2019年4月14日 日曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

パン屋・ベーカリーを含む飲食業は、全産業の中で開業率と廃業率が飛びぬけて高く、競争も激しさを増しています。わずか10坪前後の「コンパクトベーカリー」も増加しています。激しい競争の中、お店を存続させるためには、「他店との圧倒的な差別化」が必要です。

しかし、「後継者問題」や「資金の不足」など、独力では成し遂げられない課題も出てきます。その現状を打開するために、近年、M&Aによる事業承継を活用するお店が増えています。

ここでは、1店舗から地域で複数店展開しているパン屋に向けて、近年の事業承継の傾向をご紹介します。

 

パン屋・ベーカリーにおける事業承継の動き


ここでは、なぜ今M&Aを活用した事業承継が必要とされているか、パン屋・ベーカリーの現状と課題を踏まえてご説明します。
食の近代化が進み、パンが食卓に並ぶのが当たり前となったにもかかわらず、パン屋の現状は順調とは言い難いものがあります。現代の日本における、オーナーの高齢化問題や親族外承継、M&Aの知っておきたい基本情報をまとめています。

 

パン屋・ベーカリーの現状

「リテールベーカリー」、いわゆる街のパン屋の生き残りは厳しさを増しています。
パン市場は、「山崎製パン」「敷島製パン」等の大規模なパンメーカーの寡占化が進んでいます。伝統的な売り方をしている「リテールベーカリー」は、チェーン展開を行う大規模店やセルフサービスのパン屋、激安スーパーの台頭によって、弱体化しています。
特に、「リテールベーカリー」の顧客の大半を占めているのは、女性や中高年層です。ターゲットとなる顧客の幅が性別・年齢ともに狭い傾向が見られます。

 

「リテールベーカリー」の課題

「リテールベーカリー」の課題は、「顧客層の幅をいかに広げるか」にあります。
女性を中心とした現在の利用率の維持は大前提です。さらに、20代~40代男性をはじめとした幅広い層の関心を集め、具体的なニーズに結びつけることが求められています。安価で気軽に購入できる大規模なパンメーカーより、「リテールベーカリー」を選んでもらう「強み」を作らなければいけません。「男性でも入りやすいお店の構造」「美容効果があるパン」「筋トレしている人でも思う存分食べられるパン」等、お店自体と製品に「強み」を持つ必要があります。

 

オーナーの高齢化

近年、少子高齢化の影響を受けて、オーナーの高齢化が進んでいます。「中小企業白書(2016年版)」によると、日本の経済は、経営利益が過去最高水準を記録し、景気は改善傾向にあります。賃金の上昇傾向も続き、緩やかな回復を実現しています。
しかし、中小企業数の減少傾向と同時に、オーナーの高齢化が進んでいます。オーナーの交代率は、長期にわたり下落しています。昭和50年代に平均5%であった交代率は、2011年には2.46%まで落ち込んでいます。全国のオーナーの平均年齢は、59歳9ヵ月と、過去最高水準に達しています。お店の存続のためには、オーナーの存在は不可欠であり、この現状は深刻です。

 

親族外承継の増加

後継者確保の困難から、親族外承継が増加しています。2015年に中小企業庁が実施した調査によると、オーナーの在任期間が35年以上40年未満の層では9割以上が親族内承継を行っています。すなわち、現オーナーは、先代のオーナーの息子・娘その他の親族です。
一方、オーナーの在任期間が短いほど、親族内承継の割合の減少と、従業員や社外の第三者による承継の増加傾向が見られます。これは、M&Aを活用した事業承継の増加を意味します。

 

M&Aに対する認知の変化

一昔前では、M&Aは、ライブドアや村上ファンドの事件によって、「ハゲタカ」「買収」「乗っ取り」「経営不振」等のマイナスイメージが根づいていました。
しかし、最近のM&Aは、「経営戦略」「事業承継」「後継者問題の解決」「ハッピーリタイア」等、課題解決の方法として認知されつつあります。後継者問題や中小企業のM&Aを専門とする民間仲介業者の増加、国の事業引き継ぎ支援センターの全国設置が、M&Aの認知が高まる一因となりました。M&Aの普及は、今後も加速していくことが予想されます。

 

M&Aを活用した事業承継の代表的な手法

M&Aを活用した事業承継は、「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つに分けられます。ここでは、「事業譲渡」を、事業全体の承継を行う場合と事業の一部の承継を行う場合に分けてご紹介します。事業承継は、主に「売却する手法」です。売り手のオーナーは、その対価として創業者利益である現金を受け取れます。M&Aの事業承継の手法は、「株主だけを変えたいのか」「全事業手放したいのか」「一部の事業のみ手放したいのか」等の目的別に手法を選択できます。

 

①株式譲渡

株式譲渡とは、「現オーナーが所有している株式を後継者となる第三者に売却する手法」です。この場合、売り手企業の株主が現オーナーから買い手である第三者に変わるのみで、従業員や取引先、金融機関との契約関係には変動がありません。そのため、事業承継後も円滑に事業を継続しやすいというメリットがあります。ただし、簿外債務や現オーナーが認識していない偶発債務も含めて承継される点と、株式の売却価格が時価と比較して著しく低い際に、時価で売却されたとみなされ、譲渡所得課税を受ける点には留意しなければいけません。

 

②全事業の譲渡

全事業の譲渡とは、「会社や個人事業主の事業全体を売却する手法」です。個別の資産ではなく、工場や機械等に加え、知的財産権やノウハウ、顧客等、事業の成立に必要な要素を対象とします。
株式譲渡と異なり、買い手は譲受する対象資産を特定できるため、予期せぬ簿外債務等を承継するリスクを防ぐことができます。事業譲渡の手法は、個人事業主が企業家を後継者候補として、知的資産や財産等を承継する「個人への引き継ぎ」の際にも有効活用されます。

 

③一部の事業の譲渡

一部の事業の譲渡とは、「会社が行っている事業全体のうち、個別の事業を売却する手法」です。株式譲渡等と比較すると、買い手によって譲渡の対象資産が選別されるため、従業員の引き継ぎや買い手が不要な資産の引き取りが行われない可能性もあります。一方、買い手の見つかりやすい資産・事業を選別することと、現オーナーが手元に残しておきたい資産・事業を選別することが可能な柔軟性の高い手法といえます。なお、譲渡しなかった事業は現オーナーの手元に残るため、事業全体の承継が完了するわけではありません。

 

最近のパン屋・ベーカリーの事業承継事例


ここでは、M&Aによる事業承継の事例のみではなく、事業承継にも応用できる事例についてまとめています。3つの事例から、事業承継のメリットや成功するポイント、気をつけなければいけない点を読み取ることができます。特に、「株式会社ピーターパン」の事例は、パン業界でも有名で、革新的な戦略とされています。

 

『2016年、パン屋が小売業に事業承継した事例』

パンの製造を営むA店は、2015年に事業承継に着手し、2016年4月に無事に小売業を営むB店にお店を引き継ぎました。これは、準備から成約(クロージング)まで約半年間しかかかっておらず、通常1年はかかるとされる中でも、比較的早い事例です。
パン製造事業は、営業規模にもよりますが、オーブンやミキサー、冷蔵庫等、多くの設備を要し、月々のランニングコストや光熱費が大きいビジネスです。それらの負荷をかかえてまで大切に維持してきたお店を廃業にしてしまうのはもったいないです。熱意を持った優良企業に事業承継すれば、今まで培ったノウハウや技術が引き継がれるという大きなメリットを得られます。

 

『2000年、株式会社ピーターパンが事業選択によって大成功を収めた事例』

集中したい一部の事業を残して、他の事業から撤退し、7年で売上が5倍になったパン屋の事例があります。この事例は、M&Aや事業承継ではありませんが、伸ばしていきたい事業を選択することによって、大幅な売上向上に繋げる手法は、注目すべき企業戦略です。
さきほどご紹介した「一部の事業の譲渡」を検討している方は、この事例が参考になるはずです。

株式会社ピーターパンは、1977年に創業し、千葉を拠点にパンの製造販売業を営んでいました。1988年に事業拡大のため、宅配ピザ事業に進出しました。2000年には、パン屋3店舗で売上1億8000万、宅配ピザ屋5店舗で売上3億6000万に達していました。
しかし、オーナーはこれまでの経営を振り返り、「お客様の笑顔が一番大切」であることに気が付きました。そこで、当時売上の3分の2を占めていた宅配ピザ事業から撤退し、ピーターパンの原点であるパン屋に力を注ぐ決意をしました。

ピーターパンには、パン屋として多くの強みを持っています。「焼きたて」「揚げたて」「作りたて」を意味する「3たて」を武器とし、この「3たて」のパンを他店より1割以上安く提供しています。粗利率(売上高から売上原価をひいたもの)は下がりますが、客数・客単価は高まりました。
調理場はオープンスペースかガラス張りとなっており、職人の動きを見ることができます。アクセス良好の駅ナカ店に加え、郊外のロードサイド店には、50台駐車できる大規模な駐車場を完備しています。コーヒー・麦茶の無料提供を行い、レジは平日でも長蛇の列になるほどの人気を誇っています。

 

『事業承継の失敗事例』

これは、早期・計画的な取り組みを怠り、事業承継に失敗してしまった事例です。

経営難に陥っていた中小同族会社の社長A(76歳)は、後継者である子Bに社長職を譲り、代表権を有する会長に就任しました。しかし、株式はAが100%保有していました。Bは、株式はいずれ譲渡してもらえばよいとして、株式の譲渡時期の具体的な取り決めを行いませんでした。

社長交代後、Bが急速な経営改革を行い、会社の業績を回復させました。しかし、会社運営の相談をほとんど持ちかけられなかったことに不満を持ったAは、臨時株主総会の際にBを解任してしまいました。Aは再び社長になりましたが、社内の不和が原因で赤字に転落してしまいました。不自然な社長交代から、取引先に不信感を与え、取引継続にまで支障をきたしました。このような状況から、BはAを説得して再度社長に復帰して、業績回復に努めようとしていますが、Aの了解は得られていません。

この事例から読み取れるのは、「株式を誰がどのくらい保有するのかは非常に重要である」ことです。この例は親族内承継でしたが、親族外承継の際も、株式の保有についてしっかり考えてから交渉を行うことが大切です。経営の存続や売上の向上が実現しても、思わぬところから足をすくわれる可能性があるからです。事業承継が活性化している中で、このようなトラブルに発展する事例も少なくありません。

 

パン屋・ベーカリーの事業承継を実施するうえでのポイント


パン屋・ベーカリーの事業承継を実施するうえで、「自店の強みを明確にすること」がポイントです。ここでは、買い手がよく見る4点のポイントについてご紹介します。自店の強みが見つからない場合は、インターネットの口コミを参考にする・アンケートをとる等を推奨します。

 

①立地条件

店舗数が多いのは、買い手にとって魅力的ですが、1店舗のみの個人経営店の事業承継も少なくありません。それより、店舗が駅チカである・大通りに面しているため車でも買いに行きやすい等、アクセスが良好な点がアピールポイントとなります。また、閑静な住宅街や、学生が多い街であれば、パンの高い需要が見込めます。

 

②知名度

近年のSNSの流行から、知名度の高いお店は重宝される傾向があります。テレビや雑誌で取り上げられているだけでなく、口コミサイトで高い評価を得ている・SNSでよく発信されている等は、目に見える形で知名度を示せるため、強みとなります。

 

③独自のこだわり

「天然酵母」「アレルギーフリー」「無添加」「米粉使用」等、自店ならではのこだわりは、強くアピールしましょう。写真映えする製品も大事ですが、食の品質が求められている昨今、素材も重要視されます。

 

④オーナーの熱意

意外と見落としがちなのが、お店に対するオーナーの熱意です。「美味しいパンを提供し続けたい」「できたてのパンを提供したい」等、確固たる理念を持ち、お店を大切にする心構えは、買い手に好印象を与えます。買い手も人なので、「この人から、このお店を買いたい」と思ってもらえることも大切です。

 

まとめ

今回は、事業承継の事例から、パン屋・ベーカリーの時勢の流れを読み解きました。事業承継を活用することによって、お店の存続に希望が持てることが伝わったでしょうか。

事業承継を実施する際は、「株式をどのようにするか」と「自店の強み」を明確にすることが重要です。まずは、M&A仲介業者やFA、税理士・会計士等、専門機関に相談しましょう。

事業承継の事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》
パン屋・ベーカリーを含む飲食業は、全産業の中で開業率と廃業率が飛びぬけて高く、競争も激しさを増しています。わずか10坪前後の「コンパクトベーカリー」も増加しています。激しい競争の中、お店を存続させるためには、「他店との圧倒的な差別化」が必要です。
しかし、「後継者問題」や「資金の不足」など、独力では成し遂げられない課題も出てきます。その現状を打開するために、近年、M&Aによる事業承継を活用するお店が増えています。
ここでは、1店舗から地域で複数店展開しているパン屋に向けて、近年の事業承継の傾向をご紹介します。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月14日
事業譲渡の事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》
2019年4月14日
パン屋・ベーカリーのM&Aを実施する前に考えておきたいこと
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