2019年7月23日 火曜日

M&Aの事例から読み解く潮流《空調設備会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

空調設備会社においても、従業員の高齢化を原因とする後継者問題が起こっています。

後継者問題を解決するために「M&A」という手段を選ぶ企業が増えてきています。

その他にも、事業規模を拡大するためにM&Aを行うケースもあるようです。この記事では、空調設備会社のM&Aの事例から、その潮流を読み解いていきます。

空調設備会社におけるM&Aの動き

ここでは、空調設備会社におけるM&Aの動向を、M&Aが行われる目的、規模拡大を目的としたM&Aの増加、そしてどの業界でも深刻な後継者問題の解決を目的としたM&Aという、3つの観点からご紹介します。

空調設備会社で行われるM&Aの目的とは

空調設備会社の業界は競争が激しいといわれています。それは、空調設備工事の業界には中小企業が多くみられるからです。

そのため、各社は競争力強化のための創意工夫を行っていますが、工場の海外移転などを原因として国内市場が縮小しています。

このような経営環境のなかで生き残っていくためには規模の確保が必須であり、事業規模の拡大を目的としたM&Aが活発化しているのです。

 

かつて、空調設備会社の多くは空調工事以外の機械設備工事、消防設備の保守業務、電気工事を手がけていない場合が多かったのですが、昨今の受注単価の下落を受けて、各社は多様な設備工事・設備保守を一度に提供できるような体制の構築を行っています。そのため、機械設備工事会社や消防設備工事・保守会社を買収する事例が増えつつあります。

さらに、詳しくは後述しますが、空調設備会社の経営者の多くが引退の年齢を迎えていることなどから、後継者問題・事業承継の問題を解決するためのM&Aも増えてきています。

規模拡大を目的とするM&Aの増加

空調設備会社の業界は競争が激しく、競争力強化のために各社が独自の方法で生き残りをかけています。M&Aは競争力を強化する際に効果的な方法の一つであり、現在上場をしている企業においては、M&Aを利用してのサービス強化を図る事例が多くなってきています。

 

同業者がM&Aを行った場合、双方の企業が持っている顧客基盤や事業基盤を活用することによって、お互いの会社のサービス体制が強化されます。例を挙げると、関東地区に強みがある空調設備会社と、関西地区に強みのある空調設備会社がM&Aにより提携することで、双方の事業基盤を活用して事業エリアを拡大させることができるのです。

同業者同士のM&Aであれば、お互いの技術力やノウハウを活かすことも可能です。より良いサービスを提供できるようになれば、それだけ競争力が上がるのです。

深刻な業界全体の後継者問題

国交省によれば、建設業に携わる人の年齢は、約3割を55歳以上の人が占めていて、29歳以下の人はわずか1割程度となっています。例にもれず空調設備業界にも高齢化の問題は影を落としているのです。それに加えて技術を承継したり、会社を継いだりする人が減っているのです。

現在後継者問題に苦慮しているのなら、M&Aを活用することでそれを解決できます。親族や従業員に会社を引き継がなくとも、第三者の企業に会社を売却するという方法で、会社の事業を続行できます。

最近の空調設備会社のM&A事例

ここでは、最近の空調設備会社のM&Aの事例をいくつかご紹介します。

新コスモス電機によるフィガロ技研のM&A、三菱電機によるデルクリマのM&A、橋本工業による若松物産のM&A、ラックランドによる複数企業のM&Aの4つの事例をご紹介します。

新コスモス電機によるフィガロ技研のM&A

新コスモス電機は2016年5月に、フィガロ技研の株式を取得、買収することを発表しました。このM&Aによって、新コスモス電機はフィガロ技研を子会社としました。

ガスセンサー市場やガス警報器市場において、とても厳しい競争環境におかれている中で、持続的な成長を実現させるために、新事業への対応や海外営業の強化・拡大、技術力の強化などの課題を解決すること、ガスセンサー・ガス警報器の市場で生き残っていくことを目的としたM&Aでした。

三菱電機によるデルクリマのM&A

三菱電機はイタリアの空調設備会社デルクリマ社の株式を取得するために、2015年の12月に株式譲渡、2016年の2月に株式の公開買い付けをするM&Aを行い、デルクリマ社を子会社化しました。譲渡・売却価額は約885億円で、ヨーロッパを中心に認知度とブランド力の高いデルクリマの製品に、三菱電機が持つモーターやパワー半導体の技術を導入して、省エネ性能などを高める計画によって、世界市場において業務用空調・冷熱事業を強化するためのM&Aでした。

橋本総業による若松物産のM&A

橋本総業は、2013年の9月に空調設備の販売や施工を手がけている若松物産の株式を取得し、子会社化しました。M&Aの目的は、中部地区における営業基盤を強化するためのものでした。空調設備会社のM&Aでは、事業の強化のためのM&Aも多く行われているようです。

ラックランドによる複数企業のM&A

ラックランド社は、2018年7月に、光立興業の買収を行いました。光立興業の全株式を取得、子会社としました。これは首都圏においての事業を強化することと、既存事業とのシナジー効果を得るためのM&Aでした。

ラックランド社はさらに、2018年9月にオーエイテクノと大阪エアコンの買収も行いました。これは、空調設備工事事業と関西圏の地盤を強化することによってシナジー効果を得るためのM&Aでした。

空調設備会社のM&Aを実施するうえでのポイント

M&Aを実施する上で、抑えておかなければならないポイントは多々あります。従業員の雇用の継続の問題や、顧客をどう引き継ぐか、実施のタイミングはいつにするか、などです。ここでは、空調設備会社がM&Aを実施するうえでのポイントを7つご紹介します。

従業員の雇用の継続

空調設備会社など、建設業界への新規就業者数は近年減少しています。一方で、震災復興や東京オリンピックの開催による建設業界への需要増加が重なっていて、結果的に業界全体の人手不足が問題となっています。

また、建設をするにあたっての専門技能を身につけるまでには、それ相応の時間を要します。常に一定の新規就業者数を得ている大手事業者であっても、M&Aによって高い技能を持った人材を確保できることは大きな利点となります。

 

業務の経験が豊富で、現場を統括できるような資格を持っている従業員は特に貴重であり、買い手側の企業も獲得したい人材です。売り手側にとっても、従業員の雇用を引き継ぐことで、再雇用先を迅速にあっせんすることができます。これは引き継ぐ従業員がすぐれた人材であることが条件となることですが、従業員を引き継ぐかどうかによって売却価額に数倍の差がつくこともあります。

顧客の引継ぎについて

M&Aを使って売買する事業には、取引先との契約関係も含まれます。

空調設備会社は地域密着型の企業が多く、企業と取引先との信頼関係もしっかりしていることが多くあります。取引先の契約を引き継ぐ場合、売り手側の担当者もあわせて引き継ぎ、買収した後も同じ取引先を担当させるというような工夫が求められます。

 

特に都市部は競争が激しく、顧客となる国内の人口の数もどんどん減ってきていますから、円滑に事業を拡大する手段として、地方の業者を買収することは有効な手段です。しかし、買収に伴って相手企業の顧客を手放す事態は避けなくてはなりません。

近年においては、空調設備会社など建設系の企業の需要の高い海外へ進出する企業が増加しつつありますが、自社だけで新規開拓を行う場合、初期費用のリスクや必要コストの高さが足かせになることがあります。

しかし、現地企業を買収し、海外展開をすでにしている他の国内企業との連携により、低リスクで海外進出の足がかりを得られます。

情報共有のタイミング

M&Aの情報は、一般的には具体案が固まるまで経営陣以外に共有しないものです。

しかし空調設備会社などの建設業の場合は、受け持つ物件の工期が滞ると、大きな損失となってしまいます。M&Aが成立すれば事業規模は拡大します。しかし、時としては依頼する業者(運搬業者など)を変更しない方が、現場レベルではプラスとなる場合もあるとされています。依頼する業者を変更する場合は、円滑に引継ぎができるように情報の一部を共有して調整をしていく必要があります。

財務状況の改善

M&Aの成立を確実にするためには、売り手側の企業の経営者は、買い手側の企業にとって魅力的な財務状況築いておく必要があります。安定した収益力を持った企業は、買い手側の企業に長い期間の利益を提供することができる企業であり、M&A市場でも高い需要が見込めます。

収益金額が重要なのはもちろん、適切な原価管理や借入金・債務の清算などを実行できているか、というのも重要な点です。

元請け案件の割合を上げておくことも大切です。下請けだと業務を請け負うまでに手数料がかかるため、元請けに比べて費用対効果が悪くなるためです。また、赤字発注はできるだけ行わないようにしておきましょう。

M&Aの実施タイミングはいつか

後継者問題に悩んでいる経営者にとってみれば、第三者に事業承継できるM&Aは問題を解決するのに有効な手段といえるでしょう。空調設備会社を買収する企業は大手の企業であることが多く、身内や社員を事業承継するのに比べ短期間で引継ぎを完了できる利点があります。

しかし、買い手の企業との間で売却の条件調整に時間を要し、折衷案が出せぬままM&Aを拒絶されるケースは少なからずあります。M&Aの手続きを行うには1社あたり最低でも半年を要するため、相手企業を探しなおすことにも時間を割かなくてはならないので、事業承継を考え始めた時点でM&Aの準備を進めることも重要です。

時間的に余裕がない状況でM&Aを進めようとした場合は、成約したとしても売り手側の企業に都合の悪い条件で引き継ぐことになる可能性が高くなります。M&Aの準備はしっかりと時間をかけて進める必要があるのです。

M&A仲介業者の選び方

M&Aを円滑に進行させるには、M&A手続きの代行を専門とする仲介業者の協力が必須となります。売却もしくは買収先となる企業の仲介をし、複雑な書類作成や売却額の概算などを援助する業者です。

空調設備会社のM&Aを行う場合は、業界の現状に詳しく、空調設備会社のM&Aの成約率の高い仲介業者であるほど、信用して依頼できる業者といえます。ただ、同じM&A仲介業者の中でも専門分野は異なるので、売却を考えている事業に合った仲介業者を選ぶことが大切です。

シナジー効果の形成

M&Aを効率的に進めていくには、売り手側・買い手側企業の事業内容を比較して、そのうえでお互いの不得意分野を補えるかどうか、どれだけシナジー効果を形成できるか、という観点で相手企業を選ぶことが大切です。

売り手側にとって採算の取りにくい事業であっても、買い手側の事業の経営資源や事業ノウハウを共有することにより、優良な事業に変わる可能性はあります。か

かったコストを上回る収益を獲得した場合、充分なシナジー効果を形成できているといえます。

まとめ

空調設備会社においても、高齢化による後継者問題があり、それを解決するためのM&Aが行われることもありますが、近年では事業規模の拡大や事業の強化を目的としたM&Aも増加傾向にあることが、事例を通して分かりました。

今後は、東京オリンピック以後に空調設備会社をはじめとした建設系の業界全般が、需要の低下によって打撃を受けることが考えられますから、M&Aはますます活発に行われることが予想されます。

M&Aの事例から読み解く潮流《空調設備会社》
空調設備会社では、後継者問題を解決するために「M&A」という手段を選ぶ企業が増えてきています。本稿では、この記事では、空調設備会社のM&Aの事例から、その潮流を読み解いていきます。

Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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