2019年7月25日 木曜日

空調設備会社のM&Aを実施する前に考えておきたいこと

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

少子化による生産年齢人口の減少に歯止めがかからない中、様々な業界で業務の効率化・省力化へ向けて模索しています。

この動きに空調設備業界も無縁ではいられません。特に、来年に控えた東京オリンピックに向け都市再開発が急ピッチで進められていることもあり、受注が伸びているのにも関わらず現場技術者の人手不足が解消されないという苦しい状況です。その反面、五輪終了後には受注が大きく減少していくとの予測がなされている現状において、安易に雇用を増やすという場当たり的な対応は、長期的に見ると得策ではありません。

こうした事情も踏まえ、空調設備業界では、五輪後を見据えた経営方針の見直しの動きが加速化しています。そのための経営戦略の一つとして積極的に行われているのが、「M&A」です。

今回は空調設備会社のM&Aの特徴を把握し、M&Aを実施する前に考えておくべきことなどを考察していきます。

空調設備会社のM&A

ここでは、空調設備会社とはどのような事業を行っている会社なのかといった事業の基本的な部分から、近年盛んに行われている空調設備会社のM&Aの動向を解説していきます。

空調設備会社とは

空調設備会社では、一般住宅や会社・工場などを対象に冷暖房・換気などの空調設備工事を手がける事業を行っています。

空調設備工事には、給排水設備や電気設備などの関係事業が多数あり、そのため吸排気の工事・室温湿度調整などを含めた冷暖房関連事業だけでなく、電気設備やガス工事、さらに建物設計・施工や建物の保守点検まで事業を行う会社もみられます。

平成29年度の国土交通省の調査データによると、空調設備工事業界の市場規模は約1兆3000億円。業界全体としては中小企業が比較的多く、同調査から資本金200万~5000万円未満の中小企業が全体の8割以上を占めていることが分かります。そのため、中小企業間の競争は熾烈で、他業種同様に中小企業特有の後継者不足が大きな問題となっています。

ただ、空調設備業界は他業種と比べると「歴史が浅い業界」でもあり、建物の新築・改修が繰り返される限り空調設備への需要が無くなることはないでしょう。

これは数字にも表れており、空調設備業界は経営の安全性を示す自己資本比率、効率的に利益を上げられているかどうかの指標であるROA(総資本営業利益率)がともに、建設業界全体の平均を上回っています。

したがって空調設備業界は、後継者不足を乗り越える事が出来れば歴史が浅い分比較的進化の余地が多く、また将来的にも安定した経営を続けられる見込みのある業界と言えます。

空調設備会社のM&A

空調設備工事業界は市場規模5兆円超の巨大産業ながら、中小企業が大多数を占めるため、工場の海外移転などで国内市場が縮小し価格競争が激化しています。このような状況において生き残るには競争力強化が必要不可欠です。そのための一手として規模の拡大を目指すM&Aが活発化しています。

内容としては空調設備会社の経営者の後継者問題・事業承継問題を解決するための手段としてのM&Aが増加しているほか、各社で様々な設備工事・保守をワンストップで提供出来る体制の構築を進めており、その一環として空調設備会社が機械設備工事会社や消防設備工事・保守会社を買収するケースも増えてきています。

空調設備会社のM&Aを行う理由は?

空調設備会社がM&Aを行う理由は様々です。ここでは譲渡側と買収側に分けて、M&Aを行う理由について考察していきましょう。

譲渡側

譲渡側がM&Aを行うメリットとしては、金銭面・事業拡大などで会社を安定させられること、そして後継者不足の問題を解消できることが挙げられます。

金銭面でのメリット

税制面で優遇されているM&Aでは、まとまった資金を得ることが出来ます。このお金を老後資金、あるいは新規事業への準備金として確保したり、資金繰りの苦しい事業に対し買収企業の資金を投入したりすることで事業を立て直し、もしくは、そのまま事業拡大を目指すことも可能です。

特に負債に関しては、M&Aの場合、負債も含めた財産権すべてが買収側に移るので、譲渡側は負債から解放されます。

安定的・効率的な事業経営が行える

M&Aにより大手の総合設備企業の傘下に入り、資本業務提携をすることで、信用度を向上し、安定した経営基盤を得ることが出来ます。

それによって、大手企業が抱える顧客へのアプローチが出来るようになり、新たな資金を得ることで関連事業・周辺事業のサービスを取り入れた事業展開をしていくことも可能となるでしょう。

経営の体制が変わるだけで、事業そのものは継続出来ますから、従来の顧客や取引先との関係性を維持しながら、従来の顧客基盤や事業を強化した上でより安定的な事業経営が目指せます。

後継者不足問題の解消

前述したように空調設備会社は中小企業が多く、後継者不足は深刻な問題です。他業種同様、空調設備業界でも経営者・技術者ともに高齢化が進んでおり、早急に後継者を見つける必要があります。

しかし、昨今の厳しい経営事情からあえて親族への承継を行わない経営者が増えており、親族承継は減少傾向にあります。また、従業員への承継も後継者候補の資金力に対する懸念から減ってきております。

一方で、M&Aによる事業承継の場合、企業が承継先となるので、こういった後継者不足は問題になりません。信頼出来る会社を相手に事業承継を行うことで、自社の培ってきた技術、人材、顧客をそのままの形で存続させて行くことが可能です。

買収側

次に、買収側がM&Aを行うメリットです。こちらは競争力強化や優秀な人材の確保、関連事業・周辺事業の買収によるさらなる事業規模の拡大が挙げられます。

競争力の強化・事業規模の拡大

同じ空調設備業界の同業者間でのM&Aあれば、お互いの顧客と事業基盤を合わせることで事業エリアが拡がります。また、お互いの技術力やノウハウを共有することでサービスの向上を図り、競争力強化も期待出来ます。

そして、M&Aによる事業規模の拡大は、競争力の強化とともにさまざまなスケールメリット(規模拡大によって得られる生産性向上などの効果)を与えてくれます。

優秀な人材の強化

人材の強化は、常に新しい技術に対応していくことが求められる業界では大きな課題です。M&Aによって確かな技術や資格を有する優秀な人材が揃う会社を傘下に収めることで、素早く人材の強化が図れます。また、規模拡大・知名度向上によって好業績・好待遇を期待する新たな人材の確保をしやすくなる、という利点もあります。

関連事業・周辺事業の買収

空調設備工事には、給排水設備や電気設備などの関連事業・周辺事業が多くあります。空調設備会社がこれらの事業を買収することにより、空調設備のみに止まらない包括的サービスの提供、具体的には、企画・設計から保守点検までをトータルで請け負う体制が整えられます。

また、総合設備企業の側から見れば、優れた空調設備会社を取り込むことにより、強化したい部門の強化を図ることが出来ます。さらに、相乗効果として、優れた企業の買収により得られる技術力やノウハウは、他部門の強化にも活かすことが出来ます。

空調設備会社のM&Aを行うタイミングは?

M&Aには時間がかかり、必ずしも希望のタイミングで譲渡が出来るとは限りません。

また、何らかの理由によって差し迫った状況下では不利な条件であっても飲まざるを得ない場合もあります。

そうならないためにも譲渡を検討されている方に向けて、「売り時」はいつか、解説していきます。

「売りたくない時が売り時」

M&Aを行うには当然ながら売り手と買い手の双方で需要と供給のバランスが上手く合致していなければなりません。経営者の事業意欲が強く業績も良い場合であれば当然「売りたくない」という心理が働きます。まさにこの時が「売り時」です。しかし、実際にはこの状態で売却を決断する経営者はほとんどいません。当然ですが、差し迫った後継者問題などがなければそのまま事業を続けていけるからです。

では、現実的な最も良い「売り時」はというと、経営者の事業意欲が弱いが業績が良いという状態です。まず、客観的に業績が良好なため比較的有利な好条件での売却を行える可能性が高く、キャピタルゲイン(株式や債権など、保有資産を売却することで得られる売買差益)の金額も高まります。一方で、経営者の事業意欲が低下すると従業員達はそれを敏感に察知してしまい、離職や現場のミスなどの可能性も高まり、結果として業績が低下してしまうかもしれません。そのような状態になって自社の企業価値が下がってしまう前に、早めにM&Aを検討しておくのが良いでしょう。

空調設備会社のM&Aを実施するのは誰か?

空調設備会社の買収事例には同業者による買収、関連事業・周辺事業を行う企業による買収などがあります。

同業者間のM&Aであれば、自社が未開拓のエリアに強みを持った、空調設備会社を買収することで、自社の空調設備工事事業を補完できる場合もあります。また、自社にはない技術を売り手側が持っていたり、優秀な人材が多数いたりする場合、その会社を買収することで自社の事業強化につなげることが可能です。

今後の競争激化が予想される中、競争力やサービス体制の強化を目的として空調設備工事会社の買収を選択肢の一つとして検討することは、関連事業・周辺事業を行う企業にとって事業規模拡大を目指す上で大きなメリットがあります。

自社にとって、より有利な条件でM&Aを行うには、他社にとって魅力となる強みをしっかりアピールしていくことが重要です。

空調設備会社のM&Aの相談先は?

M&Aを行う際には、仲介業者もしくは、M&Aアドバイザリーを起用するのが一般的です。M&Aを行う際は財務の知識や法務の知識、労務の知識など幅広い専門知識が必要です。また、複雑な交渉を円滑に進めるための高度なコミュニケーション力が不可欠です。

今回の場合では、空調設備会社との成約実績のある仲介業者もしくは、優良M&Aアドバイザリーに相談するのが理想となるでしょう。この2つの業種について、それぞれ説明したいと思います。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は売り手側と買い手側をつなぐハブの役割を担います。中小企業のM&Aではこういった仲介会社がM&Aアドバイザリーとして起用されることが多く、マッチングのみではなくクロージング(契約締結)までの業務を一括で行うので、大半の仲介会社は実質的にM&Aアドバイザリーとしての役割も果たします。

それぞれの仲介会社には強みを持つ業界があるため、たとえば中小企業である空調設備会社同士のM&Aを行う際には、同業界内での成約実績が多い仲介会社を選ぶのが適当と言えます。

M&A アドバイザーに相談する

それに対して、売り手か買い手のどちらかの利益を最大化することを目的に交渉を進める専門家集団を、M&Aアドバイザーと言います。

双方のメリットを考える仲介会社に比べ、片方側の利益のみを検討するため、熾烈な争いになる可能性が高い場合は、M&Aアドバイザーに依頼するのが得策です。こちらの場合も、空調設備会社のM&A実績がある業者に依頼することをお勧めします。

まとめ

少子高齢化の流れの中で、オリンピック開催を控えた日本の空調設備業界では、より効率的でインパクトのある事業経営が求められます。その一つの手段として、注目を浴びているM&Aについて、今回は、ご紹介しました。M&Aによって、全てが解決するわけではありませんが、解決できることも多数あります。

空調設備業界の方で、お困りの方は、M&Aを一つの選択肢に入れてみることをお勧めします。

空調設備会社のM&Aを実施する前に考えておきたいこと
空調設備業界では、業務の効率化・省力化へ向けて模索しています。そのための経営戦略の一つとして積極的に行われているのが、「M&A」です。本稿では、空調設備会社のM&Aの特徴を把握し、M&Aを実施する前に考えておくべきことなどを考察していきます。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
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