2019年4月13日 土曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

以前は、「買収」「ハゲタカ」「マネーゲーム」等の言葉から、マイナスなイメージがあったM&Aですが、近年は「他社と協力し合う前向きな企業戦略」として、中小企業の間で活用する事例が増加しています。

パン業界も例外ではありません。
人口減少による市場縮小や、深刻な後継者問題を抱えている現状を打開するために、1店舗のみの個人経営店がM&Aを実行することも少なくありません。

ここでは、比較的柔軟な取引が行える「事業譲渡」について、パン業界の動向や事例、メリットを踏まえてご紹介します。

 

パン屋・ベーカリーにおける事業譲渡の動き


まずは、事業譲渡の基礎情報と、パン業界の動向についてみていきましょう。
個人経営店でも、多くの強みを活かすことによって、激しい競争を生き抜いているお店をご紹介しています。成功しているお店の強みを知ることは、事業譲渡を実施する際に、「どのようなことがアピールポイントになるか」「少しでも企業価値を上げるためにはどうすればいいか」等の悩みや疑問点を解消するヒントとなります。

 

M&Aとは

M&Aとは、「合併と買収」を意味します。広義のM&Aは、「複数の会社が一つの目標に向けて協力し合う」という捉え方となっています。一方、狭義のM&Aは、複数の会社が1つになる「合併」や、ある企業が他社を買い取る「買収」といった経営統合のみを指します。一般的には、「提携」を含む広義の意味で活用されます。

M&Aが行われる主な目的は、「事業の拡大・縮小」です。近年、M&Aの種類が豊富になったことや、M&Aの専門機関が増えたことから、中小企業のM&Aの利用も活発化しています。

 

事業譲渡とは

事業譲渡とは、「会社の事業の一部あるいは全てを第三者に譲渡すること」です。M&Aにおける譲渡とは、「売却」を意味します。言葉からはマイナスなイメージを持ってしまうかもしれませんが、近年のM&Aは、「有効な企業戦略」としてあらゆる業界で活用されています。

また、事業譲渡の対象となる「事業」は、店舗等の不動産やパンの製造に使用する機器といった有形の財産だけでなく、事業組織やノウハウ等の無形の財産も含まれます。事業譲渡は、契約によって個別の財産や権利関係、負債等を移転させる手続きのため、会社が運営している事業の中から、譲渡したいものだけを選択することが可能です。

 

事業譲渡と会社分割の違い

「会社の事業を別の会社が引き継ぐ」点は共通していますが、事業譲渡と会社分割とでは大きな違いがあります。
事業譲渡は、原則、取締役会決議で実行することが可能ですが、会社分割は、株主総会の特別決議がなければ実行できません。また、事業譲渡は事業に関する財産等を個別移転する「特定承継」ですが、会社分割は、事業に関する財産・権利義務を一括移転する「包括承継」となります。会社分割の場合、労働者や債権者等の個別の同意は不要ですが、株主総会の特別決議で株主の同意が得られない可能性もあるため、リスクが伴います。

 

パン業界の現況

食の近代化によって、パンの原材料である小麦の消費量は、年々増加しています。大手チェーンベーカリーは、商業施設や量販店への新規出店によって店舗数の増加が見込まれますが、小規模チェーンベーカリー(10店舗以上の多店舗展開をしているチェーン店)や、個店ベーカリー(9店舗以下の多店舗展開をしているチェーン店及び個人経営店)は、苦戦状況が続いています。大手パンメーカーやコンビニのPB(プライベートブランド)との差別化が難しいことが大きな要因となっています。また、小規模ベーカリーや個店ベーカリーは、生産できる量が限られており、値下げも難しいことから、市場規模を拡大することが難しく、今後も市場規模の縮小が予想されます。

 

パン業界のこれから

近年のパン業界は、小麦価格の下落やコメ離れ等の外部要因に支えられ、推移は上昇傾向にあります。一方で、各業界のグローバル化が進む中、日本のパン業界は海外市場に対して消極的です。人口減少の影響で、パン業界全体が縮小していく恐れがあります。競争はますます激化するでしょう。
小規模ベーカリーや個店ベーカリーが生き残っていくためには、マーケティングを強化することや、他社の協力を得る必要が出てきます。小規模チェーンベーカリーや個店ベーカリーにもグローバル化が求められる時代も来るかもしれません。市場を確保するためにも、今後、パン業界におけるM&Aのさらなる活性化が見込まれます。

 

強みがあるパン屋「シニフィアンシニフィエ」の例

個店ベーカリーでも、強みを持つことによって成功を収めているお店もあります。「シニフィアンシニフィエ」は都内に2店舗展開している個人経営店です。生産力では大規模な会社に勝てないため、「おいしさ」「健康」などの商品の付加価値で勝負しています。
また、通信販売も行うことによって、あらゆるエリアの人に「シニフィアンシニフィエ」のパンの提供を可能にしています。さらに、糖尿病患者も食べられる、低糖質で食物繊維も豊富なパンも発案するなど、常に顧客のニーズに応え続けています。

 

最近のパン屋・ベーカリーの事業譲渡事例


ここでは、事業譲渡を実際に行ったパン屋・ベーカリー店の事例を3つご紹介します。各事例に共通して見られる事業譲渡の成功ポイントから、成約のためには何が重要であるかをまとめています。事業譲渡を企業戦略として積極的に活用している事例もあるため、M&Aの中でも事業譲渡が選ばれる理由が改めて確認できます。

 

事例①

「東京都23区内のベーカリー店」

これは、事業譲渡の成約が無事に行われた事例です。譲渡先は非公開となっています。このベーカリー店は、東京都23区内で1店舗のみで経営していた個人店です。オーナーの事業譲渡の目的は、「後継者問題の解決」と「他事業展開の強化」でした。強みとして、「駅前」「店舗での売上・利益が高い」等をあげていました。条件のいい立地である点に加えて、周辺に競合店がないため、年間売上は約41百万円、年間利益は約3.6百万円に達していました。優れた強みによって希望売却額である15百万円で、事業譲渡を行うことになりました。

 

事例②

「ベーカリー事業部門の売却」

これは、外食企業に事業譲渡を行った事例です。譲渡企業(売り手)であるA社は、国内で5店舗を展開している個店ベーカリーです。オーナーの事業譲渡の目的は、「経営資金の集中を図ること」でした。譲受企業(買い手)となったのは、多様な業界を全国で展開している外食企業です。譲受企業は、新たな業態を模索している中、自社で保有していなかったベーカリー事業に注目し、事業譲渡を決意しました。

 

事例③

「下町の黒字ベーカリー店」

これも、事業譲渡の成約が完了した事例です。譲渡先は非公開となっています。このベーカリー店は、都内の下町で1店舗のみで経営していた個人店です。オーナーの事業譲渡の目的は、「他事業に集中するため」です。オーナーは複数の事業を展開しており、ベーカリー店以外の事業に注力するため、事業の縮小を図りました。オーナーは現場にあまり携わっておらず、直近3年間の営業利益は500万円前後を推移していました。以前の営業利益は、700万超であったため、利益拡大の可能性が十分見込まれ、事業譲渡が無事に成立しました。

 

事例からわかること

これらの3つの事例からわかることは、「事業譲渡を行う目的が明確で簡潔である」「強みがある」といった点が成功のカギになるということです。
事業譲渡を行う目的が明確化していると、どの業界の買い手が望ましいか、選択肢を絞れます。さらに、どの事例も「複数店舗展開」「好立地」「ポテンシャルが高い」等の強みを持っていました。事業譲渡を実施するに際して、目的の明確化や強みがいかに重要であるかを窺えます。

また、事例③のように、事業譲渡の活用によって、事業を縮小し、注力したい事業に専念することは、優れた企業戦略です。事業譲渡は、譲渡したい事業を選択できるため、M&Aの中でも、経営の効率化に特化しています。

 

事業譲渡のメリット

ここでは、事業譲渡のメリットを3つご紹介します。事業譲渡は、譲渡する事業を選択できることから、手続きは煩雑ですが、大企業と比較して取締役会の規模が小さい中小企業にはメリットが多い手法です。ここで取り上げた3つのメリットの他にも、「アーリーリタイア」「心理的負担からの解放」「企業の発展」等があげられます。

 

①従業員の雇用の確保

事業譲渡の1つめのメリットは、従業員の雇用を自社で継続できる点です。
事業譲渡は、事業を個別に引き継ぐため、従業員の雇用には影響を及ぼしません。注力したい事業に経営資源を集中させる場合も、自社に残った従業員をその事業に回すことができます。買い手企業に従業員を引き継ぐ場合も、買い手が欲しい人材だけを譲渡するため、引き継ぎ後も従業員が解雇される可能性は低くなります。

 

②譲渡益の確保

事業譲渡の2つめのメリットは、譲渡益として現金を得られる点です。譲渡する事業の現在の価値に、今後数年間得られる可能性のある営業価値を加えて算出した価額を現金で受け取ることができます。買い手が、売り手の事業の将来性を感じた場合、現在の価値よりも大きな譲渡益を得られる点も、メリットとしてあげられます。
ただし、譲渡益には税金が課せられるため、税金がどれくらいかかるか、あらかじめ算出しておくことが推奨されています。

 

③法人格の維持

事業譲渡の3つめのメリットは、法人格を残せる点です。そのため、事業譲渡によって得た資金で新たに事業を始めるに際して、新会社設立の手間を省くことが可能です。
また、オーナーが「法人格に強い思い入れがある」「法人格で得たブランド価値を継続したい」等の事情を持っている場合にも、法人格を残せる事業譲渡はメリットの大きい手法といえます。

 

事業譲渡の相談相手

事業譲渡の相談相手は、M&Aの専門家や税理士・会計士、金融機関があげられますが、中でもM&Aの専門家が推奨されています。M&Aの専門家は、知識・経験・ネットワークが豊富で、M&Aに特化しているためです。M&Aの専門家には、助言業務を行うFA(フィナンシャルアドバイザー)と仲介業者がいます。
最大限の利益を得たいのであれば、自社のための助言業務を専門で行ってくれるFA、できるだけ早く買い手を見つけたいのであれば、買い手と売り手の両方と契約をしている仲介業者に相談することが適しています。

 

パン屋・ベーカリーの事業譲渡を実施するうえでのポイント


パン屋・ベーカリーの事業譲渡を実施するにあたって、チェックしておくポイントを5つご紹介します。中でも⑤は、見落としがちのため、注意して下さい。

M&Aは、売り手と買い手の条件や価値観が一致して、初めて成立します。売り手は、自社・自店の強みを分析し、買い手に示さなくてはいけません。交渉に際して、店舗数や立地条件、オリジナル商品等について詳しく聞かれます。一見、強みがなさそうなところにも、対処法を提案することによって、しっかりアピールしましょう。

 

①店舗数

店舗数については、複数所有している方が望ましいですが、1店舗のみ買収したいという買い手もいます。パン屋・ベーカリーの事例でも、1店舗のみの個人経営店で事業譲渡しているオーナーは少なくありません。
ただ、1店舗ならではのメリットを提示する必要があります。例をあげると、「衛生面が行き届いている」「設備が整っている」等です。

 

②立地条件

駅ナカや駅チカ等の立地条件は強みとなります。アクセスが優れていると、買い手がつきやすい傾向があります。また、パンの高い需要が見込める主婦や学生が多い街は、人気があります。例え駅から離れていても、広い道路に面している場合や、駐輪場・駐車場が完備していれば、アクセスの面で重要なポイントとなります。

 

③知名度

パン屋・ベーカリーに限らず、買い手は、お店や商品の「知名度」を見ています。それも、知名度が見える形で評価できなければなりません。テレビや雑誌、ネットニュース等のメディアに取り上げられていれば大きな強みとなりますが、SNSや口コミサイトで高い評価を得ている場合も、「見える化した知名度」として提示できます。

 

④オリジナル商品

近年は、健康志向が高まり、パン業界も「食の質」が求められています。時代の流れに合ったオリジナル商品やこだわりを1つでも持っている必要があります。例えば、「グルテンフリー」「食物繊維が豊富」「天然酵母」「低カロリー」等です。こだわりのノウハウがあると、買い手にアピールできます。

 

⑤オーナーの経営意欲

意外と見落としがちなのが、オーナーの経営意欲です。オーナーの経営意欲は、売上や営業利益、社員のモチベーションを左右します。また、買い手も人であるため、経営意欲が見受けられないオーナーと取引することに躊躇することもあります。事業を手放す最後まで経営意欲を維持し、お店の発展に取り組む姿勢を示すことも重要です。

 

まとめ

ここまで、事業譲渡の事例から、事業譲渡を行うに際してどのようなポイントがあるかをご紹介しました。今や、事業譲渡を含むM&Aは中小企業にも身近な手法となったことが伝わったと思います。パン屋・ベーカリーを営むオーナーで、事業譲渡を検討しているのであれば、まずは信頼できる専門機関に相談することをおすすめします。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》
以前は、「買収」「ハゲタカ」「マネーゲーム」等の言葉から、マイナスなイメージがあったM&Aですが、近年は「他社と協力し合う前向きな企業戦略」として、中小企業の間で活用する事例が増加しています。
パン業界も例外ではありません。
人口減少による市場縮小や、深刻な後継者問題を抱えている現状を打開するために、1店舗のみの個人経営店がM&Aを実行することも少なくありません。
ここでは、比較的柔軟な取引が行える「事業譲渡」について、パン業界の動向や事例、メリットを踏まえてご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月13日
M&Aの事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》
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