2019年3月17日 日曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《バル》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

日本の飲食店の中にバルという名前をもつ店が現れたのは、15年ほど前だとされています。それ以来、今日にいたるまで、バルは大いに流行してきました。そして現在、バルの流行が一段落する中で、事業承継を考える経営者も多くなっています。
事業承継の事例をみることで、バル業界の潮流を読み解きます。

 

バル業界における事業承継の動き


最初に、バル業界における事業承継の動きを概観します。日本におけるバルは、比較的新しい業態です。バルは出現後急速に流行し、多くの異なる業態がバルを名乗ったために、中身がわかりにくくなっています。まずはバルの歴史から振り返り、業態を明確にしたのちに、バルの事業承継の動きについて見ていきましょう。

 

バルとは

バルは南ヨーロッパから来た業態です。スペインやイタリアには、「バル(Bar)、バール(Bar)」と呼ばれるパブレストランがあります。スペインのバルは、地域住民が集い交流する憩いの場です。スペインの街々の中心街には、数多くのバルが立ち並びます。スペインの人々は、朝はコーヒーを飲んだり朝食をとったりするために、お昼はランチやカフェとして、夜帰宅する前に1杯やるためにと、1日に何度もバルを利用します。バルはスペインの人々の生活の中に深く定着しています。

 

日本のバルの歴史

日本のバルは、15年ほど前にスペインのバルを模したものとして始まったと言われています。スペインのバルでは、「タパス」と呼ばれる小皿料理と、「ピンチョス」と呼ばれる、食材を串刺しにしたおつまみが出ます。最初のバルは「スペインバル」とも呼ばれ、300円前後の小皿料理(タパス)と、パエリア、低価格のワインが中心的なメニューでした。初期のバルは、割安に洋食が食べられてお酒も飲めることが受け入れられました。

その後、バルが流行るにつれて、差別化のためのさまざまなコンセプトが打ち出されます。ピザやパスタをお値打ち感のある価格で提供するバルが流行ったあと、現在のトレンドは、肉の質を売りにする「肉バル」や、板前が常駐する「板前バル」、鉄板や石窯などの特別な調理器具を備えたバルなど、一点突破型の専門性を備えたバルです。

 

大手外食企業の企業戦略とバルの事業承継

ここで、大手外食企業の動きに目を移してみましょう。現代の大手外食企業は、国内では多ブランド化、多業態化により、トレンドを素早くとらえつつ、業績を安定化させることに取り組んでいます。一方海外では、発展著しい東アジア地域への進出や、欧州・北米などに進出することで、人口減少により発展の余地が限られている日本を出て、海外に成長の場を求めています。

多業態化を目指す大手外食企業は、M&Aを積極的に活用しています。これは、事業承継を考えるバルの経営者にとって有利な状況です。M&Aを活用して、大手外食企業に有利な条件で事業を引き継いでもらえる可能性が高まっています

 

最近のバル業界の事業承継事例


それでは、最近のバル業界で起きたM&Aや事業承継の事例をご紹介します。バル業界の動向を理解するために、事例として、狭い意味での事業承継に限ることなく、広く業務提携についても取り上げます。
飲食業界では、大手企業が業態を多角化する動きを強めています。そうした動きの事例として、JFLAホールディングスが買い手となった事業承継やM&Aの事例をご紹介いたします。

 

JFLAホールディングスとは

JFLAホールディングスは、「食のバリューチェーンのグローバルリーディングカンパニーになる」という目標を掲げて、成長を続ける食の総合企業です。「バリューチェーン」とは、企業が価値ある商品を顧客に届けるために、原材料の調達や生産に始まり、製造・加工、そして流通、販売をへて消費者に商品を届けるまでの各活動を効果的に連携させることを意味しています。
JFLAホールディングスは、食に関して、グループ傘下に抱える生産、流通、販売それぞれを事業とする子会社を有機的に結び付けることで、高い付加価値と収益性の実現を目指しています。
JFLAホールディングスの具体的な事業分野は、第一に焼肉や焼き鳥などのフランチャイズ及び直営店による飲食・販売事業、第二に欧州・北米や国内における食品や酒類の流通事業、第三に調味料、飲料、日本酒、乳製品などの生産事業です。

JFLAホールディングスは、M&Aや会社組織の改編を繰り返すことで現在の事業形態を整えました。その歴史は、1995年に創業した「プライム・リンク」に始まります。創業者の土屋晃氏が飲食ビジネスのノウハウの蓄積を目的として設立した同社は、1999年には炭火焼肉酒家「牛角」のエリアフランチャイズ本部の権利を取得します。これは、特定地域において「牛角」のフランチャイズ本部の役割を担う権利です。
その後、M&Aやフランチャイズ本部機能の獲得により事業を拡大しますが、2007年に組織改編によりアスラポート・ダイニングとなります。その後も同様の手法による事業拡大を続けつつ、2015年になると欧州や北米への海外進出を開始します。その後もM&Aと組織改編を繰り返し、2018年にジャパン・フード&リカー・アライアンス株式会社を子会社化するとともに、商号を「株式会社アスラポート・ダイニング」から「株式会社JFLAホールディングス」に変更して、現在の体制の基盤を整えました。

JFLAホールディングスは、経営計画の中で、「高い成長性と収益性を兼ね備えたブランド・ポートフォリオの戦略的構築」「新規業態の参入と拡充~高付加価値業態とカジュアル業態の強化」目指すとしています。今回ご紹介する業務提携や子会社化の事例は、そうした業態の多角化に沿ったものといえます。

 

JFLAホールディングスがスティルフーズと資本業務提携

2018年2月、JFLAホールディングスは、株式会社スティルフーズ(スティルフーズ)との資本業務提携を決議しました。

「食のバリューチェーン」事業の拡充、食品の生産・加工・販売を一体化して付加価値を創造する、6次産業への本格参入を目指すJFLAホールディングスは、4つの事業戦略、「既存ブランドの競争力強化と成長」、「ブランド・ポートフォリオの多様化」、「海外市場への進出」、「食品生産事業と六次産業化」を掲げています。

スティルフーズは、高級ステーキハウス「37 Steakhouse & Bar」やイタリアンレストラン「PIZZERIA 37」及びカフェなど24店舗を運営する企業です。JFLAホールディングスとスティルフーズは、今回の資本業務提携を決定する以前から、新ステーキブランド「リアルステーキ」の共同開発などの形で協力関係にありました。JFLAホールディングスは、今後も協同して事業展開及び事業拡充を行うために、スティルフーズとの関係強化が必要と判断し、資本業務提携を決議しました。

相互の経営、ならびに事業の独立性及び自主性を重んじることを確認したうえで、両者は以下の事項に取り組むとしています。それは、「JFLAホールディングスグループの業態やブランドなどとの協業」「JFLAホールディングスグループのノウハウによる、フランチャイズパッケージの開発」「人材マネジメントの共有化」「スケールメリットの拡大によるコスト削減と効率化」などです。

 

JFLAホールディングスがドリームコーポレーションを子会社化

2016年11月、JFLAホールディングスは株式会社ドリームコーポレーション(ドリーム社)を連結子会社とすることを決議しました。

JFLAホールディングスは、すでにご紹介した4つの事業戦略にもとづき、「食のバリューチェーン」を構築することを目標として、事業活動を展開していました。ドリーム社は、ベーグル専門店「BAGEL & BAGEL」、フューチャーパブ「DRUNK BEARS」、カフェ&ダイニング 「Chelsea Cafe 」など、飲食店の運営やベーグルの卸売・通販を行う企業です。JFLAホールディングスは、焼肉や居酒屋業態に加えて、メキシカンファストフード店「Taco Bell(タコベル)」 やベルギー発祥のベーカリーレストラン「Le Pain Quotidien(ル・パン・コティディアン)」を経営しています。JFLAホールディングスは、ドリーム社の事業を自らに取り込むことが、経営方針の「ブランド・ポートフォリオの多様化」による「食のバリューチェーンの構築」に資すると考え、今回の子会社化を決議しました。

 

バルの事業承継を実施するうえでのポイント

バルの優位性

業態の多角化に取り組む大手外食企業が、企業買収に積極的に乗り出している現在は、バルの事業承継を考えている経営者にとって有利な状況にあるといえます。事業承継のために、M&Aを活用することを決断すれば、高額な売却益を得られる可能性があります。

このように、バルの事業承継にとって有利な状況にあるとはいえますが、当然ながら現在経営しているバルが、時代の流れから取り残されて顧客が離れているような状態であれば、買い手がつかない可能性も大いにあります。もし仮に買い手が現れたとしても、満足のいく売却益を期待することはできません。なんらかの強み、優位性を構築することができれば、事業承継が容易になり、より高額な売却益が得られる可能性も高くなります。

 

・バルとしてほかの飲食業態から差別化する
バルは流行り言葉であり、業態にかかわらず、バルを名乗る傾向が続いています。店の名前にバルや「Bar」を取り込むだけでも、一度も来店したことのない人々の興味を引くことができるかもしれません。しかし、その店に、バルという響きから顧客が期待するものがなければ、繰り返し来店することはないでしょう。バルとして店の中身も整えて、ほかの飲食業態から差別化する必要があります。

人々はバルになにを求めているのでしょうか。バルのイメージは、女性や若者、カップルが多いお店、トレンドに敏感なお店、形式ばらない雰囲気の中で楽しく食事ができ、同時にアルコールやドリンクを楽しめるお店、といったものです。これらのイメージを実現できれば、バルの魅力を人々に訴えることができます。クラブミュージックや暗め目の照明により、トレンドをとらえるセンスを訴えることができます。
高級レストランからと差別化するために、店員の対応は丁寧でありながらもフランクなものにしましょう。客の好みに合わせて、多種多様なカクテルや、ジュースなどのノンアルコール類をそろえましょう。

 

・バル業態の中でも差別化する
バルが日本で始まってから約15年がたち、多くの飲食店が「バル化」する中、事業を継続・発展させるためには、バル業態の中でも差別化していく必要があります
現在、人々の人気を集めるバルは、肉に特別なこだわりをもった「肉バル」のように、商品や調理方法などで一点突き抜けた部分があるバルです。肉バルはとくに目立ちますが、ほかにも板前が調理する「板前バル」や、石窯でピザを焼く「石窯バル」が出てきています。なんらかの特化した強みを作ることができれば、バル業態の中で、自らを差別化することができます。

 

バルの立地

外食産業に属する以上、バルについても立地は非常に重要です。バルに期待される役割は、本家スペインのバルのような、地域コミュニティの要としての役割です。そうした役割を果たすためには、地域の特徴をよくとらえた店づくりが必要です。地域の年齢構成、産業形態などをよく理解して、地域の人々の好みにあったバルを作りましょう。

 

買い手にアピールする強み

M&Aによる事業承継を前提として強みを作るのですから、オーナーの魅力や力量に依存した強みは評価の対象になりません。この点、人気がオーナーに依存しているバルの場合は注意が必要です。そうしたバルの事業承継を成功させるためには、オーナーのノウハウを仕組み化するなどして、バルの店自体の強みへと変化させる必要があります。

 

まとめ

以上、M&Aや事業承継の事例から、バル業界の潮流を読み解きました。業態の多角化を目指す大手外食企業がM&Aを積極的に活用している現状は、バルの事業承継を考える経営者にとって好ましい状況です。M&Aを活用したバルの事業承継を、より前向きに考えても良いのではないでしょうか。

事業承継の事例から読み解く潮流《バル》
日本の飲食店の中にバルという名前をもつ店が現れたのは、15年ほど前だとされています。それ以来、今日にいたるまで、バルは大いに流行してきました。そして現在、バルの流行が一段落する中で、事業承継を考える経営者も多くなっています。
事業承継の事例をみることで、バル業界の潮流を読み解きます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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