメンテナンス企業のM&Aの相談先は?

M&Aで企業売買の手続きを進めていく際に、M&A専門仲介業者や弁護士などの専門家を介していくことをおすすめします。事業売買を行う企業同士でM&Aを行う場合、売主と買主との間で意見の相違が出てきてしまい、結果的にM&Aが上手くいかなかったケースがあります。

 

M&Aの知識を豊富に持った弁護士やM&A仲介業者を入れて、どのようなM&Aスキームを使って会社を売買するのか、買収側は従業員の雇用を継続してくれるのかなど、第三者を通じてお互いの要求を擦り合わせることが出来ます。

 

万が一、金銭的トラブルになってしまったとしても税理士や、法律に強く、M&Aの知識を持った弁護士に相談することで大きな困難なくスムーズにM&Aを進めることが可能です。

 

まとめ

これまでビルメンテナンス業はあまり注目されていませんでした。しかし、都市開発や東京オリンピックが開催されることでビル建造物が急激に増え、ビルメンテナンス業の需要は高まる一方です。

 

大手企業に負けず劣るまいと、ビルメンテナンス中小企業は積極的にM&Aを活用した「FMS」で事業の多角化を図り、市場内での大手企業のシェア占有に待ったをかけた状態です。

 

M&Aを成功させるためのポイントとして、これまでご紹介したM&Aを始めるタイミングを見極めることと、売買する企業同士での手続きではなくM&Aの専門家を介することによってトラブルを最小限に抑え、スムーズにM&Aを行うこと。これらが大切になります。

空調設備会社の事業譲渡を検討する際のチェック項目
本稿では、ビルメンテナンス企業がどのような業務を行っているのか、企業同士の売買で出てくる「M&A」とはどういったものなのか、そのM&Aをビルメンテナンス企業が実施する背景には何があるのかを、順を追って解説していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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