2019年3月18日 月曜日

バルの事業売却のポイントとは?

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

バルの経営環境は厳しさを増しています。バルブームも落ち着きを見せ、バルの中でもしっかりと差別化ができている店のみが生き残っている状況です。
同時に、少子化はどんどんと進行し、飲食業界では顕著に人手不足が起きています。飲食関連職業の有効求人倍率は3.5~4.0倍(「一般職業紹介状況(平成31年1月分)」厚生労働省)となっており、人材の新規雇用が非常に難しい状況です。有効求人倍率の高さは、人件費の上昇も招いています。

加えて、直近では食材費も高騰傾向にあり (「農業物価統計調査」農林水産省/「消費者物価指数」総務省)、利益を圧迫しています。若者のアルコールの離れも売上低下を招いています。

そのような状況下で、バルの事業売却が注目を浴びています。飲食店の経営から手を引く際に、廃業するのではなく、他の事業者に事業を譲るという選択肢をとる経営者が増えてきています。本稿ではバルの事業売却を行う際のポイントについてご紹介します。

 

バルの事業売却で次のステージへ


そもそもバルとはどのような業態を指すのでしょうか。
バルは、英語のBar(バー)をスペイン語で読んだもので、イタリアやスペインでよくみられる酒場です。イタリア、スペインではコーヒーを出すお店もあるため、居酒屋的な利用のされ方だけではなく、喫茶店として利用されることもあります。地域のコミュニケーションの場所として広く普及しており、タパスやピンチョスといった現地ではポピュラーなおつまみを出しています。この影響で、日本では、タパスやピンチョスを出すスペイン風居酒屋を「スペインバル」と呼ぶようになりました。

バルは、パブ・居酒屋業態に区分されます。近年、飲食サービス業における「パブレストラン、居酒屋」業態の業績は芳しくありません。背景には若者のアルコール離れが挙げられます。雇用の非正規化などを受けて所得に余裕がない若者は、アルコールの消費量を減らす傾向にあります。さらに、以前に比べて会社の飲み会が減ったこと、ファミリーレストランなどの別業態がアルコールの提供するようになったことも影響しています。
人手不足も深刻な問題です。居酒屋業態の労働条件の悪さを踏まえて、労働者は外食産業で働くことを敬遠する傾向にあります。

その様な市場環境で、バルを事業売却し別の事業を展開しようと考えている企業、跡継ぎ手が見つからない中で他の事業者に事業を譲ろうと考える経営者が増えてきています。
一方、個性がある店が人気を集める現在、バルは流行の業態とも捉えられます。大手飲食チェーンが買収によって新規参入するケースもあります。事業売却は買い手企業、売り手企業の双方にとってメリットのある取引と言えるでしょう

 

バルを事業売却する目的にはこんなものがあります


バルを事業売却する際のメリットを整理しておきましょう。

現金の獲得
事業売却を行えば、その事業の評価額が現金で手に入ります
例えば、もし廃業を選んでしまうと、賃貸物件を原状復帰で返す必要があり、設置物の撤去など、多額の費用がかかってしまいます。
一方、事業売却を行った場合は、事業だけでなく必要な造作も同時に売却できます。売却金が手に入るだけでなく、本来かかるはずだった廃業費用もかからずに済むため、事業売却の金銭的メリットは大きいといえます。

買い手企業からみれば、物件交渉、店の造作、人材採用といった手間をかけずにスピーディーに新しい店舗をオープンすることができます。ゼロから立ち上げることと比較をすれば買い手企業からみてもコストメリットが大きいケースさえあるのです。

 

経営者の引退
前述の通り、バルの経営環境は年々激化しています。この状況下では、経営者が店の運営を負担に感じることも多いでしょう。店の経営から手を引くことで、日々のストレスから解放されます。
重要なのはその方法です。廃業を選べば、前述したように廃業のための費用がかかります。また、今まで店の運営に貢献してくれた従業員を解雇しなくてはなりませんし、常連客も行き場を失ってしまいます。出来ることなら、お店は継続した状態で引退をしたいと考える経営者が多いはずです。

一方、事業売却が実現すれば、第三者に託して、店を継続することができます。経営者も安心して次のキャリアを歩むことができるでしょう。

 

選択と集中
経営者が店の経営に対してモチベーションを失っている状態では、バルを伸ばすことはできません。経営者が複数の事業や業態を持っている場合は、事業売却により事業ポートフォリオの見直しがはかれます。不採算事業を整理することで、集中したい事業に対して経営資源を集中することができます。また、事業売却による収入を得ることで、これまでかけてきた時間を無駄にせずに済む、という見方もできるでしょう。

 

バルの事業売却を行う上での注意点


次は、バルの事業売却を行う上での注意すべきポイントを整理していきましょう。

なぜ事業売却したいのかを明確にする
売却理由の明確化は、事業売却を行う上で最も優先順位の高いプロセスです
事業売却の目的は経営者によって様々です。現金を獲得することに重きを置いているケースもあれば、バルの継続を重視しているケースもあるでしょう。目的によって、とるべき行動は変わっていきます。
現金の獲得が目的であれば、売却金額の交渉は妥協せずに慎重に行うべきです。売却金額を高めるための準備にもしっかりと時間を使うべきでしょう。一方で、事業の継続が目的であれば、売却後の従業員の雇用条件や、買い手企業の経営ノウハウをしっかりと確認しておくべきです。事業の選択と集中を目的とし、不採算事業を切り離したいのであれば、条件面にはある程度目をつぶって、迅速な売却を目指すことになります。

目的を設定する際は期限についても明確にしておきましょう。事業売却は時間のかかる取引です。M&Aの仲介業者に相談してから取引の完了までは、半年から1年程度を要します。M&Aの仲介業者に相談する前の準備期間を含めると、もっと長い時間がかかります。期限を設定しないままにずるずると行っていては、よい取引につながりません。また、良い買い手企業が見つかるかどうかはタイミングにもよります。いい相手を永遠に待つわけにはいきません。ある程度のタイムラインをひいておくことで、売却の判断も明確にすることができます。

また、事業売却した後のプランもしっかり練っておくこと必要があります。たとえば、バルを売却したあとに経営活動ではなく、どこかに就職しようと考えるならば、職探しの準備を余裕をもって行う必要があります。短期的な事業の売却だけでなく、長期的なキャリアプランも含めて、どのように取引が終着すべきかを考えていくほうが望ましいです。

事業売却の目的によって、準備期間の時間の割き方や、交渉の方向性が変わります。事業売却の目的が曖昧であると、不本意な取引にもつながってしまいます。初期段階でゴールは明確にしておきましょう。

 

売却するバルの強みを明確にする
売却金額を決定するために、事業価値の算定を行います。事業価値の算定にはいくつかの方法があります。バルを含む飲食業で多い手法は、売却対象の事業領域に含まれる資産額と事業の”のれん代”を足して算出する方法です。
のれん代はバルで出している料理の味、店の雰囲気、ブランド、運営ノウハウ、固定客の有無など、形にできない価値に価格を付けたものです。強みを明確にすることはこののれん代の評価に関わります。出来るだけ買い手に価値が伝わるように、運営ノウハウや、メニューの独自性などがわかりやすいようにまとめておきましょう。強みは同業他社に対する差別化要素とも捉えることができます。まずは思いつくものをリストアップすることから始めてみましょう。

 

専門家に相談する
買い手企業の選定を行う際は、専門家に相談することをおすすめします。経営者のネットワークを活用して買い手企業を見つけることもありますが、限られたネットワークの中でタイミングよくいい買い手を見つけることは至難の業といえます。また、身内を当たった場合は情報が漏洩するリスクがあります。
M&Aの仲介業者であれば、常に多くの案件を抱えているため、買い手企業の候補も見つけやすいです。機密保持についても安心して検討を進めることができます。
また、専門家に相談するメリットは実務ノウハウにもあります。売却額の目安となる事業価値算定には、会計士をはじめとするM&Aの専門家のサポートが必要です。素人が自力で行うのは現実的ではありません。適切な専門家のサポートを得るようにしましょう。

 

行動力をもって早めに準備に臨む
前述の通り、事業売却はタイミングも重要な要素です。事業売却には時間がかかるため、準備は早く始めるに越したことはないでしょう。スケジュール通りに交渉が進むとは限らないのです。理想的な買い手企業が急に現れることもあります。準備が遅ければ、そのような機会を逃してしまうでしょう。

事業売却にまつわるデータの準備には非常に時間がかかります。貸借対照表や損益計算書といった決算書類は、できるだけわかりやすくまとまっている必要があります。また、事業売却の準備の際には、経営情報を取り纏めるだけでなく、事業の売却額が高まるように、できる限りの経営改善を行います。
経営改善の際には、現在のバルの問題点を洗い出して解決しながら、強みをのばしていきます。経営者個人への運営ノウハウの属人化を解消したり、独自のメニューを開発したりと、どれも一朝一夕で実現できる施策ではありません。

そのため、事業売却の検討を開始した後は、できる限り早めに準備を進めていくことが大切です。準備のスピードをあげるためにも専門家のサポートを受けることも有効でしょう。

 

売却確定まで情報漏洩を防ぐ
どのタイミングで従業員や顧客に事業売却のことを伝えるのかは難しい問題です。基本的には売却が確定するまでできる限り従業員には伏せておくようにします
ただし、長期的な関係性を踏まえると開示をすべき従業員もでてくるとは思います。売却後に運営の中核を担う従業員であれば、事前に知らせておくことで信頼関係を保つことができます。ただし、開示するにしても経営に関わっている一部の従業員だけでよいでしょう。

売却が確定する前に事業売却を検討していることが従業員や取引先に知れると、不用意に不安を与えてしまいます。人によっては不安を理由にバルを辞めてしまうかもしれません。売却の条件の悪化を招くだけでなく、売却そのものも非常に困難になる可能性があります。
例えば、売却先の選定の際に、自分のネットワークを利用する場合がありますが、この方法で買い手企業を探すと事業売却を秘密裏に進めることが難しくなります。売却の秘密を守った状態で、買い手企業を探したいのであれば、やはりM&Aの仲介業社に相談し、サポートを受けた方がよいでしょう。

買い手企業が見つかり、売買交渉を進める際にも秘密を守ることが求められます。売り手企業から取引のことが世間に明るみになっては、トラブルに繋がってしまうでしょう。そういったリスクを避けるためにも従業員への情報の開示は最低限にとどめておいた方がよいです。

 

まとめ

バルの経営環境が厳しさを増す中、事業売却は厳しい環境を乗り切る手段として注目を集めています。一時期よりもバルの流行は落ち着いており、バルも差別化が求められています。経営を続けていくことが難しいと感じる経営者にとっては、廃業に比べ、事業売却は魅力的な選択肢といえるでしょう。
一方、大手の企業の中にはスケールすることで差別化を図る企業もいます。買い手企業にとっては、M&Aによりバルの事業展開を行うことは、スピードやコスト面でのメリットがあります。M&Aという言葉に抵抗を示す経営者もいるかもしれませんが、あくまでM&Aは買い手と売り手の双方のメリットがあるものです。

事業売却を前向きに検討する場合は、余裕をもって早めに準備を進めていくことを推奨します。本稿で説明した通り、事業売却を成功させるために必要な準備は多くあります。希望すれば必ず成功するというものではありません。
いい買い手を見つけるためにはタイミングも重要です。いい買い手が現れたときに、余裕をもって取引に臨めることが重要です。M&Aの取引に慣れていない方であれば、仲介業者などの専門家にサポートを依頼することも必要でしょう。

バルの事業売却のポイントとは?
バルの経営環境は厳しさを増しています。バルブームも落ち着きを見せ、バルの中でもしっかりと差別化ができている店のみが生き残っている状況です。
同時に、少子化はどんどんと進行し、飲食業界では顕著に人手不足が起きています。飲食関連職業の有効求人倍率は3.5~4.0倍(「一般職業紹介状況(平成31年1月分)」厚生労働省)となっており、人材の新規雇用が非常に難しい状況です。有効求人倍率の高さは、人件費の上昇も招いています。
加えて、直近では食材費も高騰傾向にあり (「農業物価統計調査」農林水産省/「消費者物価指数」総務省)、利益を圧迫しています。若者のアルコールの離れも売上低下を招いています。
そのような状況下で、バルの事業売却が注目を浴びています。飲食店の経営から手を引く際に、廃業するのではなく、他の事業者に事業を譲るという選択肢をとる経営者が増えてきています。本稿ではバルの事業売却を行う際のポイントについてご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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