2018年11月16日 金曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《美容室・ヘアサロン》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

事業譲渡とは、法人の事業部門や資産の一部、もしくは全部を譲渡する方法です。

売り手が売却範囲を任意に選択できるメリットがあります。

昨今の美容室経営において、市場環境の変化による競争の激化や後継者問題、経営者の健康問題など、さまざまな問題でリタイアしたいという方もいると思います。

そこで、今回は前述した問題を解決する方法の一つとして考えられている、美容室の事業譲渡についてお伝えします。

 

美容室・ヘアサロン業界における事業譲渡の動き

経営者が高齢になりそろそろ事業から引退したいが後継者がいない、美容室経営が赤字でリタイアしたいという人が、事業譲渡というカタチでの引継ぎをすることが増えてきています。

今までは廃業するということが一般的でしたが、情報が整備されている現代においては、清算するよりもメリットがある事業譲渡の環境が整い、これからもっと普及すると思われます。

 

最近の美容室・ヘアサロン業界の事業譲渡事例

売り手:美容室10店舗経営する会社

目的:10店舗中5店舗を事業譲渡

理由:経営不振による経営のスリム化、従業員の生活の確保

 

買い手:化粧品卸会社

理由:小売販売ルートの確保による多角化

購入金額:2,000万円

 

美容室10店舗経営する会社が、経営不振のために10店舗中5店舗を、化粧品卸売会社に事業譲渡しました。

譲渡金額は2,000万円です。

売り手側は、従業員の継続雇用の要求および譲渡金の取得に成功しました。

 

買い手側は、自社の化粧品を卸す販売ルートとして取得しました。

今後の多角化を考える上での最初の一歩目という位置づけです。

事業を譲渡してもらったことにより、自力で立ち上げるよりも数千万円コストが安くすみました。

両者Win-Winの成約事例だといえます。

 

美容室・ヘアサロンの事業譲渡を実施するうえでのポイント

事業譲渡の目的を明確にする

現在では廃業ではなく、事業譲渡を選択することも増えてきました。

その理由は、やはり事業譲渡をすることのメリットが大きいからといえます。

その事業譲渡のメリットを4つ挙げてみました。

 

スタッフの生活を守るため

赤字経営が続く、後継者がいない、などの理由で廃業になると、スタッフが路頭に迷うことになります。

美容室の数は全国で見ると非常に多く、美容師の数もたくさんいます。

しかし、それぞれの美容室で適正人数しか雇用できないのが現実であり、解雇した場合スタッフ全員が再就職できるとは限りません。

事業譲渡をすることで美容室の廃業が回避できれば、従業員の雇用が維持されます。

 

後継者不在のため

経営者も、ある程度の年齢になれば後継者の引継ぎを考えます。

しかし、後継者は簡単に作れるものでもありません。

 

美容室の経営者は、一般的に美容師の免許を持った人がなることが多いです。

美容業界について分かっているということや、周りのスタッフとも同じ思いで仕事ができるからです。

しかしいくら腕の良い美容師だとしても、経営者に向いているとは限りません。

経営者としての資質の見極めをする必要があります。

 

一方、事業譲渡では経営に関してノウハウや資質をもつ人に引き継ぐ可能性が高く、譲渡されたのちも美容室が継続できる可能性が高いといえます。

 

自分の資質の限界から解放される

自分自身の経営者の資質に対して限界を感じる人もいます。

実際経営をやってみたものの、自分には合っておらず経営者を辞めたいと思う場合もあります。

そのような場合に、自分より経営者として能力の高い人や組織に事業譲渡することで、手離れできるのでメリットがあるといえます。

 

雇用環境の見直しができるため

スタッフに対する雇用環境も、現在の経営状況では改善できないと思っている経営者も多いでしょう。

やはり資金がないと出来ないことも多いからです。

一方、事業譲渡をすることにより資金が豊富にある企業に引き継げるのであれば、スタッフの待遇の改善および雇用の安定が見込めます。

 

事業譲渡による金銭の獲得

事業譲渡は、一般的には譲渡先から金銭を受け取ります。

対象となる美容室のブランド力やポテンシャルなどを考慮して金額が算出されるからです。

よって、事業譲渡をする際に譲渡先から高評価を得ることが、できればできるほど多額の金額を得ることができます。

 

廃業の場合は、事業を清算するとなると多額の支払いをする可能性があります。

なぜなら美容室の場合はテナントを解約する際に費用が発生するからです。

事業から撤退後に借金が残ることもあり、その後の経営者の生活を圧迫してしまいます。

 

事業譲渡がうまくいくことで金銭を獲得できるのであれば、その後の生活も円満に進む可能性があります。

 

譲渡先に求めるものを明確にする

事業譲渡をうまくいかせるためにも、譲渡先に対して求める条件を明確にしておきます。

譲渡額もそうですが、そのあとも店舗に残ることになるスタッフの雇用条件なども決めておくほうがいいです。

従業員の雇用条件も具体的な数字にして交渉を行います。

実は具体的な提示があったほうが、譲渡先としても判断しやすいのです。

しかし、あまり自分の主張を通して交渉がまとまらないのでは意味がありません。

双方の落としどころを見つけて成立するように交渉する必要があります。

 

過去の事業譲渡事例を調べる

過去の事業譲渡の事例を調べることで相場観が磨かれます。

事業譲渡は売り手か買い手のどちらかが経験がある、もしくはどちらも経験がないことがほとんどです。

そのような状況の場合、頼りになるのは今までの事例です。

事例を参考に金額を算出することで双方が納得しやすい価格に落ち着きやすいというメリットがあります。

 

事業譲渡案件は、M&A仲介会社や、税理士、商工会議所、金融機関などが把握している可能性がありますので積極的に聞いてみましょう。

過去の事例の相場に対して、自分のお店の経営状況などを考慮して金額を算出することを類似会社比準方式とよびます。

この方式は小さい会社から大企業まで幅広く使われているやり方です。

 

譲渡前に事業価値を高められる可能性がある

美容室の事業譲渡は、経営者にとってたくさんのメリットがありますが、だれにでも、どのタイミングでも譲渡してもいいわけではありません。

事前に準備を進めておかなければ、本来得られるはずの事業譲渡のメリットを享受できないかもしれません。

 

事業譲渡における失敗例として、当初考えていた金額で売却することができなかった、考えていた以上に契約交渉に時間がかかってしまい、経営状況が変わってしまったということがあります。

 

希望の金額で売却するためにすること

譲渡額はビジネスモデルの独自性や収益性に反映されます。

事業譲渡の場合、譲渡額を算出するわけですが、譲渡額は以下のような要因で決まります。

この要因をあらかじめ把握しておき、譲渡前にできるだけ価値をあげておく準備が必要です。

なお、譲渡先が気にしているのは数字やデータです。

オーナーとしては美容室への想いを語りたくなりますが、数字やデータがないと譲渡額には考慮されませんので注意が必要です。

以下のような点が確認・準備しておくべき項目です。

 

▼ビジネスモデルの収益性はどうか

この場合のビジネスモデルというのは、「収益を継続的に生み出す仕組み」と言い換えることもできます。

どのようなビジネスモデルかということで譲渡する金額は変わります。

継続的に収益を生み出すことができるビジネスモデルであればあるほど、金額は上がります。

その際、継続的に来店する顧客をどれだけお店が抱えているか、という点も考慮されます。

 

▼ビジネスモデルの独自性はあるのかどうか

美容室業界は、非常に競争が激しい市場です。

自店ならではの独自性があればあるほど、譲渡額の金額は高くなる傾向にあります。

 

▼従業員の質はどうか

美容室の経営を支えているのは、現場で顧客に接している従業員です。

高度な技術を従業員が持っている、数多くの顧客をスタッフが抱えているなどの要因があれば事業譲渡額もあがります。

 

気をつけておきたいのが、スタッフの数が多いだけでは価値は上がらないという点です。

むしろ、客数に対して従業員が多い場合は譲渡額が下がってしまうことも考えられます。

無駄のない人員で、適切な収益をあげているかどうかが判断されます。

 

▼純資産額はどれだけあるのか

企業の資産状況はどれだけあるのかを確認しておく必要があります。

なぜなら資産は会社の収益性を表しているからです。

資産が多い方が、譲渡額は高くなる可能性があります。

 

▼売掛金がどれだけあるか

売掛金は譲渡額には反映されないのが普通ですが、回収できない見込みがあるものは譲渡額からは減額される傾向にあります。

具体的には、その場での決済ではなく月末に銀行振り込みをしてもらっているといった契約のものが含まれます。

あらかじめ取引内容の変更を行い、なるべくキレイな状態にしておくことが望ましいといえます。

 

▼不良在庫をどれだけもっているのか

美容室で取り扱っている商品の在庫も資産です。

しかし、売れ残って在庫になっているものであれば、不良在庫と認識され譲渡額が低くなってしまう可能性がありますので注意が必要です。

こちらもあらかじめキレイにしておくことが必要です。

 

交渉には時間がかかることを考慮にいれる

買い手と売り手の間で、事業譲渡の希望額に開きがあるのは当然のことです。

一般的に、オーナーの想いがどうしても希望譲渡額に加算されてしまうためです。

そのようになると、買い手との交渉が難化して長引いてしまいます。

 

交渉が長引けば、スタッフも落ち着いて対応できなくなり不満がでてきます。

そのようになると売上も落ちてしまい、譲渡額の設定変更を余儀なくされる場合もでてきてしまいます。

 

とはいえ、交渉ですので焦りは禁物です。

 

事業譲渡を考えたら、できるだけ早く計画を立て、予定通り譲渡ができるよう万全の準備をすることが必要です。

 

事業譲渡の専門家を大いに活用する

事業譲渡を行う際、当事者同士でも可能です。

しかし、一方で話がまとまらない場合もあります。

事業譲渡に精通している仲介業者を利用することで、スムーズに進む可能性があります。

 

仲介業者を利用するメリットは他にもあります。

メリットのその1は、事業譲渡の適正な価格を算出してくれるという点です。

経営者が経験したことがないのであれば適正な価格を算出することは難しいといえます。

仮に計算ミスで、実際の価値よりも低く設定をしてしまうと、損をしてしまうことになります。

このようなことは仲介業者を利用すれば未然に防ぐことができます。

 

メリットその2は、仲介業者は買い手業者の情報をたくさん持っており、適正な買い手企業を選出してくれるという事です。

事業譲渡をしたくても、誰に相談していいかわからないという人は多いです。

その上、自分で買い手を見つけることも困難ですし、その人が適正かどうかも経営者に経験がないので分かりません。

専門家であれば、経営者の希望や美容室の経営状況を考慮して、適切な買い手企業を見つけ出してくれます。

 

まずは相談が無料の仲介業者に依頼してみて、自分に合っているかどうか確かめてみるべきです。

成果報酬型のところも多く、事業譲渡が行われなければ費用はかかりません。

 

まとめ

今回は美容院の事業譲渡についてお伝えしました。

昨今の美容室業界は競争過多であり、赤字になるケースも少なくありません。

また後継者が親族内で育たず、引継ぎできなくて困っているというケースもあります。

それらの問題を解決できるのが事業譲渡という手法です。

 

経営者の経済状況としても、廃業して清算をすると費用がかかり借金を背負ってしまうことも多々ありますが、事業譲渡の場合は譲渡金を受け取ることができハッピーリタイアすることも可能です。

 

事業譲渡を行う際は、あらかじめ準備を徹底しておき、万全の体制をしておきます。

とくに経営状況やビジネスモデルは具体的な数字などで把握しておくことが必要です。

また、専門業者を利用すると、交渉相手を探してきてくれ、双方納得いく形での契約交渉が進みやすいです。

費用も成果報酬型のところもあり、事業譲渡が完了しなければ費用はかかりません。

検討してみる価値はあるといえます。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《美容室・ヘアサロン》
事業譲渡とは、法人の事業部門や資産の一部、もしくは全部を譲渡する方法です。
売り手が売却範囲を任意に選択できるメリットがあります。
昨今の美容室経営において、市場環境の変化による競争の激化や後継者問題、経営者の健康問題など、さまざまな問題でリタイアしたいという方もいると思います。
そこで、今回は前述した問題を解決する方法の一つとして考えられている、美容室の事業譲渡についてお伝えします。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2018年11月16日
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