2019年3月10日 日曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《焼肉屋》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

近年、焼肉屋業界では品質をめぐる競争が激しく、従来の目玉であった低価格路線に代わって、食材に高いクオリティが求められるようになりました。
「食べ放題」や「お一人様マーケット」など、さらなる顧客ニーズに応えるために、独自のコンセプトを打ち出す企業も増加しています。焼き肉屋の経営維持や、売上向上は難しい状態となっています。
そのような状況下の中、焼肉屋を含む飲食店に限らず、中小企業の間でM&Aの手法の一つである、事業売却を活用する動きが徐々に浸透し始めています。
ここでは、焼肉屋の事業売却の事例から、時勢の動きを見ていきます。

 

焼肉屋業界における事業売却の動き


焼肉屋業界は、事業売却の成功可能性が高いとされています。焼肉屋は、同業種・異業種から人気の業種の一つであるためです。
焼肉屋の事業売却で成功するカギは、「銀行借入金やリースが少ない」ということがあげられます。もちろん、売上高・立地条件・来店客数も重要となります。しかし、それに加えて、マイナス要素をなくすことが、事業売却の成功に大きく関わってきます。

リーマンショックから端を発した景気低迷の中、飲食業界の中でも比較的単価の高い焼肉屋業界の経営環境は、厳しい状況に置かれています。
2006年の焼肉屋の店舗数は、5年前と比較して、約1割減少しています。さらに、酒類と共に楽しむことに価値が置かれている焼肉は、車利用の多い郊外では、来店数を獲得できない業態となっています。

焼肉屋業界動向としては、若者を中心にホルモンの人気があり、安くておいしいことから、女性客にもブームが広がりつつあります。焼肉屋は男性客の比率が高いため、売上を伸ばすためには、女性客の集客が必要です。しかし、そのためには、ヘルシーでおしゃれなメニューの開発も進めなければなりません。独自で開発するには、アイディア・時間・労力が限られています。
そこで、事業売却を活用して、他社の力を借りる焼肉屋も少なくありません。
M&Aは、業界の種類に関係なく、前向きな手法として、活用される傾向が高まっています。

M&Aは、以前は「買収」という言葉から、マイナスなイメージがありました。しかし近年では、多くの業界でM&Aが積極的に行われています。
その背景には、現代の焼肉屋の多くが抱えている問題や、時代の変化が大きく影響しています。焼肉屋を含む飲食業界においてM&Aが活発に行われる背景は、3点あります。

 

『人材不足』
焼肉業界は、採用が非常に困難とされる業界の一つです。
最近は社会全体の雇用環境が改善されつつあります。このことは人材採用のハードルを上げ、焼肉業界の人材不足に拍車をかけています。リスクモンスター社の2017年の調査によると、就職したくないランキングで、小売・外食産業がトップにとなっています。
人材不足の問題は、従業員の確保だけでなく、後継者の確保においても顕在化しています
価値観の多様化を受けて「家業を継ぐ」という選択をとらない子供が増えていることも原因の一つにあげられます。
このような状況下で、成長戦略を考えると、事業売却を含むM&Aが有効な手段として選ばれます。

 

『SNSの普及』
SNSや口コミサイトの普及によって、顧客の嗜好性が多様化し、より複雑となりました。
今までであれば、チェーン店に行けば一定の満足度が得られました。店内の様子や味の評価もわかりきっているため、チェーン店は定番で揺るがないものでした。
しかし現在は、口コミサイトで行ったことのないお店も簡単に調べることができます。これまで敷居が高かった「個店」に、顧客を奪われることが多くなりました。

飲食企業チェーンのビジネスモデルが崩壊したからといって、中堅・大手が一朝一夕で「個店的な店づくり」をつくることは不可能です。
しかし、「個店」のノウハウをもって、少数の店舗で運営している企業を買収すれば、そのノウハウを手に入れることができます
売り手も、買収されることによって、安心感と利益を得られます。よって、SNSの普及に比例して、M&Aの活用率も伸びることとなりました。

 

『ファンドの台頭』
ファンドとは、M&Aにおいては「投資ファンド」のことを意味します。
「投資ファンド」は、まず企業の経営に深く関与して企業価値を高めます。そして、最終的に上場企業や他社への転売を通じて投資利益を得ることを目的としています。
「投資ファンド」は、匿名組合契約・投資事業有限責任組合・SPCを通じて外部の第三者から資金を調達します。その資金を元に投資活動を行い、得た利益を投資家に配分します。

昨今、ファンドが飲食企業を買収する事例が増えています。この背景に、ゼロ金利政策化で金融機関の資金がファンドに流入していることがあげられます。
最近のファンドは、現オーナーを残したまま、企業を成長させ、企業価値を上げる手法を用いることが多くなりました。
オーナーからすると、金融に詳しいプロと組むことによって、資金や管理面の協力を得られます。よって、効率よく成長スピードを上げられます。ファンドの台頭から、比較的にM&Aを活用しやすい時代となりました

 

最近の焼肉屋業界の事業売却事例


【2018年8月31日 株式会社牛の達人(以下、牛の達人)が株式会社Subrime(以下、サブライム)に売却】
2018年に、飲食大手のサブライムは、都内を中心に焼肉屋を展開する牛の達人の株式を100%取得し、子会社化する契約を締結しました。この場合のM&Aは、サブライムが譲受(買い手)、牛の達人が譲渡(売り手)となります。サブライムは、新規出店の他に、M&Aを重要な成長戦略としていて、今回で9度目の買収となります。
サブライムは、この買収により、グループでは初めての焼肉業態の取得となりました。牛の達人のブランド力に、サブライムのノウハウと店舗オペレーションの強化を図ることによって、事業領域・収益の拡大を目的としています。

 

焼肉屋の事業売却を実施するうえでのポイント


事業売却を行うことによって、自店のステージアップが見込めます。しかし、そのためには念入りに準備をしなければなりません。
M&Aは、時間と労力を要します。高い買取金額を提示されたからといって飛びついてはいけません。M&Aはオーナーだけの問題ではなく、従業員や取引先も関わっています。そのことは、M&Aの交渉を進めるにあたって常に念頭に置く必要があります。
ここでは、焼肉屋の事業売却を実施するうえでのポイントを5点ご紹介します。

 

1.売却目的を明確にする
事業売却に着手する前に、売却目的を明確にしましょう
買い手と交渉する際には、条件を提示する必要があります。後継者不足、アーリーリタイア、経営不振など事業売却を行う理由は会社によって様々です。
アーリーリタイアが目的であれば、売却金額にはこだわって交渉を進めた方がいいでしょう。売却金額をあげるための事前準備も抜かりなくすすめておくべきです。
一方で、後継者不足が目的であれば、買い手企業が継続して焼肉屋を繁栄させていく力があるのかをしっかりと見極めなくてはなりません。引退の時期が明確になっているのであればタイミングも大切です。長々と時間をかけていい条件の買い手企業を待つ必要もないかもしれません。なぜ売却したいのか、条件として譲れないものは何かを明確にする必要があります。
また、売却価格が高すぎたり、条件が多すぎたりすると、買い手がつかなくなってしまう可能性もあります。交渉していく過程で妥協しなければならない点も出てくるかもしれません。その際のことも視野に入れ、柔軟に対応していくことが求められます。

 

2.専門家に相談する
M&Aは税務、法務、労務、財務と多岐に渡る専門知識を必要とする業務です。素人が行うのは無理がありますし、不利な条件に気付かずに取引を進めてしまうかもしれません。M&AアドバイザリーファームやM&A仲介会社などの専門家を活用するようにしましょう。公認会計士、税理士、法律家などの各領域のプロフェッショナルを抱えていることが多く、事業売却を包括的にサポートしてくれます。

また、専門家は独自のネットワークを持っていることも強みに挙げられます。常に多くのM&A案件を抱える中で、最適な買い手企業の候補を提案してくれることもあります。
買い手企業を探す際に、経営者自身のネットワークを活用することもありますが、機密情報の漏洩という観点ではリスクが伴います。また、買い手企業の候補は多い方が、いい条件の企業が見つかりやすくなります。
専門家を選定する際には、過去の実績を確認するようにしてください。できる限り、飲食店や焼肉屋のM&Aの実績を持つ専門家を選んだ方がいいでしょう。
実績は会社の紹介資料の中にまとめられていることが多いです。不明な場合は直接担当者に問い合わせるようにしましょう。

 

3.秘密の漏洩に注意する
事業売却を検討していることについては、取引が完了するまで、従業員や取引先に漏洩しないように注意しましょう。情報の開示は、経営陣など検討に関わる従業員のみにとどめておくべきです。
従業員によっては事業売却を知ることで不安になり、会社を離れてしまうかもしれません。従業員が会社を離れてしまっては、売却はままなりません。買い手企業も同様に機密を守って、取引に臨んでいます。社内で不注意に事業売却の話題を出さないようにしましょう。
また、買い手企業も含めて、信頼がおける企業と取引をすることも大切です。M&Aの仲介業者であれば、基本的には機密情報の守秘を徹底しています。

 

4.事業の強みを明確に伝える
事業の強みを明確に伝えられることで事業価値の評価額もあがります。強みは客観性を持って伝えると説得力が増します。焼肉屋の財務データだけでなく、お客さんの来店数、客単価、お客さんの属性など、経営にかかわるデータはできる限りまとめておくといいでしょう。財務データについても商品別の売上高、利益率、月次推移など、細部まで分析ができるようにデータを揃えておくことをおすすめします。
強みが不明な場合は店内にアンケートを設置するなどし、顧客の声を拾い上げるようにしましょう。アンケート形式でとれば、顧客からの評価をデータとして収集し、独自の強みを目に見える形で提示できるようになります。

 

5.強みを伸ばす
売却の交渉がはじまる前までにできる限り焼肉屋の強みを伸ばしておきましょう。強みが伸ばせればその分、事業価値の評価額もあがります。
昨今の焼肉屋は価格よりもコンセプトが重視されるようになっています。例えば独自メニューの開発は強みの強化につながる一手かもしれません。そういった他の店にないものを持っていれば、差別化要素として受け取られるでしょう。また、別の差別化要素として「仕入先」も重要です。他店にはない独自の仕入れネットワークを持っていれば、独自メニューの開発も行いやすくなるでしょう。
多店舗展開の実現可能性についても確認しておきましょう。企業価値評価では現在の収益性だけでなく、将来の収益性にも着目して評価がなされます。対象となる焼肉屋が、拡張性を持って、多店舗展開できる可能性を秘めているのであれば、その分評価は高くなります。
多店舗展開の可否をわけるポイントとしては、オペレーションの属人性が挙げられます。
焼肉屋の運営ノウハウが経営者のみに蓄積されている場合は注意が必要です。店舗運営のオペレーションはマニュアル化し、誰でも運営できる状態にしておかないと、多店舗で展開することは難しくなってしまいます。

 

まとめ

M&Aと聞くとマイナスのイメージを持たれていた方もいるかと思います。しかし、M&Aや事業売却は、買い手企業と売り手企業の双方に旨みのある取引です。競争が激化している焼肉屋業界においても、競争を勝ち抜く打開策として、今後も注目を浴びていくことと思います。
一方で、ご紹介した通り、事業売却は希望すれば必ずうまくいくものでもありません。いい買い手企業を見つけ、満足のいく取引条件を獲得するには、ノウハウも必要ですし、タイミングも大事です。
事前に適切な準備をしっかり進めておくようにしましょう。

事業売却の事例から読み解く潮流《焼肉屋》
近年、焼肉屋業界では、品質をめぐる競争が激しく、従来の目玉であった低価格路線に代わって、食材に高いクオリティが求められるようになりました。
「食べ放題」や「お一人様マーケット」など、さらなる顧客ニーズに応えるために、独自のコンセプトを打ち出す企業も増加しています。焼き肉屋の経営維持や、売上向上は難しい状態となっています。
そのような状況下の中、焼肉屋を含む飲食店に限らず、中小企業の間でM&Aの手法の一つである、事業売却を活用する動きが徐々に浸透し始めています。
ここでは、焼肉屋の事業売却の事例から、時勢の動きを見ていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年3月10日
焼肉屋のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
2019年3月10日
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