2019年3月11日 月曜日

事業売却の事例から読み解く潮流《バル》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

飲食業界の市場環境は日に日に厳しくなっています。バルの経営も同様です。
原材料費は高騰傾向にある上に、少子高齢化の影響により労働力の確保が難しくなってきています。若者のアルコール離れにより消費も低迷しています。
そんな中、生き残りをかけた戦略の一つとしてM&Aが注目を集めるようになりました。
大手企業は飲食店を買収し、スケールメリットを得ることで競争力を強化しようとしています。売り手企業からみても事業売却は自社の事業を整理し、新たな成長への舵を切りなおす良い手段となっています。本稿ではバルの事業売却のトレンドをご紹介します。

 

バル業界における事業売却の動き


バルはパブ・居酒屋業に位置づけられます。近年、飲食サービス業界は少しずつ成長しつつありますが、パブ・居酒屋業は例外です。若者のアルコール離れにより市場が低迷しています。企業でも宴会の数が減るようになりました。また、ファミリーレストランやカフェでアルコールの提供が始まるなど、他業界の進出も市場低迷に影響を与えています。
外食産業では、人手不足も深刻な問題となっています。居酒屋は労働条件が過酷と捉えられがちです。労働者としては肉体労働ではない仕事を探す傾向にあります。人が足りない分、バル経営では人件費をあげて対応せざるを得ません。
過去には低価格の居酒屋が流行しましたが、直近のトレンドは個性の強い居酒屋店です。個店に対するニーズが消費者の中であがってきています。バルのオーナーも他の店舗とは違うコンセプトを考える必要がでてきました。
M&Aによるバルの事業売却をする流れとしては、この様な競争環境の激化が挙げられるでしょう。競争に耐えられなくなったバルの経営者が、廃業の代わりに経営を第三者に渡す事業売却を手段としてとっているのです。資本のある大手企業としては、M&Aでスピーディーに事業展開できることはメリットといえます。
M&Aを活用して撤退を考える企業と事業展開のスピードをあげたいと考える企業、双方の利害は一致しているといえます。

また、経営者の引退と後継者不足も原因の一つでしょう。多くの中小企業と同じように、バルの経営者が高齢化しています。歳をとって体力が続かなくなったり、病気をしてこれまで通りに動けなくなったり、経営から身を引こうと考える理由はさまざまです。
引退すると同時にお店を廃業してしまうと、廃業のコストがかかります。銀行などへの債務が残っている場合は、廃業後に借金が残ることもあります。従業員が職を失うことも大きな問題でしょう。
後継者を決めて引き継ぐことができればいいのですが、現在は親の仕事を子供が継ぐとは限りません。仕事に対して多様な価値観が認められるようになる中で、子供は親の仕事を継がないケースも多いです。また、少子高齢化ということもあり、そもそも子供を持たないオーナーもいます。

M&Aを活用して売却できれば、これまでの苦労をお金に換えることができます
手にしたお金を引退後の生活資金とすれば、ゆとりある老後を過ごせます。また買い手企業が経営を引き継いでくれることで従業員の雇用も守られます。大手グループ傘下に入る場合は、その資金面やシステム面でのサポートを受けて、これまで以上に安定した経営を目指せるかもしれません。従業員が自分で新しい職を探す必要はなく、慣れ親しんだ職場で働き続けることができます。

 

最近のバル業界の事業売却事例


実際に飲食店の事業譲渡の事例をみていきましょう。

 

【2015年8月、株式会社クリエイト・レストランツ・ホールディングスが、株式会社アールシー・ジャパンの発行済み全株式を株式会社オリエンタルランドより取得】

クリエイト・レストランツは、フードコートからレストランまで様々な飲食店の企画、運営を行っています。対するアールシー・ジャパンは、ディズニーランドの運営で有名なオリエンタルランドの子会社で、オリエンタルランドが運営している商業施設イクスピアリ等で、4店舗の飲食店を運営していました。
この事業売却の背景には、オリエンタルランドの事業の選択と集中がありました。施設運営に集中する中で飲食店事業を切り離そうとしたのです。対するクリエイト・レストランツは規模の経済を活かして、グループを強化することを目指していました。観光地における事業を行うことで事業のポートフォリオの強化にも繋がります。アールシー・ジャパンは大手の飲食グループの傘下につくことで、新たなノウハウを得て、更なる成長を目指すことができます。まさに、買い手と売り手の双方の利害が一致した事業譲渡といえるでしょう。

 

【2018年7月、ダイヤモンドダイニングが飲食店経営のゼットンを連結子会社化】

ダイヤモンドダイニングは「九州熱中屋」「わらやき屋」など多業態の飲食店を都内を中心に展開する企業です。対するゼットンは、東京・横浜・名古屋を中心に飲食店を展開しています。ゼットンの普通株式を公開買付けによりダイヤモンドダイニングが取得しました。これによりゼットンはダイヤモンドダイニングの持分法適用関連会社となりました。
国内外食業界の競争環境が厳しくなる中、ダイヤモンドダイニングは、事業ポートフォリオの拡充、スケールメリットの追求、人材の確保を急いでいました。その中で、事業領域拡大を目的にM&Aを活用しています。ゼットングループも、ビアガーデン事業の不振なども受けて、既存店舗の収益の安定化と優秀な人材の継続的な確保を課題としていました。
両社は双方が保有するビジネスノウハウと人材を効率的に共有する協力関係を築くために資本業務提携を結んでいます

 

バルの事業売却を実施するうえでのポイント


では、バル事業を事業売却する際、どんなポイントに気を付けるべきでしょうか。

 

【バル事業を見直す】
具体的な事業売却の準備や手続きに入る前に、まずは事業を見直してみましょう。事業売却を行う際は、バルについてのあらゆる経営データを提出したり、運営状況について買い手企業とディスカッションをしたりする必要があります。バル事業のビジネスモデルについて整理して語る必要があります。
また、お店のコンセプトやバル経営の理念についても買い手企業に伝えておく必要があります。バルが顧客に提供しているものは何でしょうか。明文化されづらいものなので、これを機に資料におとしてみるのもいいかもしれません。

 

【売却の絶対条件を決める】
何のために売却を行うのか、考えを纏めておきましょう。事業売却の交渉では売却金額だけでなく、幅広い条件について買い手企業とすり合わせする必要があります。そんな際に、売却の絶対条件が定まっていなければ、交渉をうまく進めることができないでしょう。売り手が出した条件を買い手が全て受け入れてくれるわけではありません。絶対条件を決める軸となるのは事業売却の目的です。

事業売却の目的は経営者によって様々です。資金の獲得に重きを置くこともあれば、不採算事業の切り離しに重きを置くこともあるでしょう。資金の獲得が目的であれば、譲れない売却金額を明確にしておくべきです
一方で不採算事業の切り離しが目的であれば、売却金額にはある程度目をつぶりつつ、確実に売却の交渉がまとまることを重視するべきでしょう。条件はタイムラインも明確にしておくといいでしょう。
いい条件の買い手が現れるまで、いつまでも待てるわけではないと思います。いつまでに交渉を完了していたいのかが明らかになれば、準備もタイムラインから逆算して進めることができます。

 

【資料やデータを十分に用意する】
買い手企業はバルについてのあらゆるデータを確認してきます。お店の売上、資産など数字で表せる財務資料の準備は必須です。客数や顧客の属性など、バルのオペレーションに関わる数字も準備しておくとより良いです。
また、わゆる「のれん」も文章化しておくとよいです。のれんは、お店のブランド力、こだわり、コンセプトなど目に見えない価値を指します。
事業価値の評価は現在のバルの収益性だけでなく、将来のバルの収益性も踏まえてつけられます。現時点での長所と課題をまとめておくだけでなく、それらを踏まえて将来どれくらいの利益をこのバルが上げられるのか、その将来性を伝えることが大切です。

 

【事業売却の専門家の力を借りる】
バルの事業売却を検討する際には、専門家の知識やノウハウを活用するべきでしょう
事業売却は非常に複雑な業務です。必要な専門知識は法務、財務、労務等、広い領域に跨ります。素人がそれらを1から覚えて実践するのは無理があります。経営者は経営者が行うべき意思決定に注力した方がいいでしょう。以下に相談が可能な主な専門家をまとめていきます。

M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&Aを専門に扱う会社です。税理士、会計士、弁護士など、幅広い領域の専門家を抱えている会社もあります。仲介会社は常に様々なM&A案件の相談を受けており、売り手と買い手のネットワークを保有していることが強みです。相談することで、良い買い手が見つかるかもしれません。
また、機密保持を徹底しているため、情報漏洩の点でも安心です。業者を選定する際には過去の実績に注目してください。なるべく、バルや飲食店のM&Aのサポート実績がある会社を選びましょう

税理士・会計事務所
事業売却を進める上では「税と会計の知識」は必須です。ただし、税理士や会計士でも、事業売却に詳しい人は限られているので注意が必要です。顧問税理士、顧問会計士に相談してもいい回答が得られないこともあります。相談をする際はM&A仲介会社と同じく、専門性や過去実績についてまとめておきましょう。

銀行・証券会社
銀行や証券会社も、事業売却のサポートをするケースがあります。銀行、証券会社も高い専門性や経験をもつスタッフを抱えているので、レベルの高いサポートが期待できるでしょう。しかし、大手の銀行、証券会社が取り扱うM&Aは大型案件が中心です。バルなどの中小規模の事業売却については扱ってもらえない可能性があります。

弁護士事務所
「法務」も事業売却を進める上での必須の知識です。顧問の弁護士であれば気軽に相談できるでしょう。ただし、税理士・会計事務所弁護士と同様にM&Aの実務には疎い弁護士も多くいます。弁護士事務所の中には事業売却の支援を積極的に行っている事務所もあるので、事前にしっかりと確認しておきましょう。

 

【後継者に引き継ぐ】
事業が継続していくことに重きを置くのであれば、売却後のバル運営の引継ぎは丁寧に行いましょう。運営ノウハウが経営者に集約されているようでは、経営者が事業を離れた後に店の経営が成り立たなくなってしまいます。
後継者の育成には一定の時間を割く必要があります。本格的な引継ぎの前に、ある程度責任のあるポジションで現場に入ってもらい、実際の店の運営に携わってもらうことも必要でしょう。店の運営について熟知している従業員への引継ぎでは、長い時間はかからないと思います。一方、買い手が新しくその領域に入ってくることもあります。

 

まとめ

バルの事業売却のトレンドについてみてきました。事業売却は買い手企業と売り手企業の双方にとってメリットのある取引であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

前述の通り、バルを含む飲食業界では、人手不足、材料費高騰、若者のアルコール離れなど、問題が山積みになっています。厳しい経営環境に耐えきれず、バル事業の廃業を検討しているオーナーは多くいるでしょう。
一方、廃業をしてしまっては廃業コストがかかってしまいます。そのうえ従業員が職を失い、固定客は行き場をなくしてしまいます。オーナーにとって悲しい決断といえるでしょう。
事業売却をすることは、お店を存続することができる上に売却資金で新しい事業に着手できるため、多くの点で廃業よりもメリットがあります。廃業を検討している経営者も、バルの事業売却を検討してみてはいかがでしょうか

とはいえ、事業売却は必ずうまくいくわけではありません。買い手企業が見つからないこともあれば、買い手企業が見つかってもうまく交渉をまとめられないこともあるでしょう。そのため、準備には余裕をもって取り組むことが大切です。いい取引を行うにはタイミングも大切です。いい買い手を逃さないように、早めに準備を進め、買い手が現れた時に、スムーズな対応ができるようにしましょう。

事業売却の事例から読み解く潮流《バル》
飲食業界の市場環境は日に日に厳しくなっています。バルの経営も同様です。
原材料費は高騰傾向にある上に、少子高齢化の影響により労働力の確保が難しくなってきています。若者のアルコール離れにより消費も低迷しています。
そんな中、生き残りをかけた戦略の一つとしてM&Aが注目を集めるようになりました。
大手企業は飲食店を買収し、スケールメリットを得ることで競争力を強化しようとしています。売り手企業からみても事業売却は自社の事業を整理し、新たな成長への舵を切りなおす良い手段となっています。本稿ではバルの事業売却のトレンドをご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年3月11日
事業譲渡の事例から読み解く潮流《バル》
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