2018年3月21日 水曜日
ラーメン界の風雲児が切り拓いた新しいビジネスモデル
Written by 太田 諭哉(おおた つぐや)
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店舗拡大だけではない経営者の新しい未来
世界的な日本食ブームの牽引役であり、国内でもますます人気の衰えないラーメン市場。醤油や味噌、豚骨や魚介といった味や素材のバリエーションが複雑に交錯し続ける百花繚乱のラーメン界で、「つけめん」というジャンルを世に広めた立役者である『つけめんTETSU』の創業者・小宮一晢さん。
彼には、行列店を独学で創りあげた「名物店主」の顔のほか、一部上場企業との資本業務提携によってスケールアップするという、ラーメン界に、新しいサクセスストーリーを拓いた「敏腕経営者」の顔がある。
人気店でさえ、日々、生き残りをかけてしのぎを削るシビアな業界で右肩上がりの出店を続け、資本業務提携により大金を手にしたその裏側には、店舗運営の手腕だけではない、緻密な経営計画と、その実現をサポートするパートナーの存在があった。
株式上場・M&Aを目指せる会社にしたい
「会社を大きくしたいので、IPOもしくはM&Aをするのに耐えられる会社作りの支援をお願いします」。 行列店に成長した一号店の勢いをそのままに、激戦区に出店した2号店が軌道に乗りはじめた頃、小宮氏の姿はいつもの厨房ではなく、会計事務所にあった。さらなる店舗拡大に備えて、自身が現場に集中できる環境を整備する必要があったためだ。
知人に組織の強化に定評がある会社を紹介してもらったものの、決算などの事務処理をお願いするイメージしかなかった会計事務所に会社組織の相談をすることに正直、多少の違和感と不安はあった、と振り返る。
資本業務提携の成果は社員の就労環境の向上
「うるさく感じてね。最初はカチンとくることもいっぱいありました(笑)。でも振り返れば、指摘はどれも的を得ていたし、目標へ最短距離で進むためには絶対に必要な行程でした」。計画通り、8年で年商20億を実現し、希望通りの条件で一部上場企業との資本業務提携を手に入れた。
飲食業界、とりわけラーメン業界では初めてといって良い一部上場企業との資本業務提携によるスケールアップは、当然、業界で話題となった。しかし、周囲の反応は、お祝いや資本業務提携やM&Aのメリット理解した称賛の雰囲気ばかりではなかっという。
「まわりにM&Aを経験した人がいませんでしたからね。売っちゃったの? 大丈夫!?みたいな反応も結構ありました。マイナスの反応や多少の誤解は仕方ないと思ってましたし、むしろ、業界の常識を変えてやろう、というぐらいの気持ちになりました」
周囲の興味はお金に関することだった、と振り返る小宮氏だが、当時の想いは創業者利益の確保より、会社をひとつ上のステージに持っていけたという達成感が強い。
「もともと、4週7休という、この業界では先進的な就労環境を実現していましたが、一部上場企業の系列になったことで、従業員の与信力が高まり、住宅ローンや銀行の融資も受けやすくなったと思います。これは、何より大きな一番の成果です」。
従業員にさらなる安定を提供し、安心して「新しい夢」に
小宮氏はラーメン店での修行を経て独立した、いわゆる“のれん分け”ではなく、食べ歩きのレベルを遥かに超える“ラーメン好き”が高じて自分の城を持つに至ったラーメン起業家。スープや麺の開発や商品提供の演出はもちろん、店舗の管理やスタッフのオペレーションまで、すべてを独学で編み出して成功させてきた業界の風雲児もOPEN当初は、理想と現実の間で悩み、試行錯誤を繰り返してきた。
自ら現場で苦労してきた経験が、従業員の不安解消のために業界最先端の労働環境を整える原動力となり、さらなる安定を実現するため、一部上場企業との資本業務提携という経営判断に至った。
小宮 一哲 プロフィル
1976年東京都生まれ。株式会社YUNARI代表取締役。高校をわずか3日で中退後、就職。ワーキングホリデーを経て大検を取得し、大学に進学。卒業後は、大手アパレル企業、セキュリティ企業を経て、27歳で「つけめんTETSU」を創業。つけめんに焼き石を付けることで話題となり「ラーメン of the year TOKYO 1週間」最優秀賞をはじめ多数の賞を受ける行列店に。2014年、株式会社YUNARIの全株式を大手食品商社に譲渡。現在は、世界一のラーメン屋を目指すとともに若者の起業支援を含めた、新たな事業を展開中。