2019年7月31日 水曜日

事業承継の事例から読み解く潮流《空調設備会社》

Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)

都市部では、再開発を中心とした建築物の増加により、空調業界の需要は高まる一方です。

新築の建物の設計や施工工事のみならず、中古ビル物件のリノベーション工事など、建設業界の一翼を担う空調設備企業の労働力が不可欠です。

近年、空調設備業界では新たな顧客獲得に向けて、海外への事業展開、新たな商品開発・サービス提供による他社との差別化を目指し、各企業が積極的にM&Aの事業承継を行うようになりました。

そこで、実際に行なわれた空調設備企業M&Aの事業承継事例や、事業承継で売り手企業が保有していれば価値が上がるポイントをご紹介していきたいと思います。

 

 

空調設備会社における事業承継の動き

空調設備会社は、他企業のサービスワンストップ化や企業の後継者・人材不足により、M&Aの事業承継が活発に行われるようになりました。

現在、空調設備業界が抱えている課題から、各企業がM&Aに取り組んでいる現状を追っていきましょう。

 

空調設備業界の現状

空調設備業界では、企業が設計から、施工、点検・整備、リニューアル工事など、顧客へのサービスを全て自社内で行う、経営の「ワンストップ化」が目立つようになりました。

空調設備市場でシェアの確立・拡大に成功している企業は、サービスのワンストップ化により、既存顧客との契約維持とサービス品質の向上、新たな顧客の獲得で経営業績を上げています。

経営面で業績を上げるだけでなく、一貫したサービス提供により顧客からの信頼を得ることが可能です。

一方、空調設備業界の中小企業で大きな問題となっているのが、少子高齢化による働き手不足です。

都市部を中心とした建設需要に対し、ビルや大型商業施設などの空調設備設計、保守・メンテナンスを行う人材不足により、労働力の供給不足が問題となっています。

さらには、空調業界は29歳以下の従業員の割合が全体の1割ほどしかおらず、企業の高齢化が進み続けています。

若い労働力は、高齢化する企業においては貴重な戦力です。

この由々しき状況を打破するために空調業界は、雇用条件の見直しやM&Aの事業承継で若手人材を獲得することが最重要課題となっています。

 

空調設備業界のM&A

空調業界内では、後継者・人材不足によりM&Aの事業承継で、即戦力となる従業員を確保する動きが見られるようになってきました。

経営者や従業員の高齢化が見受けられるようになり、会社や技術の承継が急務となっています。

しかし、後継者を一から育成し新卒や再就職希望者を募り、地道に雇用を続けるのは手間と時間がかかります。

常に新たなサービス提供や商品開発がされている空調業市場では、大幅なタイムロスは、企業がこれまで確立していたポジションを失う原因となってしまいます。

そこで、スピーディーな後継者・従業員の確保を目的として事業承継を活用している企業が多くあります。

さらには、ワンストップ経営を目指した企業がM&Aにより、空調設備に関わる電気設備や給排水工事など、付帯事業の獲得で総合メンテナンス事業として成功したケースがあります。

自社内で顧客への包括したサービス提供により、安定したサービス品質を管理することが可能です。

また、電気設備などのメンテナンス業に関与していなかった空調設備会社が、新たな事業を獲得することで市場での価値を高め、経営業績を右肩上がりに推移させることが可能です。

空調設備業界では、後継者・人材不足の解消や事業の拡大を目指した、M&Aが行なわれているのです。

 

最近の空調設備会社の事業承継事例

ここまで空調設備業界のM&A動向を見ていただきました。

空調設備会社の多くは、業界市場のスピーディーな動きに必死にしがみついていこうと、人材の確保と事業の拡大に余念がないことが分かりました。

ここからは、空調設備会社が実際に行なった事業承継事例をご紹介していきます。

空調設備会社が抱える課題と共に、M&Aを活用する目的が見えてくるでしょう。

 

総合設備企業の「株式会社関電工」が、送電線建設事業を行う「佐藤建設工業株式会社」を事業承継により株式取得

 

・M&A概要

2016年9月、空調設備工事や情報通信等を中核事業としている「株式会社関電工」が、送電線建設事業や情報通信事業などを行う「佐藤建設工業株式会社」を事業承継で株式を取得しました。

 

・買い手企業概要「株式会社関電工(東京都港区)」

1944年創立以来、建設設備を始め電力設備、情報通信設備の分野において、会社独自のノウハウや技術、工法を駆使し、電気工事・情報通信工事などの企画・設計・施工・メンテナンス・リニューアル工事まで、一貫したエンジニアリング事業を展開しています。

近年では再生可能エネルギーとして風力・太陽光などの発電事業、水道や鉄道などのインフラ事業、IoTやロボットを活用した技術開発など、幅広い分野で事業展開を行っています。

 

・売り手企業概要「佐藤建設工業株式会社(東京都品川区)」

1946年に創立。

高度経済成長期には、大型幹線工事に対応する機械工具等を開発してきました。

安定成長期においては、市街地工事の現場に対応するための機械工具の小型化や新工法を開発しました。

現在は、高度経済成長期に建設されたインフラ設備の劣化に対応するため、メンテナンスや保守技術の開発に尽力しています。

送電線建設事業において、佐藤建設工業が開発した技術が、業界のスタンダードとなった技術も少なくありません。

佐藤工業は、常に時代の先を行く技術革新を推し進めてきました。

 

・事業承継目的

買い手側である関電工による事業承継の目的は、事業領域の拡大や営業基盤の強化、電力の安定供給で顧客満足度を高めることです。

そこで、豊富な施工実績を持つ、佐藤建設工業の情報通信工事や環境エネルギー工事事業領域を取り入れることで、関電工は総合設備企業グループとしてより一層の強化を図りました。

近年の電力システム改革の進展を踏まえ、多くの電力会社で送電設備の信頼性確保に取り組んでおり、架空送線工事は増加の一途を辿ると予想されています。

しかし、架空送電線に従事する高所作業員の減少による施工力不足で、早期の人材育成や技術の承継が求められています。

今回の株式取得に向けた動きは、電力安定供給の一翼を担う企業グループの一員として、佐藤建設工業と堅密性を高め、送電線設備の維持・建設に貢献することを目的としたものです。

 

総合設備工事会社の「株式会社きんでん」が、インドの電気設備工事会社「アンテレック社」を事業承継により株式取得

 

・M&A概要

2018年5月、空調・電気設備など多岐に渡り事業展開を行う「株式会社きんでん」が買い手企業となり、インドの電気設備工事会社「アンテレック社」を事業承継により株式を取得しました。

 

・買い手企業「株式会社きんでん(大阪府大阪市)」

きんでん社は、「エネルギー」「情報」「環境」の三本柱で総合設備工事会社として事業展開を図っています。

「エネルギー」の分野では、産業社会において大規模な電気エネルギー供給、市民生活の身近にある電気設備の構築・維持に関与しています。

「情報」の分野では、オフィスや公共施設などのインフラ設備、通信事業者のセンター設備から家庭内のインターネット環境に至るまで、ネットワークシステムを構築し一貫したコーディネートをしています。

「環境」の分野では、オフィスや病院を始めとする居住空間、データセンターや工場で、人に優しい空調システムやビル内の給排水システムを構築しています。

環境関連法令を遵守する環境方針により、環境保全に配慮した工法・技術の開発に積極的に取り組んでいます。

 

・売り手企業「Antelec Limited:アンテレック社(インド国マハラシュトラ州)」

アンテレック社は、1969年の創業以来数多くのインド企業、国外企業の顧客獲得に成功しています。

電気設備工事会社として、国内で知名度の高さと信頼度を勝ち取っています。

従業員数は426名(2016年4月11日現在)、営業網はムンバイ、デリー、ハイデラバード、ブネ、チェンナイ、バンガロール、アーメダバードなど。

 

・事業承継目的

2017年3月の中期経営計画において、買い手のきんでん社は総合設備業の三本柱である、エネルギー・情報・環境事業の強化・連携、海外への長期的な事業展開を掲げました。

きんでん社は、インド国内で多くの実績を残しているアンテレック社との事業承継で株式を取得し、きんでんとアンテレック社の特性を融合した事業体制を構築することを目的としました。

さらに、アンテレック社の傘下にあった多くのインド国内企業、国外の企業が所有する顧客網の獲得を目指しました。

インド企業との事業承継で、インド国市場に進出する日系企業に対しても、これまで通りの低価格での品質サービスの提供で、インド事業の安定化と拡大を図っています。

 

空調設備会社の事業承継を実施するうえでのポイント

この二つの事例は成功例ですが、実際のところ事業承継後に多くの問題が発覚し、最悪の場合、経営業績が悪化してしまうケースも少なくはありません。

安全且つスピーディーな事業承継を行うためにも、売り手企業の従業員に優れた技術者・収益性があるか、目には見えない知的財産を保有しているなど、いくつかのポイントを抑えたうえで事業承継を進めていきましょう。

 

商品開発力があるか

空調設備業界の市場は、最先端且つ寿命が長い商品、充実・安定したサービスで占められています。

市場内でシェアを確立・拡大をするためには、新しい顧客を獲得する必要があります。

顧客獲得のため、先進性のある空調設備、サービスプロセスの明確化、施工後のトラブル対応など、お客様のニーズに合わせた商品やサービス提供のクオリティの高さで他社との差別化を図っていかなければなりません。

近年、空調設備の商品開発分野では、地球温暖化や電力事情により、商品の省エネ化などの環境に対する改善要請が強まっています。

施設や住宅の快適でクリーンな空間の演出と、環境に配慮しエコ面を兼ね備えた「ハイブリッド」な空調設備の開発技術が求められています。

 

収益性、ブランド力があるか

売り手企業に、「収益性」「ブランド力」がある場合、企業としての価値が上がり、買収した企業にとって大きな資産となります。

ブランド力は、消費者が多くの商品・サービスの品質などを選択する「手がかり」です。

よって、売り手側の「企業」「商品・サービス」にブランド力があり、買い手企業が事業承継に成功した場合、一気に企業の知名度アップとブランド力のある商品を取得することが可能です。

収益性は、投資に対し、それを上回る利益を効率的に獲得できているかを見るものです。

M&Aにおいて事業承継の売却金額は、対象企業の収益性が大きく影響されます。

収益性が低い企業は、事業価値を低く評価され売却金額が大幅に減少してしまいます。

収益性の低下は、事業承継で買い手企業からの興味が薄れ、マッチングの可能性が下がります。

事業承継で買い手側が、相手企業の収益性を見極めるには、M&Aの専門家に財務デューデリジェンスで財務調査を数値として出してもらいましょう。

 

知的財産があるか

豊富な資金を蓄えている大手企業の商品開発は、開発コストの捻出に思い切りの良さを感じます。

新たな商品の開発に失敗したとしても、経営が揺らぐほどのリスクを受けることがないからです。

しかし、財政状況に余裕があるわけではない中小企業にとっては、競合優位性を保つための積極的な商品開発に躊躇してしまいます。

それでも、一度でもマーケットで注目されるような商品開発に成功し、特許を取得することが出来れば事業承継を考えている企業からの注目度を高めることが可能です。

さらには、特許商品などの無形資産が、現在だけではなく将来性のある財産として評価されれば、買収した企業にとって大きな会社の資産として経営を支えていくことになるでしょう。

 

専門家に相談しよう

M&Aの事業承継を行う企業同士で手続きを進めていく過程には、法務・税務・会計などの専門知識が必要となる場面が出てきます。

そこで、M&Aに関する専門知識を持った「M&A仲介会社」を通して事業承継を進めることをおすすめします。

多くのM&A仲介会社には、M&Aに特化した公認会計士や税理士などの専門家が在籍しているので、複雑なM&Aプロセスをスムーズに進むように支援してくれます。

 

まとめ

本記事では、空調設備会社のM&A事例を中心にご紹介してきました。

経済のグローバル化や業界内で多くの企業がサービスのワンストップ化を進める動きから、M&Aを活用した事業の海外展開、一貫したサービス提供を目指す企業が増加傾向にあることが分かりました。

今後も労働人口の減少を危惧する空調設備企業が、M&Aの事業承継で事業領域の拡充を図るなど、慌ただしい業界変遷が行なわれるでしょう。

M&Aはタイミングも非常に重要な要素ですので、M&Aの仲介会社を通してマッチングを図ったら、事業価値をスピーディーかつ適切に見極め、書類処理を確実に行うことが成功率を高めるのです。

事業承継の事例から読み解く潮流《空調設備会社》
近年、空調設備業界では新たな顧客獲得に向けて、海外への事業展開、新たな商品開発・サービス提供による他社との差別化を目指し、各企業が積極的にM&Aの事業承継を行うようになりました。そこで、実際に行なわれた空調設備企業M&Aの事業承継事例や、事業承継で売り手企業が保有していれば価値が上がるポイントをご紹介していきたいと思います。
Writer
太田 諭哉(おおた つぐや)
1975年、埼玉県生まれ。1998年に早稲田大学理工学部を卒業し、安田信託銀行株式会社(現・みずほ信託銀行株式会社)に入行。2001年に公認会計士2次試験に合格し、監査法人トーマツに入社。おもに株式公開支援、証券取引法監査、商法監査の経験を経て、2003年に有限会社スパイラル・エデュケーション(現・株式会社スパイラル・アンド・カンパニー)を設立し代表取締役社長に就任。
「未来を創造し続ける会計事務所」のリーダーとしてベンチャー企業・成長企業の支援を積極的に行っている。
2019年7月31日
事業譲渡の事例から読み解く潮流《空調設備会社》
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