2019年7月31日 水曜日

ビルメンテナンス企業の事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

いまや世界中のビルメンテナンス企業が、日本のビル設備管理技術や環境に配慮した省エネ化推進の勢いに注目しています。M&Aの事業売却により、国内だけではなく、海外の業界市場を席巻するようになった日本のビルメンテナンス会社は、どのようにしてM&Aを進めていったのでしょうか。M&Aの事業売却プロセスを効率的に進めていく上で大切なポイントを中心にご紹介します。

 

ビルメンテナンス企業の事業売却で次のステージへ

多くの企業がM&Aの事業売却を行なっていますが、それには必ず理由があります。ビルメンテナンス企業がなぜ事業売却を行なわなければならないのか?業界の動向と課題点を踏まえたうえで、ビルメンテナンス会社が事業売却を実施する理由を突き詰めていきましょう。

 

ビルメンテナンス業界の現状と今後

ビルメンテナンス業界は、2008年のリーマンショック以降、業界全体の景気が落ち込み、多くの企業が経営業績に伸び悩びを感じていました。しかし、2020年の東京オリンピック開催、アベノミクスによる公共事業増加に伴う特需効果で、2009年以降は業界規模が拡大し、景気も復調の兆しを見せています。

さらに、2011年頃から新築マンション建築による管理戸数の増加、2013年には空室率やオフィス賃料が上向くなど、業界市場は活発しつつあります。

 

ビル施設のオーナーから受注がある限り、ビルメンテナンスの仕事がなくなることはありません

近年では、商業用・オフィス用だったビルがリノベーションされ、広々としたスペースを活かし、事務所兼住宅、または一階部分をテナント貸し出しで活用されるようになりました。よっぽど年数が経過し老朽化したビルでなければ、ライフスタイルの合わせた住居環境の改善により、入居者が増えテナント空室率をさらに下げていくことが予想されます。

 

ビルメンテナンス業界の課題

ビルオーナーが空調設備や電気設備などに不具合を感じた時、どんな業者に点検の依頼をしたいとユーザーは考えるのでしょうか。

知名度のある大手企業が持つ最先端の技術力、もしくは毎週のように、民家のポストに広告を投函して地道に営業活動をしている小さなメンテナンス業者の気持ちのこもったサービス提供、メンテナンス会社の特長は一長一短です。

大手企業は、多くの実績や経営戦略で勝ち取った豊富な経営資金力で、顧客を獲得できる自信に満ち溢れています。ところが、中小規模の企業は限られた資金で大手企業に立ち向かっていかなければなりません。その結果、中小規模が市場内でシェアを確立・拡充できずに、業績悪化で廃業となるケースが見受けられます。

また、労働集約型産業であるビルメンテナンス業は、接客対応を中心とするサービス業でよく見られる、従業員の労働力に対しての依存傾向が高い業界です。さらに、中小企業が抱えている慢性的な人材不足により、事業規模の縮小や人件費の高騰化など、企業に対して重大な経営危機をもたらします。さらに、シルバー人材の再就職先としてビルメンテナンス企業への就職希望者が絶えないことによる、会社で働く従業員の高齢化が進んでいます。

また、長期経営を理由とした経営者の高齢化が進み、世代交代すべきタイミングにも関わらず後任が見つからない、といった課題が尽きません。

 

サービスのワンストップ化で新しい企業スタイルの確立へ

近年、大手企業に対抗し、市場でシェアを拡大していくために、中小規模のビルメンテナンス業界がM&Aによる事業売買で、企業のサービス提供を一本化する「経営のワンストップ化」が増えてきました。

サービス提供を一本化するとどのようなメリットがあるのでしょうか。

中小のビルメンテナンス企業にとって、大手企業で寡占化された市場内シェアを確保していくために、いかにして他社と商品・サービスの差別化を図っていくかが最重要課題となっています。

一般的なビルメンテナンス会社は、施設管理から清掃、警備、窓口業務など、ビル設備に関わる業務を行ないます。

しかし、ビル管理会社によっては依頼された業務が自社では行なっていない事業であった場合、他の業者に対応してもらうことがあります。ビルオーナーの目線で見てみると、契約しているビルメンテナンス業者が一括して設備サポートをしてくれるものだと思っている業者がいるのではないでしょうか。ビルメンテナンス会社の管理者が、業務を他の業者に依頼することで時間と費用が更に重なってしまいます。

そこで、顧客からのあらゆるニーズに対応できるように、事業売却で自社にはないメンテナンス事業の周辺業務を取り込み、サービス提供を一本化し、業務を自社内で完結させることに成功しました。

事業売却によるサービスのワンストップ化で、新規顧客の獲得、効率良い業務の遂行による経営の安定化により、企業が新たなステージへ踏み出す大きなターニングポイントとなります。

 

ビルメンテナンス企業を事業売却する目的にはこんなものがあります

ビルメンテナンス会社が事業売却を行なうことにより、サービスのワンストップ化の実現で、企業規模の拡大と経営の安定・向上が望めます。他にも、「後継者不足の解消」「選択と集中」「新たな事業の取り込み」「海外への事業展開」など事業売却を行なう理由は様々です。

ここからは、ビルメンテナンス会社が事業売却を行なう目的を4点ご紹介します。

 

後継者不足の解消

企業情報提供サービス会社「帝国データバンク」が、2018年11月に日本企業の後継者不在率を調査しました。2018年における日本企業の後継者不在率は全国で66.4%と、2017年から1.5ポイント上昇し、後継者不足から廃業を検討する会社は少なくありません。

会社を廃業するとなると、長年培ってきた会社のノウハウやブランド、取引先を失ってしまいます。

M&Aの事業売却により、自社内で後継者を育成せずに、買い手企業から経営後任者を受け入れることができます。その結果、従業員の育成にかかる手間と時間を大幅に削ることが可能となります。

事業売却により、後継者を獲得できるだけでなく、廃業を回避することも期待できます。

 

「選択」と「集中」

事業売却の大きなメリットは、複数の事業を抱えている企業の場合、一部の事業もしくは全ての事業を売却できることです。

例えば、不採算事業を抱えている事業がある場合、財務状況を改善することで経営の安定化を図る「事業の選択」を目的とした事業の売却があります。

もう一つには、主力事業への一本化で経営基盤を強化し、利益の向上と企業規模拡大を目指す「事業の集中」を目的とした事業の売却が、M&Aで多く見られます。

主に大手ビルメンテナンス企業が、事業売却を実施し市場で圧倒的な優位性を保つために、事業の「選択」と「集中」が行なわれています。

このように、企業のノンコア事業を切り離すことで、その事業に関わる運営・管理コスト、人件費を削減することができます。振るわない事業をそぎ落とし、コア事業の品質を高めることで、スマートな経営へのシフトチェンジが期待できます。

 

新たな事業の取り込み

多くの業界で、大手企業による市場の独占・寡占が進んでいます。ビルメンテナンス業界でも、最先端の技術・豊富なサービスで新規顧客を獲得し、市場内で揺るぎない地位を築いています。

そこで、中小規模のビルメンテナンス企業は、業界内で生き残るための術として事業売却でビルメンテナンス業以外の事業を取り込み、幅広いサービス提供を目指しています

ビルメンテナンス企業は、M&Aを実施した新たな事業の取り込みによるサービスの多角化で、「総合ファシリティマネジメントサービス(FMS)」会社として企業ブランドを広めていく動きが見られるようになりました。

企業内で新たな事業を始める場合、新事業立ち上げに、時間とコストを大幅に費やすことになります。そうこうしている間にも、市場内シェアは大手企業の商品・サービスであふれ返ってしまいます。ビルメンテナンス業界市場で、シェアを拡大させるためには、スピーディーな事業展開でサービスの多角化を行う必要があります。

M&Aの事業売却を行うことにより、新たな事業とそれに関わる人材・ノウハウを一気に獲得することができます。

 

海外への事業展開

近年、縮小していくビルメンテナンス業界の市場動向から、海外への事業展開でシェアを獲得する様子が見受けられるようになってきました。国内需要の減少、経済のグローバル化、異国の経済成長の波に飲み込まれないために、新たなビジネスモデルの構築として海外企業とのM&Aが行なわれるようになりました。

海外企業との「クロスボーダーM&A」が成功し、海外市場でシェアを獲得することができれば、企業の知名度・ブランド力の向上に加え、国内企業とのM&Aでは起こりえない、異文化シナジー効果が期待できます。成長著しく、日本では見られないメンテナンス技術を有している場合、将来的な収益性が見込めます。

 

ビルメンテナンス企業の事業売却を行う上での注意点

ビルメンテナンス企業が事業売却行なう目的には、会社が抱えている負の要因を取り除くため、新たな事業を取り込み会社の規模を拡大を目指すものがあることが分かりました。

ここからは、実際にM&Aの事業売却を実施していくうえで注意しなければならないポイントを4点ご紹介します。

 

契約実績、契約物件数は豊富か

事業売却においては、売り手側にビルの規模の大小問わず豊富な契約実績があるかどうかによって事業価値は大きく変わります。

事業価値がある企業は、売却時に多額の金額を得ることができます。逆に買い手企業は、契約実績が豊富な企業の事業の買収に成功すれば、ブランド力アップが期待できます。

大型の商業施設との契約実績があった企業は、ビルオーナーから高水準のサービス提供を要求されてきました。大手のビルメンテナンス会社などは、こういった施設の管理を数多くこなしてきました。そこで培われてきた経験やノウハウは、契約している管理会社しか得られません。経験値の少ない中小企業は、大手企業との事業売買により、貴重な業務経験を継ぐことが可能です。

さらに、ビルメンテナンス会社が契約している物件数は、顧客からの信頼度を示す指標となります。病院・商業施設・オフィスビルなど様々なジャンルのビル施設と契約物件を多く抱えている企業には、あらゆる現場で得た経験があります。また、一定の顧客と長期間契約を結んでいることで、安定したサービス提供ができることが分かります。

以上のように、売り手企業に豊富な契約実績があるか、契約物件をどれだけ抱えているのかによって、M&Aの効果に差が出ます

ビルメンテナンス会社とM&Aを行なう場合、「契約実績」、「契約物件数」を精査したうえで事業売却を行ないましょう。

 

シナジー効果が期待できるか

シナジー効果とは、異なる事業を組み合わせたことで、足し算以上の効果が得られることです。

M&Aの事業売却におけるシナジー効果は、異なる企業文化や歴史を持つ企業との事業の売買では、ほとんどの場合このシナジー効果が期待できます

さらに、シナジー効果を最大限に引き出すためには、自社の強みである技術や事業などを洗い出しておくと、買い手側企業もM&A後のシナジー効果が見えやすくなります。

ビルメンテナンス企業との事業売却では、同業種または異業種とM&Aが行なわれ、それぞれにメリットがあります。

 

・同業種との事業売却

ビルメンテナンス業界同士のM&Aは、既存事業の強化を目的としたケースが多いです。

実績を持っている企業の同事業を買収することができれば、相手企業の技術やノウハウ、ブランド、取引先を一気に取り込むことが可能です。売り手企業が抱えている顧客情報から、新たな販路獲得で営業エリアを拡大することができます。

 

・異業種との事業売却

一般的にビルメンテナンス会社は、大きな収益を得ている印象を持たれない業種です。ところが、ビルメンテナンス会社は国内景気の影響を受けにくく、利益の浮き沈みが少ない安定性のある業界です。

そこで、事業売却で安定的な収益を確保しようと、ビルメンテナンス会社の事業買収を目指す異業種企業が増えています。

このようなケースから分かるように、M&Aを行う際、予めシナジー効果を期待して事業売却が行なわれることも少なくはありません。

 

実施するタイミングを計ろう

ビルメンテナンス業界は、メンテナンス技術者・清掃スタッフなどの人材獲得競争の激化、メンテナンス業に関わる周辺領域の事業取り込み企業の増加に伴い、M&Aの事業売却による企業買収ニーズが多い業界です。

「ビルメンテナンス事業」から「総合ファシリティマネジメント」へ、経営の多角化を図る企業による市場内シェア争奪戦は、ビルメンテナンス業界再編によるものです。中堅・大手企業がM&Aを活発に行なうことで、市場内シェアが大手企業で寡占化されてしまいます。

事業売却を実施するタイミングを遅らせてしまうと、他社に先を越され買い手が見つからずに、業界再編により市場の隅っこまで追いやられてしまいます。

焦って事業売却をしなければならない状態になってしまう前に、早めに検討し準備を行うことで、事業売却後のシナジー効果を十分に発揮することができます

 

M&A専門業者を見極めよう

M&Aを進めていくにあたり、M&A専門業者へ依頼することをおすすめします

事業売却の実施には、法務・財務関連の専門的知識が必要となります。M&A専門業者の中でも、建築業界に精通していて、業界の成約実績がある業者を選びましょう。

経営コンサルタント系のM&A専門業者は、中小企業の企業価値を見つけるのが得意な業者が多い傾向にあります。

金融系業者は、大規模な顧客ネットワークを持つ仲介会社や高額案件をスピーディー且つ正確に成立させることが得意です。

M&Aの実施を検討し始めたら、企業の事業売却目的を明確にしたうえで、条件に合った最適なM&A業者へ依頼しましょう。

 

まとめ

オフィスビルや商業施設は、ビルのオーナーにとって大切な資産です。

ビルを管理するメンテナンス会社による施設管理がきちんと行き届いているか、緊急時の対応はスピーディーかなど、ビル管理会社のサービスの質によって、テナントの賃料収入やビルの資産価値が左右されます。

M&Aの事業売却を実施することで、サービス提供幅を拡大し、顧客満足度を高め、結果、企業の収益を上げることができます。

専門家を介し、これまでご紹介したポイントをしっかりと抑えておくことで、M&Aの事業売却を成功に導くことができるでしょう。

ビルメンテナンス企業の事業売却のポイントとは?
ビルメンテナンス会社は、どのようにして事業売却を進めているのでしょうか。人手不足などの課題が深刻になりつつある今、ビルメンテナンス会社の存続のために事業売却をする例が増えています。本稿では、事業売却プロセスを効率的に進めていく上で大切なポイントを中心にご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年7月31日
事業売却の事例から読み解く潮流《ビルメンテナンス企業》
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