2018年11月12日 月曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《美容室・ヘアサロン》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

美容室・ヘアサロンは空前の出店ブームになっており、2017年現在店舗数・美容師数と過去最高になっています。

一方、業界における売上高は年々減少気味です。

つまり一店舗当たりの売上は年々落ちてきていることになります。

美容師数も増えてはきているのですが、やめる人も大量です。

それに対して、新規の免許数は2005年をピークに減少してきています。

つまり、美容室・ヘアサロン業界は美容室・ヘアサロン数と美容師数は増えてきてはいますが、1店舗当たりの売上は減少、毎年の新規美容師も減少傾向にあるといえます。

このような状況に対して美容室・ヘアサロン経営者がM&Aを使って引き継ぐケースが増えてきました。

今回は美容室・ヘアサロン業界のM&A事情をご説明いたします。

 

美容室・ヘアサロン業界におけるM&Aの動き

美容室・ヘアサロン業界で会社を売りに出したいという経営者が増えてきました。

その一番の理由が後継者不足によるものです。

美容室・ヘアサロンを経営している7割に後継者がいないと言われています。

 

10年前と比べて競争過多で売上が立ちにくい、美容師を採用しづらいという問題もあります。

また1つの美容室・ヘアサロン内ですべてのサービスをカバーするといった店舗よりも、なにか特定の専門化した美容院の出店が進んでいます。

そのような場合では、別の商圏で素早く出店したいと考えるとM&Aは今後も増えていくと考えられています。

 

最近の美容室・ヘアサロン業界のM&A事例

▼美容室・ヘアサロン大手Aguグループを、ファンドである香港CLSAキャピタルパートナーズが100億円で買収

売り手:美容室・ヘアサロンAguグループ(2018年2月現在271店舗)

目的:資本増強による出店加速化

買い手:アジア有数の総合金融機関であるCLSA傘下の資産運用部門

目的:経営権の獲得

 

日本の中堅および中小企業に特化しているファンド「サンライズ・キャピタル」はロイネス及びAguグループと資本提携を行なった。

サンライズ・キャピタルは、アジアでも有数の金融機関であるCLSA傘下である、CLSAグループがアドバイザーを務めている組織である。

サンライズ・キャピタルはAguグループの株式の過半数を取得したと発表した。

 

今回の資本提携で、サンライズ・キャピタルはAguグループに3名の取締役を派遣。

また、日本でのマーケティング及び店舗開発の強みを活かすことで、フランチャイズ支援事業を含めた企画・管理機能を押し広げ、Aguグループの出店サポートの支援を行う。

 

美容室・ヘアサロンのM&Aを実施するうえでのポイント

M&A実施の目的を明確にする

昨今の経営状況から、自社でもM&Aを検討してみたいと考える経営者も多いでしょう。

まずはM&Aを行うにあたっての目的を明確にする必要があります。

そこで、この章ではどのようなM&Aの目的が多いのかをあげてみます。

 

▼今後の経営に不安があるため

美容室・ヘアサロン経営を試行錯誤しながらしていたものの、なかなかうまくいかないのでM&Aを検討するというパターンがあります。

昨今の美容室・ヘアサロン業界の競争の激化により、経営難に落ちてしまうことも珍しくはありません。

美容室・ヘアサロン業界での出店スピードは速いため近隣にライバル店ができてしまい売上が下がってしまうということもあります。

 

このような状態になったとしても、譲渡先経営者に彼らの強みを発揮してもらい、自店を活かしてもらうこともできます。

美容室・ヘアサロンを譲渡することで、いままで美容室・ヘアサロン経営で試すことができなかった、新しい事業にも挑戦することができるようになります。

自分の経営領域から美容院経営を切り離し、美容室・ヘアサロン自体は存続してもらいたいと考える場合はM&Aは良い選択といえます。

 

▼美容室・ヘアサロン経営者の健康上の理由のため

経営者の健康上の問題で、早めに美容室・ヘアサロンを売却したいというケースでもM&Aが最適といえます。

経営者の体調が悪くなると、経営しながら後継者の発掘および、育成するとなると至難の業です。

無理をして後継者育成を試みたとしても、かえって体調をもっと悪くしてしまう事態にもなりかねません。

M&Aであれば後継者を育てなくてもよく、短い間で事業を外部に引き継ぐことも可能になります。

 

▼後継者が見つからないため

最近多いのが後継者不在問題によるM&Aです。

身近な親族や従業員などで後継者に適している人材がいなかったり、いたとしても本人はやる気がなかったりする場合が結構あります。

後継者不在という問題に対して、M&Aという手段をとる経営者が多いのです。

 

「後継者がいなければ店を清算すれば良い」と思う経営者もいるかもしれませんが、清算をする費用を考えれば、収益が生み出されるM&Aを検討するのもいいでしょう。

M&Aによってお店が存続できれば、そこに通っている顧客やスタッフも他の場所にいかなくても済みます。

 

▼早期にリタイアをしたいため

ゆくゆくは、後継者を探して美容室・ヘアサロンを引き継ぐつもりだったが、早期にリタイアしたいためM&Aを選択するというパターンもあります。

M&Aでは譲渡先を見つけることができ、契約の条件に合意さえすることができれば店舗を譲ることは可能です。

速やかにリタイアしたいのであれば、M&Aという選択は適しているといえます。

 

▼マネジメントに限界を感じるようになったから

以前は美容室・ヘアサロン経営でうまくいっていてどんどん店舗拡大してきたが、最近になってマネジメントや資金力で限界を感じるようになったという経営者もいます。

店舗型経営ですので、外部環境が変わってしまい対応できなくなってしまう事態も発生します。

そんな時、M&Aを使うことで譲渡先のマネジメント力や資金によって自店を生かしてもらうことができます。

 

過去のM&A事例をチェックする

前述したAguグループですが、なぜM&Aの一種である資本提携に結び付いたのでしょうか?

 

ビジネスモデルの優位性は、買い手企業に興味を与えます。

ビジネスモデルを高く評価されるためにも、独自性や高い収益性は必須です。

Aguグループは、フランチャイズによる店舗出店を順調に伸ばしてきており、独自性と高い収益性を譲渡先に伝えることができました。

相手も大手のファンドグループですので、数字をかなり精査して当然です。

つまり他社に対して、収益性、独自性を明確に伝える必要があります。

そのために必要なのは、データや数字の裏付けだといえます。

 

売却先にとってのメリットを意識する

M&Aは、売却先から見ると、事業の多角化のため、シェア拡大のため、規模の拡大、新規事業や新しい市場への参入のため、他の地域への進出のため、弱い部門の強化のため、事業統合のため、川上もしくは川下に進出するため、などの理由で行われることがあります。

 

▼シェア拡大、規模の拡大というメリット

M&Aにより、売主会社の経営資源、売上、取引先などを取り込むことができます。

このことにより買主会社は規模やシェア拡大を行うことができるようになります。

流通業界などは顕著ですが、その他にも飲食店業界、食品業界、ドラッグストア業界などもこの流れに進んでいます。

美容室・ヘアサロン業界もこれからM&Aが加速していく可能性はあります。

 

▼事業を多角化するというメリット

M&Aによって、今まで参入できなかった地域や市場に参入し、現事業の川上・川下の事業も取り扱うことで合理化を図っていくというメリットに対してもM&Aにはあります。

例えば、ネット小売りであるAmazonが、小売業、サーバー業、卸売業などを展開しているといったように事業の範囲を広げていくことができます。

美容室・ヘアサロンの場合、美容院に使う備品の流通事業を始めることや、自店の商圏ではカバーできないエリアに出店する代わりにM&Aを実行するということも考えられます。

 

▼自社の弱みを強化するというメリット

M&Aによって、提携先が保有するノウハウや技術や優れた取引先を取り込むことで、今までの事業を強化することができます。

パナソニックは、二次電池や太陽電池などの部門にはもともと強くはありませんでした。

しかし、三洋電機を買収したことで、同事業部門を強化することに成功しました。

美容室・ヘアサロン業界でいえば、違う世代の顧客層を取り込むことが困難なために、他社でその顧客層を強みにしている会社を買収するといった考え方です。

 

▼新しく市場に参入する、新規事業を始めることができるというメリット

新規事業にはリスクがつきものです。

しかし、M&Aによってその事業領域で強い企業を買収することでリスクを軽減することが可能になります。

本業が成熟している企業は、新しい市場を積極的に取り込もうとします。

例えばHOYAは医療機器のメーカーを買収することで、内視鏡事業という市場に食い込みました。

介護医療市場が急に拡大してきた結果、介護会社が医療法人を買収するというケースも増えてきています。

美容室・ヘアサロン業界でいえば、他業界からの買収されることも考えられます。

 

▼事業を育てる時間を買えるというメリット

新規事業は、一から立ち上げるために時間と労力がかかります。

通常であれば取引先の開拓、従業員教育、市場の選定、企業組織の確立などを行ったとしてもうまくいくとも限りません。

一方、M&Aを行うことで、新規事業のプロセスを省略することができるのでメリットです。

しかも上手くいったノウハウや仕組みを受け取ることができるので大幅な時間の短縮となります。

 

タイミングをよく考える

高値で売れるように準備をすることが必要です。

美容室・ヘアサロンの事業を希望通り売却したいと考えるならば、データ・資料の準備作成、ビジネスモデルの変更の考慮、売却先に対して絶対譲れない条件の策定、M&A仲介会社に依頼するなどが必要になります。

 

▼データ・資料を十分に揃えて作成しておく

M&Aでの売却において、必要になってくるのが「数字」だということは前述いたしました。

買手企業において、一番気になる部分であります。

ですが、その数字に信憑性がなければ取引もうまくいきません。

念入りに正確な数字を出来るだけ買手企業に提示できるように、準備をしておく必要があります。

 

▼ビジネスモデルの変更を考慮してみる

ビジネスで収益を上げている以上、その組織の行動の抽象度をあげてみればなにかしらのモデルで説明することができます。

これが、ビジネスモデルです。

 

収益が黒字になっているとするならば、このビジネスモデルが優れているといっても良いでしょう。

しかし、M&Aによって高値で売ろうと思うのならば、ビジネスモデルの変更も考慮してみる価値があります。

従来の美容室・ヘアサロンは、店舗に来られた顧客に対して良いサービスを行って何度も来てもらうことを目指すというシンプルなビジネスモデルです。

これは「良いサービス」や「店舗の場所」に依存しているともいえます。

それでは現状では高い収益を上げることができているとしても、時間が経つにつれその優位性がなくなる可能性があります。

 

したがって、自社独自のビジネスモデルを作り上げられたとしたら非常に優位性の高い事業を作ったことになります。

これから売却を考えているのに、今から新しくビジネスモデルを考える必要があるのかと思うかもしれませんが、もし独自のビジネスモデルを作ることができれば高値で売却することも可能になりますのでチャレンジする価値はあります。

 

▼売却先に対して絶対譲れない条件の策定

M&Aをうまくいくようにするためにも、売却先に対して絶対譲れないという条件をあらかじめ決めておくことをおすすめします。

売却時の金額もそうですが、残ることになる従業員の待遇も決めておくと良いです。

従業員の待遇も具体的な数字に落とし込んで交渉に挑みます。

具体的に提示してくれたほうが、買い手企業としても判断がしやすいといえます。

 

とはいえ、交渉が決裂しては意味がありません。

落としどころを見つけて交渉に挑みましょう。

 

M&Aの専門家を大いに活用する

M&Aを成功させるためにも、M&A仲介会社のサポートを受けることも考慮に入れる必要があります。

仲介会社は、コンサルティングとして、買手企業の選出から交渉まで全てを引き受けている企業です。

今までのM&A仲介の経験をベースに、交渉の落としどころなど体験しなければわからないアドバイスもしてくれる可能性もあります。

今回のM&A実例としてあげたAguグループも仲介会社との良好な関係があったことにより、交渉が成立しています。

M&A仲介会社は、美容業界以外の会社とも繋がりがあるため、自分で探すよりもより多くの選択肢の中から選出できる可能性があります。

 

M&Aを成功させるには、適正な買い手企業の存在が必須です。

その点、経験や実績が豊富な仲介会社に依頼するほうが、M&A成功に結び付きやすくなるといえるでしょう。

 

まとめ

美容室・ヘアサロン経営者がM&Aを行うことで、早期リタイアしたい、後継者がいない、経営者の体調不良、今後の経営に不安などという経営者の問題が解決される可能性があります。

M&Aを成功させるためには、自社のビジネスに対して、相手先企業に説明できるように、事前に入念な準備が必要です。

それに加えて、M&Aの専門家を活用することで、適正な買い手企業を見つけ出し、適正な価格で交渉するのが得策といえます。

M&Aの事例から読み解く潮流《美容室・ヘアサロン》
美容室・ヘアサロンは空前の出店ブームになっている一方で、一店舗当たりの売上は年々落ちてきている傾向があります。
美容師数も増えてはきているのですが、やめる人も大量です。
このような状況に対して美容室・ヘアサロン経営者がM&Aを利用して、美容室・ヘアサロンを引き継ぐケースが増えてきています。
美容室・ヘアサロンのM&Aを実施するには、そのメリットやポイントを事前に把握しておくべきでしょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2018年11月12日
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