2019年3月13日 水曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《焼肉屋》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

少子高齢化の影響を受けて、焼肉屋を含む飲食店業界は激しい人手不足にさらされています。全職業平均の有効求人倍率の1.56倍に対し、飲食物調理は3.49倍、接客・給仕は4.09倍(厚生労働省「一般職業紹介状況」平成31年1月)となっています。人手不足は日々のオペレーションを混乱させるだけでなく、人件費の上昇も招き、経営状況を悪化させます。

また、ここ数年、輸入・国産牛肉の価格は高騰傾向にあり、焼肉屋の収益性を悪化させています。経営者は消費者のトレンドに臨機応変に対応していく必要もあります。過去には低価格焼肉店が急速に店舗数を伸ばしていきましたが、直近で業績を伸ばしているのは独自のコンセプトを持つ高品質な焼肉店です。

こうした厳しい経営環境の中、事業のハードルを乗り越える手法として「事業譲渡」が注目を集めるようになりました。本稿では焼肉屋の事業譲渡について、トレンドを探っていきます。

 

焼肉屋業界における事業譲渡の動き


焼肉屋経営者がなぜ事業譲渡を考えるようになったのでしょうか。
大きな要因としては経営者の高齢化が挙げられます。少子高齢化の波は日本全体に波及しており、飲食店、焼肉屋も例外ではありません。中小企業の経営者の平均年齢は1995年に47歳であったのに対し、2015年には66歳へと大きく高齢化が進みました。一方、経営者の平均引退年齢は中規模事業者で67.7歳、小規模事業者で70.5歳です。
つまり現在、多くの経営者が引退年齢を迎えているのです。

もう一つの要因としては、冒頭にあげた事業環境の変化があります。
厳しい経営環境に晒されている焼肉業界では、事業をうまく成長させられていない企業も多く存在します。他業界から焼肉屋へ新規参入した企業もあるでしょう。
事業譲渡を活用すれば、会社全体を譲渡するのではなく、譲渡したい事業に絞って譲渡することができます。焼肉屋の成長は焼肉業界のノウハウを持つ他の企業に任せて、得た資金で新たな事業を始めることや、その他の事業に資金を投下することができます。

こうした背景のもと、第三者への事業譲渡を目的としたM&Aが増加傾向にあります。焼肉店の事業譲渡は買い手側の企業にとってもメリットがあります。事業譲渡によって既存店を取得すれば、内装への投資、メニューの新規作成、人材育成などを行う必要がなく、スピーディーに事業展開ができます。飲食店では立地が重要な要素になりますが、新規出店ではいい立地を確保できるとは限りません。既存店を買うことで良い立地を確保することもできるのです。

M&Aと聞くとあまりいいイメージを持たれない方もいるかもしれませんが、M&Aは買い手側にとっても売り手側にとってもメリットのある取引といえるのです。

 

最近の焼肉屋業界の事業譲渡事例


どのような会社が焼肉屋を買収しているのでしょうか。M&Aの事例をいくつかみていきましょう。

 

【焼肉と焼鳥業態を展開するあみやき亭によるアクトグループの子会社化】
2014年1月20日、株式会社あみやき亭じゃ株式会社アクトグループの株式を取得し、子会社化することを発表しました。
アクトグループは新宿エリアなどの都心を中心に寿司、焼肉、ダイニング等の12店舗展開している企業です。一方のあみやき亭は焼肉業態の「あみやき亭」、焼き鳥業態の「元祖やきとり屋美濃路」を展開する企業です。愛知県・神奈川県にセントラルキッチンを有し、毎日新鮮な食材を店舗に配送すると共に低価格な商品の提供を実現しています。あみやき亭はM&Aを成長戦略の中枢においており、2009年11月にも関東で焼肉屋を展開するスエヒロレストランシステムを子会社化しています。
このM&Aはあみやき亭の関東地区への出店加速を目的に行われました。子会社化により関東の市場でのビジネス展開や店舗開発のノウハウを取得し、更なる事業成長を目指しています。

 

【subLime(サブライム)による牛の達人の子会社化】
2018年8月31日、株式会社subLime(サブライム)は、都内を中心に焼肉店を展開する株式会社牛の達人の株式を100%取得し、子会社化しました。この事業譲渡による譲渡金額・条件は非公開です。
subLimeは90ブランドを展開している大手の飲食グループです。自前での新規出店だけでなく、M&Aを成長戦略の軸に位置付けています。過去にもアイスクリームショップの
「レインボーハット」を運営するRHコーポレーション、「北の家族」「ロックアップ」といった居酒屋店を運営するパートナーズダイニングなど、多くの業態の買収を行ってきました。
牛の達人の取得は、グループ初の焼肉業態への新規参入になります。牛の達人のブランド力とsubLimeの飲食店の運営ノウハウを統合して収益の更なる拡大をはかります。

 

焼肉屋の事業譲渡を実施するうえでのポイント


焼肉屋を事業譲渡により売却する場合に念頭に置くポイントを見ていきましょう。

 

事業譲渡のゴールの設定
事業譲渡を検討する際に、第一に行うべきことは、「何をゴールに事業を売却するか」を明確にすることです。焼肉屋を売却する理由も経営者それぞれです。「事業を売却することで引退後の資金を得たい」「お店の跡取りを見つけたい」など、様々なものが考えられます。一方、これらの目的が曖昧なままだと、この先の交渉が進めづらくなります。

売却の目的によって、必要な準備や交渉の際に重点を置くものなどが変わります。
「売却による収入」が目的の場合は売却金額の交渉は絶対譲れないものになるでしょうし、売却金額を少しでもあげるための事前準備が必要です。
一方で、「お店の継続」が目的の場合は売却金額以上に、従業員の雇用が守られるのかなど、労務上の条件交渉の方が気になることでしょう。いつまでに売りたいかというタイミングも重要な要素です。すぐに判断ができる買い手企業が見つかった場合に、売却条件は多少目をつぶっても、短期間での取引成立を優先することも一手です。
このように、ゴールの設定がなければ、交渉の指針がなくなってしますのです
ゴールを曖昧にしていると、買い手企業に有利な条件に気づかずそのまま交渉を進めてしまったり、本当は満足できる取引内容にも関わらず交渉を長引かせて破綻させてしまったりと、取引自体に悪影響を及ぼします。

 

売却のための事業の整理
売却に向けて、企業価値を高めるために事業の磨き上げを行います。店の既存の問題点を洗い出すとともに、アピールのポイントとなる事業の強みについても明確にしておきましょう。また、時間の許す限りで、事業の弱みの克服と強みの強化を行い、買い手にとっての魅力度をあげておきましょう。

そのためにも、まずは現状を整理することが必要です。各月ごとの売上の推移、仕入れの量、客数、客層、人気メニューなどの事業の細部まで可視化しておきましょう。経営者と店の間の貸借関係など資産部分の可視化も必要です。貸借対照表や損益計算書といった決算書はきちんと整理しておきましょう。また、財務諸表は月次ベースで作成しておくとよいでしょう。
買い手企業の質問にも備えて、店全体の経営状態をできるだけクリアしておきます。現状の整理によって、準備期間に何を改善していくかについても目標が立てやすくなります。

事業の改善を行う際は、買い手にとって店が魅力的になることが指針です。焼肉屋の場合、独自メニューの有無は1つの評価軸になります。冒頭で説明した通り、昨今の焼肉屋は低価格よりもコンセプト重視のお店が流行しています。他の店にはないメニューの開発に力を入れてみるのもよいでしょう。
また、メニューの良し悪しを決める要素のひとつが”仕入れ先”です。その店独自の仕入れ先を持ち、いい肉を安く仕入れられるのであれば、買い手側企業もより買収に積極的になることでしょう。
さらに、多店舗展開の可能性も重視されます。店舗の運営ノウハウが経営者に集約されている状態では、事業を買い取った後にうまく経営が回らないかもしれません。
店舗を回すオペレーションがある程度確立されていて、従業員にもしっかりと引き継がれていれば、そのノウハウをもとに新たな店舗の展開を考えることもできます。今一度、店舗のオペレーションを見直してみましょう。

 

M&Aの専門業者、アドバイザーの選定
M&Aによる事業承継に取り組む際には、買い手を探す必要があります。買い手を探すのにもいくつか方法がありますが、M&A仲介業者などの専門家のネットワークを活用することをおすすめします。友人や知人でいい人が思い当たればいいのですが、ちょうどいいタイミングで焼肉店の買収をしたいと考えている企業は多くありません。
また、売却先の選択肢は広ければ広いほどよいです。身内でいい買い取り手が見つかったとしても、本当はもっと高値で買い取ってくれる会社がいるかもしれません。
加えて、多くの人に相談をする中で売却の機密性を保てなくなるというリスクもあります。M&Aの仲介事業者は常に多くの売買案件をかかえている為、既に買い手企業候補のプールを保有しています。中には焼肉屋の買収を考えている企業もいるかもしれません。また、機密情報についての取扱いも安心して任せられます。

専門業者を活用するメリットはもう1点あります。それは、M&Aの実務に関する専門性です。
事業譲渡では財務、法務、労務など広い領域の専門知識が必要になります。なかなか素人が1から学ぶにはハードルの高いものです。M&A仲介業者でもM&A専門のコンサルティングファームでもM&Aの実務に詳しいプロフェッショナルスタッフを抱えています。特に企業価値の算定、デューデリジェンスへの対処、最終契約書の草案作成などでは、専門家の力を借りた方がいいでしょう。
いい専門業者、アドバイザーを選定するためには、実績を重視してください。なるべく焼肉屋、飲食店のM&Aの実績を持っている会社にお願いした方がよいでしょう。

 

条件交渉
条件交渉は事業譲渡の中でも最も難易度の高いプロセスかもしれません。買収価格だけでなく、買収後の従業員の待遇など、広い項目についてすり合わせをしなければなりません。財務、法務、労務と広い領域への理解が必要なので、専門家のサポートを受けながら、交渉は進めていきましょう。

条件交渉のはじまりは、基本合意書の締結からはじまります。基本合意書は事業譲渡を進めていくにあたった取り決めを書いた契約書です。基本合意書には目安の買収価格、取引条件、スケジュール、機密保持、独占交渉権などの内容を包含します。
一方で基本合意書の段階では、買収の内容について法的拘束力を持ちません。買収価格も目安の金額が記載されていますが、その後のデューデリジェンスを経て、最終的な条件はすり合わせされます。

交渉において最も重要なプロセスがこのデューデリジェンスです。経営上の課題を多く抱えた企業を買収してしまったり、価値の低い企業に多額の買収金額を支払ってしまったりすると、買収側企業の経営には悪影響を及ぼします。そうしたリスクを避けるための監査が、デューデリジェンスです。
デューデリジェンスにはいくつかの種類があります。法務面の問題を弁護士が監査するものは『法務デューデリジェンス』、財務面の問題を会計士や税理士が監査するものは『財務デューデリジェンス』と呼ばれます。対象会社のビジネスモデルによって行われるデューデリジェンスの種類は様々です。
そして、事業に対する評価を行うものをビジネスデューデリジェンスと呼びます。このビジネスデューデリジェンスは、企業価値の評価に最も影響を与えるものです。事業の隅々まで厳しくチェックがかけられ、売却側にとっては緊張を強いられるプロセスです。
このビジネスデューデリジェンスの際に、隠していた問題が発覚すると、売買そのものが流れてしまうこともあります。事業譲渡を行う際は、デューデリジェンスに対する準備は最新の注意を払うようにしましょう。

 

まとめ

焼肉屋も厳しい経営環境に晒されている中で、状況の打開策としてM&Aを活用するようになってきています。事業譲渡は買い手企業にとっても売り手企業にとってもメリットのある取引です。
一方で、事業譲渡を希望したからといって、いい取引ができるとは限りません。売り手と買い手の双方でしっかりと事前準備を進める必要があります。M&Aは高い専門性が求められる業務です。取引に慣れていない方はM&AアドバイザリーやM&A仲介業者などの、専門家の知恵とネットワークも活用するようにしましょう。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《焼肉屋》
少子高齢化の影響を受けて、焼肉屋を含む飲食店業界は激しい人手不足にさらされています。全職業平均の有効求人倍率の1.56倍に対し、飲食物調理は3.49倍、接客・給仕は4.09倍(厚生労働省「一般職業紹介状況」平成31年1月)となっています。人手不足は日々のオペレーションを混乱させるだけでなく、人件費の上昇も招き、経営状況を悪化させます。
また、ここ数年、輸入・国産牛肉の価格は高騰傾向にあり、焼肉屋の収益性を悪化させています。経営者は消費者のトレンドに臨機応変に対応していく必要もあります。過去には低価格焼肉店が急速に店舗数を伸ばしていきましたが、直近で業績を伸ばしているのは独自のコンセプトを持つ高品質な焼肉店です。
こうした厳しい経営環境の中、事業のハードルを乗り越える手法として「事業譲渡」が注目を集めるようになりました。本稿では焼肉屋の事業譲渡について、トレンドを探っていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年3月13日
事業売却の事例から読み解く潮流《焼肉屋》
2019年3月13日
事業承継の事例から読み解く潮流《焼肉屋》
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