2019年4月12日 金曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

近年、食品製造業界では、大きな改革を迫られています。原材料が高騰している現状に加えて、国内外で食の安全性に関心が高まっています。よって、クオリティの高いパンを提供するためには、コストを抑えることが困難です。
また、食品製造業は、他産業と比較して、深刻な離職率が課題とされています。食品製造業界で行わなければならないことは、食品の質の向上・コストの削減・労働力の確保です。
これらを実現するためには、他社の協力が不可欠となります。この現状から、M&Aを活用する企業が増加しています。

ここでは、パン屋・ベーカリーのM&Aの事例から、時勢の動きを見ていきます。

 

パン屋・ベーカリーにおけるM&Aの動き


食品製造業全体の市場規模は25.9兆円であり、そのうち「パン・菓子」は4.9兆円となっています。(経済産業省「平成26年工業統計表」)

食品製造業の市場規模は、リーマンショックの際に減少したものの、長期的には微増傾向となっています。業種小分類でみた場合、パンは増加傾向となっており、食の欧米化や、調理の簡易化等、現代の食卓の変化を反映しています。市場規模の増加傾向に反して、事業所数(パンを製造する場所)は一貫して減少傾向にあります。

 

市場規模の増加、事業数の減少によって、一事業所あたりの出荷量は増加しています。これは、バイイングパワーが強く、大手企業・中堅企業が地方の零細企業を淘汰してきたことが背景にあります。
近年の原材料価格の上昇と、今後の人手不足によって、バイイングパワーの影響はより強くなっていくとされています。
食品製造業界では、世界規模でのあらゆる要素が今後の経営方針に影響を与えます。それを踏まえて、自社製品以外にも目を向け、安定的な事業経営を可能とするためのポートフォリオ形成が重要となってきます。

 

将来的な人口減少によって、食品製造業界に限らず、全業界で対策が求められていま。食品製造業の大手各社では、海外市場への進出とバイイングパワーの強化を目的として、クロスボーダーM&Aを積極的に進めています。クロスボーダーM&Aとは、「国境を越えて行うM&A」を意味します。
一方、中小企業は、原材料価格の上昇に加え、販売先からの強い価格下落圧力によって、厳しい経営環境に置かれています。特に付加価値の低い業種においては、事業再生型のM&Aが多く活用されています。また、食品は地域と密に関わっています。それによって、地域の6次産業化ファンド等による資本参加が増加傾向にあります。

6次産業化とは、生産(1次産業)・加工(2次産業)・販売(3次産業)それぞれの産業を融合することによって、新しい産業を形成する取り組みのことをさします。6次産業化することによって、「経営の多角化」を可能とし、経営の存続や発展を図ります。6次産業化のためには、多額の投資・厳格な衛生管理・専門的な知識等が必要となります。自社のみでは、これらを全て網羅することは難しいため、他社の協力を得るという意味でM&Aが求められています。

 

M&Aを行うことによる売り手・買い手のメリット

M&Aを行うことによって、売り手・買い手の双方がメリットを得られます。双方ともに、今後の経営のステップアップを目的としたメリットについてご紹介します。

お互いの条件をすり合わせ、理念が一致すれば、理想的なM&Aを行うことができます。しかし、交渉をしていく過程で、どちらかが妥協しなければならない点が出てくる可能性もあります。譲れない条件(必ず得たいメリット)を明確にした上でM&Aに臨みましょう。ここでは、売り手側と買い手側、それぞれのメリットについてご紹介します。

 

【売り手側のメリット】

①事業継続と拡大

戦略的にM&Aを活用することによって、自社努力では成し得ない企業成長が実現します。将来的に確固たる展望のある優良企業の支援を得ることによって、海外展開や新事業の参入、技術力の強化が可能になることは、売り手のオーナーにとって、大きなメリットとなります。
また、経営が思わしくない一部の事業や店舗のみを売却することによって、伸ばしていきたい事業に集中できます。

 

②後継者問題の解決

事業売却を検討しているオーナーが抱えている問題としてあげられるのが、「後継者問題」です。現在の日本において、国内市場の縮小やマーケットの競合激化による経営悪化や少子化が原因となって、後継者が見つからないケースが増加しています。廃業するとしても、廃業コストや従業員の将来を考えると、容易には選択できません。
M&Aを活用して、優良企業に自店の将来を託すことによって、後継者問題の根本的な解決と、従業員の雇用を守ることができます。

 

【買い手側のメリット】

①取引先・店舗のネットワークの拡大

M&Aを行うことによって、買い手は、買収対象となる企業(売り手)が保有する設備や不動産等の有形の資産に加えて、ノウハウ・技術・取引先・流通ネットワーク・顧客基盤等の無形の資産を取り込むことができます。よって、買い手は事業規模の拡大を図ることができます。
取引先を一から開拓するのは、莫大な時間や労力が必要です。しかし、M&Aを活用すれば、買収対象となる企業がすでに構築したマーケットや取引先を、自社が持っているネットワークに加えて、効率的に事業拡大が可能となります。

 

②既存事業の強化

M&Aは、新規事業の開拓というメリットも得られますが、中には、自社の既存事業の強化を目的として、他社の技術やノウハウを取り入れるオーナーもいます。自社事業の弱みを明確にし、その弱みを補える企業を買収することによって、技術の向上を図ります。既存事業の技術の向上は、自社の努力だけでは限界があります。また、高い技術を持つ企業を買収することは、優秀な人材の確保にも繋がり、大きなメリットとなります。

 

M&Aの相談先

M&Aの相談先を選ぶポイントとして、実績が豊富・担当者が話しやすい・対応が迅速・料金体系が明確などを重視することが大切です。また、相談のみの場合は、どの機関でも無料のため、複数社の検討が推奨されています。早急にM&Aを行わなければならない理由がないのであれば、FAと仲介業者の両方に相談し、どちらのサービスが自社に適切か比べてみましょう。
M&Aは、できるだけ多くの売り手あるいは買い手を比較しなければいけません。納得のいくM&Aを行うために、信頼できる相談相手を選びましょう。

 

①M&Aの仲介業者

M&Aの仲介業者は、売り手と買い手の間に入り、中立的な立場から、双方の条件を汲み、クロージング(成約)まで導きます。仲介先とも仲介の契約を結んでいるため、M&Aのクロージングが完了した際、売り手と買い手の両者から手数料を請求します。
仲介業者に依頼するメリットは、迅速にM&Aのクロージングができる点です。M&Aのマッチング相手をできるだけ早く探し出してほしい場合は、仲介業者が適しています。

 

②FA(フィナンシャルアドバイリー)

FAは、主に助言業務を行います。M&Aにおける計画立案からクロージング、統合プロセスに至る一連の助言を行い、契約先の利益を最優先します。契約先のためのアドバイザリー契約となっており、売り手・買い手問わず手数料は契約した側にのみ請求します。
最大のメリットとして、自社のためにアドバイザリーを請け負ってくれる点です。戦略的にM&Aを検討している場合は、FAが適しています。

 

③会計士・税理士

日頃から、お店の決算業務を依頼している会計士や税理士にM&Aの相談をすることも、選択肢としてあげられます。
メリットとして、あらかじめお店の経理面を把握しているため、話が早い点に加え、定期的に顧問業務と面談していることから、信頼関係が築かれている点があげられます。M&Aを相談する際、信頼関係は必須です。話しやすさを重視するなら、会計士や税理士が有力です。
しかし、ネットワークや知識が限られている可能性もあるため、その点はデメリットとなります。

 

④金融機関

大手の銀行や証券会社であれば、M&Aの専門の部署がある場合が多いため、相談相手となり得ます。ただし、これらの金融機関は、上場企業大手のM&Aサポートを重点的に行っており、中小企業の案件の場合、サポートしてもらえない可能性があります。
メリットとしては、高い専門性や経験から、質の高いサポートを期待できる・幅広い取引先というネットワークを持っている・普段から良好な取引関係が築けていれば、相談がしやすい等があげられます。
デメリットとしては、大手向けのため、手数料が高い・対応に時間がかかる等があげられます。M&Aの一連の流れをサポートしてもらえるかは、企業の規模によって異なりますが、相談をすることは可能です。

 

最近のパン屋・ベーカリーのM&A事例


ここでは、2017年に行われた、パン屋同士のM&Aの事例についてご紹介します。また、この事例から、M&Aを行う際に、どのような条件であれば、円滑に交渉を進められるかを分析しています。バブル経済の時代と異なり、現在は食・サービスともにクオリティが重要視されています。時代にあったニーズを見抜き、売り手と買い手の価値観が合うことによって、初めてM&Aが成立します。

 

・2017年5月 後継者不在に悩んでいたパンの製造・小売店C社の事例

パンの製造・小売店C社は、後継者不在による店舗存続の危機を打破するために、M&Aを活用しました。オーナーは、美味しいパン作りの思い入れが強く、その理念を継承してくれることを条件として、売却を検討していました。買い手となったのは、同じくパンの製造・小売店D社です。C社のオーナーのパン作りへの思いや理念に共感し、事業の譲受(買収)を打診しました。双方のオーナーの思いが一致し、C店のパンがD店に引き継がれました。

パン屋製造事業は、営業規模によって異なりますが、オーブン・ドゥコン・ミキサー・冷蔵庫等、相当の設備が必要です。また、月々のランニングコストと光熱費が莫大にかかるビジネスとされています。徹底した設備投資によって、美味しいパンの提供が実現できるため、妥協はできません。資金と労力をかけて育て上げたお店やそのノウハウが無駄になることなく、同じように熱意を持ったオーナーに受け継がれたことは、M&Aの成功例といえます。

この事例のように、「美味しいパンを提供する」といった、買い手に共感を与える売却条件は、円滑にM&Aを進められる傾向があります。必要以上に高い売却額や多くの条件を提示するオーナーもいますが、買い手も人間です。それ相応の強みや立地条件が優れていたとしても、大切なのは、オーナーのビジネスに対する熱意です。買い手も、ただ高い買収価格を提示するのではなく、売り手が何を求めているのかを考え、お互いのニーズをすり合わせる必要があります。

 

パン屋・ベーカリーのM&Aを実施するうえでのポイント


パン屋・ベーカリーに限らず、お店として経営している場合、M&Aを実施するうえで確認しておくべきポイントが2点あります。
買い手は、買収する際の目安に、売り手は、売却する際のアピールポイントとなります。買い手が気を付けるポイントは、いくら強みや好条件がそろっていても、現オーナーの売却の目的や人柄をよく見ることです。
売り手は、高値の買収価格を提示されても、即決せず、条件の再確認をしっかり行いましょう。交渉を進めていくうちに、不可解なことがあればその場で解決することも大事です。交渉を急ぎすぎて、納得のいかないM&Aになることは避けなければいけません。

 

①店舗数・立地条件

企業は、M&Aを検討する際、立地や顧客層、労務管理等を重視します。外食産業のM&Aは、大手チェーン店の事例が多いですが、中には1店舗のみの個人経営のお店が譲渡(売却)する事例も少なくありません。駅チカでアクセスが良い、顧客の年齢層が幅広い、あるいは、顧客の年齢層は限られているが、安定した集客を維持している等のアピールポイントは、大きな強みとなります。売り手にとって弱みに思えることがあっても、その点にこだわらず、別の強みを活かすことがポイントとなります。
買い手は、少数店舗だからといって候補から外すのではなく、お店の強みに焦点を当てることによって、最良の取引相手を見つけることに繋がります。

 

②メディアに取り上げられている

近年、SNSや口コミサイトが普及している影響から、メディアに取り上げられた実績は、非常に大きな強みとなります。テレビや雑誌で紹介されていれば、確固たる強みとなりますが、SNSや口コミサイトで多くの高い評価を得ていれば、それも十分な強みとなります。
どのパン屋さんにも、オリジナルの目玉商品はあります。素朴なものであっても問題ありません。重要なのは、その商品に多くの顧客がついている点です。多くの人に、その商品が好印象で知られていることがポイントとなります。

 

まとめ

ここまで、パン屋・ベーカリーのM&Aの傾向をご紹介しました。人口の減少・競合の激戦化・インターネットの普及から、これまで以上の経営戦略が求められています。M&Aも、現状を打破するために、今後も需要が高まっていくでしょう。

M&Aの事例から読み解く潮流《パン屋・ベーカリー》
近年、食品製造業界では、大きな改革を迫られています。原材料が高騰している現状に加えて、国内外で食の安全性に関心が高まっています。よって、クオリティの高いパンを提供するためには、コストを抑えることが困難です。
また、食品製造業は、他産業と比較して、深刻な離職率が課題とされています。食品製造業界で行わなければならないことは、食品の質の向上・コストの削減・労働力の確保です。
これらを実現するためには、他社の協力が不可欠となります。この現状から、M&Aを活用する企業が増加しています。
ここでは、パン屋・ベーカリーのM&Aの事例から、時勢の動きを見ていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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