2019年3月14日 木曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《バル》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

スペインを発祥とするバルは、スペイン料理とお酒を気軽に楽しめるお洒落な居酒屋としてすっかり日本に定着しました。個性の強いお店が人気を博している昨今の日本の居酒屋業界においても、未だに根強い人気を誇る業態と言えるでしょう。

一方、バルを取り巻く経営環境は厳しさを増しています。少子高齢化が進み、全般的なアルコール消費量は縮小の傾向にあります。人口の減少だけでなく、若者のアルコール離れも業界に悪影響を与えています。少子化の影響はそれだけにとどまらず、飲食店業界では異常な人手不足と、それに伴う人件費の高騰が起こっています。

そんな中、激しい経営環境を打開する策として注目を浴びているのが「事業譲渡」です。なぜ今、バルの事業譲渡が注目を浴びているのでしょうか。そのトレンドを見ていきましょう。

 

バル業界における事業譲渡の動き


バル業態は2000年代前半に注目を浴びはじめました。もともとは東京を中心に広がっていった業態ですが、現在は地方都市でもよくみられる業態になりました。スペインを発祥とする「バル」という言葉もすっかり日本人に馴染んでいます。
バル業態は気軽さとカジュアルさが売りで、男性向けの居酒屋に対して、女性客でも行きやすいお店として人気を集めています。一方、昨今では「バル」というだけでは差別化できなくなってきています。「魚料理メインのバル」、「肉料理メインのバル」など、バルの中でも少しずつ個性が強調されるようになってきています。

バルは、パブ・居酒屋業態にあたります。近年、飲食サービス業全体は成長傾向にありますが、パブ・居酒屋業態は低下傾向が続いています。冒頭でお伝えした通り、こうした傾向の背景には若者のアルコール離れがあります。雇用の非正規化により、若者は十分な所得が得られていません。アルコールによる出費を減らす傾向にあります。企業で飲み会の機会が減ったことも要因として挙げられるでしょう。
競争環境を見れば、ファミリーレストランがアルコールを提供するようになったなど、他業態からの参入が目立ちます。この競争激化もパブ・居酒屋業態の市場低迷に繋がっているといえるでしょう

また、外食産業は、人手不足も深刻です。特に居酒屋業界はブラックな労働環境のイメージがついてしまっています。労働者は外食産業への就職を敬遠する傾向にあります。需要に対して供給が追い付いていない状況では人件費を上げる必要があります。そのため、バル経営における人件費が増加しています。

ではなぜ、この様な状況下で事業譲渡が増えてきているのでしょうか。


買い手側企業の背景:M&Aを活用したスピード展開
買い手側企業の理由としては、スピード感を持って事業を展開できることです。コンセプトで差別化をはかる個店が人気の現在では、大手飲食チェーンが業態のポートフォリオを広げるために新たな業態にチャレンジすることがあります。その中でバルはエッジの効いた個性的な選択肢と言えるでしょう。

一方、通常は新規の事業立ち上げには時間がかかります。良い立地で物件を確保する必要もあれば、メニューの新規開発、人材の新規採用も必要です。そのそれぞれにお金がかかります。
そのため、バルに新規参入したい企業からすれば、事業譲渡で事業を譲り受けることによって、スピーディーに事業展開をすることができるのです。場合によってはコストも安く済む可能性があります。


売り手側企業の背景:経営の引継ぎ
売り手側企業の理由としてはやはり事業の承継が大きいでしょう。一般的な中小企業と同じように、バルもまた後継者問題に悩まされています。歳をとって体力的に経営が困難であったり、病気をしてこれまで通りには動けなくなったり、経営からの引退を考える背景は多様です。そんなとき自分の子供が事業に関心を示してくれるのであればいいのですが、価値観が多様化する現在では子供がそのまま親の仕事を引き継ぐとは限りません。そもそも経営者に子どもがいないケースもあります。引退をしたくても引き継ぎ手がいないことから引退ができない経営者は多くいるのです。

もしそこで廃業を選べば、店舗や設備、調理器具などの資産は、安くどこかに引き取ってもらうか処分する必要があります。銀行などへの債務が残っている場合は、廃業後に借金になるケースもあります。また、今までバルを支えてくれた従業員が職を失うことにもなります。経営者としては極力廃業を避けたいものです。

一方、事業譲渡を選択すれば資金を得ることができます。さらに、従業員が職を失うこともありません。良い形でノウハウを持つ第三者に経営を引き継ぐことができるのです。大手傘下に入ることで、経営改善がなされる可能性もあります。

 

最近のバル業界の事業譲渡事例


実際に飲食店の事業譲渡の事例をご紹介します。

【平成27年8月4日、株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングスによる株式会社アールシー・ジャパン(オリエンタルランド傘下)の発行済み全株式の取得】

クリエイト・レストランツは、フードコートからレストランまで様々な飲食店の企画、運営を行っています。対する対象企業のアールシー・ジャパンは、ディズニーランドの運営を行うオリエンタルランドの子会社です。オリエンタルランドが運営する商業施設イクスピアリ等で、4店舗の飲食店を運営していました。
この事業譲渡には、オリエンタルランドの選択と集中が背景にありました。施設運営のビジネスに特化をはかるために飲食店事業を切り離したのです。一方、クリエイト・レストランツは規模の経済を活かして、グループの競争力を強化したいと考えていました。クリエイト・レストランツの取り込みによって、規模の追求だけでなく、観光地における事業ノウハウを得ることもできました。アールシー・ジャパンは大手の飲食グループの傘下につくことにより、大手の運営ノウハウを得て、更なる成長を目指します。
まさに、売り手と買い手の双方の利害が一致した理想的な事業譲渡といえるでしょう。

 

バルの事業譲渡を実施するうえでのポイント


事業譲渡の過程では注意しなければならないポイントが多くあります。代表的な注意点についてまとめていきましょう。

バルの収益性や独自性を譲渡額に反映させる
事業譲渡の際にはそのバルの売却額を決めなければなりません。この事業価値の算定は非常に複雑なプロセスです。利益の水準から自動的に売却額が決まればいいのですが、実際には値段をつける人によっても算定される売却額は異なります。企業価値の算定は現在の収益性だけでなく、将来の収益性にも着目して最終的な価格が定まります。この際、ブランド力や味、ノウハウといった形のないものに対する”のれん代”という価値も含んで算定する必要があります。
そのため、バルの強みや差別化要素については事前にまとめておくようにしましょう。買い手企業はあらゆる角度からそのバルの収益性を評価することになります。独自のメニュー、独自の仕入れ先、ブランドコンセプト、リーチしている客層など、強みに挙げられそうなものはなるべく事前にリストアップしておくとよいでしょう。

数字やデータによる裏付けを用意する
前述の強みを伝える際には、データによる裏付けがなされていることが大切です。熱意は大切ですが、熱意だけを伝えても買い手企業は納得してくれないでしょう。データは誰でもわかる形で、その強みを立証してくれます。定性的に感じている強みを定量的な表現するために顧客にアンケートをとることも一案でしょう。

事業価値をあげる努力をする
好条件での譲渡を実現するために、売り手側は譲渡の準備段階で事業の改善を行います。譲渡対象となるバルの問題点を見つけ出して解決し、差別化要因については更に伸ばしていきましょう。経営状況が良く差別化要素を多く抱える企業ほど、良い企業価値がつきます。

事業の改善のポイントとしては、まず、バルの独自メニューの開発が挙げられるでしょう。バルは雰囲気の良さに引かれて、女性客が予約を入れることが多くあります。一方、お洒落なお店というだけではリピーターがつきません。肉料理でも魚料理でもおつまみでも、リピーターがつくようなその店の看板料理があることは買い手企業に言い印象を与えます。いい料理を出すための、独自の仕入れ先を持っていることが評価されることもあるでしょう。

商品の収益性の向上も大切です。顧客から人気のあるメニューでも、利益を生み出さないのでは意味がありません。そのメニューが一定の原価率を保ち、店に高い収益を生み出すことが重要です。 食材の調達コストの見直しやメニューの価格設定の見直しを行い、顧客の満足度を下げずに高い収益性をキープする方法をさがしましょう。

内装のリニューアルも一手といえます。バルは女性に人気の形態です。商品と同じ様に、店の雰囲気、店構えも大きな差別化要素になります。団体客を受け入れるテーブル席を用意する、個室も用意するなどの工夫があってもいいかもしれません。店内の明るさ、メニューの表示など、細部にこだわるようにしましょう。

そして、多店舗展開の可能性も感じさせるようにしましょう。そのためにも、なるべく展開しているエリアにおける地名度をあげ、エリア内のバルではトップの位置づけを確立してください。エリアにおいて高い注目を浴びていることは、他の地域でも同じようなポジションを築けることを期待させます。地域に密着してプロモーションを打っていくことも大事でしょう。
また、経営ノウハウが属人的にならないように注意してください。経営者のみに運営ノウハウが集約しているのであれば、多店舗展開は難しくなります。フォーマットにして誰でも運営を行えることが多店舗展開の足掛かりになります。

余裕をもって準備に取り掛かる
希望すれば、譲渡がすぐに行えるわけではありません。事業譲渡は実現までに長い時間を必要とします。

まず、譲渡先のマッチングに時間がかかることでしょう。自分が売りたいタイミングで都合よく買いたいと思っている経営者に巡り合う必要があります。経営者同士の横のつながりで買い手企業を探していては、うまく見つからないまま時間がすぎていってしまう可能性が高いでしょう。仲介業者などの買い手企業のネットワークを持つアドバイザーに依頼することが一般的ですが、それでもタイミングよく買い手候補企業が見つかるとは限りません。また運よく買い手候補企業が見つかったとしても交渉が難航し、取引が確定しないこともあります。

そのため、準備は早く進めるに越したことはありません。買い手候補企業が見つかった際に準備が整っていなければ、機会損失につながることでしょう。

キーとなる人材を逃さない
優秀な人材が流出しないように気を付けましょう。冒頭でお伝えした通り、人手不足に課題を抱える業界です。多くの飲食店が人材不足による機会損失を経験しています。優秀な従業員がいるのであれば、その人が辞めないことが事業価値の評価にも繋がります。逆に従業員の退職リスクが高いことがマイナスな評価につながることもあります。
そのためにも、事業譲渡のことは取引が完了するまで、内密にするようにしましょう。現場に事業譲渡のことが漏れれば、混乱を招いてしまいます。

アドバイザーのネットワークを活用する
買い手企業を見つける際には、M&Aの仲介会社など専門家のネットワークを活用しましょう。経営者の個人的なつながりから買い手先企業を探すケースもありますが、限定的なネットワークから都合よく買い手企業が見つかることは稀です。また、個人的なネットワークをあたった際に情報が漏洩してしまうこともリスクです。M&Aの仲介業者であれば常に多くの案件を抱えているため、買い手企業を見つけるスピードもはやいでしょう。

 

まとめ

日本でもすっかり定着したバルですが、中には経営が安定しないお店も現れています。事業譲渡はスケールを追求してスピーディーに事業展開を行いたい買い手企業と、事業を手放したい売り手企業がお互いにメリットを得ることができる取引です。譲渡のメリットを感じるようであれば、事業譲渡の準備を始めてみてはいかがでしょうか。

一方、事業譲渡はその過程で多くの専門知識を必要とします。事業価値の算定、買収監査への対処、事業譲渡契約書の草案の作成といったプロセスを素人が見よう見まねで行うのは現実的ではありません。また、タイミングよく譲渡先企業を見つけることも至難の業でしょう。
そんな際は事業譲渡の仲介事業者のサポートを活用しましょう。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《バル》
スペインを発祥とするバルは、スペイン料理とお酒を気軽に楽しめるお洒落な居酒屋としてすっかり日本に定着しました。個性の強いお店が人気を博している昨今の日本の居酒屋業界においても、未だに根強い人気を誇る業態と言えるでしょう。
一方、バルを取り巻く経営環境は厳しさを増しています。少子高齢化が進み、全般的なアルコール消費量は縮小の傾向にあります。人口の減少だけでなく、若者のアルコール離れも業界に悪影響を与えています。少子化の影響はそれだけにとどまらず、飲食店業界では異常な人手不足と、それに伴う人件費の高騰が起こっています。
そんな中、激しい経営環境を打開する策として注目を浴びているのが「事業譲渡」です。なぜ今、バルの事業譲渡が注目を浴びているのでしょうか。そのトレンドを見ていきましょう。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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