2019年3月25日 月曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《バル》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

日本でバルが始まったのは15年ほど前だとされています。その後、「バル」はバズワードとなり、多くの飲食店がバルを名乗るようになりました。そして現在、バルの勝ち組、負け組が明確化する中で、多業態化を目指す大手飲食企業がM&Aでバルを買収する動きも活発になっています。具体的なM&Aの事例を見ながら、バル業界のトレンドをご紹介いたします。

 

バル業界におけるM&Aの動き


最初に、バル業界におけるM&Aの動向を見ていきます。現在、飲食サービスにおいて、メニュー・客層・店舗形態など、業態に関わらず「バル」の名前を冠する店舗が増えています。「バル」は一種のバズワードになっていると言えるでしょう。多くの業態が「バル」を冠しているので、バル業界におけるM&Aの動きを理解するためには、飲食業界全体のM&Aの動きを理解する必要があります。飲食業界におけるM&Aの動きをご紹介したあとで、その中に、バル業界におけるM&Aの動きを位置づけてみましょう。

 

飲食業界とバル業態

飲食業界とバル業態には、どのような特徴があるのでしょうか。


飲食業界とは

飲食産業、または外食産業は、家庭の外で飲食を提供する産業です。飲食産業は、主として食事を提供するものと、主として飲料を提供するものに分かれます。前者の例としては、食堂、レストラン、ファストフード店、そば店、うどん店、すし店、学校・病院・企業等の集団給食施設をあげることができます。後者の例としては、喫茶店、バー、居酒屋などをあげることができます。客の注文に応じて料理や飲料を提供する産業と考えておけばよいでしょう。

飲食業界の第一の特徴は、景気動向の影響を受けやすいことです。外食は絶対的に必要なことではありません。景気が縮小して、可処分所得が減る局面になれば、家庭は外食を減らし中食や自炊を増やすでしょう。

飲食業界の第二の特徴は、立地条件に大きく左右されることです。仕事帰りに外食したり、仲間で集まって外食したりするためには、利便性が高い場所が求められます。地域住民のニーズをつかみ、にぎわいなど、街の雰囲気に合った立地を選択する必要があります。

 

バルとは

「バル(Bar)」はもともとスペインの「バル」や、イタリアの「バール」から来ています。スペインのバルは、酒場、居酒屋と軽食喫茶が合わさったようなレストランです。バルに来た客は、コーヒー、ビール、ワインなどのドリンク類、生ハム、チーズ、オリーブなどの一品料理であるタパス、さまざまな食材を串に刺した料理であるピンチョスを楽しみながら、地域の人々と交流します。スペインのバルは、地域コミュニティの拠点の機能を果たしています。

日本のバルは、飲食業界の中で比較的新しく現れました。日本では、タパス、ピンチョス、ビール、ワインなどを提供する「スペインバル」が、2005年ころから増加してきたと言われています。その後、「バル」はバズワードとなり、今では非常に多様な業態がバルを名乗っています。

 

飲食業界、バル業態の動向

飲食業界の動向

人口減や高齢化による需要の縮小、節約志向、低価格化、コンビニエンスストアやスーパーなどの品ぞろえの拡充にともなう、中食市場の拡大などの影響により、飲食業界の動向は、中長期的に見ると減少傾向が続いています。ここ数年に限れば、食材価格の高騰や人件費の上昇により値上げが行われた結果、市場規模の拡大が見られましたが、この傾向がいつまでも続くとは考えにくい状況です。

飲食業界が抱える大きな問題は、人手不足です。給与水準の低いこと、休日出勤などの長時間労働が蔓延していることなど、労働条件の過酷さが嫌われています。また、しばしば表面化する労務問題も影を落としています。人件費を抑制するために、パートやアルバイトなどの非正規雇用の割合を増やしてきましたが、法改正などによりそのような手段も難しくなっています。

 

バル業態の動向

バル業界は、公的統計の分類では、パブレストラン・居酒屋業態に属します。飲食業界全体としては、ここ数年上向きなのですが、パブレストラン・居酒屋業態だけは、右肩下がりが続いています。こうした状況が続いている背景として、若者の非正規雇用が増えていること、そうした若者がアルコール離れを起こしていることなどが考えられています。

アルコールを提供する飲食業界で右肩下がりが続く中、バルは急速に流行し、その結果さまざまな業態がバルを名乗るようになりました。「スペインバル」からはじまったバルですが、牛肉、鶏肉、海鮮、鉄板、炭火、石窯など、食材や調理方法で専門性や特徴を出した、さまざまなバルが現れました。

既存店舗の「バル化」の動きも続いています。食材や調理方法に専門性や特徴を出すこととともに、BGMをクラブミュージックにすること、照明を暗めにすること、看板に英字をいれることなどにより、既存店を「バル化」する動きです。飲食業界の中で差別化できること、人手不足に対応しやすくなること、女性客や若年層が増えること、客単価が上がることなどを狙った動きです。

 

飲食業界、バル業態におけるM&Aの動き

飲食業界におけるM&Aの動き

トレンドの変化が著しい業界で、安定的に収益を確保ま成長することを目指して、大手企業は業態の多角化に取り組んでいます。M&Aにより多数の業態を獲得し、同一エリアに展開する戦略です。
また、仕入れや商流、品質などの統一化によりスケールメリットの確保にも努めています。海外の日本食ブームを取り込むために、海外に事業を展開する企業も多くなっています。

 

バル業界におけるM&Aの動き

バル業界もまた、こうした動きの中にあります。バルブームによる発展が一段落して、勝ち組バルと負け組バルの明暗が顕在化するフェーズに入りつつあります。その中で、M&Aにより大手企業に取り込まれるバルは少なくありません。

 

最近のバル業界のM&A事例


最近のバル業界におけるM&Aの事例を紹介します。ここでは、クリエイト・レストランツ・ホールディングスが実施したM&A案件をみることにしましょう。

 

クリエイト・レストランツ・ホールディングスとは

クリエイト・レストランツ・ホールディングス(クリエイト・レストランツHD)は、東京都品川区に本社を置く会社です。クリエイト・レストランツHDの経営の主力は、ショッピングモール内のレストランやフードコートの運営です。クリエイト・レストランツHDは、1999年に東京の台場に、イタリアンの「portofino」など5店舗を出店したときに創業しました。
同年、現在の社長であり当時三菱商事に在籍中だった、岡本晴彦氏が社内ベンチャー制度で参加するとともに、三菱商事が資本参加します。以後、2004年100店舗突破、翌年200店舗突破、翌々年300店舗突破と、急速に拡大します。その後、M&Aを活用して、中国、台湾、シンガポールなど、東アジア地域や、ニューヨークなど米国に積極的に進出するとともに、国内でも、居酒屋・バル業態やラーメン業態を取得するなど、外食事業の多様化を図りつつ、積極的な事業拡大を展開しています。2005年に東証マザーズに上場しましたが、2013年には市場を東証1部に変更しています。

クリエイト・レストランツHDの経営ビジョンは「グループ連邦経営」です。多業態展開や、M&Aにより、グループ傘下に多数の事業会社が存在しています。それぞれの事業会社の独自性を大切にして、積み上げてきた自分たちの文化を成長させつつ、事業会社相互がお互いの文化を認めていく考え方です。具体的な成長戦略は、立地に合わせた多様な業態を開発・出店する「マルチブランド・マルチロケーション戦略」です。これにより、柔軟な変化対応力と高い専門性を実現できると考えています。今後、M&Aによりさらに多くの事業をグループに取り込むことなどにより、中長期的に年商2,000億円を目指しています。

 

クリエイト・レストランツHDがルートナインジーと資本業務提携

2018年1月、クリエイト・レストランツHDは、有限会社ルートナインジー(RN社)およびその完全子会社である有限会社ハイドパークと資本・業務提携を行うとともに、RN社を子会社とすることを決議しました。

RN社は、「海南鶏飯食堂(ハイナンジーファンショクドウ)」ブランドのもとにシンガポール料理の専門店2店舗を、東京麻布などに展開している会社です。海南鶏飯食堂は、定番メニューのソースを出来合いものは使わずに一から手作りするなど、強い信念をもって、オリジナリティ溢れるアジア料理を提供しています。

クリエイト・レストランツHDは、海南鶏飯食堂のブランド力、アジア料理に対する専門性とクリエイティビティを高く評価しました。今回のM&Aでは、グループの利益と創業者の熱意の維持・向上のために、第三者割当増資によるジョイント・ベンチャー形式が適すると判断しました。今後、グループとして、人材不足に悩む創業オーナーを支援すること、海南鶏飯食堂を積極的に出店していくことに取り組みます。

 

クリエイト・レストランツHDがアールシー・ジャパンを子会社化

2015年8月、クリエイト・レストランツHDは株式会社アールシー・ジャパン(RCJ社)の全発行株式を、株式会社オリエンタルランドより取得し、連結子会社とすることを決議しました。株式会社オリエンタルランドは、千葉県浦安市で東京ディズニーランドや東京ディズニーリゾートなどを経営する会社です。

RCJ社は、東京ディズニーリゾート内にある商業施設、「イクスピアリ」にて人気の「レインフォレストカフェ」など4店舗の飲食店を運営する会社です。レインフォレストカフェは、アメリカ発祥の、全世界に約40店舗を展開する、熱帯雨林をテーマとしたエンターテイメント型のレストランです。

クリエイト・レストランツHDは、今回の子会社化で、海外ブランド獲得によるブランドラインナップの強化と、観光立地における事業の強化を狙いました。今後、RCJ社はグループ連邦経営に基づくノウハウの共有と更なる店舗数の増加を目指します

 

バルのM&Aを実施するうえでのポイント


バルの買い手の思惑を知ることができれば、バルのM&Aを実施する上でのポイントが見えてきます。

 

バルの強みは何か

現在バルはバズワードになっています。さまざまな業態が「バル」を名乗っている状況です。顧客がバルを選択する理由がわかれば、どのようなバルが強みを発揮するのかがわかります。

日本でバルが始まったのは、2005年ころのスペインバルにさかのぼります。当時は、タパス、パエリア、低価格ボトルワインといった低価格で食べられる洋食といったコンセプトが受けました。
その後、ピザやパスタなど、イタリアン、フレンチをテーマにしたバルが流行ります。この時のコンセプトは、低価格というよりも、値段の割に品質が高いといったお値打ち感でした。
そして現在、牛肉、鶏肉など、肉に特化した「肉バル」や炭火、石窯など凝った調理法を売りにしたバルが流行っています。既存のバルに、このような専門性を付加することができれば、M&A交渉でも有利に働きます

 

バルの立地

バルも飲食産業の一部である以上、立地は非常に重要です。バルには、本家スペインのバルのように、地域コミュニティの核となることも期待できます。そのためには、地域の特徴や人口構成に合った店舗を構える必要があります。

立地を選択するときには、店を構える通りの雰囲気も重要です。類似のレストランが並ぶ、飲食店街のような場所のほうが集客しやくすなります。競合店がいないからといって、さびれた場所に店を構えてはいけません。

 

オーナーあっての強みになっていないか

M&Aでバルを売却する場合に、オーナーが交代するケースでは注意が必要です。店の強みがオーナーの力による場合、たとえばオーナー兼シェフの料理の魅力が強みになっている場合は、M&Aを行う上での強みにはなりません。オーナーが交代する場合、「仕組み化」など、オーナーの力量に依存しない形で強みを作らなければなりません

 

まとめ

以上、事例から、バルのM&Aの動きをご紹介しました。ご紹介した事例からも、大手飲食企業が積極的に海外に進出していること、国内では多業態化を推し進めていること、その中で、バルを買収する動きも強まっていることがわかりました。今回ご紹介した内容が、バルのM&Aを考えている経営者にとって参考になれば幸いです。

 

M&Aの事例から読み解く潮流《バル》
日本でバルが始まったのは15年ほど前だとされています。その後、「バル」はバズワードとなり、多くの飲食店がバルを名乗るようになりました。そして現在、バルの勝ち組、負け組が明確化する中で、多業態化を目指す大手飲食企業がM&Aでバルを買収する動きも活発になっています。具体的なM&Aの事例を見ながら、バル業界のトレンドをご紹介いたします。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年3月25日
バルのM&Aを実施する前に考えておきたいこと
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