2019年4月11日 木曜日

パン屋・ベーカリーの事業譲渡を検討する際のチェック項目

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

近年、大企業だけでなく、パン屋・ベーカリーを営むオーナーの中にも、お店の将来を考えてM&A活用を検討する人が増えています。M&Aは、念入りに準備を行い、多くの情報を集める必要があります。

この記事では、M&Aの中でも「事業譲渡」に焦点を当てています。事業譲渡の基本情報やパン業界の動向を踏まえた上で、事業譲渡を実行する際にチェックしておきたい項目をご紹介していきます。

 

パン屋・ベーカリーの事業譲渡を検討してみては?


パン屋・ベーカリーを経営しているオーナーの中には、「お店の事業を一部撤退したい」「お店を全て譲渡したい」という人もいるのではないでしょうか。大切に維持してきたお店や、培われた技術を途絶えさせてしまうのは、とても惜しいことです。

まずは、事業譲渡について知り、パン屋・ベーカリーの今後を前向きに検討してみて下さい。ここでは、事業譲渡の基本情報やパン業界の動向、事業譲渡の事例・なぜ事業譲渡がそれほど広がっていないのか等についてご紹介しています。

 

事業譲渡とは

事業譲渡とは、「会社の事業を第三者に譲渡(売却)すること」です。これは、M&Aの手法の1つです。M&Aは、会社の存続のための前向きな企業戦略として、中小企業の間でも普及してきています。

事業譲渡の対象となる「事業」は、一定の目的のために組織化された有形・無形の財産を示します。よって、不動産や機械だけでなく、ノウハウや顧客、取引先との関係等も含まれます。事業譲渡を行った会社は、今後、同じ事業を行うことが制限されるため、注意しなければいけません。事業譲渡は、会社が営んでいる全ての事業を譲渡することも、一部の事業のみを譲渡することも可能です。なお、手続きには取締役会の承認と株主総会による特別決議が必要です。

 

「事業譲渡」と「事業承継」の違い

そもそもM&Aとは、「合併と買収」を意味し、複数の企業がお互いの利益のために協力するために活用される企業戦略のことです。

M&Aには、「事業譲渡」と似た言葉で「事業承継」があります。この2つの違いは、「目的」です。事業譲渡は、「会社が営んでいる事業の一部、あるいは全部を売却すること」が目的です。一方、事業承継は、「第三者の後継者を見つけて、その人を新たな経営者にすること」が目的です。「会社そのものは残したい」「売却する事業を選択して柔軟な取引をしたい」という希望があるオーナーは、事業譲渡が推奨されます。事業譲渡を選択した場合、特定の事業を譲渡しても、「〇〇株式会社」等の商号の移転は伴わなくて済みます。

 

パン屋・ベーカリーの現状

パン業界では競争が激化し、しのぎを削っているのが現状です。家庭外で調理や加工された食品を食べる「中食」・家で食事をする「内食」の高まりとホームベーカリーの普及によって、パンの需要そのものは安定しています。2014年のパン類の生産量は、前年比0.7%増しの123万4270トンを記録し、5年連続のプラスとなりました。生産量は増加傾向にありますが、スーパーやコンビニのPB(プライベートブランド)が進出し、美味しいパンを安価で気軽に購入できるようになりました。この現状は、街のパン屋さんである「リテールベーカリー」のみならず、店頭の売場の確保が難しくなった大手パンメーカーにも影響を及ぼしています。

 

パン屋・ベーカリーの今後

個店ベーカリーショップは、現在苦戦しており、今後もさらに厳しい状態に置かれることが予想されます。

大手パンメーカーと比較して小規模な市場とされるチェーンベーカリーは、堅調に推移を伸ばしています。スーパーやコンビニのPB、大手パンメーカー、チェーンベーカリーによって、個店ベーカリーの淘汰が今後も進むでしょう。そのような状況にもかかわらず、個店ベーカリーは増加傾向にあります。エリアによっては、自店がパン屋の激戦区に置かれる可能性もあります。

 

パン屋・ベーカリーの課題

生存競争が激しいパン業界で勝ち抜くためには、主力製品の品質向上と新商品開発の促進が不可欠です。そのためには、市場調査を綿密に行い、自店ならではのオリジナル商品の開発を続けていかなければいけません。

また、パン職人の不足も、パン業界の厳しさに拍車をかけています。パン業界は、早朝からの仕込みや長時間の力仕事が必要なことから、過酷な労働環境のイメージが強くあります。人材育成のためにも、そのようなイメージを払拭することも重要です。顧客だけでなく、従業員にも配慮することが求められています。

 

パン屋・ベーカリーの事業譲渡の事例①

『ベーカリーを営むA社が、部門ごとに他社に事業譲渡した事例』

譲渡企業(売り手)であるA社は、国内で5店舗のベーカリー店を展開していました。経営資金の集中を図るため、事業譲渡によるベーカリー事業部門の売却を検討しました。

譲受企業(買い手)となったのは、多様な業態で全国に多数店舗を有している外食企業でした。新たな業態を模索していたところ、自社で保有していなかったベーカリー事業の買収に踏み切ることとなりました。これは、事業譲渡によって、「一部の事業を売却し、力を入れたい事業に集中する」代表的な事例です。

 

パン屋・ベーカリーの事業譲渡の事例②

『サガミチェーンがベーカリーショップをカドハウスに事業譲渡した事例』

レストランチェーンを展開するサガミチェーン(現、株式会社サガミホールディングス)は、連結子会社でベーカリーショップを4店舗運営するボンパナの全株式をカドハウスに譲渡しました。

ボンパナは、名古屋を拠点として、ベーカリーショップの経営及びパンの製造、卸売、小売の事業展開を行っていました。譲受企業となったカドハウスも、ボンパナと同じく名古屋市に本社を置き、不動産賃貸を営んでいました。譲受企業は、名古屋で、新たな事業に参入することが可能になりました。これは、ベーカリー以外にも多数の飲食店を展開する大手企業が、事業譲渡によって、「一部の事業を売却し、経営の改善を図る」事例です。

 

事業譲渡がそれほど広く実施されていない理由

大企業にとって事業譲渡はデメリットも大きく、そうそう簡単に実施できるものではありません。例えば、株主総会を開かなければならない点や、膨大な量のビジネスの売買の手続きが非常に煩雑である点があげられます。大企業が株主総会を開くとなると、大規模なものになってしまうため、容易には実行できません。

しかし、中小企業は比較的に事業譲渡を進めやすい傾向があります。取引先と従業員の数が限られていればいるほど、手続きは簡易になるためです。また、オーナー会社の場合は、株主総会も身内で行えるため、事業譲渡は中小企業に向いている手法といえます。

 

パン屋・ベーカリーを事業譲渡するメリット

パン屋・ベーカリーを事業譲渡することによって得られるメリットは、主に2点あります。

M&A手法を用いることによって共通して得られる「現金の獲得」、事業譲渡を選択するからこそ得られる「譲渡する事業の選択を可能にする」、これらのメリットについて詳しく見ていきます。

中小企業にとって、事業譲渡を行うメリットは大きいです。中小企業だからこそできる、柔軟なM&A手法として前向きな検討をおすすめします。

 

①現金の獲得

事業譲渡を行う際に、創業者利潤として現金を獲得できる点は、最大のメリットです。M&Aの手法を活用すると、事業譲渡に限らず、売り手は会社・事業を売却することによって、ある程度の現金を得られます。事業譲渡は、事業を売却する手法のため、会社売却と比較して得られる現金は少なくなる可能性があります。しかし、ある程度まとまった現金を得られる傾向があります。事業譲渡を行った後も、会社を存続することができます。

よって、安心して、事業譲渡で得た現金を、新事業の資金や今後の経営の資金、オーナーの老後の資金にあてることができます

 

②譲渡する事業を選択できる

一部の事業のみを選択して譲渡できる点も大きなメリットです。例えば、5店舗を経営している会社が、1店舗のみ売却したいといった場合に事業譲渡は有効活用されます。M&A手法でも人気の高い「株式譲渡」では、会社全体を売却しなければいけませんが、事業譲渡はそのようなことはありません。

パン屋とカフェを経営していたとしても、カフェに集中するために、パン屋を譲渡するという手段もあります。このメリットから、特定の事業を成長させるための企業戦略として活用できます。

 

パン屋・ベーカリーを事業譲渡する際のチェック項目


ここでは、パン屋・ベーカリーを事業譲渡する際にチェックしておきたい項目についてご紹介します。

事業譲渡を行うに際して、譲渡の目的を明確にすることは最重要事項です。目的によって、「どの事業をどうしていきたいか」「譲渡先をどうするか」が決まるからです。

事業価値は、算定する際に専門家に依頼しましょう。譲渡するタイミングは、譲渡価格を左右するため、注意が必要です。また、事業譲渡を行う際は、専門家に相談することが推奨します。M&Aは、知識と経験を要するため、独力で交渉を行うことは非常に困難となるからです。

 

譲渡の目的

譲渡の目的として、「経営の健全化」があげられます。多額の債務を抱え経営に行き詰った会社が、他社に事業を譲渡することによって得た現金を、返済にあて、経営をクリアにするためにも事業譲渡を活用します。

また、複数の事業を保有している場合で、不採算の事業から撤退するために活用するオーナーも少なくありません。

事業譲渡によって得た現金を使って残した事業の再建を図る・赤字続きで経営不振の事業部門を他社に譲渡することによって、経営の健全化を図ることが可能になるためです。

 

譲渡先

パン屋・ベーカリーの譲渡先(買い手)は、オーナーの理念によって選ぶ先が異なります。パン屋さん同士で行われるケースと、違う業界と行われるケースがあります。オーナーが「おいしいパンを提供し続けてほしい」という場合は、同じパン屋さんや飲食店経営の会社に事業譲渡を行うことが適しています。しかし、「できるだけ多くの現金を得たい」「とにかく買い手がついてほしい」といった場合は、業界にとらわれる必要はありません。

新規事業に参入したい企業にとって、パン屋・ベーカリーは魅力的です。譲渡するオーナーは、これまで培ったノウハウを存続でき、譲受した企業は、効率よく新規事業に参入できるため、異業種のオーナーに事業譲渡することも1つの候補となり得ます。

 

事業価値

事業譲渡をスムーズに行うためには、譲渡価格が「適正な金額」でなければいけません。適正な譲渡価格を算出するに際して、「企業価値評価(バリュエーション)」が重要となります。

「企業価値評価(バリュエーション)」の算定には、「コストアプローチ」「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つの方法があります。最も客観性に優れているのは、「コストアプローチ」です。帳簿上にすでに記載されている数字をもとに企業評価を行うためです。「インカムアプローチ」は、将来のキャッシュフロー(現金の出入り)を現在価値に割り引くことによって企業評価を行います。「マーケットアプローチ」は、株式市場で成立している価格を元に企業評価を行う方法です。

この3つの方法から、自社に合った算定方法を選択し、まず現在の事業価値がどれくらいか知ることをおすすめします。

 

譲渡タイミング

事業譲渡を行うタイミングは、好景気のときが推奨されます。また、オーナーの経営意欲が高いときも、譲渡タイミングとして適しています。

譲渡する決断を先延ばしにしているうちに、タイミングを逃してしまうケースは少なくありません。「まだ譲渡するのはもったいない」と思えるくらい業績が好調なうちに譲渡した方が、いい条件で売却できます。また、好景気はいつ終わってしまうかわかりません。「もっと譲渡価格が上がるのではないか」と粘るのではなく、ある程度高い譲渡価格がついた時点で譲渡する方がいいでしょう。

オーナーの経営意欲を維持し続けるには、とてつもない気力と体力が必要となります。低下してしまう前に、意欲と能力のある企業や別のオーナーに事業を託すことも、最良な結果に繋がる近道かもしれません。

 

相談先

事業譲渡を行う際におすすめの相談先は、M&Aの専門家です。M&Aの専門家には、助言業務のみを行う「FA(フィナンシャルアドバイザリー)」と、買い手と売り手の仲介を行う「仲介業者」の2種類あります。FAは、売り手か買い手のどちらか一方と契約し、契約した方の助言業務を徹底的に行います。利益を最大化したいのであれば、FAが適しています。仲介業者は、売り手と買い手の双方と契約します。できるだけ早く成約したいのであれば、仲介業者が適しています。

どちらにせよ、M&Aの専門家は、知識と経験が豊富な点に加えて、幅広いネットワークを持っています。相談は無料としているところも多いため、どちらが自社に合うか両方見比べてもいいかもしれませんね。

 

まとめ

ここまで、パン屋・ベーカリーの事業譲渡に際してチェックしておきたい項目についてご紹介しました。事業譲渡のポイントは、「譲渡の目的」「タイミング」「相談先」です。まずは、「なぜ事業譲渡をしたいか」を明確にし、M&Aの専門機関に相談しましょう。

パン屋・ベーカリーの事業譲渡を検討する際のチェック項目
近年、大企業だけでなく、パン屋・ベーカリーを営むオーナーの中にも、お店の将来を考えてM&Aの活用を検討する人が増えています。M&Aは、念入りに準備を行い、多くの情報を集める必要があります。
この記事では、M&Aの中でも「事業譲渡」に焦点を当てています。事業譲渡の基本情報やパン業界の動向を踏まえた上で、事業譲渡を実行する際にチェックしておきたい項目をご紹介していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年4月11日
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