2019年7月26日 金曜日

事業譲渡の事例から読み解く潮流《空調設備会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

AIの台頭や機械技術の目まぐるしい発達により、中堅・中小・零細企業はどの業界でも、会社や事業を守るために、従来の経営手法とは違うやり方に切り換えることが求められています。

この記事では、中小の空調設備会社が生き残っていく手法の一つとしての事業譲渡を、事例を交えて考えていきましょう。

空調設備会社における事業譲渡の動き

ここでは、空調設備会社とはどのような仕事なのか。そして空調設備会社における事業譲渡の動きについて解説していきます。

 

空調設備会社をとりまく環境

そもそも空調設備の仕事とは、空調の取り付けや配管の整備をする仕事です。新築の建物に空調の取り付け工事をしたり、空調設備を新しくする際に取り付け工事をしたり、配管部のトラブルに対応したりすることが日常的な業務となります。

空調設備工事業界のほとんどは、中堅・中小企業から成り立っています。近年、工場の海外移転が進む中で国内市場は徐々に縮小の気配を見せ始め、価格競争が激しくなってきています。

 

空調設備会社の事業譲渡への流れ

空調設備会社の多くは、これまで空調工事以外の機械設備工事、電気工事、消防設備保守業務を手掛けていませんでした。しかしながら、受注単価が下がりつつある今、さまざまな設備工事、保守を一括受注できるような体制に変化してきています。

したがって、空調設備会社が機械設備工事会社、消防設備工事・保守会社を買収するケースも増加しています。逆に言えば、会社の事業譲渡を考えている空調設備会社の経営者も多くいるということです。また、中小の空調設備会社の後継者問題を解決する手段としても事業譲渡やM&Aが用いられています。

 

ここでいう事業譲渡とは、会社を次世代に残す、無形資産(会社のブランドや顧客との関係)も承継していく事です。事業譲渡は、経営している事業全てを譲渡することも可能ですし、一部の事業のみを譲渡することもできます。契約次第では、買い手が契約締結時に、帳簿外にある債務(簿外債務、偶発債務等)を断ち切ることもできます。

 

企業が事業譲渡を検討する理由

空調設備業界で活発化する事業譲渡ですが、いったいどのような理由で行われることが多いのでしょうか。

経営者の問題

まずは、経営者個人の理由で事業譲渡を検討することがあります。例えば、

  • 高齢化や健康問題により引退をしたい
  • 既存の事業を譲渡し、残った法人格を使用して新しい事業を始めたい
  • 事業譲渡によって利益を得たい

といった理由が考えられます。

競争の激化

次に、競争が激しくなることによって、

  • 受注単価が下げ止まらない
  • 公共系物件の受注が難しくなっている
  • 資格や技術を持つ従業員の確保が難しいなど、激しい競争に勝てなくなったとき

に考えられる理由があります。

将来への展望

また、会社の将来のために、

  • 本業は第三者へ事業譲渡し、経営負担の少ない事業だけを会社に残したい。
  • 空調工事や給排水工事など隣接する他業種と同じグループの企業になることによって、顧客に対して窓口一元化でサービスを提供できるようにしたい
  • 空調設備工事部門や子会社を売却し、他の事業に注力したい
  • 中核ではない事業を譲渡し、回収した資金を中核事業に投資したい
  • 会社の安定とこれからの成長のため、大手の参加に入りたい

といった理由も挙げられます。

 

企業が事業買収を選択する理由

一方で、買収側の企業が事業を買収する主な理由としては、

  • 隣接する業種へ進出することが容易になる
  • 新規エリア進出の足がかりとなる
  • 自社グループ内で様々な工事が可能になり、顧客に対して窓口一元化でサービスを提供できるようになる
  • 有資格者の従業員を新規に獲得できる
  • 新規顧客が獲得できる

といったものが挙げられます。

 

最近の空調設備会社の事業譲渡事例

ここからは、これまでに行われてきた空調設備会社の事業譲渡事例と株式譲渡の事例を以下にご紹介します。実際のケースをご紹介することで、ご自身の会社の場合にどのような譲渡方法があるのか、想像できるのではないでしょうか。

 

ヤシマ・エコ・システムが日立空調関東株式会社に事業の一部を譲渡

ヤシマ・エコ・システムは、空調機器及び冷凍機、温湿度調整機器の販売・修理・設計・施行を行う会社です。

 

買い手側企業の日立空調関東株式会社は、冷暖房空調備、給排水衛生設備、給湯設備、厨房浴室設備、照明設備、冷凍冷蔵設備、付属機器の製造・販売・設計・施行および工事の請負を行う会社です。

平成23年に行われた事業譲渡の目的は事業の再編でした。ヤシマ・エコ・システムの事業再編による選択と集中により、日立アプライアンスとの方針・戦略が一致したことで事業譲渡となりました。

 

株式会社シーエナジーが株式譲渡により中部電力の完全子会社となる

株式会社シーエナジーは、冷熱源オンサイト事業や、LNG販売や電力の小売販売、再生可能エネルギー事業の会社です。本社は名古屋市にあります。平成25年8月に、中部電力株式会社の100%子会社となりました。

M&Aの目的は、シーエナジーの事業運営を迅速かつ機動的に実施できる体制を構築するためです。実際に、シーエナジーは中部電力の傘下に入ったことで、関東支社や三島事業所の設置、など関東、東海まで販路を伸ばしてきました。売上高は右肩上がりの推移を示しています。       

 

紘永工業が株式譲渡によりアサヒHDの完全子会社となる

紘永工業は、防災・空調・衛生(バス、トイレ、水まわり等)設備の販売、設置、メンテナンスを行う会社です。平成26年にアサヒHDのグループに加わりました。

アサヒHDは、環境保全事業や廃棄物処理のエキスパートです。

この株式譲渡は、アサヒHDが空調設備事業の強化を目指したことから実現しました。

 

株式会社タックが株式譲渡により東京都競馬株式会社の子会社となる

株式会社タックは、空調、衛生、電気設備工事の設計・施行及び保守サービスを行う会社です。平成27年7月に、東京競馬場は株式会社タックを株式譲渡により子会社化しました。M&Aの目的は空調設備業の内製化です。

タックは東京都競馬株式会社のグループ企業となった事から、大井競馬場や東京サマーランドなどの空調工事を施行し安定した経営を続けられるようになりました。

 

三菱電機がデルクリマ社(イタリア)を株式譲渡により子会社化

平成27年、三菱電機は、イタリアの業務用空調メーカー デルクリマ社を買収しました。このM&Aにより、三菱電機は、ヨーロッパでの空調機器の品揃えを増やし、互いの相乗効果を創出して、グルーバル市場における事業強化を意図しました。

上記のケースで、事業譲渡、子会社化をすることにより、下記のようなメリットが認められました。

  • 事業の再編
  • 空調設備受託事業の継承による事業の機動性と効率の向上
  • 大手の傘下に入ったことで、事業や販路の拡大
  • 売上高の増益、事業強化を目指した安定経営
  • 互いの相乗効果を活かして、海外市場における事業強化

 

中堅・中小企業が多い空調設備会社で、事業譲渡により大手の傘下に入れるというのは、経営の安定や事業の拡大にもつながり、社員のモチベーションも上がります。

また、2020年の東京五輪後は国内需要が減ると見込まれているため、海外にも販路が広がっていく事が予想されます。そうした場合の足がかりとして、事業譲渡は有効な手段だと考えられます。

 

空調設備会社の事業譲渡を実施するうえでのポイント

従業員の資格

空調設備会社の従業員に求められる資格としては「冷凍機械責任者」「管工事施工管理技士」、「電気工事施工管理技術士」が挙げられます。

中堅・中小企業にとって、有資格者の確保は死活問題です。一般従業員で雇用し、実務経験を積ませながら資格を取らせる。それには従業員自身は勿論、企業側の配慮も必要です。有資格者数が多い方が、事業譲渡時には有利になりますし、譲渡に際して余剰人員を整理する必要が発生しても、有資格者は解雇されることはありません。

 

人数

事業譲渡により、買い手企業は、売り手企業の全ての従業員を雇い入れることができない場合があります。例えば、内勤の総務や経理、事務職など、重複した業務職がいる場合、配置転換か、もしくはリストラの可能性があります。

また、勤務地が変わることで通勤ができなくなる従業員がいるかもしれません。結果、会社を辞めていく社員が出てしまう可能性もあります。事業譲渡によって、こうした重複職務に就いている人員や、通勤不可能な社員についてもその後の処遇を検討する必要があります。

 

中堅・中小企業では、経営者の人格に惹かれてこれまで会社に勤めてきたという従業員もいます。そのため、経営者が抜けることで、従業員のモチベーションが下がる場合があります。これを回避するために、事業譲渡後も、しばらく旧経営者が会社に在籍するケースがあります。従業員が新しい環境下でも精神的に落ち着いて働けるようにするためです。

従業員は、会社のいわば資産です。企業は事業譲渡後も社員が安心して働けるよう最善の努力をすべきです。会社を辞めざるを得ない社員に対しても、人脈を駆使して次の職場を紹介してあげるなどの配慮をするのも中小企業ならではの大切な役目です。

 

今後の収益性

買い手側からしてみれば、事業を引き受ける場合、その会社の収益性だけを見るのではなく、有資格者の有無、培ってきたノウハウや技術、営業している地域や関連会社との関係、今後の経営に役立つ存在になりえるか等を総合的に鑑みて判断の基準にします。収益性が悪いからと言って買い手が見つからない訳ではありません。むしろ、思いがけない相手から反応がある場合もあります。

赤字経営だからといって廃業を考えるのではなく、事業譲渡という手法を使って会社や事業を残していくという視点も重要です。

 

タイミング

事業譲渡を行う場合、重要なことは買い手がいて初めて事業を譲渡できるという点です。しかし、このシンプルな事実は時に忘れられがちです。というのも、経営者としては、会社の業績が良いタイミングでは事業を手放そうとせず、業績悪化してから事業譲渡を考え始めるのに対し、買収側の企業はその逆。つまり業績が良い会社の買収を検討し、業績の悪い企業には目をつけません。

 

そこで、経営者としては、売るタイミングをじっくりと考える必要があります。一番良いのは、業績は良いままだが、経営者として事業への熱が冷めている状態や、今後の将来性が心配であるというタイミングです。外向きはうまく回っている状態でも、経営者の思い入れがなくなりつつある会社は、次第に業績も下向いていくものです。ときには思い切って舵を切る必要があります。

 

相談相手

事業譲渡という大きな決断は、人生でそう何度もあるものではありません。よっぽど大企業の経営を務めた人でなければ、慣れていることなどないでしょう。

そこで、事業譲渡に踏み切ろうと思ったなら、専門家に頼るのが最善策です。

 

事業譲渡を検討する際には、M&Aの仲介会社M&Aアドバイザリーに相談するのが一般的です。

M&A仲介会社は、売り手と買い手をつなぐ役割を持ちます。

M&Aアドバイザリーは双方をマッチングさせるというより、クライアントの利益を最優先する専門家です。

どちらも、空調設備会社のM&A案件を実施した事例がある会社に依頼するのが無難です。事前にいくつかの会社に相談を持ちかけ、信頼できる業者に依頼しましょう。

 

まとめ

ここまで、空調設備会社の事業譲渡について、事例を踏まえて解説してきました。

空調設備会社は競争の激化、後継者不足の解消を企図し、今後も事業譲渡や業界再編が進んで行くと考えられています。

コア事業に投資したい、経営をスリム化したい、後継者問題を解決したいといった課題を抱える経営者は、事業譲渡を検討してみてはいかがでしょうか。

事業譲渡の事例から読み解く潮流《空調設備会社》
本稿では、中小の空調設備会社が生き残っていく手法の一つとしての事業譲渡を、事例を交えて考えていきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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